出張③
「何でまた跳ぶんですか!?上からの攻撃は無駄だっていうのに!?」
タマエは思わず声を荒げる!ついさっき通じなかったことを繰り返すなんて、馬鹿げているとしか思えなかった。不可能であることを確認するための一撃ではなかったのかと問い正したかった。
「何か考えがあるんだよ、カツミさんには……多分」
「あぁ、戦闘のことに関しては頭がそこそこ回るからな……きっと策があるはず」
さすがのシゲミツとカオルもその突拍子もない行為で信じきれなくなってきたのか、半信半疑で言葉に力がなかった。
「ガメェ……!!」
ラメガエスはというと何もしなかった。先ほど完全に防いだ攻撃など恐るるに足らんということだろう。迎撃の体液発射も無しで、一歩も動こうとしない。
「おっ!自信満々だな、ラメガエス……!!」
そんな不敵な獣を上から見下ろしながら、エビシュリはまたまた拳を引いた。何故か先ほどよりも力を抜いて……。
(ノブユキのシュテン、巨大オリジンズのダイエルス、そして絶対防御気光のガブリエル……最近の俺はやたらと硬い奴らとばっかり戦ってきた)
カツミの脳裏に強敵達との激戦が再生された……あの時の悔しさ、無力感が。
(あいつらのような防御自慢に遅れを取らないように、さらに鍛えようと思った……思ったが、ふと別の方法があるのではないかと思いついた)
強敵の顔を思い出して、自然と強く握りしめていた拳からまた力を抜く。余計な力みは不要なのだ、この“技”には。
(硬い装甲を砕くのではなく、通り抜ける……衝撃だけを内部に伝達する。なんとなくそれを思いついた瞬間からできる気がしていた。後は……それを放つに相応しい相手に実戦あるのみ!!)
カツミもまたマスクの下で不敵に笑った。今、彼の視界と意識を支配しているラメガエスこそ彼が求めてきた相手なのだから!
「お前と出会えたことに感謝する!そしてこの出会いを踏み台に!俺は更なる高みに昇る!!」
力が程よく抜けたしなやかなフォーム……エビシュリの拳がラメガエスの甲羅に撃ち込まれた。
ボォン!!
「――ガメエッ!!?」
甲羅を叩かれたラメガエスが悶え苦しみ始めた!まるでまったく予想外のところから突然攻撃を食らったかのような……いや、実際に彼のオリジンズ生でこんなことは始めてであり、想像すらしてなかった。
カツミの狙い通り、衝撃は甲羅を貫通して、ラメガエスの内臓にダメージを与えたのだ。
「まさかカツミの奴、“骸装通し”をやったのか!?」
「骸装通し?それって……何ですか?」
驚きのあまり今まで見せたことのない表情を見せるカオル。その彼女が咄嗟に発した言葉をシゲミツは脳内データベースで検索したが、何も出て来なかったので、そっくりそのまま聞き返した。
「骸装通しというのは、鎧や装甲を貫いて内部に衝撃を伝える技術のことだ。かつて“拳聖”と呼ばれた男が得意としていたとされる」
「そんな技術が……そのことをカツミさんは知っていたんでしょうか?」
「いや、多分奴は知らない……自力でたどり着いたんだ。天賦の才を持つ者が時代を越えて同じ結論に至ったんだ……!」
「カツミさん……やっぱりあなたはすごい!!」
「まさかここまでとはな、カツミ……!」
歓喜するシゲミツと、冷や汗を流すカオル。そして当のカツミは……。
「うーん……70点」
自らの拳を眺めながら、今の技の出来を採点していた。
「成功したのはいいが、できることなら一撃でノックアウトしたかったな。まっ、初めてにしては上出来か。次は目の前にいる奴をドンってするんじゃなくて、遠くに向かってボンってする感じで、身体をシュッってコンパクトに動かす感じでやってみるともっといい気がする」
改善点を確認すると、再び拳を構えた。その時……。
「ガメエェェェェェェェェッ!!」
「おっ?なんだ?引きこもるのか?」
ラメガエスは威勢のいい咆哮とは裏腹に甲羅の中に全身を隠してしまった。
「防御を固めたところで、それを無視するのが“衝撃伝達パンチ”だ。むしろ寿命が縮……」
ドゴオォォォン!!
「――む!!?」
突然、ラメガエスの姿が大きくなった!いや、大きくなったのではなく、接近したのだ!凄まじいスピードで!
「うおっ!?」
だがエビシュリもエビシュリで凄まじい反応速度で回避する!地面を転がりながら、通り過ぎる甲羅の後ろから噴出される爆風を見た。
「今の動き、あの爆風は……まさか!?」
「ガメエェェッ!!」
ドゴオォォォン!!
視線で追いかけていると、逆側から爆発音が聞こえ、今度は甲羅は上に飛んだ。
「体液を甲羅の中で爆発させて、推進力に変換しているのか!?」
「ガメェ!!」
ドゴオォォォン!!
まるで先ほどのパンチの意趣返しのような空中からの強襲!隕石のようにエビシュリに向かって猛スピードで落ちてきた!
「速い!……が、避けられないレベルではない!」
ドスウゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!
しかし、エビシュリは再び回避!凄まじい質量が凄まじい速度で地面に激突したことで、洞窟全体が揺れた。
「ガメェ……!!」
「地面とごっつんこで自爆とはいかないか……」
甲羅は自分で新たに生み出したクレーターの上でゆっくり回り始めた。その素振りから自分の気配を探っているのだと、カツミは察した。
「今、突っ込んだらカウンターを食らうか?というか、爆発を攻撃だけじゃなくて、移動に使うなんて聞いてないぞ……!」
事前に情報を伝えてもらえなかったことを恨めしそうに小声で呟く。しかし……。
「……あんな攻撃方法があるなんて……知らない……!」
「……私もだ」
シゲミツとカオルもまた今、目の前に起こったことについてまったく知らなかった。
「というより……多分だが、人類であれのことを知識として持っている奴はいない」
「ボク達が初めて見たリク・ラメガエスの新たな生態ってことですね?」
「もしかしたら幼体だけしかやらない……何らかの理由で成体ではできないのかも……後々じっくり映像を調べてみないとな。タマエ!」
「はい!ハンラットのカメラで録画しています!」
「これを見れただけでも学術的には上出来!むしろこれで十分なくらいだ!盛り上がってきたな!!」
興奮を隠しきれないカオルは満面の笑みを浮かべながら、腕をブンブンと振り回した。
「人のこと色々言っていたけど……この人も大概だな……」
「何か言ったか?シゲミツくん?」
「いえ……カツミさんは大丈夫かなって……」
「攻撃は見切れてるし、問題ないだろ!っていうか、もうどうでもいい!」
「ええ……」
色めき立つ観戦者達。一方……。
(はてさて……どうしたものかね……)
カツミは冷静に状況を打破する手段を探していた。
(正面からカウンターは……拳がもたないか。回避からの側面を攻撃は……そんな咄嗟に新技は出せないし、甲羅以外の部分を狙えるかも怪しい……ならば……!)
エビシュリは足を肩幅に広げ、地面をしっかりと踏みしめた。その姿まさに仁王立ちだ。
「さぁ……来いよ、ラメちゃん……!」
「ガメエェェェッ!!」
ドゴオォォォン!!
甲羅の背後に爆煙が上がった!巨大な黒い塊は急加速!今までで最高のスピードでエビシュリに突撃した!
「よい……しょお!!」
ゴンッ!!ズザアァァァァァッ!!
「ぐおっ!?」
それをあろうことかエビシュリは真正面から受け止めた!地面に足でブレーキ跡を描きながら、徐々にスピードを殺していき……。
「……捕まえた……!」
完全に止めた。エビシュリは甲羅から手を離すと、新技の構えを……。
「これで今度こそ……!」
「ガメェ!!」
ドゴオォォォン!!
「――うがぁ!?」
首を引っ込めたと思われる穴から、爆風を発射!エビシュリは不意打ちで吹き飛ばされ、ラメガエスは自らの意志で吹き飛び、再び両者に大きな距離ができた。
「くうぅ……ちんたらしてたら逃げられるか……そりゃそうだよな」
「ガメエェェェェェェェェッ!!」
ドゴオォォォン!!
「一息つく暇ぐらい与えてくれよ。お前を倒す手段を見つけないといけないんだからよ……!」
突撃を回避しながら思案する時間をくれと愚痴る。だが、そう文句を言いながらも実のところ頭の中では淡々と次の手を考えている。
(うーん、どうしたものか……また受け止めても同じ手を食らうだろうし、今まで戦ってきて、それをさしてくれるくらい馬鹿な相手だとも思えない。何か虚を突くような行動を……あっ!)
エビシュリの頭の上に電球が輝いた!いい案……というより、やってみたいこと、おもしろそうなことを思いついたのだ!
(これならいけるかも……!いやきっといけるはず!!)
カツミは再び仮面の下で不敵に笑った。




