鬼竜凶闘
あの日、ネームレスと激闘の末、ネームレスを救うためにオノゴロの炎の中に消えた男が、このグノスの地でまたネームレスの命を救った。
驚きを隠せない黒き竜。そして、それは相対する傭兵も同じだった。
「噂をすればなんとやらってか……まさか地獄から恥知らずにも戻って来るとはな……」
飛びっきりの嫌味を込めて、予想外の乱入者に言葉を投げかけるが、当のネクロはその言葉を素直に肯定した。
「あの時の傭兵か……お前の言う通りだ。今の俺は恥知らずと呼ばれても仕方ない存在だ」
「ほう……自覚はあるのかよ」
「あるさ……あの時、ナナシとネームレスに敗れ、瓦礫で身動きが取れなくなっていた俺はオノゴロの中で死ぬはずだった……俺自身もそれを望んでいた……が、オノゴロが海に着水すると……運良く……と言っていいかわからないが、とにかくその衝撃で瓦礫から脱出することができたんだ。その時から今まで、あれだけの罪を犯した恥を忍んで、俺は生きてきた」
「だったら!何故今まで姿を現さなかったんだ!?」
ネームレスが吠えた!彼は今まで自分のためにネクロが死んだのだと、もしかしたら彼と共に罪を犯した自分もあの時、死んでしまった方が良かったのではないかと、心の奥底で思い悩んでいた。
なのに、彼は生きていて、こうして目の前に存在している……嬉しさ半分、怒り半分で納得できるものではなかった。いや、本当はわかっている……彼が姿を現せなかった理由、同じ十字架を背負っているのだから。
「俺はずっと考えていた……大罪を犯した自分が何故、生き延びたのか……何のために生かされたのか……」
「それはその罪を償うためだろ!死んで全ておしまいというのはあまりに無責任だ!罪とは死ではなく、生きて贖わなくてはならない!」
「あぁ……そうだ……その通りだ……!俺もそう思い、今度はこの命を使って、贖罪の方法を考え始めた……そして、俺が起こした……ネクロ事変と呼ばれるようになったあの事件を、発端である俺自身の手で完全に終わらせるべきだと……」
「それって……」
「だから、お前と同じなんだよ。俺はずっと影からネジレを追っていたんだ」
ネームレスとネクロ、生粋の似た者同士……それ故に共感し、過ちを犯し、同じように苦しみ、はからずも二人とも同じ贖罪の道を歩いていたのだ。
「じゃあ、あなたがグノスにいるのも……?」
「……ネジレがこの国と何らかの関係があるという情報を得て、潜入し、動向を探っていたんだ。まぁ、結局、何もできずに神凪への宣戦布告を許してしまったんだがな……」
ネクロが左拳を力いっぱい握る……。自分ならば、この状況を止められたかもしれないと思うと、悔やんでも悔やみきれなかった。
「……それでも……それでもなんとかしようと、ラエン皇帝に会うためにヤルダ宮殿にやって来たら、この侵入者騒ぎだ。四の五の言っている暇もないから、俺もどさくさに紛れて、入らせてもらうことにしたんだが……まさかその侵入者がお前とナナシだとは夢にも思わなかったけどな」
「その言葉、そっくりそのまま返すぞ」
ネームレスからしたら、今も白昼夢を見ているのではないかと疑っている。しかし、同時に夢であって欲しくないと心から願っていた。
こんなにも心強い助っ人は他にいるはずがないのだから。
「何にせよ……またあなたに会えて嬉しいよ、ネクロ」
「俺もだよ、ネームレス。お互い、積もる話もあるだろうが……それはあいつをどうにかしてからだな……!」
「おっ、ようやく終わったか……テロリストの同窓会……!」
「ニルス・フィラス!!」
黙って二人の会話を眺めていたニルスが再びネクロに嫌味たっぷりの言葉をぶつける。待ちくたびれて、苛立っていたのだろう……別にそんなことをする義理はないのだが……。
「わざわざ待っていてくれて、礼を言うよ……ニルスだったか?」
「お礼なんて、真面目だね~。別に俺もお前がどうしていたのか気になってただけだから。久しぶりの再会に茶々入れるほど野暮でもねぇし」
「俺一人増えたところで問題もないし……か?」
「……よくわかってんじゃねぇか……」
言葉とは裏腹にニルスとネクロの間の空気は今にも爆発しそうなぐらい張り詰めていた。
ネームレスほどの戦士であっても、あまりの緊迫感に息を飲む……。
(不謹慎だが……俺からしたらドリームマッチだな……俺が出会った戦士の中で、最強の二人……どちらが勝つのか想像もつかない……)
強い者に、最強に憧れるただの男の子に戻ってしまうネームレス。
そんな彼の羨望の眼差しを受けながらニルスとネクロはゆっくりとお互いに向かって歩き出して行く……。
「グノス帝国皇帝、ラエンの依頼を受けて……」
「贖罪と、我が故郷、神凪の平和のために……」
「傭兵、ニルス・フィラス!ホヤウカムイ!」
「ネクロ!シュテン!」
「「行くぞ!!!」」
咆哮と共にニルスがマントをはためかせ、シュテンは左手に金棒を召喚しながら、一気に加速する!
「ネクロ!ピースプレイヤーは毒!ストーンソーサラーは重力を使う!」
「……了解、把握した」
最小限の言葉で、伝えなければいけない最低限のことをネクロに伝えるネームレス。
「はっ!そんなことバレたぐらいで!」
秘密を晒されたニルスだが、心は全く揺らがない!そもそも、目の前に迫る鬼はその程度の情報の有無でどうにかできる相手ではないと本能が理解しているのだ。
「援護だ!ホヤウカムイ!」
バン!バン!バン!!!
愛機に援護射撃を命じる!先ほどの黒き竜はこの攻撃を回避したが……。
キン!キン!キン!!!
「それがどうした」
「ちっ!?」
鬼はお構い無しに弾丸を弾きながら、突っ込んで来る!圧倒的な攻撃力と圧倒的な防御力……特殊な能力はないが、そのシンプル故に対処しづらいスペックの暴力がシュテンの強みだ!しかも、おまけに……。
「人形風情が……邪魔をするな!!」
ドゴオォォォォン!
「ぐっ!?ホヤウカムイ!?」
火球も吐ける!シュテンの口から放たれたそれはホヤウカムイの弾丸を飲み込み、そのまま漆黒のピースプレイヤー自身に直撃した!
「てめえ!よくもやりやがったな!!」
ニルスが重力の破壊力を加えた妖刀を振り下ろす!
「ふん!そんなに大事なら仕舞っておけよ!!」
シュテンはその斬撃に向かって下から金棒を振り上げる!
ガギィィィン!!!
「この!?」
「ぐっ!?」
ぶつかり合う妖刀と金棒!両者の力は拮抗して……いや。
「ウオラァ!!!」
ガギン!
「ぐおっ!?」
シュテンのパワーがほんの僅かだが、ニルスの重力攻撃を上回った!
斬撃を弾き返された反動で、ニルスは空中を回転……いや、これはあの時と同じ!
「こんにゃろめ!!」
自身を無重力状態にし、攻撃をいなし、逆にその勢いを利用して斬撃を放つ先ほどネームレスに使った技だ!しかし……。
キン!
「――ッ!?」
「そんな小細工では、シュテンに傷一つつけることすらできん!」
ネクロの言葉通り、ニルスの攻撃はシュテンの装甲にダメージを与えることは一切できなかった。
軽いショックを受ける彼にさらに追い討ちをかけるように魔の手が……いや、鬼の手が迫る!
「打撃がいなされるなら!掴んで!握り潰してやろう!!」
金棒を離した左手を目一杯開いて、ニルスの頭部に……。
「ミンチはごめんだ!」
「ちっ!?」
ニルスは逆にシュテンの腕を掴み、それを軸に一回転!勢いがついたところで手を離し、シュテンの射程外に離脱していったのであった。
「すごい……俺があんなに苦戦した傭兵と渡り合って……いや、ネクロの方が優位に立っている……これならいける!」
相変わらずの強さを見せてくれるシュテンの姿にネームレスの頭は一足先に勝利の光景を思い浮かべた。
けれど、彼は大切なことを見落としていた。本来ならば他の誰よりもそのことに気づかなければいけないのに……。
そして、間抜けな彼とは逆に抜かりないニルスはこの短い攻防でそれに気づいていた。
「……あいつ、さっきの攻撃、まさか……考えるより……試した方が早いか!」
再びニルスが急加速し、自身の感じた違和感を確かめるために鬼の下へ!
「来るか!ならば!!」
シュテンがまた傭兵に向かって手を伸ばす!この大きな手に掴まれたら、ビスケットの如く頭蓋を砕かれるであろう。
だが、ニルスに恐怖心はない。彼の推測が正しければ……。
「オラァ!!!」
「よっと!」
シュテンの左手は空気しか掴めなかった。ニルスは掴まれる寸前で方向転換したのだ……シュテンの右側に。
「こいつ!」
ブゥン!!
「はっ!これは……間違いねぇな……!」
シュテンは咄嗟に右腕を振るうが、ニルスは難なく回避……傭兵の中で疑惑が確信に変わる。
「ちいっ!」
シュテンは腕を振るった反動で身体の向きを変え、再び左手を伸ばす!しかし……。
「おいおい!なんだ、そりゃ!」
ニルスはすぐさま再度シュテンの右側に回り込む!これでネクロの方も確信する……自身のウィークポイントに気づかれてしまったことに。
「目敏いな……」
「はぁ?目敏いも何も、右手が空いてるのに、わざわざ武器を捨てて左手で掴みかかるなんておかしいと思うに決まってんだろ!しかも、俺が右を取ったら、腕をブン回すだけで、反応も鈍いし……どんなバカでも気づくぜ!お前が右手を使えないことを!」
ニルスの推測通り、ネクロは右手を使えない……もっと、正確に言うと……。
「使えないんじゃない……右手自体がないんだ……」
ネクロ事変での最終決戦、ナナシとネームレスの双竜タッグとの死闘でネクロは右腕を失っていた。
並の人間ならば、その時点で戦士として再起不能になるほどの怪我だが、ネクロの実力ならば片手というハンデも大して意味をなさないだろう……彼と同じレベルの実力者を相手にしない限り。
しかし、よりにもよって、今、彼の目の前に立ちはだかっているのが、その世界にいる数少ないネクロとタイマン張れる男ニルス・フィラス!しかも、彼は相手の弱点を突くことに躊躇を覚えないタイプだ!
「じゃあ……そのない右手の方から攻めさせてもらいましょうか!」
ニルスはシュテンの右側を確保しながら、妖刀に力を込めていく。そして……。
「オリャア!!」
ズサッ!
「くっ!?」
飛び上がり、重力を加えた突きを放つと、シュテンは防御もできずに、妖刀の切っ先は彼の分厚い装甲を突き刺した!
けれども、ニルスの顔は不満げだ。
「ちっ……これだけ力を一点に集中させても……中身まで届かねぇのかよ!」
ニルス的には今の一撃で、シュテンの装甲ごと、ネクロの身体を貫いて早々にこの戦いの幕引きをしたかったようだ。
ナナシに負けず劣らずめんどくさがりの傭兵、どうせ結果が変わらないならとっとと終わらせたい。
「しゃあねぇ……ダルいけど地道に削っていくとするか!!」
ズサッ!
「くそ!?」
ズサッ!
「こいつ!?」
ズサッ!ズサッ!ズサッ!ズサッ!!!
「ぐあっ!?」
執拗な右側からの攻撃によって、宣言通りみるみるシュテンな装甲は削られていった。
もちろんネクロも黙ってやられているわけではない。カウンター気味に中身の入っていないシュテンの右拳でパンチを放っている。ただ、悉く避けられているが……。
(くっ!?このままではなぶり殺しにされてしまう!なんとか打開策を見つけなくては……とりあえず今は致命的なダメージだけは食らわないようにして、時間を……)
一方的にやられているものの、まだ猶予は、この状況を打破するための策をひねり出すぐらいの時間はあると踏んでいた……。
けれど、ネクロのその考えは甘いとしか言いようがない。
(俺の右側を障害物でガードすれば……よし、やられているふりをして、壁際に誘導……)
ガクッ!
「なっ!?」
突然、ネクロの視界が揺れ、体勢が崩れた。何をされたのかはすぐにわかった……それは今、自分がしようとしたことだったから。
「穴!?くっ!?俺の方がすでにこの場所に誘導されていたのか!?」
「その通り!まんまと嵌まったな!二つの意味でよ!!」
ネクロは彼が乱入する前、ネームレスとの戦いでニルスが空けた床の穴に足を取られた。だが、それは彼が運が悪かったわけでも、罰が当たったわけでもない。意図的にニルスがそうなるように仕向けていたのだ!
「足元をちゃんと見ないから、テロなんてバカな真似をマジでやっちまうし、最後は無様に負けることになるんだよ!!」
「ぐっ!?」
「反論できないよな!する必要もねぇがな!世間じゃ、もうてめえは死んだことになってるんだからよ!だから、みんなの望み通り、地獄に落ちな!!!」
妖刀がいまだにバランスを崩したシュテンの頭部に振り下ろされる!一刀両断!鬼退治完了!……とはならなかった。
「させるかよ!」
ガァン!!!
「ぐっ!?」
「ちっ!?」
ネームレスガリュウが渾身の飛び蹴りを炸裂させる!……味方であるはずのシュテンに。だが、そのおかげでシュテンは吹っ飛び、妖刀の一太刀は空振りに終わった。
「ネームレス……本当、足癖が悪い奴だな……」
「野暮だとは言うなよ。今のはさっき助けられた借りを返しただけだ。それに……お前と元々戦っていたのは俺だろうが!」
キン!キン!
「――ッ!?速いな……おい……!」
黒き竜のブレードと、妖刀が火花を散らしぶつかり合う!ニルスも驚くほどのスピードで斬撃を繰り出すネームレス!
本来ならホヤウカムイの毒をもらった彼がそんな真似できるはずはないのだが……。
キン!
「フルリペア……そりゃ、使えるよな……けど!解毒までできるなんて聞いてねぇぞ!!」
ネームレスガリュウのボディーに刻まれたばつ印の傷はいつの間にか、きれいさっぱり消えていた。心の力を使い、瞬時にガリュウ自身と装着者のダメージを癒す固有能力、フルリペアをネームレスはニルスとシュテンの戦いの最中に発動させていたのだ。自分が始めた戦いの決着を自らの手でつけるために!
ただし、毒に関してはネームレスにとっても予想外というか、希望的観測だったようで……。
「俺も知らなかったよ!だが、もしかしたらと一縷の望み……いや、博打を打つことにした!」
「それで勝ったっていうのかよ!羨ましいなぁ!」
キン!キン!
「でやぁ!」
「ぐっ!?」
「減らず口を言っている余裕があるのか?俺とネクロ相手にあんな大立ち回りをして、疲れてるんじゃないのか!」
「そんなこと!」
キン!
「ぐぅ!?」
「あるじゃないか……!」
一合、二合と打ち合う二人……回数を重ねる度に、徐々に傭兵の方が押し込まれていく……。あれだけネームレスを圧倒していたはずなのに。だが、それは当然のことだろう。
どんなに規格外の存在と言っても、結局はニルスも人間。スタミナの限界からは逃げられない。むしろ、ネームレスガリュウとシュテン相手にホヤウカムイを遠隔操作するという離れ技を披露しながら、ここまで渡り合ったことに称賛を送るべきだ。
そのことはネームレスもよく理解していた。だからこそ手を抜かずに、さらに彼のスタミナをより多く削れるように、全力でラッシュをかける!
「でえぃ!」
ギン!
「――ッ!?」
ついに傭兵が完全に打ち負かされる!刀をはね上げられ、マント一枚羽織っただけの無防備な身体を晒してしまう!
「もらった!」
黒き竜はそれを見逃さず、ブレードをねじり込むように突き出す!ニルス・フィラス万事休す……。
「バン」
バン!
「ぐっ!?」
ニルスに止めを刺すために伸ばした黒き竜の腕を弾丸が貫く!
シュテンの攻撃によって片腕を吹っ飛ばされ、今にも待機状態に戻ってしまいそうなホヤウカムイが狙撃したのだ。それも、今までと違う特別製の弾丸で。
「やはり……まだ……動けたのか……」
「おうよ!俺のホヤウカムイはそんなにやわじゃねぇ!ずっと息を殺して待ってたんだ……毒の弾丸ができるのをな!!」
「毒の……だと……?」
「一発撃つのに時間がかかるし、連射もできねぇから、滅多に使わないが、毒はライフルから撃ち出すこともできんだよ!」
逆に言えば、そんな面倒なことをしなくてはいけないほどネームレスとネクロが傭兵を追い詰めていたということでもある。
しかし、それもこの一発で全て終わり……。
「もう一度、味わいな!毒と重力のダブルパンチを!」
グン……
黒き竜の身体が上から押さえつけられる。そしてさらにホヤウカムイの毒で動きが鈍く……最悪の状況がここにまた再現された!
先ほどは不意を突くシュテンの乱入があって、かろうじて助かったが、同じ失敗を繰り返してくれるほどニルスは甘くない。
「さっきは邪魔が入ったからな!今回はそうならないように……一気に終わらせてやるよ!」
渾身の力を込めて、躊躇なく妖刀を突き出す!切っ先はぐんぐんと加速していき、黒き竜の首へ!
その瞬間、ニルスの頭にふとある言葉が過った。
「やはり……まだ……動けたのか……」
(あれ……こいつ……やはりって言ったよな……やはりってことはホヤウカムイがまだ動けるってわかっていたってことだよな……?なら、何で毒の弾丸を避けなかったんだ……?こいつの実力なら十分可能だろうに……なのに……そうしなかったってことは……こいつ!?)
「ガリュウ……お前を信じて良かった……お前に賭けたおかげで、俺はこいつに勝てる!!」
ザシュウ!
「がっ!?」
鮮やかな真紅の血が吹き出す!……ニルスの身体から。ネームレスガリュウのカウンターがきれいに決まったのだ!
毒と重力で身動き取れなくなっていると思っていたニルスには防御の術はなかった……というか、それは大きな勘違い、そもそもネームレスガリュウには毒は効いていないのだから。
「何で……動けんだよ……!?」
「博打を打つと言っただろ?俺は賭けたのさ……ガリュウならきっとフルリペアで傷を修復すると同時に、お前のピースプレイヤーの持つ毒に対しての抗体を作ってくれるはずだってな!」
「そんなことが!?」
「あったんだよ、これが……!」
ニルスが驚くのも、無理はない。ネームレス自身、今言ったように確証を持ってたわけでもないし、完全適合においては一日の長があるナナシですら知らなかったことなのだから。
ちなみにそのナナシはツドン島でエヴォリスト、コルンと戦ったが、彼の能力に対しても紅き竜は抗体を作り出しており、完全に克服している。もちろんナナシはそのことも知らないし、コルンと再戦することなどきっと今後一生ないのだが。
「くそが……!」
ブゥン!ブゥン!
軽薄で大雑把な性格のニルスだが、その戦いは緻密で正確無比……しかし、この窮地にはただがむしゃらに妖刀を振り回し、後退していくことしかできなかった。
追撃できるはずの黒き竜はそれを黙って見送った。ここまで苦しめられた強敵には、敬意を表して自分達の最強の必殺技で幕を引くべきだと思ったのだ……そう、自分達の!
「ネクロ!」
「おう!」
「てめえら……まだ何か……!?」
いつの間にか合流したシュテンが左拳を振りかぶると、そこにネームレスガリュウが足を乗せる……これは発射台、漆黒の弾丸を撃ち出す発射台だ!
「超絶鬼竜螺旋撃」
「でりゃあ!!!」
ブォン!!!
シュテンのパワーを加えたネームレスガリュウが両腕のブレードを突き出し、きりもみ回転をしながら、傭兵に突っ込んでいく!
(くっ!?このスピード、今の俺では避けられない!?……なら!)
「重力!全開だぁ!!!」
ズン……
出血で足下が覚束ないニルスは、回避を諦め、防御に徹することにした!残った心の力を注ぎ込み、前方に幾重にも重力のカーテンを展開する!しかし……。
「そんなもの!」
「俺達の必殺技の前には無駄だ!!!」
ギャリ!ギャリ!ギャリ!ギャリ!!!
「なっ!?」
ニルス決死の技も、黒い弾丸の勢いを止めることはできない!重力のカーテンを突き破り、ついに!
「終わりだ!ニルス・フィラス!!!」
「こんなところで!?」
ドゴオォォォォォォン!!!
広場に激しい衝突音が響き渡り、その発生源から煙が巻き上がった……。




