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No Name's Nexus  作者: 大道福丸
後日談
176/324

盗賊退治③

「豪風覇山刀!!」


ブオォォォォォォォォォォォッ!!


 鋸が仮面を抉ろうとした瞬間、背負っていた巨大な矛に蓮雲の意志と感情が伝わり、それが突風となって吹き荒れる!

「ちぃっ!?」


ガリッ!


 突然の豪風に煽られ、吹き飛ばされるベンケイ!敵を刺股から解放してしまい、さらにとどめの一撃となるはずだった鋸は項燕の胸の装甲をほんの一欠片削り取っただけだった。

「正直……肝を冷やしたぞ……!少しお前を過小評価していた……だが、もう油断はない!!」

 項燕は豪風覇山刀を手に取り、追撃を……。


ガクッ!


「――な!!?」

 追撃できなかった。身体から力が抜け、踏み出すことは叶わなかったのだ。

 再び身体が言うことを聞かなくなったことに困惑する蓮雲にその原因となる鋸を仕舞いながら、タケクラが何が起きたのか、何をやったのかをわざわざ説明する。

「削力の鋸は物理的なものだけでなく、体力やアーティファクトの力の源になる精神力も削り取る」

「……そういうことか……!掠めただけで……ここまで……!」

「本当なら今の一撃で戦闘続行できないレベルまで削るつもりだったんだが……その矛のせいでもう少し続けないといけなくなってしまった……!」

 ベンケイは新たに薙刀を取り出し、構えた。

「次から次へと……!そいつもヘンテコな能力を持っているのか?」

「すぐに……わかるさ!!」


ガギィン!!


 踏み込みと同時に放たれた一閃を項燕は豪風覇山刀で受け止めた。

「なんだ?至って普通じゃないか?」

「この『薄羽の薙刀』の本領はここからよ!!」


ガンガンガンガンガンガンガンガン!!


 武器がぶつかり合う音が響き渡り、両者の間に火花が咲いた。一合、二合、三合とこのまま延々と切り結び続けるのかと蓮雲が思った、その時!


キンッ!


「しまった!?」

 豪風覇山刀による防御を掻い潜り、項燕の装甲を薙刀が切り裂いた!

「油断しないんじゃなかったのか?」

「してはいない……ただ……」

「そうだ……ただ拙僧の攻撃が速かっただけだよな!!」


ザン!ザン!ザンッ!!


「――なっ!?」

 さらに三ヶ所、立て続けに切り裂かれる!項燕は反応すらできなかった!

「薄羽の薙刀の能力は単純明快、振れば振るほど軽くなっていく」

「軽く……」

「今まで散々撃ち合ったからな……今はその名が示す通り、薄羽ほどの重さしか感じない!!」


ザン!ザン!ザンッ!!


「――っうぅ!?」

 再度三ヶ所ほぼ同時に斬られる!項燕はやはりそのスピードに全く対応できて……いや。

「この軽さが生み出す圧倒的な速度!!お主にはどうすることもできまい!!」


ガギィン!!


「――ッ!?」

「……できたぞ?」

 また難なく項燕を切り裂こうと振るわれた薙刀は豪風覇山刀によって久しぶりに受け止められた。

「我が最速の一撃を防いだだと……!?」

「幸か不幸か……おれはお前より速い攻撃を放つ奴を複数知っているんだよ!!」


ガギィン!!


「くっ!?だが、まだぁ!!」

 薙刀を力任せにかち上げる項燕!しかし、ベンケイはすぐに腕力で無理矢理薙刀の軌道を変え、がら空きになった胴体に更なる攻撃を繰り出した!しかし……。

「薙刀は速くともお前自身のスピードはそこまでじゃないだろうが!!」


ガァン!!


「――ッ!?」

 突然タケクラの視界が黒色に染まった。顎から感じる痛みから、そこを蹴り飛ばされ、頭が跳ね上がったのだと、夜空を強制的に見上げさせられているのだと瞬時に理解した。

「このぉ!!」

 すぐに視界を戻し、薙刀を振ろうとした……したが。


ブゥン……


「――ッ!?」

 力が入らなかった一撃は項燕にあっさり回避され、虚空を通過した。先の顎への不意打ちのダメージが思いのほか深刻に身体を蝕んでいたのだ。

「せっかくの武器も使う奴の頭がシェイクされてしまっては、ただの屑鉄以下だな」

「蓮雲……!!」

「お前がそのダメージから回復する前に……決着をつけさせてもらう!!」


ガンガンガンガンガンガンガンガン!!


「――ぐうぅッ!?」

 再び武器の衝突音と火花が二人を彩った。しかし、均衡していた先ほどと違い、今は項燕が一方的に攻め立て、ベンケイがそれをかろうじて防いでいる構図になってしまっている。

(削力の鋸でかなりの体力を削ったはずなのに、まだこんな猛攻を繰り出せるとは……なんと言うスタミナだ……!!)

 タケクラは改めて蓮雲の底知れない力を目の当たりにし、背筋が凍った。だが決して心が折れたわけではない。

(……確かにこいつの体力と気力は拙僧の想像を凌駕してきた。けれど我が鋸によって力を削られたのは紛れもない事実。そうは思わせない圧倒的な猛攻は見事としか言いようがないが……間違いなく無理はしている。どこかで綻びが出るはず……!)


ガンガンガンガンガンガンガンガン!!


「このまま押し潰す!!」

(焦るな、我慢しろ……まだ耐えられる……!)

 上から下から右から左から、縦横無尽に撃ち込まれる豪風覇山刀を薙刀で受け流しながら、タケクラは時が来るのを待った……この窮地をひっくり返す時が来るのを。

「くっ!?しぶとい奴め!!」

(来た!!動きが大きい!!)

 そしてその時は来た。コンパクトな動きで繰り出されていた豪風覇山刀を、焦りから大きく振りかぶってしまった。先に痺れを切らしたのは攻めていた蓮雲だった。

「はあぁぁッ!!」


ブゥン!!


「――!?」

「迂闊な!!」

 この時のために準備をしてきたベンケイはひらりと軽やかに矛を躱し、そして……。

「喰らえ!『加重の金槌』!!」

 その矛を握る手、左手にハンマーを叩き込ん……。

「小癪な!!」


カッ……


 咄嗟に豪風覇山刀から左手を離し、金槌に潰されることを回避する項燕!しかしこれもまたわずかに掠めてしまう。

 そのわずかな、表面をなぞるような弱い一撃が命取り……。


ズンッ!!


「――!?またかこの野郎!?」

 金槌に触れた左手が鉛の塊になったように重くなった。すぐに反撃に転じたかったが、そのせいで攻撃するどころか大きな隙を晒してしまう。

「さっきの……お返しだ!!」


ドゴッ!!


「――ぐふっ!!?」

 無防備な腹にキックをお見舞い!項燕は酸素を吐き出しながら、宙を舞った。

「……く、くそ!やられた……!それにこれは……!?」

 地面に豪風覇山刀を突き立て、ブレーキをかける。しかし着地しても、時間が経っても左手の重さはそのままだった。

「加重の金槌は叩いたものをしばらくの間重くする。微かに触れただけだから動かせないことはないが……拙僧との戦闘には使い物にはならないだろうな」

「くっ……!?」

 悔しいがタケクラの言う通りだった。いつものように豪風覇山刀を握ることはできずに、添えるだけで精一杯だ。

「疲労困憊、満身創痍……もう我が攻撃を躱す余力も残っていないだろう?勝負は決まったな」

 そう言うとベンケイは金槌を腰の後ろに戻し、代わりに背中から巨大な金棒を引き抜いた。

「これが拙僧が持つ七つ道具、最後の一つにして、最強の破壊力を持つ……『破岩の鉄棒』だ……!!」

 その鉄棒で足元に転がっている石に触れると、石は粉々に砕け散った。

「見ての通りだ。破岩の鉄棒は高速で振動していて、触れたものを跡形もなく粉砕する。お前の項燕とやらでどうにかできる代物ではない」

「ご丁寧にどうも……で、だから降参しろと?」

「そうだ。その矛を置いてな。子供には過ぎた玩具だ」

「それは出来ないな……これは師から受け継いだ大切なものだ」

「命よりもか?」

「命よりもだ……!」

 視線を通して、タケクラの心に蓮雲の確固たる意志が伝わった。

「そうか……ならば何も言うまい……!」

 覚悟を決めたベンケイは大きく金棒を引き、構えを取った。

「それでいい。結局おれ達にできるのは、言葉ではなく、刃を交えることだけ……どちらかが倒れるまでな……!」

 項燕もまた腰を落とし、地面に水平にして豪風覇山刀を構える。未完成の必殺技の構えだ。

(この状況、奴に勝つにはこの技しかない……!しかし手が……)

 やはり左手は重く、柄に添えているだけだった。けれども……。

(いや、こういう状況で使えないなら、何のための必殺技だ!おれは弱いもの苛めをするためにこの技を研鑽しているのではない!おれは……今、目の前にいるような強敵とのギリギリの戦いを制するために鍛練してきたんだ!!)

 そのことが逆に蓮雲の闘志を燃え上がらせ、技に集中させた。彼の強い想いが柄から伝わり、豪風覇山刀の刃の周りに竜巻を纏わせた。

(今こそ放つ……!天使を超える神速の一太刀、鬼と竜を屠る必殺の一撃……!)

 身体に残る全エネルギーを注ぎ込むと、項燕の周りにもつむじ風が吹いた。

「まだ諦めていないようだな……だが、我が一撃はその強き気高き心さえ粉砕する!!」

 先に仕掛けたのはベンケイ!破岩の鉄棒を振りかぶり、全速力で突進する!

「おれは負けない!もう誰にもな!!」


ブオォォォォォォォォォォォッ!!


 対する項燕は豪風覇山刀から竜巻を噴射して、超加速!更にその勢いと身に纏うつむじ風に乗って独楽のように高速回転する!それが蓮雲の必殺技!

「鬼竜断風!!」


ザアァァァァン!!


 全速全力、持てる全てを込めた突撃の一瞬の交錯……二人決着にはその刹那の一時で十分だった。

「………くっ!?」

 最初に膝をついたのは項燕だった。ベンケイに背を向けながら、大きく抉られた胴体を抑えうずくまる。

 “最初に”膝をついたのは項燕だった。

「……見事なり、蓮雲……!!」

 少し遅れてベンケイが膝から崩れ落ちた。その身体には深々と傷が刻まれ、そのまま地面に倒れ込むと、動かなくなった。

 ギリギリであったが間違いなく、蓮雲の勝利である。

「何が見事なものか……おれの想定ではお前は今ごろ真っ二つになっているはずだった……」

 悔しさと痛みで顔を歪めながらも、立ち上がると項燕はうつ伏せで倒れるベンケイの側に向かった。

「拙僧がお主が思うより丈夫だったか、それとも拙僧の与えたダメージが尾を引いて満足な一撃が放てなかったか……」

「どっちも……だな。まぁ、どちらにしてもおれがまだ未熟だったというわけだ」

「好意的に言えば、まだ伸び代があるということか……末恐ろしいな」

 言葉とは裏腹に自分を見下ろす若武者の行く末を思うと、心が躍った。だがそれ故により納得できなくなる……この男がどうして道を踏み外したのかと。

「……これだけの強さを手に入れるためには生半可な努力では駄目だ」

「努力しているつもりはない。好きでやっているだけだ」

「フッ……正真正銘、本物の発言だな。だが、その恵まれた才をどうして盗賊なんかに……!」

「……何を言っている?盗賊はお前だろ?」

 タケクラの理解不能な発言に蓮雲は首を傾げ、質問し返した。

「拙僧が盗賊?バカを言え!誰がそんなことを……!」

「貴様が襲った集落の者達だが……」

「……そういうことか」

 この戦闘が不毛なものだったと一足先に察したタケクラは起き上がり、胡座をかくと、いつの間にか鎮火している焚き火の横の袋を指差した。

「その袋の中を見てみろ」

「ん?」

「真実がわかるはずだ」

「……わかった」

 項燕は言われた通り、袋まで歩いて行こうとした……が。

「ヒヒン」

「黒嵐!!」

 ダメージから回復した相棒が先回りして、袋のところまで行ってくれた。

「もう大丈夫なのか?」

「ヒヒン!」

「そうか……じゃあ、その袋を……」

「ヒヒン!!」

 命じられるがまま黒嵐は袋を咥え、ぶらぶらと揺らした。すると袋は開き、中からきらびやかな宝石や様々な貴金属や硬貨が次々と地面へと落下し、山のように積もった。

 それを目にした瞬間、蓮雲の顔が怒りに染まり強張った。

「貴様……どこまで強欲なんだ……!」

「おいおい……」

 思っていたものとは真逆のリアクションが返ってきたタケクラは頭を思わず項垂れる。

「よく見てみろよ」

「見ている!平穏に暮らしていた民が汗水垂らして貯めた財産をよくも……!」

「さてはお主……戦闘以外はからっきしだな?」

「そんなこと自分でも自覚している!だが今は関係ないだろ!!」

「大有りだよ!いいか?あの小さな集落で自給自足しているだけの奴らが、貯め込める代物か、あれは!?」

「それは!……確かにちょっと多いような……それに統一感がなさ過ぎる……」

 改めて宝の山を凝視すると、言い知れぬ違和感を感じた。そしてこれまた蓮雲を置き去りにして、黒嵐が先に答えにたどり着いた。

「ヒヒン!」

「ん?何がわかったんだ?」

「ヒヒ、ヒヒヒヒン!!」

「なんだと!?あいつらの方が盗賊だと!?」

 タケクラの方に再び視線を戻すと、その通りだと頷いた。

「この峠道を通る人達を無差別に襲って、金目のものを奪っていたんだ。かくいう拙僧も襲撃された。もちろん返り討ちにして、お仕置きがてら奴らの拠点を破壊してやったが。女子供が見当たらなかっただろ?普通の集落ならいるはずの。おかしいと思わなかったか?」

「言われて見れば、男ばっかりだったな……では、あれは?」

「あいつらの手元に残しては置けないからな。持ち主が見つかるか、そもそも生きているのか知らんが、どこかの町にでも立ち寄った時に警察にでも預けようと」

「そうか……おれはまんまと奴らに騙されたわけか……!」


「その通りだ!間抜け!!」


「!!?」

 蓮雲が自身の過ちに気づいたのを見計らって、木々の奥から山奥の集落に住む無垢の民改め盗賊達が白髪のリーダーを先頭にぞろぞろと姿を現した。

「観戦していたのか……?」

「あぁ、特等席でな。正直、あんたがそいつに勝てるとは思ってなかったよ。ただ少しでもそいつを消耗させてくれれば……」

「自分たちで今度こそ袋叩きにできる……か?」

「あぁ!めためたのぐちゃぐちゃにして、ピースプレイヤーもアーティファクトも全部奪ってやるつもりだった!ついでにお前の持ってる奴もな!!」

「なるほど……おれはこんなクズどもの口車に乗って、お前と戦ってしまったのか……」

「そういうことだ」

 蓮雲とタケクラは大きなため息をついた。

「久々におもいっきりやらかしたな……」

「はっ!安心しな!お前はもう失敗することなんかねぇよ!今から死ぬんだからよ!!」

 リーダーの男は部下達をボロボロの二人にけしかけた!

「やっちまえ!お前ら!!」

「「「おおう!!!」」」



「……あの……すいませんでした!!」

「「「すいませんでした!!!」」」

 仁王立ちの蓮雲とタケクラの前で、顔をボコボコにした盗賊達はきれいに正座して並び、地面に頭を擦りつけた。

「まったく……万全ではなくとも、貴様らのような有象無象に遅れを取る相手ではないと、戦いを見てわからんか?」

「わからないから、こういう状況になったんだろ。もっと言えばそんなバカだから盗賊なんてやっている」

「そこまで言わなくても……」

「「あ?」」

「ひっ!?おっしゃる通りです!!」

「「「おっしゃる通りです!!!」」」

 二人に凄まれると反射的に盗賊達は頭を下げてしまった。ついさっきその身に降りかかった暴力の嵐が完全にトラウマになっていた。

「この分だと、もう盗賊なんてできないな」

「あぁ、最初からこうしておけば良かった」

「本当にな。反省すると思ってたのか?」

「思っていた。自分の犯した罪を恥じ、しかるべきところに出頭しろと言っていたんだが……」

「ずいぶんとお人好し……かつ無責任だ」

「反省しているよ。だからこいつらは今度こそ拙僧が責任を持って警察に送り届ける。いいな、お前ら?」

「は、はい!!もう外はこりごり!牢屋にでもどこでも連れて行ってくだせぇ!!」

「「「くだせぇ!!!」」」

 三度目となる土下座を見届けると、タケクラは蓮雲の方を向き直した。

「悪かったな。拙僧の不始末のせいで」

「気にするな。おれも浅はかだったし、お前のような奴と刃を交えるために旅しているようなもんだからな……結果オーライだ」

 蓮雲が優しく微笑むと、タケクラもまた微笑み返した。

「そう言ってくれると拙僧も救われるよ……で、お前はこれからどうするんだ?」

「そうだな……」

「ヒヒン」

「黒嵐……」

 考え込もうとした矢先に黒嵐が顔を寄せてきた。蓮雲は相棒の言いたいことを理解し、わかったよと優しく頭を撫でた。

「だな……おれ達の旅は気の向くまま、風の向くまま……だが、必ず道の先には強者がいる。そしてそいつがおれ達を更なる高みに連れて行ってくれるのさ。タケクラ、お前のように」

「ヒヒン!!」

 黒嵐の嘶きが風に乗って、山中に響き渡った。


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