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No Name's Nexus  作者: 大道福丸
Nemesis
136/324

ガブリエル

 アツヒト達がネジレと因縁の対決を繰り広げている頃、ランボ達とガブの激闘も始まろうとしていた……。ただし、こちらには因縁どころか、面識すらないのだが。

「ネジレと離されたか……まぁ、いい……連携して戦うなんて今までなかったし、あいつなら大丈夫だろ……つまり、君達のしたことは無駄だってことだよ、ランボと親衛隊の皆さん」

 状況を確認しつつ、ガブは目の前で揃って自分を睨み付けてくるランボとハザマ親衛隊のメンバーに話しかけた。

「無駄かどうかは……」

「これからわかることでしょう」

「そういうことだ」

「だ」

 ランボ、シゲミツ、カルロ、カツミと各々構えを取り、ガブと間合いを計りながら、その金色のボディーを囲んでいく……アツヒト達がミカエル対策にやったように。

 彼らにとってガブリエルは今日、この日、ついさっき初めて見た存在……だから、かつてナナシが遭遇したミカエルの情報を元に対策を取ることしかできないのだ。

 けれど、それは無駄に終わったみたいだ。

「ん?もしかして、ネジレのミカエルみたいに、わたしのガブリエルも高速移動できるスピードタイプだと思っているのか?」

「……可能性の一つとしては考えていたが……やはり、違うのか?」

「やはり?」

「まったく同じなら、ミカエルがあのデカブツを操ることもできたはずだからな。でも、そんな素振りは見せてなかった、ネジレの奴は……」

 ランボはガブリエルがミカエルとは姿形こそ似ているが、まったくの別物である可能性も考えていた。そしてそれは当たっていたようだが、その考察が当たっていたところで肝心の能力を正確に把握できなければ何の意味もない。

「君の言う通りだよ。わたしのガブリエルはミカエルのような高速移動能力はない……その代わりに君達の見せたようにオリジンズを操る能力を持っている……では、他にはどんなことができるでしょうか?」

「……さっきのバリアのことか……?」

「そうだ……それもガブリエルの固有のものだ……で、他には……?」

「……まだ……何か、あるのか……?」

 やはり血の繋がった兄弟なのだろう……ガブもネジレと同じくこの状況で相手を挑発するようにクイズを出題して、ランボ達を揺さぶる。

 もちろん答えはわからない。ただ、戦士の本能が、生物が元々持っている危機察知能力が疼いて仕方ない。いろんな意味でこいつはヤバい奴だと……。

 そして、満を持してヤバい奴が動き出す!

「まぁ……まだわたしとガブリエルが手札を隠し持っているのか、それともいないのかは……言葉ではなく!その身で確かめてみるといいさ!!」

 ガブリエルは手に持った杖をアールベアー達に向ける!すると……。


ババババババババババババババッ!!!


 杖の先から無数の光の玉が放たれる!光は不規則な動きで、ランボと親衛隊に迫っていく!

「みんな!」

「ええ!」

「わかってる!」

「る!」

 突発的に組まれたチームだったが、一流の戦士同士、ランボと親衛隊の意識共有は熟練のそれと遜色ないレベルだった。

 一瞬で、自分の意図を汲んでくれた親衛隊に報いるために、アールベアーが光の玉に全身の銃口を向け、その全てを解放する!

「叩き落とせ!アールベアー!!!」


ドゴォ!ドゴォ!ドゴォォォォン!!!


 ぶつかり合う弾幕と弾幕!両者の間に分厚い煙のカーテンが出現した!

「目眩まし……か?となると、次は……」


「ウオラァ!!!」

「デヤァッ!!!」

「行け!ソルミ!二人を援護しろ!」

 ヤーマッツの操るソルミの弾丸に紛れて、エビシュリとヤースキが飛び蹴りでガブリエルを挟み撃ちにする!しかし……。


ガン!ガン!


「――っ!?」

「こいつ……!?」

 弾丸もキックも全てガブリエルを包む光の膜に阻まれてしまう。

「さっきので、勘違いさせてしまったかな……ガブリエルを包む『絶対防御気光』は人間ごときが破れるもんじゃないんだよ!!」

 ガブリエルはそう言うと、杖を両手で持ち、天に掲げた!

「離れろ!虫けらどもが!」


バリバリバリバリバリバリっ!!!


「ぐ!?」

「があっ!?」

 杖の先から雷が迸り、絶対防御気光とやらに張り付くエビシュリとヤースキを無理やり引き剥がす!

 痺れながら、後退する二人……もちろん、このまま逃がしてくれるほどガブというネオヒューマンは性格がいいわけもなく……。

「まずは!いや!貴様さえ処分できれば、あとはどうにでもなる!そうだろ!カツミ!!」

 杖の先から今度は光の刃を発生させ、このチーム、というより神凪の最高戦力であるエビシュリに突進していく!

 先ほど言ったように、ミカエルほどは速くはない……だが、それは比較対象が凄過ぎるだけで、ガブリエルは並のピースプレイヤーなら対応できないほどのスピードを出している!

 しかし、相手はしつこいようだが、神凪の最高戦力だ!

「やられるかよ!」


チッ……


 頭を最小限だけ動かし、エビシュリは光の刃の突きの被害を頬を僅かに掠める程度に抑えた。きっとカツミ以外の者だったら、そのまま顔面に新しい穴ができていただろう。

 そして、カツミならこのままやられっぱなしで終わるわけはない!

「ウオラァ!」

 先の攻撃で手甲を失った右拳がお返しとばかりにガブリエルの顔面へと迫っていく!

「学習しろ!無駄なんだよ!」


ガギン!


「ぐあっ!?」

 攻撃を察知したガブリエルは後退しつつ、絶対防御気光を展開!

 さっきと同じくエビシュリの拳を完全にシャットアウトし、なんだったら、逆にぶつかった衝撃でダイエルスによって、ひび割れていたエビシュリの腕の装甲に更なるひびを刻みつけ、その下で守られているはずカツミの拳にまでダメージを与えた。

「バカが!無意味な抵抗をするから!苦しむんだよ!」

 再び怯むエビシュリにガブリエルは光の刃を突き出す!今度は防御も回避も不可能な体勢……決まった!……はずだったのに……。

「邪魔!するぞ!」


ガァン!


「ちっ!?ランボ!貴様!!!」

 突如として、空から降ってきたのは深緑の重戦士!二人の間に割って入ってきた!と同時に持っていたライフルでガブリエルの杖をはたき、軌道を逸らした!さらに……。

「食らえ!」


ババババババババババババババッ!


 もう一方の手に持っていたマシンガン目の前の金ぴかボディーに向かって、ひたすら乱射する!瞬く間に、その金色の輝きは土煙に覆われ見えなくなってしまう。

 その隙にアールベアーとエビシュリは態勢を立て直すために後退していく。



「旦那!」

「カツミさん!大丈夫ですか!」

「あぁ……なんとかな……」

 ヤースキとヤーマッツが二人に駆け寄り、戦況は振り出しに……いや、肉体的にも精神的にもダメージを受けているランボ達の方が不利と言っていいだろう。

「どうするよ……あのバリア……ちょっとやそっとじゃ破れないぜ?」

「展開するのも一瞬でしたし、バリアを張ったままできる攻撃も持っている……まさに隙がないですよ……」

「それにスピードもないわけでもない……する必要がないだけで、回避能力も高いだろうな……」

 勝つための方法を見つけようと話し合っているはずが、出てくる言葉は自分達の敗北を予感させるものばかり……。思いのほか、今の攻防が彼らに与えた傷は深い……。

 だが、彼らの心が完全に折れないのは、この戦いで不可能に思えるようなことを二度もやってきた男が味方にいるからだ。

「こうなるとやっぱり……」

「ええ……情けないけどエビシュリ……カツミさん頼りになりますね……」

「ん?おれか?」

「そうです、あなたです。あなた、さっきあのバリアぶち破ったでしょう……?」

「まぁ……そうだけど……そうなんだけど……」

 カツミの口は重く、たどたどしかった。その姿はシゲミツの言葉とは真逆で、全然頼りになりそうに見えない。

 敬愛している上司のそんな姿を見たくないのか、シゲミツが声を荒げた。

「なんですか!?モジモジと!?言いたいことがあるなら、はっきりと言ってください!!」

「いや……確かにさっきはバリア破れたけど、相手の不意を突いたから、パンチを打つことだけに集中できた……あのデカブツ相手に打った時みたいにな。だから……」

「全力で打てないと破れない……ってことですか……?」

「あぁ……で、あいつが同じミスを犯すと思うか……?というか、犯さないためにおれを狙ってきたんだろ」

「……そう……かも……しれません……いや、そうでしょうね……」

 胸の奥で聞かなければ良かったと、シゲミツは後悔した。カツミが語った通りならば、あのバリアは文字通り規格外の化け物であるダイエルスをたじろがせるほどの威力がないと貫けないということになるのだから……。

 さらに悲しいことに落ち込む彼にカツミが追い討ちをかける。

「それに仮に打てたとしても一発が限度だぞ。バリアを破壊すると同時に右のガントレットが砕けちまったからな。残りは左だけ……ガントレット無しだとどうにもならないってのは、ついさっき試してわかった」

「その残った左で二発、三発と打てる可能性は……?」

「ない。そもそも最初に右で打ったのも左よりマシだったからだからな。全力で打てばあのバリアを砕ける前提で話してきたが、そもそも本当に打てるかどうかも怪しい。二つの意味でもう打つ手がないのかもしれん」

「……うまいことを言ったつもりですか?」

「思いついたから言いたくなった」

「あなたは……って、こんな会話してる場合じゃないでしょうに……」

「だな」

 渾身の台詞が部下に響かずちょっぴりショックを受けたエビシュリが優しく左の手甲を擦ると、皆の視線がそこに集まった。確かにカツミの言う通り、手甲はひびが入り、ところどころが欠け、バリアを貫くどころかちょっと力を入れて触れば、バラバラに砕けそうだった。

「だとしたら……一体、ボク達はどうすれば……」

 先ほど声を荒げていたのが嘘のように、弱々しい、か細い声でシゲミツは呟いた……。希望を見つけるはずが、結果はただ絶望をより深くしただけだったのだ。

「まぁ、でも、それしか方法が思いつかないんだったら、それをやるしかないわな」

「カルロ……」

「シゲミツは頭が良すぎるんだよ。頭がいいから、先のことを考え過ぎて、余計な不安を抱えちまう……でも、人生には頭を空っぽにして、とりあえずやってみるってのも大事なことだと思うぜ」

「……あなたという人は……」

 カルロの言葉で、シゲミツの顔に微笑みが、心に希望が甦る。

 一見するとシゲミツがカルロの世話を一方的にしているように思えるが、実際には、カルロが持っていない知恵をシゲミツが、シゲミツにはない精神的強さをカルロが、お互いに足りないところを補い合って修羅場をくぐり抜けてきた対等な名コンビなのだ。

「そうですね……それしか方法が思いつかないんですから、それをやるしかないですよね」

「あぁ、その通り!!」

「カツミさん!ボク達がなんとか隙を作りますから、あなたは最高の一撃を放つことに集中してください!」

「おう!」

「ランボくんもいいですね?」

「異論なし!」

「じゃあ………」


「その必要はないよ」


「――!?」

 ガブリエルが翼をはためかせ、まとわりついていた土煙を吹き飛ばし、再び、その人によっては悪趣味に見える黄金の姿を現した!

「必要ない……?あなたはそう言うでしょうね……!」

「こっちも簡単にはいかないことはわかっている!」

 シゲミツとランボは、ガブの言葉は、“お前達の好きにはさせないぞ!”と言っているのだと、解釈した。普通に考えたらそう思うのは当然のことだろう……。

 しかし、それは見当違いも甚だしかった。

「何か君達は思い違いをしているようだね ……」

「……思い違い……?」

「わたしの言葉に裏の意味なんかないよ……必要ないって言ったのは、そのままの意味だよ」

「はあっ!?そのまま!?お前こそ何言ってやがんだ!?」

「だから、そのままだよ。隙を作ろうなんてしなくていい……わたしは邪魔もしないし、避けもしない……打ってきなよ、カツミ、君の全力のパンチを。わたしは正面からそれを受け止めてやる」


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