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No Name's Nexus  作者: 大道福丸
Nemesis
133/324

ミカエル

 アールベアーが全身の銃口をある一点に向けていく!戦いの火蓋を切るために!

「蓮雲!カツミさん!」

「わかっている!」

「御意」

 名前を呼ばれただけで、自分達に求められていることを全て察する蓮雲とカツミ。

 普段は知性の欠片も感じられない二人だが、こと戦闘のことになると、知能レベルが急激に上昇する!

 役割を果たすため、全身の筋肉が膨張していく!そして……。

「よし!それじゃあ、ネクサス・ハザマ親衛隊連合、戦闘開始だ!!!」


ドゴオォォォォン!!!


 火を吹くアールベアー!戦いの始まりを告げる轟音と共に、無数の弾丸が放たれる!ネジレとガブの間に……。



「ちっ!?俺達を分断する気か!?これ以上、お前達の思い通りには……」

 辺り一面が土煙に覆われる中、ランボの意図を察したネジレが彼らの計画を台無しにするために兄弟の下へと走り出……。

「させるかよ!」

「項燕!?」

 土煙をかき分けて、ネジレの目の前に現れたのは金色のガブリエルではなく、銀と紫の装甲を持った項燕!身の丈ほどある巨大な矛、豪風覇山刀を下から斬り上げる!

「来い!ミカエル!!」


ガギン!


「ぐっ!?」

 咄嗟にネジレも金色の愛機ミカエルを装着し、剣で項燕の攻撃を防いだ!だが、そうなることは蓮雲は想定済みだ!

「ぶっ飛べ!!!黒幕気取りのくそ野郎!!!」

「お前……」


ガアァァァン!!!


 そのまま力任せにミカエルを遠くに……ガブリエルから離れるように弾き飛ばした!



 そして、もう一方のガブリエルの方にはもちろん……。

「カツミ・サカガミ!?貴様!」

「残念だが、言葉での話し合いの時間は終わりだ!ここからは拳で語り合おうじゃないか!!」

 あの50メートル大のダイエルスをたじろがせた豪腕が唸りを上げた!拳が迫る中、ガブリエルは先ほど瞬狐の攻撃を防いだ光の幕を展開する!

「舐めるなぁ!」


ガアァン!!!


「ぐっ!?」

 エビシュリの拳は光に遮られ、本体まで届かなかった。むしろ、逆にぶつかった衝撃で手甲に入っていた細かいひびがさらに深く、大きくなってしまった!

「これが神凪の大将の拳か!?思ったより大したことないな!」

 きっとさっきまでの問答でストレスを溜めていたのであろう。ガブはカツミに対し、勝ち誇ったように、バカにしたようにそう言い放つ!しかし……。

「お前こそ………お前こそ!おれとエビシュリを舐めるなぁ!!!」

「な……」


ガアァァァン!


 エビシュリの巨大な手甲と、ガブリエルの光の幕が同時に砕け散った!けれど、エビシュリの拳はまだ止まらない!

「ウオラァ!!!」

「ちいっ!?」


ガアァァァン!!!


 ガブリエルは手に持っていた杖でガードしたが、勢いを殺し切れずにそのまま吹っ飛んでいった!

 これにて、ネクサスの作戦の第一段階、ネジレとガブの分断に成功だ!



「くっ……」

「悔しいか、ネジレ……?できれば、またその下品な金ぴかの仮面を外して、醜く歪んだ素顔を見せてくれるとありがたいんだけどな……!」

「……お前がそんなサディストだとは思わなかったよ、アツヒト……!」

「お前に対してだけさ……!」

 まんまとネクサスの狙い通りになってしまったことに悔しさと苛立ちを滲ませるネジレを、さらに煽りながらアツヒトが近づいてくる……いや、彼だけじゃない。

「あの時の決着を着けようか」

 ケイが!

「正直、お前とも一度戦ってみたかったんだ……」

 蓮雲が!

「ネオヒューマンだかなんだか知らんが、我の方が優秀だってことを証明してやろう」

 シルバーが!黄金のピースプレイヤーを四方から取り囲んだ!

 しかし、ネジレはそのことに対し、悔しさこそ感じることはあっても、焦ることはなかった。

「そうか……このメンバーか……」

 ミカエルはゆっくりと視線を一周させ、自分を倒そうと躍起になっている者達を一人ずつ眺めていく……。

「悪くない……ナナシに一度見せただけで、よく俺の……ミカエルの能力がわかったな」

 ネジレは素直に感心した……彼らの賢明さに。ただし、それは別に能力を突き止めたことにではない。

「わかりたくなかった……というより当たって欲しくなかった……」

「だろうな……それでも向かってくるのだと言うのだから、勇敢というか、バカというか……」

「なら、退いてくれるか……?」

「無理な相談だな。逆にお前らが退けばいいんじゃないか……?」

「できれば、そうしたいんだけどね……俺達の後ろには神凪国民がいると思うと……まぁ、やるしかないわな」

 ネジレがアツヒト達に感心したのはその恐るべき能力を理解した上で勝負に望む判断をしたことにだ。

 敵同士と言えど、故郷のために戦っているのは同じ……その点についてだけは、彼は自分を囲む愚か者達に敬意を感じていた。

 だからこそ、全力で叩き潰すことに決めたのだ!

「負けるとわかっていても祖国のために戦いに挑む戦士達のなんと尊く、なんと哀れなことか……いいだろう!その心が最後まで持つか、このネジレが試してやろう!お前達、人間では耐えられない領域!ネオヒューマンの俺だからこそ扱えるこのミカエルの超高速移動能力で!!」

「やはり………」


ザシュ!


「なっ!?」

 アツヒトが言葉を言い終わる前に、ミカエルの攻撃は完了していた……。いや、彼だけじゃない!


ザシュ!ザシュ!ザシュ!


「がっ!?」「くっ!?」「ちっ!?」

 ほぼ同時に、項燕、シルバー、瞬狐の胸部に傷が刻まれる!

 もちろん、やったのはミカエルだ。しかし、その金色のマシンは一歩もその場を動いたようには見えなかった……。力の差を理解させるために、わざわざ元いた場所に戻ったのだ。

「知覚できなかっただろう?俺の攻撃に対処できるように、スピード自慢を集めたみたいだが、無駄だよ……次元が違う」

「そんな……こと……」

「悔しいか、アツヒト……?できれば、その仮面を外して、醜く歪んだ素顔を見せてくれるとありがたいんだけどな」

「この!?」

 さっきのアツヒトの発言が相当ムカついていたのだろう……そっくりそのままの文言で返してやった。

 これで気が晴れたのか、今の攻撃で勝利を確信したからなのか、いつものネジレの慇懃無礼さが顔を出す。

「四人がかりならなんとかなると思ったか?ガブと分断すれば倒せると思ったか?残念だが、どちらも間違いだ。俺もガブも単騎であらゆる局面に対応できるように設計、教育されている。実際、今のような一対多数の戦闘も経験済みだ……グノス帝国、最強の戦士、十二骸将相手にな!!」

「なんだと!?」

「我らネオヒューマンの最終調整にはうってつけだろ?どうせ、俺達がいれば用済みになる連中だ……これ以上ない有効活用だ!!」

「貴様!誇り高き戦士をなんだと思っている!」

 蓮雲が吠えた!常識はからっきしの彼だが、一人の戦士として十二骸将の名は知っていたのだ。そして、立派な戦士としてその名を轟かせた彼らを蔑ろにするネジレの発言がどうしても許せなかったのである。

「そう怒るなよ、蓮雲……というより、お前ほどの強者が怒ってやる価値なんてないよ、奴らには」

「どういう意味だ……?」

「どういうも何も、そういう意味だよ。今のお前の……お前達の方が十二骸将の奴らよりも遥かに強い。あいつらはみんな最初の一撃であっさりと終わったからな」

「……もしかして、褒めているのか……?」

「あぁ、そうさ!褒めているんだよ!持って生まれた反射神経か、数々の激闘を乗り越え手にした経験則か、俺の、ミカエルの一撃を最小限のダメージで抑えた!これは誇るべきことだよ!!」

「……やっぱり、褒めているようで、自分の力を誇示しているようにしか聞こえないが……」

「そんなことないさ……さっきの件もそうだが、俺はミスばっかりしている……そして、そのミスをお前達に尻拭いしてもらったこともある」

「何……? 」

「以前、ナナシには言ったが、感謝しているんだよ、お前達……ネクサスには」

「はぁ!?」

 あまりにも意外な言葉に蓮雲を初め、他の者も言葉を失った。

 きっと毎度お馴染みの皮肉ではこうはならなかったからであろう。今の言葉だけは嘘偽りのないネジレの本音なのである。

「俺が神凪にネクロやクラウチに協力していたのは、グノスの戦力を使わずに神凪を弱体化させるためだ。お前達なら、わざわざ言わなくてもここに俺が現れた時点で察していただろうが……」

「そりゃあ、まぁ……」

「もちろん……」

「あ、あ、当たり前だろ!」

「そ、そ、そうだ!優秀な我が気づかないはずなかろう!……本当だぞ!」

 一人と一AIは当然の如くわかっていなかった。というか、ネジレが今、言ったお前達にはこいつらは含まれていないのだが。

「……まぁ、いい……しかし、そんな俺に予想外のことが起きる……正確には予想外の存在を確認したとでも言うべきか……」

「予想外の……存在……?」

「“オノゴロ”と“シムゴス”だよ。」

「な!?お前も知らなかったのかよ!?」

「あぁ、情けないことにな……」

 その二つは神凪にとっても特に予想外であり、規格外の存在だった。だからこそ、神凪を陥れようと暗躍していたネジレもきちんと把握した上で動いているものだと思っていたのである。だが、違った。

「正直、あれに気づいた時は震えたよ。あんな強大な力の矛先が我がグノスに向いたらと思うとね。だが、そのまま震え続けているわけにもいかない……どうするべきか、何をするのがベストなのかと悩みに悩んだよ……そして俺は決めたんだ……何もしないことに」

「何も……」

「しない……だって……?」

「あぁ、当初の予定通り、ネクロとクラウチを神凪にぶつける……それだけに専念した。奴らと神凪の戦いの中でオノゴロとシムゴスが使用され、できれば神凪に大きなダメージを与えて、そして、その末に失われることを祈りながらね。今思うと半ば自棄だったのかもしれない……流れに身を任せよう!なるようになれ!……ってね」

 アツヒト達の心に、こんな大事な時にいないバカ息子の顔が思い浮かんだ……。

 まさか彼の口癖というか、悪癖というか、信条と同じことを、あろうことか仇敵であるネジレが口にするとは思っても見なかった。

 そして、悲しいかなナナシと同じように、ネジレの行き当たりばったりの計画も本当になるように、なんとかなってしまったのである。

「それで感謝か……」

「そうさ……ナナシの……お前達、ネクサスのおかげで二つの脅威は排除され、こうして万全の態勢で戦争を始めることができたのだからな」

「じいちゃんに他人の成功を喜べる人間になれって言われ続けてたけど……これは無理だな……」

「だろうな。今のお前とさっきの俺は同じ気持ちだよ……なぁ、ケイ……」

 金色のピースプレイヤーの視線は青色から黒色に移っていく。似た者同士であり、だからこそ今、ネジレがこの世で一番嫌っている男の方に……。

「そんなに僕がポチえもんを連れて来たのが、嫌だったのかい……?」

「それはそうだろ……長年の悲願が今まさに成就しようとした瞬間、ぶち壊されたんだからな……!」

「ポチえもんのことをシムゴスと同様に脅威として考えていなかったからだね……自業自得さ」

「お前の言葉なんかに同意したくないが……その通りだ……もっと真剣に考えておくべきだった」

「そうそう、君がバカだったんだよ」

「そうだ、バカだ……認めるよ、俺はバカだった……だから!反省しようじゃないか!もう二度と同じ失敗を繰り返さないために、危険だと判断したものは、容赦なく!躊躇なく!全力で排除する!」

 ミカエルが翼を広げ、剣を構えた!もちろん、それは戦闘再開の合図だ!

「お前達には本当に感謝もしている!だから、おとなしくしているなら、痛みを感じる間もなく、一瞬で逝かせてやるぞ!」

「ありがた迷惑なんだよ!なぁ、ケイ!」

「あぁ、本当に人の気持ちがわからない奴ってのは嫌だよ!君達は違うよね、蓮雲!シルバー!」

「当たり前だ!」

「優秀な我がわからないはずがなかろう!」

「じゃあ!」

「おう!」

 お互いの意思を確認すると、アツヒト達は一斉に跳躍した……後方に。消極的に思えるかもしれないが、今、彼らにできる最善の行動だ。

 その証拠に再びネジレがまた感心していた。

「ほう……たった一撃でミカエルの能力の泣き所に気付くとは……さすがというか、厄介というか……」

「高速移動だかなんだか知らねぇが……」

「僕達に追撃しなかったってことは短時間しか使用できない……かつ……」

「連続使用も無理。一回ごとにインターバルを挟まないと発動できねぇんだろ?」

「これだけ距離を取れば、一度の能力発動で我らを全滅させることは不可能!」

「……大正解。ミカエルの能力を的確に分析した上での策……間違いなく最良……最良の策だ……だが、戦況をひっくり返せるほどではない!!」


スッ……


「!?」

 嫌でも目立つミカエルの黄金のボディーがネクサスの視界から一瞬で消えた。次の瞬間!


ザンッ!!!


「ぐあっ!?」

 項燕の銀と紫の装甲に新たな傷が刻まれた!そして彼の眼前にミカエルが再度、姿を現す!

「本当に戦闘のことに関してだけは天才的だな、蓮雲……あえて、隙を作ることで俺の攻撃を誘導、予測したか……」

「ネームレス対策に……考えていたことが……役に立ったな……!」

 かつて、壊浜で刃を交えて以来、蓮雲はネームレスに勝つ方法を常に思案していた。その結果、彼はスピード自慢の奴らの対策も自然と身に着けていたのだった。ダメージを最小限に抑え込み、カウンターをぶちこむ!それがベストだと!

「これで……しばらく能力は使えないだろう!食らえ!!」


ザンッ!


 痛みをこらえ、豪風覇山刀をミカエルの頭に振り下ろす!金色のピースプレイヤーは真っ二つに!……ならなかった。

 矛は空を斬り、刃は虚しく地面にめり込んだ。そして、その刃を上から黄金の足が踏みつける。

「最大稼働は使えなくとも、そんな大振りな攻撃を避けることは容易い……ぞ!!」


ガアン!!!


「ぐふっ!?」

 ミカエルが左腕に装備された盾で項燕のボディーを殴りつけた!たまらず、項燕は豪風覇山刀から手を離し、身体をくの字に曲げる。

 苦悶の表情を浮かべる彼の頭をかち割るためにミカエルは剣を振りかぶった。

「全滅を恐れて距離を取るのは正しい……だが!窮地に陥っても仲間の助けが得られなくなるというデメリットもあるんだよ!覚えておけ!!!」

 剣がついに振り下ろされ、今度こそ真っ二つに!……ならなかった。

「させるか!!!」


ババババババババババッ!


「ちっ!?AI風情が!」

 ネジレの言葉を否定するかのように、シルバーウィングがミカエルを強襲!空から弾丸をばらまき、敵の凶刃を仲間から引き離す!さらに……。

「でやぁ!」

「はあッ!」


ガン!ガン!


「お前達もか……ふん!」


ぶぉん!


 ミカエルを両サイドから挟み撃ちにするサイゾウと瞬狐!けれど、二人の刃は残念ながら、金ぴかの剣と盾に受け止められ、さらに一回転することで振り払われる!

「この程度じゃ……」

「殺れないか……!」

 奇襲が失敗したと判断するや否や、悔しさを滲ませながらもあっさりと後退し、再び距離を取るサイゾウと瞬狐。

 項燕とシルバーもまた距離を保ちながら、体勢を立て直す。

 結果、ミカエルを四方から取り囲む状態に、この攻防が始まる前の状況に戻ってしまった……一見、そう見えた。

「振り出しに戻るか……まぁ、一人も失うこともなかったのだから、お前達的には上出来だろう」

「相変わらずの上から目線のお褒めの言葉、ありがとう……でも、一人も失わなかったっていうのは、違うだろ……!?」

「あぁ、申し訳ないけど……僕はもう戦力にはなれない……」


ガクッ!


 瞬狐が膝から崩れ落ちた!彼は腹を抑えていて、その指の隙間から真っ赤な液体が滴っていた。

「諜報……活動ばっかりで……こんな真っ正面からの戦闘をしてこなかった……ツケかな……最後のカウンター……避けきれなかったよ……」

 あの一瞬……ほんの一瞬でミカエルは回転しながらも、的確に瞬狐の腹部を斬りつけていたのだった。死んでこそいないから、一人も失ってないとネジレは宣ったが、実際は、ケイはこの戦闘に復帰することはできない……いや、ケイだけじゃない。

「蓮雲……」

「大丈夫だ、銀……まだおれはやれる……!」

 誰が見ても、それは強がりだった……。項燕の装甲に稲妻のような無数のひびが入り、そのダメージの深刻さを物語っている。きっとその下の蓮雲自身の骨も同様の状態だろう……。

 つまり、こちらも戦力として数えることはできないということだ。

「作戦自体は本当に良かった。その上で俺が蓮雲を狙うのを予測していたのも素晴らしい。あのタイミングで割って入るなど、攻撃を見てから動いたのでは遅いからな」

「お前にとって一番リスクの高い存在は、戦闘センスもあって、アーティファクトの一撃がある蓮雲だってのは明白だったからな……」

 先ほど蓮雲のピンチを救えたのは、そもそもピンチになると事前にわかっていたからであった。だが、結果としてアツヒト達の予想通りの行動をしながらも、ネジレはそれを真っ向から跳ね返したのだ。

 そして、ネクサスが誰を狙うのかを予想して動いていることにも勘づかれてしまった。こうなるとまたネジレの意地悪な本性が疼き出す。

「クイズをしようか、ネクサス」

「はぁ!?何、言ってやがるんだ。こんな時にクイズなんて……」

「こんな時だからだよ……よりスリリングに!エキサイティングに!やろうじゃないか、お前達の処刑を!」

「な!?」

「さぁ、考えろ!次に俺が狙うのは誰だ!元気なアツヒトか?満身創痍の蓮雲か?ムカつくケイか?それともAIか?外したら、“死”、当たったら……運が良ければ助かるかもな!」

「正解でも不正解でも、大して変わんねぇじゃねぇか!?」

 史上最悪のクイズ大会に勝手に参加させられることになったアツヒトが、せめてもの抵抗とばかりにクレームをつけた!だが、もちろん、それでクイズが取り止めになるわけでも、ルールが変わるわけでもなく、司会者だけが楽しいクイズが一方的に出題される。

「文句を言っている暇があるなら、頭を回せ!準備をしろ!覚悟を決めろ!」

「お前なぁ……!」

「正解発表まで!3……」

「はっ!?ちょっと待てよ!」

「いいや、待たない!2……」

「ちっ!?みんな防御を固めろ!」

「1………」

「来るぞ!!!」

「ゼロ」


ガギン!


 甲高い音と共に無数の破片が飛び散る!……銀色の。

「がっ!?」

「正解は……AIでした」

「シルバー!?」

 クイズの正解、ミカエルのターゲットにされたのはシルバーウイングだった。いつの間にか、金色と銀色の装甲が太陽の光を反射しながら、相対している。先ほどはこの時点で他の者は仲間のために動き出していたが、今回は誰も動けていない……重傷を負っている蓮雲やケイはともかく、アツヒトもだ。

 彼は予想できなかった……正確には一番ないと思っていたのである、シルバーを狙われることは……。

(なんでだ!?なんでシルバーなんだ!?ここで殺るなら、ダメージも無く、チームの指揮をしている俺だろ!?もしくは、確実にリスクを潰すためにもう一度、蓮雲!それか個人的に因縁もあって嫌っているケイ!……そうなるはずだろ!?AI風情と小バカにしていたシルバーなんて捨て置くべきだろ!?なのに……なんでだ!?ネジレ!?)

 自問自答を繰り返しても、アツヒトはなぜ間違ったかはわからなかった。当然だろう、このネジレの行動は彼の心の奥にあるものを理解しないと予測できない……。

 それができるのは、この場でたった一人……攻撃を受けたシルバーだけだ。

「やはり……我のところへ来たか……」

「自分が狙われることがわかっていたのか?それとも、他の奴らのことなど気にしていなかったのか?どちらにせよ、致命傷を防いだことは褒めてやるよ……ただのマシンのくせにはよくやったってな!!」

 また上から目線の褒め言葉……しかし、さっきの挑発、嫌がらせ目的のものと違い、その言葉の裏には鬱屈した感情が秘められていた。

 そして、最新鋭AI、シルバーウイングはそれに気づいてしまう……彼とネジレは同じだから……。

「そんなに我が憎いか、ネジレ……?」

「はぁ?憎いも何もないさ……俺がAIごときに、感情を揺さぶられることなど……」

「そんなことないだろ?さっきからAI風情とか、AIごときとか……自分と同じ、人間に作られた存在を見ていると苛ついちゃうんだよな?」

「お前……」

「やたらと人間を見下すのも、コンプレックスがあるからだろ?」

「黙れ……」

「心のどこかで、本当は愚かなただの人間として生まれたかったと……そう思っているのだろうが!!」

「黙れぇ!!!」


ガアァン!!!


「ぐっ!?」

 ミカエルがシルバーを怒りに任せて蹴り飛ばした!人間に作られた者にしかわからないジレンマ……AIはネジレの触れてはいけない場所を土足で踏みにじったのだ!

「いいだろう……そんなにスクラップになりたいなら望み通りにしてやる……!」

 ネジレは全身の力と全心の怒りを込めて剣を振り上げる!自分の心の深淵を覗いた、礼儀知らずのマシンを鉄屑に変えるために……だが、その前に……。

「邪魔をするな!アツヒト!」

「なっ!?」


ガアン!


「ぐあっ!?」

 背後から迫り来るサイゾウを、盾を投擲して撃退する!盾はワイヤーのようなもので左腕と結ばれており、不躾な忍者を弾き飛ばすとミカエルの下に戻っていった。

「さぁ……これで心置きなくお前を処分できる……」

 決意を新たに、再び剣を振り上げるミカエル……。

「くっ!?」

 ダメージのせいで身動きが取れないシルバーウイング……。

「こ……の!」

 立ち上がり、仲間の下へ駆け出すサイゾウ……。

「くそっ!?もっと速く動けよ!おれ!」

 その後ろで同じくシルバーを助けようと必死に足を動かそうとするが、思い通りにならない項燕……。

「………」

 完全に沈黙する瞬狐。残念ながら、ミカエルの凶刃を止められる者はこの場にはいなかった……そして、ついに!

「終わりだ……AI!」

 振り下ろされる剣!一直線に埃で汚れてしまった銀色のボディーに向かっていく!

「間に……」

「合わねぇ!!?」


「いや、間に合ったよ」


 アツヒトと蓮雲とは対照的なテンションで真逆のことを呟いたケイ……彼だけが知っているネジレのもう一つの、最悪の失敗!

 そして、ネクサスにとっては最高のサプライズが今、到着したのだ!


「でやあぁぁぁっ!!!」


ガギン!


「――ぐっ!?」

 刃がシルバーに届こうとした瞬間!翼を持った黄金のピースプレイヤーは殴り飛ばされた!

 翼を持った黄金のピースプレイヤーに……。

「あっ……!?」

「えっ……!?」

「な………!?」

 アツヒト、蓮雲、シルバーは仲良く言葉を失った。

 状況が理解できないからではない……。いや、もちろんそれもあるが、それ以上に嬉しかったのだ。ずっとまた聞きたいと願っていたあの凛々しい声が聞けたから……。ずっと待ち望んでいた彼女が、かけがえのない仲間が帰って来たから……。

 そんな彼らの思いに応えるように、もう一体の黄金のピースプレイヤーは高らかに宣言した。


「アイム・イラブ!これよりネクサスに復帰する!!」


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