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No Name's Nexus  作者: 大道福丸
Nemesis
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光と影

 沈み行く太陽を手首に黒い勾玉と数珠を着けた金髪の男は立ったまま、右手首に赤い勾玉、左の人差し指に指輪を着けた黒髪の男はさっきまで歴史ある宮殿の一部であった瓦礫に腰をかけて見つめていた。

「終わったんだな、本当に……」

「あぁ……まさか、流れ流れて、こんなところまで来ることになるとはな……」

 オレンジ色の光に照らされながら、ネームレスとナナシはこれまでの戦いを胸の奥で振り返る……。

 ネクロ事変から始まり、壊浜での激闘、囚人達とクラウチ、そして、最凶最悪の特級オリジンズ、シムゴスとの死闘、ツドン島での出会い、フェノン高原の修行、グノス帝国でのかけがえのない者との再会と別れ……長きに渡る戦いもこれで終止符が打たれた。

 だから、ネームレスは……。

「………ナナシ……俺は……」

「ネジレとの決着がついたから、罪を償うために出頭する……か?」

「――!?……お見通しか……」

「そりゃあ、こんだけ一緒に戦ってればな……嫌でもわかるようになるさ……」

 ネームレスの考えていることは言葉にしなくてもナナシにはわかった……というより、常識的に考えれば、そうすべきなのは当然だ。

 だが、ナナシは……。

「いいんじゃねぇか……別に今さら、牢屋になんて入ることねぇだろ……」

「なっ!?おま……大統領の親族がそんなこと言ったら駄目だろうが!?」

「えっ?俺、もしかして説教されてる?」

「説教……ではないが、それはやっぱり大統領の息子とか関係なく、法治国家の国民として……」

 ネームレスの意見はもっともだし、彼はずっとネジレとの決着がついたらそうすると決めていた。

 ナナシも自分の言っていることが道理に反しているのは頭では理解している。それでも……。

「確かにそう……お前の言う通りなんだけど……」

「なら!?」

「でも、クラウチやシムゴス、そして、ラエンやネジレ……こいつらを倒せたのは、お前が俺に力を貸してくれたからだろ?もしお前が刑務所なんかに入っていたら、俺、間違いなく死んでたと思うぜ……」

「それは……」

「つまりは神凪を救えたのは、お前が逃亡者として自由に動ける立場にあったからなんじゃないか?」

「……そうかもしれないが……」

 ナナシはこれでもネームレスに感謝しているし、評価しているのだ。彼の力があったからこそ、自分と故郷は存続できていると……。

 そして、その力を最大限生かすためにはどうすればいいのか彼なりに考えた結果が、先ほどの言葉なのだ。

「……俺は神凪政府の人間、大統領の息子だ。だからこそできることもあるし、できないこともある」

「……だろうな……」

「逆に政府や組織と関係ないお前は……」

「お前ができることができないし、お前にできないことができる……」

「あぁ……だから、これからもそれでいいんじゃねぇか?お互いの足りないところを補い合って、表と裏、光と影から神凪を守っていけば……」

「光と影か……ラエンの能力と一緒だな……」

「じゃあ、両方揃った時の強さは痛いほどにわかってるだろ?」

「……そうだな……」

ネームレスはそっと目を閉じた……そして、再び開かれた時、その瞳には決意の炎が灯っていた。

「俺もお前がいなかったら、死んでいたと思う……だから、今日のところはお前の意見に従おう」

「……なんか、その言い方だと責任を押しつけられてるような……」

「そんなんじゃないさ……俺は俺の意志で影から神凪を守る……お前とは違う方法で。それが俺の贖罪だ」

「うん」

「だが、罰も必ず受ける……だが、それは今じゃない。いずれ……神凪のために戦い……剣を握ることもできないぐらいにボロボロに……この身を酷使し、戦士としての寿命を迎えたら……その時、改めて出頭する」

 ネームレスにもう迷いはなかった。彼はこれまでの戦いで得た力と、自分自身の命の全てを神凪とそこに住む人達のために使うと決めたのだ。

 その彼の隣ではナナシが満足げに頷いた。

「それでいいと思うぜ、俺は……」

「あぁ、俺も決心が固まった……だから、逃亡者らしく、闇の中に消えさせてもらう」

「行くのか?」

「ここにいても仕方ないしな」

「そうだな」

「じゃあ………」

「おう」

「またいずれ……いや、お前と俺が会うってことは、大きな事件が起きているということだから、これで最後にしたいな」

「あぁ、完全に同意だよ。もうめんどくさいのはごめんだ」

「ふっ……それでは!」

「あっ!?ちょっと待っ……」

「さらばだ、ナナシ・タイラン!」


シュッ!


「あぁ……行っちゃった……」

 ラエンやネジレとの戦いを経て、さらに磨きがかかったスピードでネームレスは一瞬でナナシの視界から消えて行った……彼の制止を無視して。

「シュテンもらったんだから、ガリュウは返せよ……って言おうと思ったんだけど……まぁ、あいつほどガリュウ似合う奴もいないだろうし、今さら感もあるし……まっ、いっか」

 ナナシはそう言いながら瓦礫の上に仰向けに寝転んだ。

「これからどうするか……つーか、どうやって神凪に帰ろう……まぁ、ヨハンがきっといい方法を考えて……くれるだろう………帰ったら……マサキさんに……トクマさんのこと……報告しねぇと……その前にコーヒーと……チョコレート…………」

 太陽が地平線に完全沈むと同時に、ナナシ・タイランも深い眠りに落ちた。


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