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No Name's Nexus  作者: 大道福丸
Nexus
17/324

ジャガン

「いきなりかよ!?情緒ってもんがないよな!ナナシガリュウ!!」


ガンッ!!!


「ぐっ!?」

「ちっ!」

 ナナシが太陽のごとき紅の鋼を纏う!そしてすぐさま両腕を十字に交差し、ジャガンの砲弾のような重いナックルをガードした。しかし、その鋭い衝撃は装甲を貫通し、骨を軋ませる。

「さすがに反応がいいな……だがぁ!!」

 ジャガンはそれだけに飽き足らず直ぐ様、次の攻撃に移る。空中で一回転し勢いをつけ、足で踏ん張れない分を天性のバネと愛機の柔軟さを利用し、強烈な回し蹴りを繰り出す!

「これはどうだッ!!」


ガキンッ!!!


「ちっ!?」

 これまたガードには成功するが、勢いを殺し切れず紅き竜は後方に吹っ飛ぶ!


ズザザザザザーーッ!!!


「野郎……!」

 地面に跡を残しながら着地し、敵を捉えるため前を向く!が、視界の中にすでにジャガンはいなかった。

「てえっ!!」

 いつの間にかすぐ横まで迫っていたジャガンが再び蹴りを放った!しかし……。

「やられっぱなしでいられるかよ!ガリュウロッド!!」


ガギン!


「ちっ!?」

 竜の咆哮と共に手の中に現れた身の丈ほどある棒がまたまたジャガンの攻撃を防いだ。

 だが、今度はそれだけじゃ終わらない。紅き竜はついに攻勢に転じ、ジャガンの顔面にロッドで突きを放つ!だが……。

「ウラァッ!!」

「ふん!そんなもの!」

 届かない。ジャガンは恐るべき反射速度で後方に飛び、一瞬でロッドの長いリーチの射程外へと退避してしまった。

「……はぁ……はぁ……はぁ……」

 正に息もつかせぬ攻防が一旦終わり、ナナシの呼吸が乱れる。その一方……。

「……満身創痍……連戦だというのに……わたしの攻撃を全て捌き切るとは……上々だな」

 さすがプロの格闘家と言ったところか、アイムは一切息が乱れていなかった。上から目線でナナシの奮闘を評価するぐらいの余裕を持っている。

「上から目線で講評なんてしやがって……!!」

 ナナシはロッドを構えたまま距離を保ち、ゆっくりと横へ、ジャガンの周囲を回る。攻撃する隙を探しているのだ。

「……定石通りだな」

 ジャガンも同じくゆっくりとナナシガリュウの対角線を保ったまま間合いを計りながら歩く。当然、彼女も隙を伺っている。


ざっ…ざっ…ざっ………


 静かな闇夜に二人分の足音だけが一定のリズムで響く……。


ざっ…ざっ…ざっ………


 お互い、視線を外さない。目の前の敵を、倒すべき相手を睨み続ける……。


ざっ…ざっ…ざっ………


 実際には、大して時間は経っていないが、ナナシにとっては無限にも思える時が流れる。そんな一切の油断を許さない張り詰めた緊張感の中、不意にナナシの頭にある疑問が浮かぶ。

(……あのピースプレイヤー……見たことないデザインだな………)

 ナナシはどちらかと言わなくてもピースプレイヤーに詳しい方だ。男の子らしくメカとか兵器に強い興味を持っている。子供の頃、尊敬する人にピースプレイヤーの研究、発展に努めた曾祖父『シレン・タイラン』を挙げたこともある。だから、士官学校を卒業した後も、バイトがてら花山重工で新型機のテストを手伝っていた。その中の一つが先ほど戦ったプロトベアーだ。

 そんなピースプレイヤーの知識にそれなりに自信のあるナナシが目の前の『ジャガン』には全く見覚えがなかった。

(……海外製か……?だとしても有名どころなら……なんとなくわかる気がするんだが……マイナーメーカーとか、傭兵や研究者あたりが個人で作ったオーダーメイド品かな……)

 暗闇の中でも目立って仕方ない黄色い機械鎧をワクワク半分、びくびく半分でじっくりと観察する。

 しかし、頭の中をひっくり返して記憶を引っ張り出そうとしても、やはり形状や、技術体系に覚えがない。

(……武装は?……まさか第四世代……な訳ないよな……だとしたらガリュウに対抗できる訳ない……)

 現在の主力となっているピースプレイヤーは第五世代と呼ばれている。


 初めて、オリジンズの骸と機械を融合させ、パワードスーツ型にした記念すべき第一世代。


 オリジンズの再生能力を再現し、自己修復を可能にした第二世代。


 大気からのエネルギー生成も再現、それを生かし、多数の内蔵武装を搭載して、スーツと呼べないほど大型化していった第三世代。


 古代文明の遺物、『アーティファクト』を研究、解析したことによって簡単に持ち運べる小型のデバイスやアクセサリー状態、所謂待機状態にすることに成功。一瞬で装着、脱着を可能にした第四世代。


 その第四世代は待機状態を得た代わりにシンプルな姿、性能になり、複雑な銃火器が外付けになってしまった……が、数多の実験、実戦を経て、再び銃火器や内蔵武装の搭載を可能にした現在の主流、第五世代。


 ナナシは最初は銃のような武装が見当たらないジャガンを第四世代のピースプレイヤーだと疑ったが、この身に纏うガリュウに対抗できるパワーとスピードを持っていることから、違うと判断した。自分が今、相対しているのは第五世代の最新鋭機であると。

 ナナシは分析を終え、戦いに集中し直そうと……ジャガンの姿が視界から消え失せている!

「……あれ?」

「セイッ!!」


ボゴッ!!!


「……かはっ!?」

 懐に潜り込んでからのボディーブロー!これぞプロの格闘家だと言わんばかりのコンパクトで無駄の無いモーションから放たれる強烈な一撃が紅き竜の腹部に突き刺さった!

 その衝撃は一瞬で全身を駆け巡り、手から力が抜け、ロッドを落とし、さらにナナシの肺から!口から!一気に酸素が飛び出す!

 完全な、言い訳一つもできない油断……それをアイムは見逃さなかったのだ。

「――っ!?く……!!」

 息も絶え絶えに、なんとか反撃の拳を振るう!

「そんな攻撃ッ!!」


ガシッ!!!


「――ッ!?」

「もらった!」

 破れかぶれのパンチがジャガンに当たるはずも難なく避けられた。それどころか、そのまま腕に絡み付かれる。関節技の体勢だ!このまま紅き竜の腕をへし折……れない!

「調子に……乗るな!!」


ゴォン!!!


「……ぐはっ!!?」

 絡み付いたジャガンごと紅き竜は力任せに腕を地面に思い切り叩きつけた!背中から内臓を圧迫され、今度はアイムから酸素が奪われる!

「美女と触れあうのはやぶさかじゃないが……こういうのはノーサンキューだ!!」

 仰向けに倒れるジャガンの顔面に追撃の拳が容赦なく振り下ろされる!……が。

「ッ!!」


ゴォン!!


「なっ!?」

 地面を力いっぱい押し、逆立ち状態になりながら避けた!拳は虚しくも地面に叩きつけられる。

「……ていッ!!」

 そのまま脚を開き、回転!反撃の蹴りが決ま……。

「……ちっ!?」

 いや、決まらない、決められなかった。ナナシが軽く仰け反り、ギリギリで回避!そして、お互い再び距離を取る。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

「ふぅ……ふぅ……ふぅ……」

 相手から目を逸らさずに、二人とも呼吸を整える。肉体的なダメージはもちろん、端から見たらほんの一瞬の出来事だが、あまりにも濃密な攻防が彼らの精神をも疲弊させていた。

「……ふぅー、完璧に隙を突いた……と思ったんだけどな……」

 嫌味……というより意地悪っぽくアイムが呟く。ナナシは反論しない……できない。集中力を切らし、隙を作ってしまったのは紛れもない事実だからだ。

 しかし、迂闊だと彼を責めるのは、酷というものだろう。プロトベアーからの連戦……更に言えば、サイゾウやネームレスガリュウとの戦いからもさほど時間が経っていない。むしろ、あの状態からジャガンを迎撃できたことを称賛してもいいくらいだ。

「……だが、次は決める!わたしのスピードでお前を圧倒する!」

 アイムの口からK.O.宣言が飛び出す。一連のやり取りで勝利を確信したようだ。

「……もう……スピードとか……いいから……」

 心の底からの言葉だった。この短い間に、スピード自慢と散々やり合って、正直、ナナシは辟易していた。

「ふむ……なら、テクニックだ!わたしのテクニックで倒してやる!」

 そんな彼を気遣って……という訳ではないがアイムは今度はテクニックを誇示した。技術も胸を張って、自分のストロングポイントだと言える自信がある。しかし……。

「……ぷっ!?」

 急にナナシが吹き出した。彼からしたらさっきからのアイムの発言は勘違いも甚だしい。こんな失礼極まりないリアクションを取ってしまうのも当たり前だと思えるほどに。

「……何が可笑しい……?」

 アイムは不快感を隠しもせず、ナナシを問い詰める。仮面の下では目は血走り、奥歯をぎゅっと噛み締める。

 ナナシから言わせればこういうところもちゃんちゃら可笑しい。そんなにムカつくなら黙って殴りにくればいいんだから……。

「可笑しいさ……何がテクニックだよ……」

 バカなことを聞くな、と言った感じでナナシが軽く答える……あしらうと言った方が適切か。

 それを聞いた、ジャガンのマスクの下のアイムの顔がみるみるさらに強ばっていく。大切なものに唾を吐かれたも同然の言葉を突きつけられたのだ、当然の反応だろう。

「……わたしは……わたしは!スピードとテクニックで自分よりもでかくて!力の強い奴らをみんなマットに沈めてきたんだ!!」

 遂に声からも苛立ちが感じ取れるほどボルテージが上がりだした。彼女にとって譲れないプライド、いや、彼女自身の存在を否定する発言、許せるはずがない!

 だが、ナナシはそんな彼女に臆さず、自身の発言の真意を答える。

「マットって……これはスポーツの試合じゃないんだぜ」

「!!?」

 アイムは冷や水をかけられた気分だった。ナナシのいう通り、今の今まで彼女がいつもやっている格闘技の試合感覚で戦ってしまっていたことに気付かされる。

「確かに……マットの上、リングの上じゃ、あんたの方が俺より強いんだろう。なんてったってプロの格闘家だもんな……だがな!」

 ナナシはどんなものでもプロフェッショナルと呼ばれる人を尊敬している。なぜなら彼も彼なりにプロ意識を持っているからだ。この機械鎧に関しては!

「ピースプレイヤーでの実戦は俺が!このナナシガリュウが上だ!あんたにリングの上じゃ使えない戦場のテクニックって奴を……嫌というほど教えてやるよ!お嬢様!!」


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