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No Name's Nexus  作者: 大道福丸
Nexus
15/324

プロトベアー 決着

………………………………………


 爆音が鳴り止み、白い煙が辺り一面に立ち込め、機械に積もっていた埃が衝撃で舞い上がったかと思うと雪のようにしんしんと降り注ぎ、そして静寂が訪れる……。

 この状況を作り出した張本人、プロトベアーの目は徐々に薄くなっていく白煙を静かに睨み付けたまま……。

「……これで終わり………」


ガンッ!!!


「……な訳ないよなッ!」

 深緑の重ピースプレイヤーが肩のシールドで突然の襲撃……いや、蹴撃を防ぐ!

 もちろん、そんなことする奴はここには一人しかいない!天下御免のバカ息子、真っ赤に燃える鋼の竜ナナシガリュウだ!

「いきなり!危ねぇじゃないですか!?」

 混乱、もしくは興奮して口調がおかしくなる。だが、お互いにそれを気にする余裕も暇もない。

「お返しだ!オラッ!!」


ガン!キンッ!


「この!」

「……こいつ……?」

 ナナシは召喚した愛銃ガリュウマグナムで装甲の薄い関節部分を狙ったが、プロトベアーが咄嗟に、ほんの少しだけ身体を動かして、自慢の重装甲で弾丸を弾いた。

「フンッ!!」

「使い方が違うだろうが!」

 鬱陶しい羽虫を振り払うように、右のライフルで横っ腹を殴る!……ことはできない、ガリュウが直ぐ様、後ろにジャンプしたからだ!銃の使い方に文句を言っているが、彼もマグナムでネームレスの斬撃を受け止めたりと、人のことを言える立場にはいない。

「まだまだ……!」

「それはこっちのセリフだ!」


ババババババババババババーッ!!!


「ちぃっ!?」

 回避することはできても、そこから再度攻撃に転ずることはできなかった。ナナシガリュウよりも速くプロトベアーが追撃してきたからだ。

 左手のマシンガンの連射し、隙間なく展開する弾幕に紅竜はたまらず、後退する……いや、後退させられた。

「くっ!?この野郎……!?」

 再び白煙が立ち上る中、最初の攻撃が終わる。両者ともダメージを与えることも、与えられることもなかったが終始主導権を握り、戦いを優勢に進めたのは誰の目から見てもプロトベアーの方。ゲームなら、このターンはランボの勝ちと言うべきであろう。

 本人もそんな実感があったのか、どこか満足そうに両手の銃をそっと下ろした。

「……お前……プロトベアーを知っているな?」

 余裕からか、はたまた単純に気になって仕方なかったからか、いきなり、だが、あくまで落ち着いたトーンでランボがナナシに問いかける。

「どうしてそう思うんだ、タフガイ?」

「突如始まった激しい攻防の中、的確に初めて見たマシンの装甲の薄い部分を狙うなんて不可能……こいつのことを熟知していないとできない芸当だ」

 だから目の前の男は……と。そして、その推測は当たっていた。

「……あぁ……今度生産される中級ピースプレイヤー『アームドベアー』の…先行生産実験機……だろ?バイトでちょっとな」

「……そうか……お前もそのテストを手伝っていたんだな……」

「おっしゃる通り」

 ナナシは花山重工で新型機のテストを手伝っている時期があった。その時、プロトベアーも使用することもあったのだ。テストとは性能を測るためのもの……ならばそれに携わっていた人間がプロトベアーの弱点を知っているのは当たり前のことなのだ。

「フッ、知っているからといって、ハンデがある……という訳にはならんぞ」

「だろうな……」

 不敵に笑いながら語る敵にナナシは同意した。弱点と同じくらいそれの強みも知っている……それこそ嫌なくらいに。

「様々なデータを取るために、プロトベアーは使用者に合わせてカスタマイズされている……今の戦いを見たところ……お前は火力や装甲よりも小回り……機動力を重視したセッティングにしていたんではないか?」

「………」

「図星のようだな」

 その沈黙がランボの推測が正解だということを証明していた。彼の言う通り、かつてのナナシは機動力に重点を置いたカスタマイズのプロトベアーを使っていたのだ。

「俺は自分があれやこれや分析するのは大好きだが、逆に自分を分析されるのは大嫌いなんだが……」

「それは悪かったな」

 ランボの何気ない言動は予想以上にナナシに不快感を与えていた。どこか自慢気なのが余計にムカつく。

 けれど、そんな感情などすぐに吹っ飛んでしまうことになる……物理的に、プロトベアーの攻撃で。

「で、話は戻るが、機動力重視のプロトベアーなど邪道だ!敵を蹂躙する圧倒的攻撃力!そして、敵からの攻撃は全て弾き返す、驚異的防御力!それがこいつの真骨頂なのだからな!」

「それを体現しているのが、あんたのマシンだって言うのかよ……!」

「そうだ!理解できないというなら本当のプロトベアーの力!身を持って味わうといい!!!」

「!!?」


バゴオォォォォォォン!!!


 ランボのテンションが最高潮に達したと同時に第二ラウンドが始まった!全身に装備された銃口から絶え間無く火を吹き、暗闇の中で激しく光が点滅する!

「このッ!?」

 嵐のように降り注ぐ攻撃にナナシガリュウは防戦一方だ。ぴょんぴょんとステップを踏むように回避運動を行う。あの時のように……というにはあまりにも最近だが。

(……スタジアムでロボラット三体の一斉攻撃を受けたが……こいつのアタックは一体だけだっていうのに、あれより質も量も全然上だ!)

 同じような展開で、過去と言ってもほんの少し前、一日も経っていないのだが、その事がフラッシュバックする。そして、腹立たしいことにその記憶は全く参考にならない。

「……何か……この状況を打破する手立ては……?」

 このままじゃ埒が明かないので、状況を打破するために、忙しなく目を動かしガリュウの武装を確認する。そして一つの武装に目が止まる。

「――!?これなら……!!」

 ナナシは方向転換し、プロトベアーの方を向く。そして、そのまま勢い良く突っ込む!

「なんのつもりだ!小細工はオレとオレのマシンには通用せんぞ!!」

 ランボが高揚した声でそう宣言すると、火力をナナシガリュウに集中させる!

 紅き竜は今度は回避しない。何故ならそんな必要ないからだ!

「小細工かどうか!その目で確かめてみろ!エネルギーフィールド!展開!!」

 ガリュウの前方に光の盾が形成される!それは、ありとあらゆる攻撃を防ぐ……はずだった。


バリン!バリン!


「……えっ?」

 薄いガラス窓のように、または真冬の早朝に水溜まりにできた氷のようにいとも容易く光の盾はプロトベアーが発射した弾丸に破壊され、ナナシは間の抜けた声を出してしまう。


ドバッババババババーッ!!!


「――ッ!?うぉーい!?」

 なんとか盾を貫通してきた攻撃に反応して、回避をする!そして、その勢いのままに物陰に隠れた。

「なんだよ!?あれ!?全然、使えねぇじゃねぇか!?」

『……正直付けられるから、付けてみました……ってだけだからな……』

「うおっ!?」

 期待を見事に裏切った武装に文句を言っていたら、突然の通信が入り、またまた間抜けな声を上げてしまう。

「なんだ!通信できたのかよ!?」

『まぁな。今までのやり取りもずっと聞いていたんだけど……』

「だけど……?」

『なんか相手が正々堂々とした感じがしたから、アドバイスとかするのはズルいかなって……』

「なんだよ……そりゃ……」

 なんともしょうもない理由で気が抜ける。しかし、ナナシもその気持ちがわからないわけでもないから強く非難できない。というか、そもそも……。

「……つーか、アドバイス……なんかあるのかよ……?」

『……ない』

「やっぱり」

 いざ戦闘になったら、結局のところナナシは一人、本人だけでどうにかしなくてはならない。まさに孤高の戦士……なんてカッコいいものでもないし、実際、一人ぼっちで不安で不安で仕方ない。でも……それでもやらなければいけないのだ!

「あぁ!!どいつもこいつも!!」

 覚悟を決め……てはいない。半ば自棄になったナナシが痺れを切らして物陰から飛び出しただけだ!

「ガリュウバズーカ!ガリュウライフル!」

 火力には火力!と言わんばかりに、ガリュウの武装の中でもトップクラスの重火器を装備、そして……ぶっ放つ!

「これなら!どうだ!!」


バンッ!バンッ!ドォン!ドォン!!


 並大抵のピースプレイヤーなら防げない猛攻!ただ、悲しいかな今、目の前にいる相手は並大抵の奴じゃない。

「無駄だぁあッ!!」


ドゴォォォォォォォン!


 火力には火力!……でくるなら更なる超火力!アホみたいな理論だが効果は抜群だ!プロトベアーから放たれた光の雨は、ナナシガリュウの攻撃を相殺!……するだけじゃなく、紅竜の攻撃を貫き、その命に迫る!


ドゴォオォーーン!!!


 何度目かわからない閃光が廃工場を照らし、爆音が鳴り響く!煙が充満するのも相変わらずだ。

「くそッ!!?」

 なんとか攻撃を回避したナナシが立ち込める白い煙の中から飛び出て来る!そして、すぐさま次の手を打つ!

「だったら……ガリュウグローブ!」

 サイゾウ戦の勝利の決め手になった武装……そして、現時点でナナシガリュウの最大火力であるエネルギーボムを生成する!……つもりだったが。

「――!?させるかぁッ!!!」


ドォン!!!


「ちっ!」

 戦士の勘か、はたまた野生の本能か、危険を察知したランボによってボムのチャージを中断される。

 たまらず、ナナシガリュウは転がるように再び物陰に隠れた。

「くそッ!このままじゃ、じり貧だ!」

 苛立ちを隠せない。それでも、必死に足りない頭を動かして、対抗策を考える。

(こっちの攻撃は効かない……でも、あっちの攻撃も俺は避けられている……爆弾を造る時間はない……隠れている今なら!……いや、プロトベアーのセンサーなら感知できるはず………ん!?)

 ナナシは気が付いてしまった。この茶番に、そして自分自身のバカさ加減に……。

「こ、このぉッ!ふざけやがって!!!」

『ど、どうした!?急に!?よくわからんが、とりあえず落ち着け……!』

 突如として、大声を上げるナナシにケニーがスピーカー越しに宥めるように話しかける。この場にいない彼には正確な今の戦況も、ナナシの心境もわからない。唯一わかるのはこのままだとヤバいことになるってことだけだった。

 しかし、火が着いてしまったナナシは止まらない。

「やけにテンション上がってると思ってたが、奴は冷静だった!そして、俺は大バカだ!こんな、呑気に通信してても攻撃してこないはずだ!」

『だから!?なんだ!?何を言っている!?』

 追い詰められておかしくなってしまったんじゃないかと、そう思えるほどナナシは興奮していた。実際、彼はおかしくなりそうだった。自分の置かれている状況に、そして湧き上がる怒りに。

「前提が違うんだよ!俺は奴を倒さなきゃいけない……が!あいつは違う! ネクロが逃げるまでの“時間”!追い付いて戦いになった時に奴らが有利になるように俺の“体力”、ガリュウの“エネルギー”、それを少しでも削れればいい!」

『――!?確かに……』

 ケニーも理解した。自分達の置かれている状況は思っている以上に、最悪。絶望的と言っても過言ではないくらいひどいことに……。

「勝つ気なんてない……!なんだったら、負けてもいい……!戦いたくない、とかほざいていやがったが、あの野郎!本当に戦ってなかったんだよ!!」

 ナナシのボルテージが一言ごとに上がっていく……。

『ナナシ!?おい!大丈夫か!?』

 聞こえてはいるが、聞いていない……。

「……いいぜ……やってやる……!」

 ナナシが昂る!それに呼応するようにガリュウが静かに熱を帯びていく。

『ナナシ!?落ち着け!』

「いや!待ったは無しだ!いくぜ!!」

 ケニーを無視して紅き竜が猛然と飛び出した!



「……馬鹿が……!大人しく隠れていればいいものを……!!」

 対照的に、冷静なランボがノコノコと姿を晒したターゲットに淡々と照準を合わせる。

「ガリュウウィップ!!」

 そのお馬鹿なターゲットは自分に向けられている無数の銃口なんてお構い無しに鞭を取り出し、そして勢いよく振り上げる!

「そんなものでプロトベアーの装甲は……」

「狙いはお前じゃない!」

「なにッ!?」

 鞭はプロトベアーではなく、天井に向かっていき、そのまま明かりのついていない照明に巻き付いた。

「おりゃ!」

 そして鞭が縮み、竜は高く、速く飛翔する!くるりと回り、両脚が天井に着地すると力を溜め込み、黄色く光る眼が獲物を捉えると真下で自分を見上げている憎いあんちくしょうと視線が交差した。

 そして、それに向かって……溜めていた力を、闘志を、怒りををおもいっきり解き放った!

「オラァッ!!」

 天井を限界の……いや、限界以上の力で蹴り、凄まじい勢いで真っ赤な炎を纏う隕石のように猛スピードで墜ちていく!真っ直ぐ……ただ真っ直ぐ倒すべき敵に向かって!

「なんのつもりだか知らんが!向かって来るというなら撃ち落とすまでよ!!」

 プロトベアーがさっきまでと同じようにこちらに落下して来るナナシガリュウに銃口を向けて冷静に迎撃する!……が。

「エネルギーフィールド展開!」


バリン!


 先ほど簡単に破られてしまった光の盾は今回も一瞬しか持たなかった。だが、今回はそれで十分!

 刹那の一時、“ナナシガリュウ”という真っ赤な弾丸が届くまでもてばいいのだ!

「何!?止まらな……」

「でぇぇやあッ!!」


ドゴン!!!


「――カハッ!?」

 文字通り全身全霊の体当たりの衝撃がプロトベアーの深緑の重装甲を貫いて、ランボの身体に、脳に波及する。そして、そのまま彼の意識を刈り取った!


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