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No Name's Nexus  作者: 大道福丸
後日談
170/324

再興のために①

「本当にこんなところにいるのかねぇ……?」

 深い深い森の中、立ち並ぶ木々の中でも特に立派な幹を手でぺちぺちと触りながら、辟易したような顔と声でロエルは嫌味ったらしく呟いた。

「いなかったら、また別の場所に探しに行くだけさ。見つかるまでな」

 一方のシルルは無表情に淡々と辺りを見渡し、目的のものを探しながら、さらに森の奥へと進んで行く。

「見つかるまでって……他に当てはあるの?」

「ここに来たのは“奴”が最後に確認された場所から一番近い隠れ家がこの『タウンタの森』ってだけだ。ここが外れなら、確認されている他のセーフハウスをしらみ潰しに当たるだけさ」

「隠れ家っていうんだから、こっちが把握していないところもまだまだあるんじゃない?その場合は……」

「それを調べるのはゴルカとトマスの役目だ。お前は目の前のことに集中しろ」

「へいへい……了解ですよ、ボス」

 ロエルはふてくされたように後頭部に手を置き、地面に転がる石を蹴飛ばした。

「っていうか部下二人が忙しいからボクにお供させているんですか?」

「その通りだ」

「だったら他にもっと相応しい人がいたんじゃないですか?」

「不服なのか?」

 シルルは肩越しに質問を聞き返すと、ロエルは一瞬だけ首を傾げ、考える素振りを見せたが、すぐに横に振って否定した。

「いいや、ありがたいと思ってますよ。ゴリゴリのラエン皇帝派だったボクを取り立ててくれて」

「ラエン派と言っても、忠誠心などではなく利益があるから打算的に従っていただけだろ?」

「まぁ、そうだけど……」

「逆に言えばメリットがあれば、誰の下であろうとしっかりと働いてくれる……違うか?」

「まぁ……報酬をもらえれば、きっちりやりますよ。一応プロフェッショナルのつもりなんで」

「なら問題ない」

「いやいや!自分で言うのもなんだけど、そんな奴信用できる?報酬であっち行ったりこっち行ったりするような奴をさ」

「ワタシはできる。ラエンの下で甘い汁を吸いながら、奴が倒されるや否や被害者面する奴よりはまだ潔い」

 脳裏に必死に憤ったり、悲しんだり、ラエンをこき下ろしたりしてなんとか自分の地位を守ろうとするこの国に巣食う寄生虫どもの顔が過り、思わず顔をしかめてしまう。

「でも手のひら返しって言うなら、ラエンの一件もそうだけど、ボクもネームレスガリュウ相手に不利だと思ったら、あっさり降参しちゃうような奴ですよ。あんたがピンチになってもあっさり見捨てるかも……」

「そこは戦局が見えていると好意的に解釈してやる」

「そりゃあどうも……そこまで評価してくれるとは、涙が出そうですよ」

 ロエルは全く潤っていないパサパサのドライアイで言い放った。

「まだ納得いってないようだな」

「だって今の話ならやっぱりボク以外でもいい気が……」

「まぁ、一番の理由は……」


ガサガサ……


「「!!」」

 物音に反応して、二人は一瞬で臨戦態勢に入った。

「「ギャルゥゥゥゥゥゥゥッ……!!」」

 彼らの行動が正しいことを証明するように刺々しい鱗と太く長い尻尾を持った四つん這いのオリジンズが二匹姿を現す。

「こいつは確か事前に説明にあった……」

「『オオカゲート』だ。かつての十二骸将のマシン、『プスィフロスサウラー』のメイン素材となった中級オリジンズだ」

「そうじゃなくて!ボクが訊きたいのは……!」

「なに……すぐにわかるさ。こいつらがワタシ達とやる気かどうかは!」

「「ギャルゥゥゥゥッ!!」」

「満々じゃないか!くそ!!」

 二匹のオオカゲートは唸り声を上げながら、それぞれの対戦相手の方に向かった!対抗するためにロエルとシルルは手首にくくりつけられた勾玉を掲げ、その真の名前を高らかに呼びかける。

「ロエルギリュウ!出番だ!!」

「力を貸してくれ!シルルギリュウ!!」

 主の闘志に応え、胸にⅤ、Ⅳと刻まれた二匹の灰色の偽りの竜が顕現する。そして、すぐさま地面を蹴り出し、オオカゲートの迎撃に走る!

「おりゃ!!」


ガァン!!


「――ギャ!?」

 ロエルギリュウは先ほど石にしたようにオオカゲートの頭を蹴り飛ばした!全長は成人男性ほどある獣の巨体が軽々宙を舞う。

「ギャ……ギャルゥゥゥゥッ!!」


ビシャ!!


「うおっ!?」

 しかし太く長い尻尾を器用に動かし空中で態勢を立て直すと、口から体液を吐く。ロエルガリュウはとっさに腕でガードする。

「きたな!?唾を吐きかけるなんて、行儀がなって……」


ジュウゥゥゥゥ……


「ん?」

「ギャルゥゥ……!!」

 体液に触れた腕から白い煙が立ち上る。それを見て、着地したオオカゲートは勝ち誇ってほくそ笑むように顔を歪めた。だが……。

「残念」

「ギャル!?」

 ロエルが腕を素早く振り、体液を払うと煙が消え、再び視界に現れた灰色の装甲にはかすり傷一つついていなかった。

「偽物と言っても、その程度の溶解液でぐずぐずになるほどやわじゃないんだよ。お前のようなバカな獣ごときに遅れを取るロエルギリュウではないってことさ」

「ギャルゥゥゥゥッ!!」


ビシャ!ビシャ!ビシャ!!


 挑発されていることは理解できたのか、怒りに身を任せてオオカゲートは懲りずに溶解液を吐きながら、突進した。

「だから無駄なんだってば」


ブウゥゥゥゥゥゥゥン!


 ロエルギリュウは唯一の武器である鎖鎌を召喚し、それを振り回して溶解液を弾き飛ばす。さらに……。

「ギャルゥゥゥゥッ!!」

「ちゃっちゃっと……」

「――ギャ!?」

「終わらさせてもらう!!」


ブゥン!!グルン!!


 突進を回避すると分銅を投げつけ、獣の首に巻き付ける!

「こっちに来い!!」

「ギャルゥゥゥゥ!?」

 それを力任せに引っ張り、自分の下に引き寄せると……。

「ていっ!!」


ザン!!


「――ッ!?」

 獣の頭を鎌で真っ二つに切り裂いた。口に含んでいた溶解液とその眼と同じ色の鮮血はさながら勝利を祝うシャンパン、それを全身に浴びながら、危なげなく偽の竜は一匹目の獣退治を完了した。

「やるな、ロエル」

 シルルはお供の勝利を横目で確認し、自分の考えが間違ってなかったことを確信し、灰色のマスクの下で口角を上げた。

「ギャルゥゥゥゥッ!!」


ブゥン!ブゥン!ブゥン!!


 それを知ってか知らずか、自分を見ろと言わんばかりに尻尾を巧みに使い攻撃するもう一匹のオオカゲートだが……。

「パワーは中々だが、スピードはいまいち……当たらなければ意味なんてないぞ」

「ギャルゥゥゥゥッ!!」

 全てをいとも容易く躱された上に、偉そうに講評までされる屈辱を受ける。その自分をなめ腐った態度を感じ取ったのか獣はさらに激しく攻め立てる!けれど……。

「何度も言わしてくれるな……当たらなければ意味がないんだよ!!」


ゴォン!!


「――ギャ!?」

「口で言ってわからないなら、身体で理解しろ……これが正しい攻撃だ」

 避けると同時に腹をおもいっきり蹴飛ばし、オオカゲートは空中をぐるぐると回転する!それに……。

「狙うは一点……!」

 シルルギリュウは弓を召喚し、狙いを定める。そして……。

「……ここだ!!」


ザシュ!カン!!


「――ギャギャ!?」

 放たれた光の矢はオオカゲートの尻尾を貫き、そのまま大木に張り付けにした。

「ふぅ……これでこっちも終わり……」

「お疲れ様」

 シルルが戦いを終えたと思い、弓を下ろすとロエルがけだるそうに鎖鎌を回しながら合流した。

「これこそがロエル、お前を起用した最大の理由だ」

「ん?」

「さっきの話の続きだ。荒事になる可能性も大きかったからな。それなりの実力者でとっさの判断力もあり、それでいて暇してる人物となると、今のグノスにはお前ぐらいしかいなかった」

「なるほどね……少し買いかぶり過ぎな気もするけど……」

 そう言いながら満更でもないと思っているのが、ギリュウ越しでも透けて見えた。

「さて……話も終わったし、先に進むとするか?」

「あいつは殺さないでいいのか?」

「ギャル!ギャル!ギャルゥゥゥゥッ!」

 ロエルは標本のように大木に張り付けにされたオオカゲートを指差し、問いかけると、シルルは小さく首を横に振った。

「グノス再興のためには、これから国内外問わず多くのオリジンズを殺すことになるだろう。だからこそ無用な殺生はできるだけ避けたい」

「気持ちはわかるけどさ……」

「甘いと思うか?」

「いや、そうじゃなくて……」

「自分は殺してしまったことを悔やんでいるのか?ならばワタシが奴を生かしたのは個人的なセンチメンタリズムだから気にしないでいい。お前のは正当防衛、何ら恥じることはない」

「だから、そういうことを言いたいわけではなく……」

 要領を得ないロエルに、珍しくシルルは苛立ちを覚えた。

「なんだ?言いたいことがあるなら、はっきりと言え!」

「そこまで言うなら……」

 シルルを慮って言葉にしなかったが、本人が言うならと、ロエルは重い口を開いた。

「このタウンタの森に入る前にオオカゲートのこと教えてもらったじゃん?」

「あぁ、説明したな」

「その時、あいつは自分から尻尾を切り離す習性があるから、そこを狙っても意味ないぞ……って、偉そうに言ってたよね?」

「……あ」

「ギャルゥゥゥゥッ!!」


ブチッ!!


 ロエルが指摘し終えるのを見計らったかのようにオオカゲートは尻尾を自らの意志で断ち切り、拘束から脱出した。

「……人は誰しもうっかりというものがあるものだ……反省しているから許せ」

「謙虚なんだか傲慢なんだかわからねぇな!つーか……!!」

「ギャル……」「ギャギャ!」「ギャ!」

 四方八方の木の陰からぞろぞろと新たなオオカゲートが這い出て来る。あっという間に二匹の竜は獣の群れに囲まれてしまった。

「ちんたらしゃべっている場合じゃないようだね……」

「本当にな……できればもうこれ以上無駄な争いはしたくないんだが……」

「試しに訊いてみたらどう?君にはひどいことしちゃったけど、水に流してくれないか?……って」

 意地悪なロエルが顎をクイクイと動かしシルルに仕留め損ね、怒りに満ち満ちている尻尾無しの獣に尋ねてみろと促した。

「性格がねじ曲がっているな、お前は……」

「もしかしてボクを頼ったことを後悔してます?」

「そうじゃない……お前に頼らなければ切り抜けられないこの状況に憤っている!!」


ザシュ!!


「――ッ!?」

 目にも止まらぬ動きで先ほどのオオカゲートに光の矢を放つ!今度は眉間にだ!一撃で絶命し、同胞を殺される場面を目の当たりにした獣達は怒りの炎を滾らせ、竜に襲いかかった!

「ギャル!!」

「させないよ!!」


ゴォン!!


「――ギャ!?」

 ロエルギリュウが分銅を投げ、獣の頭蓋骨を粉砕する。さらに……。

「見えているよ」


ザン!!


「――ッ!?」

 背後から忍び寄って来たもう一匹を振り向き様に首を鎌で切り落とした。

「性格はともかく……腕はムカつくほど確かだな!!」


ザシュ!ザシュ!ザシュ!!


「ギャ!?」「ギ!?」「ギャル!?」

 予想以上の力を見せるロエルに感心しながら、シルルギリュウはぴょんぴょんと飛び跳ね、オオカゲートの攻撃を避け、カウンターの矢で次々と撃破して行った。

「そっちもさすがですね、シルルギリュウ。っていうかⅣ号機じゃなくて、頭に自分の名前をつけるようにしたんだね」

「オリジナルに敬意を払ってな。お前もそうだろう?」

「ボク?違う違う、ボクはボクの手柄を強調するためにやっているんですよ。ロエルギリュウって宣言すれば、誰がやったか明白でしょ?」

「情緒のない考えだな」

「そういうところが気に入ってるんでしょ!!」

「そこまでは言ってない!!」

「ギャルゥゥ!!?」

 お互いに悪態をつきながらも、それぞれの死角をカバーするように動き、難なくオオカゲートを倒して行く。周りに獣の死骸が山のように積み重なっていく。しかし……。

「ギャル……」「ギャギャ!」「ギャ!」

 それを上回るスピードで新たなオオカゲートが湧いて出て来ていた。

「キリがないな……!」

「何が嫌かって、ボク達の目的はこいつらの駆除じゃないってことだね……」

「あぁ、ワタシ達はこの先にある山小屋に行って奴を……!」

「居なかったら、骨折り損のくたびれ儲けか……」

「ならば心の奥で祈っておけ……ネオヒューマンやミカエルやガブリエル、そして我らが纏うこのギリュウを開発した“ゲスナー博士”がこの先にいることを……!」

「いくら国がボロボロだからといって、まさかそんな下衆なマッドサイエンティストに頼らなければいけないなんてね……」

「グノスの、祖国再興のためには毒でも喰らってやるさ……!!」

 弓を射る音と鎖鎌を振り回す音、そしてそれらが肉と骨を破壊する音がタウンタの森にしばらくの間響き渡り続けた……。

 そしてそれは森の中にいる狂気の科学者と獣達の主の耳にも届いていたのだった……。


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