無双
雪崩のようにグノス軍に突撃する神凪のヘイラット軍団!
その間をするすると器用に通り抜けていく影が二つ……。
「一番槍はオレが……」
「我が………」
「「もらったぁ!!!」」
雪崩の先頭に踊り出たのはハザマ親衛隊のヤースキとネクサスのシルバーウイング!
スピード自慢で目立ちたがりの一人と一AIがこの戦争の開幕をド派手に飾る!
「愚かな人間どもが!」
「蜂の巣にしてやるよ!」
バババババババババババババッ!!!
飛び上がった二体が銃弾をばらまくと、ガーディアントの群れは怯み、装甲に穴を開け、進軍を止める。そこにそのまま両者は突っ込んでいく!
ザシュ!
「愚鈍なんだよ、グノスの兵よ!」
シルバーウイングがすれ違い様に敵を切りつけていくと……。
「AIの言う通り……遅すぎだぜ!お前ら!」
ボゴッ!
合わせたかのように隣で別の兵士をヤースキが蹴り飛ばす!
そんな大暴れ中の彼らに照準を合わせる者が……。
「駄目、駄目。楽しそうにしているところを邪魔しないの」
「!?」
ザン!
「野暮ってもんだぜ、そういうの」
二体を狙うガーディアントをいつの間にか追いついてたサイゾウが背後から強襲!彼らに、いや誰にも気づかれることなく静かに処理した。
カルロやシルバーと違い、彼は目立ちたがりではないし、蓮雲やカツミのように強さを追い求める求道者というわけでもない。
アツヒト・サンゼンという男は……。
「ああいうのが注目を集めてくれる奴らがいると仕事がしやすくて助かるぜ。俺は影に隠れて、忍者らしく淡々と一体ずつ仕留めていきましょうかね……」
アツヒトは戦いにエンターテイメント性や意味など求めない。
彼がいつも考えているのはいかに安全に、いかに速やかに敵を排除できるかどうかだけだ。
ネクサスに入ってからはメンバーの中で前線で柔軟な指揮ができるのは彼しかいないからあまり見せることはなかったが、本来はこうした不意討ちや暗殺まがいのやり方が彼と、その愛機サイゾウの持ち味なのである。
「さてと……次行きます……とその前にシルバー!ヤースキ!気をつけろよ!」
「ん?」
「なんだ?急に……?」
サイゾウが去り際に暴れ回る目立ちたがり達に警告した。別に敵に対して注意しろと言っているわけではない……味方に注意しろと言っているのだ!
「お前の記念すべき初陣だ……ド派手な花火を打ち上げてやろうじゃないか……」
アールベアー……それはプロトベアーよりも遥かに強化された火力と重装甲を持つランボの新たな愛機。
素材も大きく変わったため、分類も中級から上級ピースプレイヤーに格上げされていて、見た目もメインカラーは深緑のままだが、以前はなかったオレンジ色の差し色が入っていた。これは元になったのがナナシ用の赤いプロトベアーだったことの名残と、かつてランボが壊浜で戦ったカズヤがその時は使わなかったがオレンジ色のホムラスカルを愛用していたことに起因する。
ランボなりの彼らに対する想いがこのオレンジなのである。
「ターゲット……ロックオン……」
アールベアーが全身にところ狭しと配置された武器の銃口を目の前のガーディアントの群れに向け……そして、解き放つ!
「ファイア!!!」
ドゴオォォォォォォォン!!!
爆音が辺り一面に響き渡り、熱風が吹きすさぶ!弾丸の雨が故郷を蹂躙しようとしている毒虫達を焼き尽くす!……ついでに、味方も。
「うおぉい!?」
「あいつ我らがいるということがわかってないのか!?」
ヤースキとシルバーが自慢のスピードで味方であるアールベアーの弾丸を必死に掻い潜る!もちろんランボは彼らのことを忘れてはいない……信頼しているのだ。
「シルバーとカルロは大丈夫だろうか……まぁ、あいつらならなんとかするだろう……多分」
うん……信頼しているのだ。まぁ、それは置いといて、ランボは新たな愛機の活躍に満足していた。その名に恥じぬ戦いぶりに……。
「手応えは十分、成果は上々……これがアールベアー……RemakeのR、RevengeのR、RevolutionのR、そして……弾丸の雨を降らせるRainmakerのRを冠するオレの新しいマシンだ!!」
「うおらぁ!」
ガギン!
「この野郎!」
バン!バン!
「こいつら……大したことないじゃねぇか!」
アールベアーが開けたガーディアントの群れの穴にヘイラットの群れが流れ込み、戦いは乱戦へと移っていく。機先を制したためか、はたまた別の理由があるのか、何はともあれ神凪側が戦況を優位に進め、敵を次々と撃破していく。
そのおかげで士気も爆上がりだ!とは言え、もちろん例外というものはあるもので……。
「ぐわぁ!?」
一体のヘイラットがガーディアントに返り討ちに合い、地面に倒れてしまう。
「…………」
無言でそれに止めを刺そうとガーディアントは剣を振りかぶり……。
「うあぁッ!?」
ガギン!
「えっ……?何、これ……?」
恐怖で目を瞑ってしまっていたヘイラットの装着者が再びその目を開くとそこには世にも奇妙な光景……何故か巨大な立方体が自分のことを守っていたのだ。
「安心したまえ。この最強の盾、ヤーテンが来たからには大丈夫だ」
「えっ!?しゃべった!?」
しかも、あろうことか言葉を発した。さらに混乱する兵士……そんな彼の目に立方体ごしに、自分を痛めつけたガーディアントが再び剣を構え、襲いかかってくる姿が映った。
「あ、危ない!」
キン!
空しく響く金属がへし折れる音……攻撃したはずの剣が立方体の分厚い装甲に返り討ちに合い、破壊されてしまったのだ!
「言っただろ?安心したまえと……このヤーテンは最強の盾だと!そんなちんけな攻撃など通じはしない!」
自慢気に語る立方体。さらに……。
「本当の攻撃というものを見せてやる!」
ガン!
背中から生えたアームでガーディアントを弾き飛ばす!……それだけ。
「……本当の攻撃という割にはショボいような……ってすいません!助けてもらったのに!」
大言壮語に似合わぬ、言葉を借りればちんけな立方体の攻撃を助けられた兵士がついバカにしてしまった。
だが、立方体は別に怒ったりはしない。彼が言った本当の攻撃とはこれから放たれるのだから。
「別に構わないよ。それよりも少し横にずれた方がいい。その本当の攻撃に巻き込まれたくなかったらね」
「えっ!?それってどういう………」
「よっしゃ!チャージ完了だぜ!!」
「――!?」
後ろから暑苦しい声と実際に熱気のようなものを感じ、ヘイラットは立方体の指示に従い、移動する。これで射線が開いた!
「デヤァァァッ!!!」
ドシュウゥゥー!!!
「うあっ!?」
暑苦しい咆哮とともに、凄まじい熱線がヘイラットと、いつの間にか移動していた立方体の隣を通りすぎ、剣の折られたガーディアント……と、その後ろにいる仲間達を一気に焼き払った!
ブシュー………
熱線を腕から放ったピースプレイヤーから白い蒸気が吹き出す。熱を排出して、温度を下げようとしているのだ。けれど、それでも足りずに内部は殺人的な暑さになっているはず……しかし、問題ない!なぜなら……。
「オレは南国育ちのサウナ好き……そして!これがそんなオレに与えられた最強の矛!ヤーカツ!そこの兵士!」
「はい!?南国!?サウナ!?」
「今のが本当の攻撃だ!」
「うおぉらぁあ!!!」
ブォン!!!
獣のような声を上げながら、顔の左半分を仮面で隠したような大柄なピースプレイヤーがこれまた大きな斧を振るうと、その一撃で何体ものガーディアントが木の葉のように宙を舞った!
「はははははっ!その程度か!グノス!もっとおれを……文醜を楽しませてくれよ……なッ!!!」
ブォン!
笑いながら、もう一撃!さっきと同じか、それ以上のガーディアントが吹っ飛んでいく!
「まったく……不謹慎だけど、鍛え直したおれ達の力を存分に振るえると思って、ちょっと楽しみにしてたのによ……期待外れだぜ」
本当に不謹慎極まりないが、李奉は敵の……いや、敵とも呼べない不甲斐ないグノス軍に失望していた。
そんな彼の後ろに忍び寄る影……油断している彼を突き刺そうと剣を構えてガーディアントが突進してくる!
「ハイィッ!」
ブスッ!ブスッ!ブスッ!
ガーディアントの奇襲は失敗に終わった。切っ先が無防備な背中に触れようとした瞬間、逆にガーディアント自身が光の矢によって貫かれたのだ!
その矢を放ったのはもちろん文醜と連携することを前提に開発されたピースプレイヤー、顔良だ!
「偉そうなことをだらだらとしゃべっている間に、後ろから刺されました……なんて笑い話にもなりませんよ。いつも、いつもサポートするわたしの身にもなってください」
顔の右側を隠したピースプレイヤー顔良が呆れながら自身の対となる文醜の下へと歩み寄る。その言葉から彼らにとって今の一連の行動は毎度お馴染みのことらしいことがわかる。そう、これはいつものことなのだ。
「はははっ!悪い!悪い!どうせ義兄弟がやっつけてくれるから、気づいていたけど無視してた!!」
「でしょうね……」
李奉は油断していたわけではなく、義兄弟である周元に面倒ごとを丸投げしていただけなのだ。
そして、豪放磊落な彼のことを周元も文句を言いながらも理解して、受け入れている……だから義兄弟の契りを結んだのだ。
「さて……談笑はここまで……」
「おう!」
義兄弟が仲睦まじく話している間に、彼らはガーディアントの群れに包囲されていた。けれども、二人が動じることはない。これもわかってやったことなのだから。
「雑魚どものために動き回るのはだるいからな……そっちから来てくれた方がありがたい!!」
文醜は大斧を両手で握り締め、彼曰く雑魚どもに睨みを効かす。
「そうですね……さっきはああ言いましたけどわたしも手応えがなさ過ぎて辟易していたところです……!」
義兄弟と背中合わせになり、顔良は新たに長槍を召喚し、構えた。
「というわけでどしどし襲いかかって来てください……」
「おれと義兄弟が全員ひねり潰してやるからよ!!」
そのお願いを聞き入れたかのように、ガーディアントが包囲をジリジリと狭めていき……飛びかかった!
「背中は……」
「任せたぜ!」
「「義兄弟!!!」」
「あっちは仲良さそうでいいですね……」
元テロリスト達の戦いを上から目線で観察する男が一人……。ちなみに上からというのは精神的なことを言っているのではない……本当に上から、正確には上空に飛ばした小型メカから送られた映像を見ているのだ。
「はぁ……また君が恋しくなってしまったよ、ヨハン。このヤーマッツが操る小型メカ、『ソルミ』……これでまた君の狙撃を手助けしたいよ……いや、実戦で使うことはついぞなかったけど……」
かつてのハザマ親衛隊ではスナイパーであるヨハンを所謂スポッターとしてシゲミツはサポートしていたのだ……今、言ったように訓練でしかやったことないけど。
「カルロもカツミさんも勝手に行っちゃうし……ベタベタするのは嫌だけど……もうちょっと仲間意識というか……ん?」
ぶつぶつと一人愚痴を言っていたシゲミツ……。そんな彼もいつの間にかガーディアントに取り囲まれていた。
「いや……羨ましいと言ったのは、彼らの仲睦まじい様子で、あなた達に囲まれるのは別に……」
「………」
「会話する気はないと」
その通りだ!と言わんばかりにガーディアントが四方八方からヤーマッツに襲いかか……。
バシュン!
「!?」
ガーディアントの剣が空から降ってきた光により叩き落とされた……全員同時に。「ブリードン社製のピースプレイヤーは花山重工製のものに比べて奇抜というか、歪なものばかりで評価は低いんですよね。いや、あの立方体や人間蒸し器を見たら誰だってそう思うのは当然です……でも、このヤーマッツは違う……」
べらべらと敵陣のど真ん中で頼んでもいないのに長々と講釈垂れるシゲミツ。
当然、敵はそれを黙って聞いてくれる訳もなく、殴り……。
バシュン!
「――!?」
かかれない!また光が降って来てガーディアントの腕を貫いたのだ!腕に空いた穴を抑えながら後退する敵にシゲミツは呆れ返る。
「人の話を最後まで聞かないから、そうなるんですよ。今、あなたの腕を貫いたのが、ヤーマッツの力、ヤーマッツが傑作たる所以です」
そう言うと彼の周りを空から降りてきたソルミが囲む。そう、今までの攻撃は彼の頭上に待機していたこのソルミによる狙撃だったのだ!
「偵察に攻撃に何でもござれな万能メカ、ソルミ……これを特級ピースプレイヤーの特性を生かし、装着者の脳波とリンクさせることによって感覚的に、そして自由自在に動かす……素晴らしいとは思いませんか?」
当たり前だが、返事はない。ガーディアント達はシゲミツの話なんて右から左に聞き流して、ただただ隙を伺っていた。
これにはいつも冷静で穏やかなシゲミツも激オコである。
「人の話を聞かないなんて……お行儀が悪いし!何より……寂しいじゃないか!!」
バシュン!バシュン!バシュン!
ソルミが高速で動き回り、ガーディアントを前から、後ろから、横から、上から、下から、とにかく全方位から攻撃していく!
文字通り逃げ場のないガーディアント達は為す術なく撃ち抜かれ、その場に倒れた。
「ふぅ……本当……一人ぼっちで寂しがり屋のボクにぴったりだよ、このヤーマッツは」
「駆けろ!黒嵐!唸れ!豪風覇山刀!!」
ブオォォン!!!
その巨大な矛を振るうと嵐が巻き起こり、視界に映る全ての敵が吹き飛んだ!
相棒である黒嵐とともに戦場をところ狭しと駆けながら、項燕はグノス軍の戦力を凄まじい勢いで削っていた。
彼の驚異的かつ圧倒的な活躍を可能にしているのが、師匠から受け継いだ伝説の武器、豪風覇山刀である。
「よし!いい感じだ!修行の成果が出たな!」
ブオォォン!
「次ィ!!!」
敵を蹴散らす度に、蓮雲の身体中に喜びが駆け巡った。彼もまたネームレスのようにシムゴス戦での自分の不甲斐なさを責め続けていたのである。口にこそ出さなかったが、この戦いにかける思いは人一倍強かった。
「もうおれは誰にも負けん!シムゴスにも!ネームレスにも!ナナシにもだ!!」
実際にはシムゴスとネームレスはともかく、単純な戦闘力では既に彼はナナシガリュウを超えて、ネクサスのいや、神凪トップクラスの実力を手に入れていた。
そう、あくまでトップクラスの……。
ドゴオォォォォォォォン!
「ぐっ!?また……」
遠くの方で轟音と共に大量の……項燕がやったよりも多くのガーディアントが吹き飛んだ!これと同じことが先ほどから何度も……。
もちろんそんなふざけた真似ができるのはこの戦場にたった一人しかいない。
「……悔しいが、上には上がいるってことだな……!」
「うおぉらぁ!!!」
ドゴオォォォォォォォン!
「もう!一丁!!!」
ドゴオォォォォォォォン!
そのピースプレイヤーが巨大な手甲のついた拳を振るう度に、多くのガーディアントは砕けた装甲をばらまきながら、彼方へと飛んで行った。
その圧倒的なピースプレイヤーの名はエビルシュリンプ!装着者はカツミ・サカガミ!AOFの隊長達に並ぶ神凪の最強戦力の一人である!
「オラァ!!!」
ドゴオォォォォォォォン!
またたった一撃で撃破数を稼ぎに稼ぎまくる。この時点ではもちろんトップ……というか、この戦いでの撃墜王はもう既に決まったも同然である。
「このまま一気に決めてやる!!」
ドゴオォォォォォォォン!
特級ピースプレイヤーやアーティファクトに頼らずにここまで強くなれるものなのか、誰しもが思うだろう。だが、実際に彼はそれらを使う者と同等か、凌駕するほどに強い。
この世界が生んだ謎、バグ、特異点であり、人間という種の到達点がカツミ・サカガミという男なのだ!
「まだまだぁ!!!」
ドゴオォォォォォォォン!
戦争序盤は一部の規格外の怪物達の活躍もあり、神凪が圧倒的優位に進めていた。




