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No Name's Nexus  作者: 大道福丸
Nemesis
145/324

終戦

 礼拝堂には再び静寂が訪れていた。武装を解除したナナシは、同じくルシファーを脱いだコマチを抱き抱えていた。

「大丈夫か……?って、こうした本人が言うのもなんだが……」

 ナナシは自分が痛めつけた友人を複雑そうな表情で見つめる。戦いを終え、冷静になると、ほんの少しだが申し訳なさがこみ上げてきた。

「それを言うなら、ぼくだって……お腹刺しちゃったし……」

 コマチも同様で、喧嘩ハイから抜け出すとあそこまでやらなくても良かったのではと思えてくる。

「俺は……ほら、フルリペアでこの通り……」

 ナナシの腹部の傷は完全に塞がっていた。その他の部分の傷も治っているので、今の彼らを他者が見たら、きっとナナシが一方的にコマチをボコったと思うだろう。

 もちろんそんなことはなく、ナナシにとってもかなりのギリギリの戦いだった。

「本当、凄い力だね……」

「個人的には串刺しにされる前に、敵を倒せる能力の方が良かったけどな。痛いは痛いし」

「ははッ、確かにそうだね……痛いのは嫌だよね」

「あぁ……そもそも戦い自体、めんどくさい」

「君は降りかかる火の粉を払ってるだけだもんね……」

「降りかかり過ぎなんだよな、俺ばっかり」

 他愛もない会話を交わしていく内に、ただの友人に戻っていく二人……この時間が永遠に続けばいいのにと、お互いに思っているが、そんなことをしている場合でもないことも両者わかっている。

「不本意でも自分の大切なもののために、拳を握れる………そんな君だから任せられると思ったんだ……」

「任せる……?何をだ……?」

「この国……グノス帝国だよ……」

「なんだと……?」

 驚く友の腕の中で、コマチはゆっくりとこの戦いの真意を語り始める。

 優しい彼の本当の目的を……。

「ぼくは……ぼくをこの世界に産み落としてくれたグノスを守りたいんだ……」

「だから、俺を止めようと……」

「違う……ぼくが君と戦ったのは……半分はぼく自身が君と戦いたかったから……もう半分は、君にこの国の命運を託せるか見極めるため……」

「この国の命運……?」

「あぁ……このグノス帝国と神凪との戦争……やる前から結果は決まっている……勝つのは……」



「おいおい!?マジかよ!?」

「まだ……他にもいたのか……」

 獣ヶ原で神凪の兵士達が口々に絶望を吐き出した……。そうなってしまったのは、彼らが見上げている存在のせい……それは!


「グルァ……」

「グルァァァァァァッ!!!」


「おい、ネジレ……ダイエルス……だっけか……?まだ二体もいたのかよ……?」

 アツヒトももう二度と会いたくなかった巨大オリジンズとの早過ぎる再会に、呆気を取られながらも、いまだに立ち上がることもできない仇敵ネジレに言葉を投げかける。

 もちろんそんな質問に答える義理などネジレにはないが……。

「ふん……一体だけでも……イザナギと対等にやり合える……と思っているが……念には念を入れて……三体、用意していたんだ……」

「それが同族を殺られて仇討ちに……?」

「意外とロマンチストだな、アツヒト……あいつらにそんな知性はないよ……司令塔が……ガブが倒されて……暴走しているだけだ……」

 ぶっきらぼうだが、素直に自分の知っている情報を答えるネジレ。本来の彼なら、この状況ではそんな真似はしないはずだが、今の彼は平常心を失っている……。

 因縁の二匹の竜によって……。

(今さらダイエルスなど……どうでもいい……なんとかして本国に、ラエン皇帝の下に戻らなくては……!傭兵やコマチはいまいち……まったく信用できない……!あのお方がナナシやネームレスごときに負けることなどあり得ないが……もしも、あのお方の高貴なる手が奴らの血で汚されることになったら……そんなこと俺には我慢ならない!!!)

 ネジレの心は最早、この獣ヶ原にはなく、彼が忠誠を誓ったグノス帝国と、ラエン皇帝陛下のことでいっぱいいっぱいだった。

 いっぱいいっぱいなのはアツヒト達も同じだが……。

「ケイ……もう一度、ポチえもんがあいつらを倒してくれるってことは……?」

 一縷の望みをかけて、ケイにポチえもんこと聖獣皇について問いかけるが、ケイは声が耳に届くと同時に首を横に振った。

「残念だけど……それはないかな……」

「どうしてだ……?」

「彼はナナシに負けず劣らずの気まぐれで、めんどくさがりだからね……ナナシの場合は自分の大切なもののためなら、嫌々でも力を貸してくれるけど、ポチえもんは……人間なんて、うまい飯を作ってくれる家畜ぐらいにしか思ってないから……」

「ここにいる奴らが、いくら死んでもなんとも思わないってことか……」

「そういうことだね……」

 頼みの綱も失い、項垂れるアツヒトとケイ……しかし、落ち込むことさえ今の彼らには許されない。

「アツヒト、ケイ、デカブツもいいが……青肌が……」


「ガァァ……」


 アイムに促され、周りを見渡すと大量のネオヒューマンの失敗作、青肌達に囲まれていた。

「今、俺達の中でまともに戦えるのはアイムちゃんだけなのですが……」

「こんな数、一人でなんて無理に決まってるだろ!あと、ちゃん付け止めろ!気色悪い!!」

 どっかのバカ息子じゃないのだから、ネジレとの戦いの傷がこんな短期間で癒えるはずもなく、アツヒト達はまともに動くこともできない。

「ハハハハハッ!残念だったな!神凪の戦士達よ!ネジレ様を倒して、いい気になっていたようだが、結局は我らグノスには勝てないのだよ!!」

 空気の読めない連絡係が青肌達の威を借りて、高らかに勝利宣言をする。空気もだが、何より自分の置かれている状況が理解できていない……。

「楽しそうなところ、悪いんけど、お宅はそいつらのこと友達だと思っているみたいだけど、そいつらはお宅のこと……友達だと思っているのかな?」

「何を言っている……?」

「いや、だから、指揮官を失った今のそいつらは神凪の人間と、グノスの人間の区別ってつくもんなのかね?」

「へっ?」


「ガアァァァ!!!」


「ひっ!?」

 青肌が味方であるはずの連絡係を威嚇し、彼は無様にも腰を抜かす!

 アツヒトの言う通り、頭脳を失った彼らは目の前の者に反射的に襲いかかるだけの害獣でしかないのだ。

 連絡係は地面に這いつくばりながら、今さっき小バカにしたアツヒト達の下へ……。

「あの……」

「なんだ……?」

「こんなことを言う資格がないことは重々、承知しているのですが……」

「だから、なんだよ?」

「助けてもらえませんかね?」

「はぁ………」

 アツヒトは大きなため息をついた……。連絡係の変わり身の早さはもちろんのこと、この期に及んで現状がわかってないことに呆れたのだ。

「あのなぁ……助けて欲しいのはこっちも一緒だよ………」



「なら、助けてやろうじゃないか……愛する神凪国民の頼みなら聞かないわけにはいかないからな!!」


ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!


「ガア……」

「えっ!?」

 アツヒト達の目の前で多くの青肌が、突如、空から降ってきた赤い光の奔流に包まれ、跡形もなく消えていった。

 そして、彼らの前に今の出来事を起こした張本人が姿を現す。

「“紅炎の弾丸(プロミネンス・バレット)”……久しぶりだったが、ちゃんと出来たな……!」

 空から降りてきた赤い背中には見覚えがあった。彼らの形だけのリーダーの愛機によく似ている……いや、ガリュウが眼前にあるそれに似ているのだ!

 そう、神凪国民なら一度は見たことのある国民的ピースプレイヤー!その名は!

「ジリュウ……ムツミ大統領ですか……?」

「おう!大丈夫だったか!」

「おう!じゃないですよ!大統領がノコノコと前線なんかに来るんじゃないよ!」

「ええ……」

 かっこよく登場して、できる大統領アピールをしたかったムツミだったが、彼に返ってきたのは、お礼ではなく、お叱りの言葉だった……正論なのがタチが悪い。

「あなたは大統領なんだから、本国でふんぞり返っていればいいんですよ!」

「いや……そういうのは性に合わないし……」

「だったら、大統領なんて辞めちまえ!」

「うっ!?」

「さすがナナシの父親……いや、ナナシでもこんなバカはやらないか……」

「おれでもやらないぞ」

「これが人間のトップとは……愚か過ぎて、思考回路がショートしそうだ」

 国民に面と向かってバカ呼ばわりされる現職大統領……とは言え、さすがにただの無鉄砲でここに来たわけではない。

「一応……言っておくと、私は安全が確保できたから、ここに来たんだぞ……」

「ここが……戦争の最前線が安全……?」


「もう戦争じゃないよ。オレ達が来たからにはここは狩猟場だ」


「何?」

 突然の声のした方向に皆一斉に振り向くと、そこにはヘイラットによく似ているが、細部が異なるピースプレイヤーが立っていた。

 こちらも神凪国民なら誰でも……というわけではないが、ちょっと兵器に明るい人なら知っている。

「AOFに配備されているオリジンズ狩猟用のピースプレイヤー、『ハンラット』……っていうか、その声、『ハジメ』だろ?久しぶりだね」

「ケイか。先に出たっていうから、なんか秘策でもあるのかと思ったけど……めっちゃやられてんじゃん」

「うるさいよ……僕の本業は情報収集。戦闘は専門外だよ」

 旧友との再会にはしゃぐケイ……だが、アツヒト達にとってはそんな同窓会はどうでもいい!それよりも……。

「なぁ、ケイ……」

「あぁ、アツヒト。紹介するよ、彼はハジメ、僕やナナシとは士官学校で……」

「いや!そうじゃなくて!」

「ん?そうじゃなくて……?」

「今、AOFって……」

 アツヒトが引っ掛かったのは対オリジンズ専門の部隊であるAOFが、本来関わってはいけないはずの人間同士の戦争の場に現れたこと……なんとなく察しはつくが。

「AOFが来たってことはそういうことでしょ。ねぇ、ハジメ?」

「おう。この青肌は人間ではなくオリジンズだと判断された。オリジンズ災害に対処するのはオレ達AOFの役目だ。ほら、見ろ」

 ハジメが指を上に向けると、その先には巨大な建造物が空を飛んでいた。

 かつて、ネクロ事変の最終決戦の場所になったハザマ前大統領の置き土産、あのアーティファクトだ!

「オノゴロ!?飛べるようになったのか……!?」

「あぁ、私達はあれに乗ってやって来た。ほれ、降りて来るぞ」

 大統領の言葉にタイミングを合わせたように、オノゴロから大量のハンラットと、これまたどこかで見たことのあるピースプレイヤーが獣ヶ原に降下してきた。

「あれはプロトベアー……の制式量産型の『アームドベアー』か……?」

「そうだ。花山重工に無理を言って、一足早くロールアウトしてもらった。ランボ君のおかげで、開発が予定よりも進んでいたのも大きかったな」

「そうなんですか……で、そのランボもどこかで戦っているはずなんですけど……」

 大量の援軍の姿を見て、アツヒトにも余裕ができたのか、今の今まで考える暇もなかった別れた仲間のことが、ふと心に思い浮かんだ。

 当然、彼よりもずっと余裕と時間があったムツミが何も考えていないはずがなく……。

「あぁ、あっちにも援軍が……私なんかよりも強烈なやつがね」



「凄い……」

 ユウが感嘆の声を上げる……彼の視界の中では一人の体格のいい老人が青肌達を圧倒していた。

「ほいっと」


ボオォォォォォォォッ!!!


 老人がきれいな石を嵌めた指輪をつけた右手を軽く振ると、地獄の業火を彷彿とさせる炎がたちまち青肌達を焼き尽くした。

「もう一丁」


バリバリバリバリバリバリバリッ!!!


 同じく指輪を装着した左手を振ると、今度は轟音と共に雷が敵を消し飛ばす。

「ふぅ……こんなもんかな」

 ネクサスのメンバーでも手こずった青肌を軽く一捻り……老人にとっては部屋の掃除を終えたような感覚だった。

 そんなとんでも老人のことをユウはよく知っていた。彼の運命を大きく変えた男によく聞かされていたから……。

 その老人は、その男と彼の祖国の現職大統領にとても似ていた。

「あの……?」

「なんだ、少年?」

「あなたがナナシさんの……」

「ん?孫の知り合いか?そうだ、俺が『イツキ・タイラン』……芸術をこよなく愛する神凪最強のストーンソーサラーさ」

 老人は鼻息荒く、胸を張る。その姿はまさに変なところで自信家でナルシストなナナシに瓜二つだった。

「ナナシさんの話じゃ、旅にばっかり出ていて、ほとんど神凪にはいないって……」

「そう!いつもは『イツキ・タイランのスーパーグレイトフルドラゴン美術館』に展示するにふさわしい至高のアートを探して世界中を飛び回っているんだが……珍しく家に戻ったら、バカ息子に、今大変だからちょっと手伝え!って、無理やりこんな辺鄙な場所に連れてこられて……やってられないぜ」

 イツキは嫌々やってますということを強調するように顔をしかめる。

 個人主義者の多いタイランの一族の中でも、イツキは特にその傾向が強い男であった。

「で、でも、本当に助かりました……」

「まぁ、そのために来たんだからな……不本意だったとしても、やると決めたら、きっちりやるのが俺の美学だ」

「はぁ……だとしたら、その美学に感謝ですね……」

「少年、流儀とか美学は大事だぞ。それがない奴には魅力もなければ、何かを成し遂げることもできない。俺のように美学をたくさん持て!」

「たくさん……他にもあるんですか……?」

 不機嫌そうだったイツキの顔にみるみる笑顔が甦って来る。ジジイらしく若者に講釈を垂れるのが大好きなのだ。

「俺がピースプレイヤーを使わないで、ストーンソーサラーになったのはそれこそ俺の美学に反するからだ」

「ちょっと僕には高尚すぎるのか、言っている意味が……どういうことですか……?」

「あれだと分厚い装甲で、俺のどんな絵画よりも美しいイケメンフェイスも、彫刻のように均整の取れたボディーも隠れちまうだろ」

「ええ……」



「まさか、あのイツキ・タイランまで引っ張り出して来るとは……」

「たまたまだけどね。でも、ぼくや部下の手間が減って良かったよ」

 少年に自身の美学を楽しそうに語る老人を、少し離れたところからカツミともう一人、小太りの男が眺めていた。

 そこにランボが近づいてくる。

「あの……」

「なんだい、ランボ君?」

「オレの名前を……光栄です。AOFの一つ、“牙”の隊長である『テッド』殿に知っていただけてるとは……」

「君……というか、君達は有名だからね」

 テッドは凶暴なオリジンズと戦うための部隊のトップとは思えないほど、柔和で、穏やかで、とてもじゃないが強そうには見えなかった。

 もちろんそんなことはない。人を見た目で判断してはいけないという教訓の代表例のような奴なのだ。

「あっ、ちょっとランボ君、少しズレてくれない……?」

「えっ……あっ、はい」

 指示通り、ランボが横にズレると、テッドが腕を振りかぶり……。

「えいや」


ゴン!!!


「ガア!?」

 ランボの背後に迫っていた青肌を、テッドがぶん殴る!……巨大化した拳で。

「え、エヴォリストだとは……巨大化できるとは聞いていましたけど……本当に大きくなれるんですね……」

 自分の隣に唐突に現れた巨大な腕を眺めながら、ランボが呟く。存在は知っていても、現実に目にすると驚きを隠せないものだ。

 テッドはそんな彼を尻目に、いつもやっているように腕を元に戻した。

「個人的にはあまり好きじゃないんだけどね。全力で戦える場所が限られるからさ」

「全力って言うと……?」

「あれ?もしかして、あのデカブツをぼくが倒してくれるって期待してる………?」

「……はい」

 ランボがテッドの下にやって来たのは、それ以外の何事でもなかった。

 青肌達への対処は、援軍おかげで目処が立ったが、肝心のデカブツには……けれど、彼の願いはあっさり打ち砕かれる。

「無理だよ、無理。ぼくが大きくなれるのって20メートルぐらいだもん。あいつ、その倍ぐらいあるじゃん」

「なっ………」

「ん?そんなもんだったか……?あいつと同じくらいになれると思ったから、あのデカブツに返り討ちに合う前提で、こいつら突っ込ませて、エヴォリストにする作戦を立てたんだけど……」

「相変わらず……ぶっ飛んでるね、カツミ……」

「いや!お二人とも、そんなことより!」

 テッドとカツミは楽しげに会話をしているが、ランボからしたら正気の沙汰ではない。青肌達をいくら倒したところで、二体のダイエルスをどうにかしなければこの戦争は終わらない。

 だが、そんなことはテッドもカツミも承知の上……彼らが談笑していたのは、この戦争がすでに終わったと確信しているからだ。

「安心したまえ、ランボ君。ノープロブレムってやつだ」

「問題は今もあそこでふんぞり返ってますよ!!」

「だから、大丈夫だって……ほら、噂をすれば何とやらだ」

「何を………えっ?あれって……」

 再び獣ヶ原に降下してくるピースプレイヤーの集団……けれど、それは今までの者達よりもきらびやかな外見をしていた。

 その者達にランボは見覚えが……いや、これまた神凪国民なら誰でも知っているであろう。しかし、直に見た者はほとんどいない……彼らが出てくるというのは、それぐらいの緊急事態なのだから。

「ご存知、帝の近衛兵団のピースプレイヤー、『煌亀(こうき)』だ!」

「初めて……見ましたよ、オレ……」

「それは残念。あれが出てくるってことは、神凪にとって良くない状況ってことだから、一生見ない方が良かったんだけどね」

「確かに……というか、煌亀が来たってことは、まさか……」

「そのまさかだよ、満を持してご到着だ」

 獣ヶ原に大きな影がかかる……ダイエルスが来た時と同じように。

 しかし、ダイエルスと違ってそれは人の形をしていた。そして……。


ドスウゥゥゥゥン!!!


 獣ヶ原全体が大きく揺れた!影の主が地上に降り立ったのだ!

 ダイエルスと同じく50メートルほどの大きさを誇る人型兵器が!

「あれが……」

「そう、あれが帝が操る最強最大のアーティファクト、神凪の最終兵器『イザナギ』だ!……正確にはイザナギを操れるお方が、帝と呼ばれるんだけどね」



「おい!あれって!」

「イザナギだ!イザナギが来てくれたんだ!!」

' ランボだけでなく、獣ヶ原中の神凪兵士がざわめく。彼らにとってイザナギはまさしく守護神であり、最後の希望なのだ。

 つまり、イザナギが敗北することは神凪の敗北を意味するということ……。



「テッドさん……あの二体のデカブツ相手にイザナギは………」

「ここまで来たら、ぼく達にできるのは後は信じることだけさ。イザナギが勝つことを信じて、その後のことを考えていればいい」

「その後のこと……?」

「あのデカブツを美味しく食べる方法と、あれを素材にどんなピースプレイヤーを作るかだよ」



「グルァ……」

 ダイエルスは突然現れた自分と目線が同じ存在に一瞬、戸惑った気がした……そう、気がしただけ。

「グルアァァァァァァァッ!!!」

 グノスによって恐怖心すら破壊された哀れな巨獣は目の前の巨神に襲いかか……。

「デヤァ!!!」


ドスウゥゥゥゥン!!!


「グルアァ!?」

 イザナギはこちらにやってくるダイエルスの勢いを利用して、その巨体を投げ飛ばす!しかも、わざわざ青肌の群れに向かってだ!青肌達は逃げるどころか、何が起こったのかわからないまま一応の仲間であるダイエルスの下敷きになって絶命……獣ヶ原のシミとなった。

 そして、この事態を引き起こしたイザナギは倒れるダイエルスの頭部に……。

「グル……」

「デヤァ!!!」


グシャア!!!


 拳を振り下ろし、文字通り叩き潰す!

 周囲ににわか雨のようにダイエルスの血液が降り注ぐ。

「グルアァァァァァァァッ!!!」

 同胞を殺られたからというわけではないだろうが、もう一体のダイエルスが悲鳴にも似た声を上げながら、イザナギを後ろから羽交い締めにする!しかし……。

「デヤァ!!!」

 イザナギは力任せに拘束をほどき……。

「デエィヤァ!!!」


ドゴォォォォォン!!


「――グルァ!?」

 そのまま振り返り、パンチをお見舞い!ダイエルスはドタドタと無様に後退した……と思っていたら。

「グルアァァァァァァァッ!!!」


ボオォォォォォォォン!!!


 ダイエルスがその大き過ぎる口から、炎を吐いた!

 炎はイザナギの巨体を包み込む……それだけだ。

「デヤァ!」

 イザナギがその巨体を動かすと炎はたちまち消え、傷一つついていないボディーが現れる。

 街一つ焼き尽くすほどの業火でも、イザナギにとってはサウナにもならないのだ。

「デヤァ……」

 けれど、攻撃されたことに対しては、思うところがあったのか、口元にエネルギーを集中させていく。そして……。

「デエィヤァ!!!」


ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!


「グ……」

 意趣返しと言わんばかりに、イザナギの口から放たれた光は、先ほどと同じようにダイエルスの頭部を消し飛ばした……。

 到着から三分も経たない内に、イザナギは、それを操る帝は自身の役目を見事に果たしたのだった。



「やった……やったぞ!イザナギが勝ったんだ!」

「「ウオォォォォォォッ!!!」」

 獣ヶ原が神凪の兵士達の歓喜の声で揺れた。最大の障害だったダイエルスを排除した今、彼らの勢いを止めることは誰にもできない。


「熱くなってきたな!ヴノ!」

「ええ……柄にもなく、燃えてきましたよ……!」


「義兄弟!」

「ええ、この流れに乗って押し切りましょう!」

 士気はもちろん、援軍と今までの奮戦おかげで、いつの間にか数の面でも神凪はグノスを上回っていた。

 そして、知能も実力も足りない青肌達がこの状況を逆転することは決してないだろう。



「ネジレ、お前、さっきあのデカブツなら一体でもイザナギとやり合えるって言ってたけど………あの分じゃ、十体いても傷一つつけられないぞ。見立てが甘かったってレベルじゃないよ」

「ぐっ………」

 アツヒトの嫌味に、ネジレは下唇を血が出るほど強く噛んだ……彼自身、目の前で起きた光景に、そうだとしか思えなかったから。

 そして、切り札を失ったことによって万策も尽きた……。今の彼には悔しがることしかできないのだ……彼がその命を全て懸けてきた戦争に負けてしまったことを。


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