エピローグ:NoName
人通りの全くない暗い、暗い路地裏……そこを一人の美女が歩いている。
世間一般の女性、いや男性でも避けるような道を彼女は堂々とファッションモデルのように軽やかに進んでいく。
「……レイラ・キリサキだな……?」
そんな彼女の前に見るからに悪人という顔をした男達が立ち塞がった。
彼らの姿を確認したレイラと呼ばれた女性はニッと口角を上げた。
「ここまであっさり引っ掛かってくれるとは……単細胞は扱い易くていいな」
「何!?」
彼女がこんな危険極まりない場所を歩いていたのは、彼らを誘き寄せるため……愚かな男達はまんまと彼女の術中に嵌まったのだ。
「さすが大財閥のトップ……肝が据わってるな」
「お前らのような者に褒められても嬉しくないがな」
「あぁ、そうかい……じゃあ、おしゃべりは終わりにしようか!!!」
男の一人がレイラに襲いかかる!
しかし、レイラの表情は崩れない。むしろ、より口角が上がる……あまりにも予想通りの行動を取る男達に、そしてその末路を思うと笑いが止まらない。
ゴォン!
「がっ!?」
レイラの目前まで迫っていた男が突然、視界から消えた。
空から突然現れた黒き竜に踏みつけられたのだ!
「……毒虫が……」
ゴォン!
漆黒の竜は自分の足の下にいた男を仲間達の下に返してやる……蹴り飛ばして。
「てめえ!?何者だ!?」
「ん!?二本の角に、黄色い目、漆黒のボディーにマントを羽織っているピースプレイヤー……まさか!?」
男の一人がその竜の正体に気づく……レイラの口角は更に上がった。
「そのまさかだ」
「とっとと金を入れろ!!!」
「は、はい!?」
レイラが悪漢に襲撃されている頃、神凪の首都鈴都のとある銀行では強盗事件が発生していた。
青ざめた銀行員に銃を突きつけ、金を集めさせる犯人の一人……そこに……。
「お邪魔しま~す」
ガシャーン!!!
「えっ!?」
「うりゃ」
ゴォン!
「ぐはっ!?」
銀行の窓を突き破り、紅き竜がド派手にダイナミック入店!
そのまま犯人を蹴り飛ばし、銀行員を解放する。
「大丈夫か?」
「は、はい!」
木漏れ日のように優しく輝く黄色い眼に見つめられた銀行員の顔はみるみる生気を取り戻していった。紅き竜とは神凪国民にとって、そういう存在なのだ。
「あなたはまさか……?」
「そう、そのまさかだよ」
「相手が誰だろうと構わねぇ!やっちまえ!」
「身の程をわきまえない愚か者が……ガリュウブレード」
半ば自棄を起こし、向かって来る悪漢達を制圧するために黒き竜は、彼の最も信頼し、数々の強敵を屠ってきた得物を呼び出す。
「なんだ!?今の音は!?」
突然の騒音を聞きつけて、強盗の仲間達がぞろぞろと集まって来た。そして、無様に倒れる仲間の姿を発見する。
「リーダー!?てめえがやったのか!?」
「見てわかるだろ」
「この野郎!?やっちまえ!!!」
「状況を理解できない馬鹿が……まぁ、馬鹿だから銀行強盗なんてするんだろうけど……ガリュウマグナム」
リーダーをやられて怒り狂う強盗達にお仕置きするため、紅き竜は幾多の苦難を共に乗り越えて来た愛銃を召喚した。
「ネームレスガリュウ!」
「ナナシガリュウ!」
「「行くぜ!!!」」
名も無き者達の物語は終わらない。




