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No Name's Nexus  作者: 大道福丸
Nemesis
143/324

仲間

「マジかよ!?ネームレスも来てんのか!?」

 ネームレスと同じようにギリュウ軍団から、現在の状況を教えられたナナシはこれまたネームレスと同じように驚きの声を上げた。

「……その様子だと、本当に知らなかったみたいだな……」

「知らない!知らない!知ってたら、あいつに全部任せて、俺はここには来なかったかもな」

「では、知っていたら、どこへ行っていたんだ?」

「そりゃ獣ヶ原だよ。ネクサスの仲間がいるはずだからな。一応、リーダーってことになってるし、俺。本来ならそれが筋ってもんだが、今さら一人加勢に行くよりも、グノス本国に乗り込んで、皇帝と話した方が手っ取り早いかなって……」

「それで、この敵の本拠地であるヤルダ宮殿に一人でやって来たというわけか……イカれてるな」

「俺もそう思ったから、ギリギリまで迷ってたんだよ……本当、ネームレスが来てるなら、こんな所に来なかったのに……」

 紅竜は肩をガクッと落とす。そもそもめんどくさがりな彼からしたら、本来は戦争どうこうなんて一番避けて通りたいことなのだ。

 一方で、ああだこうだ言いながらも仲間や故郷のピンチには黙って見過ごせないのも、間違いなくナナシ・タイランという男の本質の一つなのだ。

「まぁ……ここまで来たら前向きに。あいつがいることで俺のミッション達成が楽になったと考えよう。いや……あいつ、クールに見えてアレだからな……先に皇帝陛下に会わせるのはヤバいか……?だとしたら、早くしねぇと……!」

 ナナシは気持ちを切り替えて、意識を眼前の自分の愛機の偽物達に集中する。なんにせよ、彼らをどうにかしないと始まらない。

「一応、言っとくけど、俺の目的は皇帝陛下に会うこと……あんた達と戦いたいわけじゃない。このまま通してくれないか?皇帝のところまで案内してくれてもいいけど?」

「残念だけど……それは出来ない相談だ!」

 胸にⅣの数字が刻まれたギリュウが弓を召喚し、そのまま流れるような動きで光の矢を紅き侵入者に放つ!


ビュッ!


「いきなりかよ」

 そうはいいながらも、攻撃が来ることを予見していたナナシガリュウは最小限の動きで矢を躱し、反撃を……。

「今度はこっちから………」

「『ケヴィン』さん!」

「おう!」

 Ⅳ番のギリュウの言葉を合図に、彼の背後からⅩ番のギリュウが飛び出し、紅き竜の頭に長刀を振り下ろす!


ザン!


「この!?」

 出鼻を挫かれたナナシだったが、この攻撃も回避に成功する。そして、今度こそ……。

「お前らな……」

「わしばっかりに気を取られてて、いいのか、オリジナル?」

「あ?」

「どっせい!!!」

 ナナシガリュウの背中にⅥ番のギリュウが迫り来る!巨大な鉞をフルスイングし、紅き竜を腰から真っ二つにしようと……。


ブゥン!!!


「ちゃんと見えてるつーの」

 ナナシはひらりと宙返りをしながら、鉞を躱し、着地すると同時にⅥ番に突っ込んで行く!

「オラァ!!」

「『トマス』!」

「任せてください!『ゴルカ』さん!」


ガァン!!!


「ちっ!?」

「さすがオリジナル……すごいパワーですね」

 ナナシの拳は割って入って来たⅧ番のギリュウの大盾に阻まれた!

「邪魔をすんなよ……」

「するさ。ゴルカさんは僕達の大切な仲間だから……ねぇ、『シルル』さん!」

「あぁ、その通りだ」


ビュッ!ビュッ!ビュッ!!!


「ちいっ!?鬱陶しい!」

 いつの間にかナナシの頭上を取っていたⅣ番のギリュウが立て続けに光の矢を放つ!ナナシはたまらず、後退すると……。

「でやぁ!!!」


ザン!!!


「危な!?」

 待ち構えていたⅩ番の長刀が再度振るわれた!しかし、紅き竜の首を切り裂こうとした刃は、ナナシが咄嗟に身体を反らしたことによって虚空を通過しただけだった……。だが、それも折り込み済み。

「今度は当てる!」

 地面と平行になった紅竜の首に再度Ⅵ番の鉞が振り下ろされる!

「この!?ガリュウロッド!!」


ガァン!


「ぐはっ!?」

 ナナシガリュウはロッドを召喚し、Ⅵ番の本体を突いて、吹き飛ばすことで、難を逃れた!

 そして体勢を立て直し、再び、Ⅵ番のギリュウを倒そうと飛びかかった!

「もう一丁!!」

「だから!させないって!!!」


ガァン!!!


「また、てめえか!?」

 ロッドでの攻撃はまたⅧ番の大盾に防がれてしまう!さらに……。

「三度目の正直だ!」

 大盾の影から、またまたⅣ番のギリュウが飛び出し、今度は側面からナナシを弓で狙……。

「何度やっても同じなんだよ!」


バリッ!バリッ!バリッ!バリィィィ!!


「ぐぅ!?」

「なんだよ、これ!?」

 ナナシガリュウの頭に付いた二本の角からけたたましい音と共に、稲妻が放たれた!

 攻撃に集中していたⅣ番はもちろん、Ⅷ番の大盾も意味をなさず、偽物達を痺れさせる!

「……たまらないな……トマス!」

「はい!一旦、下がります!」

 予想外の反撃を受けたギリュウ達だったが、そこで取り乱すこともなく、冷静に後退していく。

 ナナシもそれを追うようなことはしなかった。彼としても、落ち着きを取り戻す時間が欲しかったのだ。

(パチもんのくそ海賊版だと思ってたけど、やるじゃないか……いや、あのギリュウとかいうピースプレイヤー自体はガリュウと比べれば大したことない。問題はあの連携か……)

 実際、スピードではナナシガリュウが圧倒しており、ギリュウ軍団四体がかりの猛攻も結局は一撃も与えることはできていない。

 しかし、一方でスペックが上のナナシガリュウからの反撃もギリュウ軍団は最後の稲妻以外は防いでいる……チームワークで。

(これまでのことを考えると、あのギリュウ達はそれぞれ固定した武器を一つ持っているだけ。ガリュウの最大の長所である多彩な武装は持っていない……その分、自分の武器の特性を生かす術を知っているし、そうなるように他のメンバーも動いている)

 ナナシガリュウは本物の証明である黄色い二つの眼で目の前に集まるギリュウ軍団を一人一人、眺めていく。

(多分、ネームレスのことを教えてくれたⅣ番があのチームのリーダーだ。あいつがまず弓でターゲットの体勢を崩し、そこにⅩ番が長刀で仕留めにかかる……と見せかけて、Ⅹ番も崩し。本命はⅥ番の鉞。全てはチーム最大の破壊力を持っているⅥ番のお膳立て……まともに食らったら、ランボのプロトベアーでも一溜まりもないであろう一撃を当てるためのな。だが、その分外れた時の隙は大きい……けど、それをⅧ番が盾でカバーすることで補っている。そして、盾にてこずってるターゲットに、もう一度Ⅳ番が弓で攻撃して体勢を……敵を葬るまで、そうやって延々とチームで攻撃をループさせながら、ターゲットを追い詰める……素晴らしいな。って、言ってる場合じゃないよな……はてさて、どうするか……?)

 ネームレスの相手をしていた奇数チームとは真逆のあまりの美しい連携プレーにナナシはついつい感心してしまう。けれども、彼はその連携をなんとかして破らなければいけないのだ。

 そんな方法は……あるにはある。

(あいつらを倒す方法……一番手っ取り早いのは俺が本気を出すこと。完全適合でスペック差をさらにつければ、偽物なんて今のナナシガリュウは圧倒できる。最悪、フルリペアを使う前提で、ダメージ覚悟のカウンター繰り出し一人でも潰せれば、連携も崩せるし……)

 ピースプレイヤー、ギリュウも、その装着者も決して弱いわけではない。しかし、ネクロ事変以降、激闘をくぐり抜け、成長し、装着というより融合、一体化の域まで達した本気のナナシガリュウの相手ではない。

 けれど、ある理由から彼はそれを、全開で戦うことを躊躇していた……。

(でも、この後のことを考えると、できる限り体力も精神力も温存したい……こんな偽物どもよりも強い奴が控えてるかもしれないしな……いや、だけど、やっぱり完全適合して一気に片付けた方が、消耗を少なくできるか……?うーん、どうすっかな……)

 ネクロ事変の時の彼ならこんな風には考えなかっただろう。あの時は経験もなく、しかも自分より格上の相手ばかりで、後のことなんか考えず、目の前の敵にがむしゃらに挑むしかなかった。

 しかし、今の彼には余裕ができ、今後の展開を考えられるようになった。経験を積んだことが、成長したことが、選択肢を生み、逆に判断を鈍らせてしまっている。

 なまじ、ギリュウ達の絶妙な実力もそれに拍車をかけていた。というよりギリュウ達もある思惑から本気ではやっていなかった。


「強いな……予想以上だ」

「ええ……まさかここまでとは……」

「しかも、まだまだ本気を出してないっぽいしな……」

「ヤバいですね……」

 ギリュウ達もギリュウ達でナナシガリュウの力に感心していた。しかし、ナナシと違うのは、彼らに迷いはないということ……。

「シルル、作戦に変更は……」

「ないです、ケヴィンさん。当初の予定通り、ターゲットの体力と、精神力と、時間を少しでも多く削ることを最優先とします」

「情けないこと言ってんじゃねぇ!……と、言いたいところだけど、わしらではアレは倒せないな」

「ええ、グノスにとって一番まずいのは、あいつが万全の状態で、ネームレスとかいう奴に合流すること……」

「それだけを防げれば十分だ」

 ギリュウ達はナナシガリュウを倒すつもりで戦っていなかった。彼らは偽物らしく……というわけではないが、オリジナルには勝てないと踏んで、ナナシを消耗させることと、ネームレスと合流させないことだけに集中していたのだった。そのともすれば手を抜いた戦闘をした結果、ナナシに余裕が生まれ、余計な考えに頭を悩ませることになったのだ。

 もし、彼らが本気で倒しに来ていたら、ナナシも本気を出さずにはいられず、決着は早々についていたであろう……そちらの方がナナシにとって、良かったのは言うまでもない。

「せめて、フルリペアを一回ぐらい使わせてやろうぜ、シルル!!」

「はい!残機を減らせたなら、それは大手柄ですよ!!」

「棒と電撃の二発もらっちまったからな……倍返しの四発は食らわしてやんねぇと気が済まねぇ!!」

「ゴルカさんの攻撃だったら、四回も当たったら、倒せてますよ。そうなったらなったで、僕はいいですけどね!!」

 作戦を再確認したギリュウ軍団に一切の迷いはなく、真っ直ぐと八つの赤い眼で、ナナシガリュウを睨み付ける!

「くそっ!?来るのか、あいつら!?まだこっちは考え、まとまってねぇのに!?」

 一方のナナシは迷いまくり……優位に立っているとは思えないくらい動揺していた。

「行くぞ!みんな!!」

「「「おう!!!」」」

「ええい!どうすりゃいいのかわかんねぇけど、やってやんよ!」

 本気じゃない者同士の激突……これよりお互いにちびちびと体力等を削り合う膠着状態が続く……かに思われたが……。


ガン!ガン!ガン!ガァン!!!


「なっ!?」「ぐぅ!?」「うっ!?」「がはっ!?」


「えっ……?」

 突然、紅き竜の目の前で偽物達がバッタバッタと倒れていった。

 ナナシは何もしていない……何をしていいかもわかっていない状況だったのだから。

 混乱する彼の前に、この事態を引き起こした張本人が姿を現す。ネクロ事変以来の再会である。


「久しぶりだね、ナナシ……」


「ルシファー……コマチか……」

 紅き竜の目の前に現れたのは白と金色、そして片翼のピースプレイヤー、ルシファー。一緒にいたのは僅かな時間だったが、ナナシと確かな友情を結んだコマチの愛機である。

 このルシファーが諸事情があるとはいえ、ナナシガリュウが苦戦したギリュウ四体をほんの一瞬でいとも簡単に撃破したのであった。

「こんな所で会えるとは思わなかったぜ……」

「ここは……グノスはぼくの生まれ故郷なんだよ……」

「そうなのか……」

 ナナシは戸惑っていた……。コマチと会えたこと、彼がグノス出身だったこと、その彼が同郷のギリュウ達を倒したこと……そんなことではなく、いつも自分に対しては明るく、優しく話かけてくれたコマチが今は固い決意を秘めたような重々しい口調で語りかけていることに……。

「なんで、あいつらを倒した……?同郷の人間だろ……?」

「君と二人っきりになりたかったからだよ」

「……その感じだと、コーヒーとチョコバーを食べながら楽しくおしゃべりしましょ……ってことではなさそうだな……」

「あぁ……友人である君はぼくが、ルシファーが倒す!決闘だ、ナナシ!!」


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