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No Name's Nexus  作者: 大道福丸
Nemesis
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解放

「ランボさん!?」

 ユウが悲鳴にも似た声で仲間の名前を叫んだ。ランボの安否が心配なのはもちろんだが、自分がきっちりガブリエルに止めを刺していればという、後悔が彼の胸を締め付けているのだ。

 しかし、幸いにもその辛い思いからは、すぐに解放された。

「ぐあっ!?」

 身体の各部から煙を立ち上らせながら、アールベアーがユウの下へ、吹っ飛び、転がって来たのだ。

「ランボさん!?大丈夫ですか!?」

「ユウ……大丈夫……ではないな……そこら中が痛くて……仕方ない……まっ、死にはしないだろうがな……」

「……結構、余裕あるみたいですね……」

 アールベアーは各部が破損していて、最早、戦闘は続行できそうにはなかったが、ランボは満足げだった。

 この戦場に溢れている青肌と、この戦争を終わらせる力を持つデカブツをコントロールしていた化け物を倒すことができたのだから。その証拠に……。

「やりましたね、ランボくん」

「シゲミツさん!カルロさんも!」

「おう!」

 ヤーマッツとヤースキが足を引きずりながら、勝者の下に合流した。こうして彼らがここに来れるということは青肌との戦いも一段落したってことだ。

「あの青肌達は急に動きを止めまして……」

「他のところも同じみたいだ。司令塔がいなくなって、何をしていいのかわからなくなっちゃったんだな」

「そうですか……じゃあ……」


「……残念……まだ……終わらない……よ……」


「――ッ!?まだ生きている………のか……!?」

 もう聞くことはないと思っていた声のする方を皆が一斉に向くと、そこにはピースプレイヤーが完全に破壊され、身体にぽっかりと穴が空いているガブが横たわっていた……。

 普通の人間だったら、すでに息絶えているはずの致命傷……いや、オリジンズのミックスであるネオヒューマンも、まもなく息を引き取ることになるだろう……。

 だが、そんな今際のガブはその最期の一瞬まで、ランボ達に嫌がらせすることにしたのだ。

「……安心……しろ……わたしは…もうすぐ……逝く……だが、最期に……君達が……大きな……勘違いをしている……ことを伝え……たくてね……」

「勘違い……だと……?」

 天を見上げているガブの顔が醜く歪む……。ランボ達の方に顔を向ける力も残っていないが、その声色で焦って、彼らが顔を強ばらせているのが、手に取るようにわかったからだ。

 そして、さらに強ばらせてやろうと最後の力を振り絞る。

「わたしが……死んでも……失敗作も……ダイエルスも……止まらない……むしろ、制御が……なくなって……今よりも……ひどい……状況に……」

「なんだと!?でも、今は……」

「まだ……わたしが生きて……いるからな……一時的に……信号が弱まって混乱して……いるが……これが……完全に途絶えたら……もう……誰にも……止められない……ただの……破壊衝動の……塊……」

「そんな……僕達がこんなになるまで頑張ったのに……じゃあ、どうすれば!?」


ポン……


「……カツミさん……?」

「もういい……あいつは……最期ぐらい静かに逝かせてやろう……」

 絶望に心を塗り潰され、ガブに食ってかかろうとしたユウの小さな肩を、カツミが優しく叩き、首を横に振る……。

 ガブの様子から、もう悠長に話を聞いている時間はないとわかった……。それに何より自分達をここまで苦しめた強敵に最大限の敬意を持って、穏やかに逝かせてやりたいと思ったのだ。

 その想いはガブにも届いたようだ……。

「……こんな、わたしを……君達を苦しめたわたしを……見送ってくれるのか……カツミ……?」

「あぁ……お前の強さは尊敬すべきものだ……おれはお前を……ガブを忘れない……」

「……別に……そんなこと……しなくても……まぁ……敗者が……勝者に……指示する権利なんか……ないか……」

「だから、勝手にお前のことをおれの心に刻みつけてやる……」

「フッ……君は……やっぱり……面白い……な……でも……生まれ……変わっても……花屋には……なら………ない…………」

 戦うために生まれ、戦いに生きたネオヒューマンの最高傑作、ガブ……激闘の末に獣ヶ原で永遠の眠りにつく。



「……逝ったか……」

「これで、あいつの言った通りなら……」

「大丈夫だ、少年」

 ガブを見送り、どこか寂しげなカツミの顔をユウが不安そうに覗き込んだ。すると今度はカツミは少年の頭をそっと撫でた。

「さっき言ったろ?仲間を信じろ……神凪の兵を、あのデカブツと戦っているポチえもんとかいうオリジンズをな」



「グルァアアアアッ!!!」

 獣ヶ原どころか、グノスや神凪にまで届きそうな咆哮を傷だらけのダイエルスが上げた!

 ネクサスが激闘を繰り広げている裏で、この巨獣も同じく……いや、ポチえもん改め聖獣皇に一方的になぶられていた。

 鋭く巨大な爪を振り下ろすがあっさりと聖獣皇に避けられる。

(ふん……学習しないな……まぁ、考えることもできないように改造されているから仕方ないのかもしれんが。早くあいつらがあの不届き者を倒してくれないものか……)

 一方、相対する聖獣皇は傷一つなく、冷静に仲間……というか、利害が一致し、協力関係にある者達を気にかけるほど余裕があった。いや、ケイ達のことだけではない。

(できることなら、同胞をこれ以上、傷つけたくはない……かといって……)

「グルァアッ!!!」


ボォン!!!


(このまま……守りに徹しているのもしんどいしな……)

 ダイエルスが口から炎を吐いた!……が、これも聖獣皇に難なく回避された。時折、攻撃をするが、あくまで聖獣皇は防御に専念し、ダイエルスがガブリエルの支配から解放される時を待っていた……。

 残念ながら、そんな瞬間は永遠に来ないのだが……。

「グルァ……」

(ん?動きが止まった………?)

 ダイエルスは再び自慢の爪で攻撃しようと、腕を振りかぶった瞬間、突然動きを止めた。

(まさか………うむ、やっぱり……こやつを操っていた半端者の気配が消えている……やったようだな、あいつら……!)

 聖獣皇は神経を研ぎ澄まし、獣ヶ原全体の戦況を把握、そしてガブリエルの死亡を知り、胸を撫で下ろ……。

「グルァアアアアッ!!!」

「なっ!?」


ザンッ!!!


 止まっていた腕が振り下ろされ、聖獣皇の眼前を通過する!安堵し、油断していた聖獣皇だったが、既の所で攻撃に気付き、反応し、なんとか回避に成功した。

(おい!貴様!もう貴様を操る奴はこの世にはいない!貴様はもう自由なんだ!!)

 テレパシーでダイエルスに語りかける聖獣皇だったが……。

「グルァアアアアッ!?」


ボォン!!!


(こやつ!?もう心が………)

 巨獣は聞く耳を持たない……というより、それを理解する知能も完全に今、破壊されたのだ。

 彼の主人の命の灯火が消えた瞬間、ダイエルスはグノスの秘密兵器から、全生命に対する災厄へと変貌してしまった。

 炎を吐き、暴れ回る姿に聖獣皇も全てを察する……。

(そうか……もう貴様は死んでいるのだな……今、オレの目の前にいるのは動く屍なのだな……)

 哀れみの視線を向ける聖獣皇に、ただの災害と化したダイエルスが抉るように突きを繰り出した!

「グルァアアアアッ!」


トン……


 ダイエルスの突きは聖獣皇には当たらなかった……。自身に負けず劣らずの巨体が一瞬でどこかに消えてしまったのだ。

 そして、その代わりダイエルスの腕の上に2メートルほどの人影が現れる……。

「この姿は人間に似ていて、あまり好きじゃないんだがな……」

 人影の正体は聖獣皇、彼の数ある形態の内の一つだ。では、何故この姿になったかと言うと……。

「けど、この姿が一番力を集中できる……せめてもの情けだ……一瞬で、貴様を終わらせてやろう……!」

 聖獣皇はおもむろに左手を上に、右手を下にして、まるでさっきまでの獣の姿だった自分の大きな口を思わせる構えを取る。

 手と手の間にこちらを見下ろしているダイエルスの頭を入れ、そして……。

「断空掌」


パン!


 手をぶつけ合うと、破裂音と共に、ダイエルスの頭部が跡形もなく消えた……。まるで、空間ごとその部分だけ、削り取られたように……。

「このオレと戦ったことを、誇りに逝くがいい、悲しき同胞よ……」


ドスウゥゥゥゥン!!!


 聖獣皇が言葉を言い終えると、首から上がなくなったダイエルスは力を失い、ゆっくりと倒れた。

 そして、その衝撃は地震となって獣ヶ原全体に伝わっていく……。



「なんだ!?今の揺れ!?」

「また何か起きるのかよ!?こいつらが元気になったみたいに!」

 その地震は神凪の兵士達の身体だけではなく、精神まで揺さぶった。

 先ほどから一段、ギアを上げて暴れ回る青肌達のことだけでも恐怖と不安で押し潰されそうなのに、さらに新たな脅威が……と。

 しかし、それは取り越し苦労、むしろ今の揺れは彼らにとって福音なのだ。


「聞こえるか!!!神凪の兵士諸君よ!!!」


「――!?……この声は……」

「さっきの……巨大オリジンズか!!!」

 獣ヶ原に再度、響き渡る聖獣皇の声!先ほどそれは神凪の戦士達を奮い立たせるために、発せられたが、今回も……。


「諸君らの敵は我が打ち倒した!!!だから、諸君らは目の前の敵を倒すことにだけ集中しろ!!!それを為し得たら!!!諸君らの!神凪の勝利である!!!」


「聞いたか………?」

「あぁ……聞いた……あのデカブツはもういないんだ!この青肌どもを倒せば、この戦争は終わるんだ!!」


「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」


「やるぞ!やってやるぞ!」

「おう!俺達もあのオリジンズに負けてらんねぇ!!!」

 聖獣皇と呼ばれるだけあって、ポチえもんは人を鼓舞するのが得意のようだ。彼の言葉が神凪兵の心に希望の光が差し、身体中に力が甦っていった。



(サービスし過ぎたかな……まっ、いいか。オレが手を貸してやるのはここまで……人間どもが始めた戦争は、人間の手で決着をつけるべきだ)

 いつの間にかその名に相応しい可愛いぬいぐるみのような姿に戻ったポチえもんは、神凪兵の声を背にその場を後にした。


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