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No Name's Nexus  作者: 大道福丸
Nemesis
131/324

巨獣

「な、なんなんだよ……あれ……?」

 流線型のフォルム、背中から生えた翼、鋭い爪と牙、何よりその圧倒的な巨大さに獣ヶ原で戦っていた神凪の戦士達は言葉を失った。



「義兄弟……あれは敵なのか……?」

 自分の頭の悪さを理解している李奉は、彼が最も信頼し、賢いと思っている義兄弟の周元に判断を仰いだ。しかし……。

「さぁな……この戦いに参戦するに当たって、幾重にもシミュレーションを重ねてきた……が、さすがにあれは……あんなものは想像もしなかったよ……」



「あれ……ヤーカツの攻撃でなんとかなりますか……?というか、なんとかしてくれるとありがたいのですが……」

 答えのわかり切っている虚しい質問……けれどもヴノはせずにはいられなかった。

 そして、予想を裏切らない答えが、相棒のフーから返ってくる。

「いや……じゃあ、お前ご自慢の最強の盾、ヤーテンはあいつの攻撃に耐えられるのかって話だよ……無理に決まっているよな、残念だけど……」



「グルルルルッ……」

 戸惑い、恐れおののく人間達をダイエルスは指一つ動かず、じっと見下ろしていた。

 正確には指示を待っているのだ、ご主人様の……。



「どうだ!ネクサス諸君!素晴らしいだろ!カッコいいだろ!恐ろしいだろ!わたしのダイエルスは!!!」

 さらにテンションの上がったガブは大きな身振り手振りを加えながら、愛しのペットを自慢する。最早、彼はここが戦場だということも忘れて……いや、彼の中では今、この瞬間、戦争は終結したのだ。

 勿論、彼の目の前にいる者達はそれを許すわけがない!

「楽しそうなところ悪いけどよ………」

「お前があれを操っているというなら……」

「貴様をたたっ斬れば………」

「万事、解決……ってことになるんじゃないか……!」

「ほう……そう来たか……」

 ネクサス、そしてハザマ親衛隊の二人が武器を構え、自分達を神様気取りで見下ろすガブリエルを睨み返す。ガブからしたら、だからどうしたという感じだが。

「フッ……君達のやろうとしていることは蛮勇というのだよ……」

「はっ!ご指摘ありがとよ……だが!」

「やってみないことには!」

「わからんだろ!」

「だろ!!!」

「わかるさ!なぁ!ダイエルス!!!」


パチン!


「――!?ぐるおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」


「――ぐっ!?」

 ガブリエルが指を鳴らすと、それに応えるようにダイエルスが咆哮を上げた!地面の次は大気を震わせ、再び獣ヶ原にいる者達に恐怖を植え付ける!

 ただ、今回はそれだけでは終わらない!その巨大な翼を、さらに大きく見えるように目一杯広げて……羽ばたく!


ブオォォォォォォォォン!!!


「うわぁ!?」「なに!?」「ぐわぁ!?」

 巻き起こる暴風!巨獣の前方にいた神凪の兵士、さらにはグノス帝国のネオヒューマン達が為す術なく吹き飛んでいく!



「な!?まさか!?ここまで!?」

「みんな!集まれ!集まって耐えるんだ!」

 その暴風は遠く離れたネクサスのところまで届き、やる気満々、完全戦闘態勢の勇敢なる戦士だった彼らを災害に耐える無力なただの人間にたちまち戻してしまった。


ブオォ………


 風は一瞬で止み、嵐が通り過ぎた時のように獣ヶ原に静寂が戻ってきた。

 多くの者の身体と心に消えない傷を残しながら……。

「大丈夫ですか!?皆さん!?」

「はい……なんとか…………」

「だが……これは………翼を動かしただけでこの威力は……」

「こんなもの………どうすれば……」

「さすがの我でも打開策を思いつかない……」

 ダイエルスにとっては、なんてことのない行為だったが、いや、だからこそ数々の修羅場をくぐり抜けた戦士達の心を折ることになった……。

 天に唾を吐かないように、この巨獣に歯向かうことはしてはいけないのだ。最終的にバカを見るのは自分達なのだから……。

 心に、闘争心にひびが入った彼らを見て、嗜虐心を刺激され、さらに苛めたくなったガブが悪辣な本性を隠しもせずに、煽り始める。

「理解できたか?愚かな人間どもよ!貴様らに勝ち目はなかったんだよ、最初からな!旧式のピースプレイヤー相手に優勢だったから、このまま勝てると思ったか?」

「ぐっ!?」

「思ってたんだな!バカだねぇ~。いや、勘違いさせるようなことをしたわたし達が悪いのかな……これは責任を取らないといけないね……」

「責任だと……?」

「あぁ……哀れで惨めな君達の人生の幕を引いてあげよう……」

 ガブリエルが手をゆっくりと上げた……。全てを終わらせるために……。巨獣に命じるために……。そして……。

「終わりだ!神凪!!」

 振り下ろ……そうとした、その時!


「ウオォォォォォォォォォッ!!!」


「――!?」

「なっ!?なんだ、このバカデカい声は!?」

 再び咆哮で大気が震える!しかし、今回は巨獣じゃない!この声の主は人間!この戦争を始めるための号令をかけたあの男の声だ!

「わからないんですか……ネオヒューマンというのも大したことないですね」

「なんだと!?」

「あの声はボクの最も尊敬する人の、神凪最強の戦士の、そして……」

「オレ達のハザマ親衛隊の大将!カツミ・サカガミの声だ!!!」


「でやぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 長い助走から、地面を力の限り蹴り出し、エビルシュリンプは宙を舞う!

 ぐんぐんと高度を上げていき、みるみるとダイエルスの顔に近づいていく!さらに拳を思い切り引いて、力を溜める!

 そして、巨獣の鼻先が目の前に来た時に……解き放つ!

「オラァァァァァッ!!!」


ゴオォォン!!!


「グル!?」


ドスン!


 エビルシュリンプ渾身の一撃を受けたダイエルスはよろめき、たまらず後ろに一歩だけ下がった……下がったのだ!

 全長50メートルの巨大な怪物が、身長2メートル程度のただの……多分一応、ただの人間のパンチで一歩後退したのだ!



「な………!?」

 これにはさっきまであんなに饒舌だったガブも言葉を失う……というより、ネジレも、ネクサスも、大見得切ったハザマ親衛隊の二人も皆一様に口を開けて、現実を受け入れられないでいた。



「ふぅ……全力で打ったのに、この程度か……俺もまだまだだな……」

 一方のカツミは他人から見たら十分過ぎる成果に納得していない様子……彼は本気でこの巨大怪獣をパンチ一つで倒そうとしていたのである。

 彼のそんな驕り高ぶった思いに腹がたった……かどうかは定かではないが、ダイエルスが反撃に出る。

「グル……」

「おっ……?」

 エビルシュリンプが今、自分にやったように、彼の全身よりも遥かに大きい拳を握り締め、振り上げた。それを胸元まで落ちて来たエビシュリに……叩きつける!

「ぐるおぉぉぉぉぉっ!!!」

「やっ………」


ゴオォォン!!!


「旦那!!?」

「カツミさん!?」

 ハザマ親衛隊の二人が悲鳴にも似た声を上げた!

 巨大な拳は彼らのリーダー、エビシュリを完全に捉え、轟音とともに彼を吹き飛ばす!神凪の最強の戦士は凄まじいスピードで獣ヶ原を縦断していく!

「おいシゲミツ……旦那、こっちに……」

「向かって………というより落ちて来ますね……」

 徐々に影が大きくなっていき、エビシュリがぐるぐると回転していることも視認できるまで近づいて来て……そして。


ドゴオォォォォォン!!!


「旦那!!?」

「カツミさん!?」

 再び二人が大きな声を上げた!彼らの大将は、彼らの頭上を通り越し、後方へと墜落した!

 二人……いや、ネクサスのメンバーも振り返り、ネジレやガブも視線を向ける。落下地点は分厚い土煙のカーテンに覆われ、エビシュリの安否はわから……いや!人影が土煙の中からこちらに歩いてくる!

 みんなの注目を集めながら、それは姿を現した!

「いやぁ……あれは無理だな……って、お前ら……お久しぶり」

「えっ?」

「反応、軽ッ!?」

 全身の装甲にひびが入っていたが、特にカツミは気にしてる様子はなかった。というか、何で生きてるのだろうか……。

「お前達と合流できたんなら、結果オーライだな」

「ええ……それで済ましちゃうの……」

「まぁ、とりあえず生きてるからな。死んだら終わりだけど生きてさえいれば希望はあるさ」

「ずいぶんとポジティブ……いや、のんきなんだな、神凪の大将は……」

 根拠のない自信に満ち溢れているカツミをガブが嘲笑う。さっきまでショックで思考停止していたが、なんとか立ち直り、その原因を作った奴に嫌がらせをしたくなったのだ。

「ん?なんだ、あの金ぴか?誰かの友達?いつの間に呼んだの?」

「そんなわけないでしょう……敵ですよ、敵。あいつが、あのデカブツを操っているんです」

「えっ?そうなの……じゃあ、話は簡単だな」

「はぁ!?」

 そう言うと、エビシュリはヤーマッツの前に出て、ガブリエルを見上げた。再び、彼に一同の視線が集中する。

 特にシゲミツは彼の背中を心配そうにじっと見つめていた。経験上、こういう時はろくなことにならないのだ。

「おい!そこの!金ぴか!」

「なんだ、人間……」

「お前も人間だろ!」

「わたしは人間じゃないよ」

「……えっ、あいつ、人間じゃないの、シゲミツ?」

「らしいです。でも、今はどうでもいいでしょう……?」

「そうだ!どうでもいい!大切なのは!お前が敵かどうかだ!敵なんだよな!?お前!」

「敵じゃないよ」

「……えっ、あいつ、敵じゃないの、シゲミツ?」

「敵ですよ!完全に!絶対に!間違いなく!敵です!!!」

「そうなのか………お前!よくも騙したな!」

「いや……今のは騙される方が悪いでしょうに……」

 これには、アツヒト達もガブに同意した。案の定、カツミはガブに完全にもて遊ばれ、それを見ている彼の仲間達は絶望し、敵であるガブやネジレもこんな奴に冷や汗をかかせられたかと思うと、悲しくなった。

 けれど、それは彼の本質を理解していないからだ……。カツミ・サカガミという男は常識なんて、ちんけなものに収まる器じゃない。

「まぁ、いい……お前!あのデカブツを今すぐ退かせろ!!」

「はぁ?何を言っているんだ、君は?そういう要求は立場が上の者がしないと意味がないことがわからんのか……?」

「それだったら間違いない……おれの方がお前より立場が上だからな……!」

「なっ!?何を言っているのかわかっているのか?今の状況を理解できていないのか、貴様は!?」

「もちろん。おれにはこの状況をひっくり返す……あのデカブツを倒す秘策がある!!!」

「な?」

「「なんだって!!?」」

 敵、味方がきれいにハモった。それぐらい双方にとって寝耳に水、青天の霹靂、虚を衝かれた一言だった。

「そ、そんな方法……」

「ガブ!落ち着け!ただのはったりだ!」

 あまりに予想外だったのか、犬猿の仲だったネジレがガブを静めようと声をかけるという異常事態!本来のガブだったらこんなに動揺することもなかっただろうが、あの一撃を見た後だと、これだけ有利な戦況だとしても心が乱れてしまう。

 だが、あのネジレが、自分を心底嫌っている兄弟が自分を落ち着かせようと、声を荒げたことでなんとか我に返ることに成功した。

「ネジレ……あぁ、そうだな……そんな方法があるはずがない……この戦況をひっくり返せる術などあるはずが……」

「ある!」

「ぐっ!?ふざけるなぁ!貴様自身がわかっている一番わかっているだろう!ダイエルスの力を!?」

「あぁ、わかっている」

「なら!?」

「おれじゃない」

「なっ!?」

「あのデカブツを倒すのは……ここにいるおれの仲間だ!!」

「え………」

「「ええ~!!?」」

 突然、無茶苦茶な指名をされたアツヒト達が再びハモりながら叫んだ、というか完全に悲鳴を上げた!

 てっきり、カツミ自身がなんとかしてくれるものだと思い込んでいたのである。

「いやいや!言いたくないが、あんたが無理なら俺達にも無理だって!」

「アツヒトの言う通り!勝てるビジョンが全く思い描けない!」

「さすがのおれでもあれと戦おうとは思わん!」

「どこまで愚かなのだ!人間というのは!」

「大将……それはないって……」

「まさか、ここまでとは………」

 詰め寄るネクサス、呆れる親衛隊。非難轟々だが、カツミは揺るがない!この作戦に絶対の自信があるからだ!

「まぁまぁ、落ち着きなさい……おれも今のまま勝てるとは思っていないよ」

「えっ!?」

「それってどういう……」

「お前達は今から強くなるんだよ……あのデカブツを倒せるぐらいにな!!」


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