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No Name's Nexus  作者: 大道福丸
Nemesis
125/324

宣戦布告

「グノス帝国だと……?」

「それに今……皇帝って……」

「どういうことだよ、こりゃ?」

 自然と立ち上がってしまったケニー達三人が思い思いに呟く……呟くだけしかできない。

 正直、まだ状況を飲み込めていないし、あまりに予想外の出来事にショックで完全に頭がフリーズしている。


『もう一度言う。わらわはグノス帝国皇帝、ラエンである。故あって、所謂、電波ジャックとやらをさせてもらった』


「電波ジャック!?……マイン!」

「はい!」

 先ほどまでの和やかな雰囲気はどこへやら、いつの間にか仕事モードになっているケニーが、同じく脳内スイッチを切り替えたマインの名前を呼ぶ……それだけで何を求めているのかわかる信頼が二人にはある。

 ケニーはリモコンを持ち、チャンネルを変え、マインは自分のタブレットでテレビが見れるアプリを起動し確認する。

 その結果は……。

「全部、同じ……同じ、この映像が流れています!」

「こっちもだ!どのチャンネルもこの女が映ってやがる!」

 ここに来てようやくテレビが故障していないことがわかった訳だが、何にも嬉しくない。どんな理由があるのかはわからないが電波ジャックなどただのテロだ。神凪の人間としてはそんなことをする奴は例え絶世の美女だとしても許せない。

 さらに言えば、テレビの中の彼女が名乗った素性は神凪国民にとって、あまりいい印象を抱くものではなかったからだ。

「なぁ、親父、グノス帝国って確か……?」

「あぁ、大昔に神凪に攻めて来て戦争になった国だ。でも今は……マイン」

「はい、今は特別仲がいいというわけでもありませんが、国交もあります……それがなんで……」

 緊急事態で頭が回っていないのを自覚しているのか三人は神凪国民なら誰でも知っているようなことをわざわざ声に出し、確認する。もしかしたら実際は黙っていると不安になるから、気を紛らわすために話しているだけなのかもしれない。

「んで、そのグノス帝国の皇帝陛下が何がしたくて、電波ジャックなんかしてんだ?」

「さぁな……きっとこれから話してくれるんだろうぜ」

 娘の質問にぶっきらぼうに答える義父……あんまりな言い方だが、まっとうな意見というか、そうとしか答えられない。それにケニーは電波ジャック以上に疑問に思っていることがあった。そして彼と同じ事をマインも考えていた。

「ケニーさん……グノスの皇帝って、私の記憶が間違っていなければ、かなり前に代替わりして、それからずっと変わっていないはずですよね……?」

「あぁ、そうだ。オレはしっかりと覚えているよ。なんてったって神鏡戦争の直後だったからな、グノスの前の皇帝が死んだのは……」

 ケニーが知る由もないが、裏から鏡星を操り、神鏡戦争を引き起こした黒幕こそグノスの前皇帝であり、その失敗を自らの命で贖えと難癖をつけて、殺害し、まんまと簒奪に成功したのが今、テレビに映っているラエンである。

 しかし、今は彼女が皇帝になった経緯などはどうでもいい。ケニー達が問題にしているのは彼女のその美貌である。養父達の会話を聞いていたリンダもそのことに気づいた。

「いや、だとしたら若過ぎねぇか?あたし達とそう変わらないだろう、こいつ……」

 皇帝陛下に対する口の聞き方ではないが、リンダの疑問は最もだ。どう見てもラエンがそんなに年を取っているようには見えない。さっきのドラマの俳優だって今はしっかりと老けていたんだから皇帝だってシワの一つや二つは刻まれてないとおかしい……。けれど、彼女の肌はシワ一つなく、憎らしいほどきれいだった。

 現実にはあり得ないこと、だが現実に存在している……ならば理由を考えなければいけない、無理やりにでも。

「リンダが言う通り、若過ぎる。何でこんなにこのラエン皇帝は若いのか……いくつか理由が考えられるが……」

「なんだよ!?言って見ろよ!?頭でだけ考えてたって答えは出ないぞ!」

「そう……だな。じゃあ、まず一つ目は……オレ達が把握してないだけで代替わりしている。こいつは最近皇帝になったばかりの新人皇帝ってことだ」

「それが一番現実的ですね。そもそも前の皇帝が亡くなってから、今の皇帝は姿を民衆の前に現してないですし」

 うんうんとマインが頷く。ケニーの一つ目の予想は当たり障りのないものだったが、それ故に納得できるものだった。

 だが何故か言ったケニーも、同意したマインも心の底ではその説が間違っていると感じていた。

「二つ目は、所謂、幼帝……皇帝になった時は子供だったか……」

「それもありますね……若さは勿論、姿を見せなかった理由も説明がつきます」

「あぁ……子供だからって舐めてかかる奴もいるだろうし、帝国内でも悪巧みする奴も出てくるだろうからな」

 二つ目の予想もシンプルかつ現実的なものだった。そしてここまでの二つのどちらかであって欲しいとマイン達は心から思っていた……。

 今までの経験から最悪の……しかも、残念なことに実際にラエンの秘密の核心を突いている予想が別にあるのだ。

「で、三つ目は……考えたくないが、このラエン皇帝陛下が普通の人間にはない能力を持っている……」

「な!?」

 黙っていたリンダが突拍子もない声を上げる!ネクサスの頭脳担当ではない彼女はどこか他人事のように二人の議論に耳を傾けていたが、急に自分に関係のある話になったからだ。

 特別な能力を持っているという点ではネクサスは勿論、神凪においても彼女が第一人者であるのは、疑いようもない。

「まさか……あいつもあたしと同じエヴォリストなのか……?」

 恐る恐る義父の顔を覗き込むリンダ。それに対してケニーは困ったような表情を見せる。あくまで今の話は推測に過ぎないから何と答えていいのかわからないのだ。

 そんな彼に横から眉目秀麗な部下が助け船を出してくれた。

「リンダさん、エヴォリストとは……限らないんじゃないんですか……?」

「ん~確かにそうなんだけど……あたしの頭じゃ、それくらいしか思いつかない……っていうか、他に何がある……?」

「ブラッドビーストかもしれないですよ」

「ブラッドビースト……?あいつらって怪物に変身するだけじゃなくて、そんなアンチエイジングみたいな効果もあるのか……?」

「いえ、そんな効果はないです。少し、言葉足らずでしたね。私が言いたかったのはブラッドビーストの進化……いや、派生系と言った方がいいかもしれませんね……」

「派生系……?」

「ええ……ドクター・クラウチが自らに投与したものです」

「あっ!」

 リンダはつい先日、その話を、それこそ目の前にいるリンダから聞いたばかりだった。長年に渡り神凪を苦しめてきた憎むべき仇敵の哀れな顛末を……。

「そういや言ってたな……ヨボヨボのくそジジイのクラウチが、自分で作った薬を打ったら若々しいくそマッチョになったって」

「はい。クラウチが作ったのは結果的に失敗作で、またお爺さんに戻ってしまったみたいですけど、グノス帝国にはその成功版を製造できる技術があるのかも……」

「で、それをこの美人皇帝陛下はお使いになられてると」

「ええ……その可能性もなきにしもあらず……ってだけですが……そうだといいな……と……」

 言葉とは裏腹にマインは今自分が言ったことを強く信じている……いや、信じたいのだ。

 これまで多くの修羅場を乗り越えたことによって身についてしまった悲しき性……。彼女の頭脳は勝手に危険だと感じたものと、ネクサスが戦うことをシミュレーションしてしまうのだ。今もラエンと戦いになったらと頭の片隅で考え続けている。そしてこの場合クラウチと同じ技術を使ってくれていた方が都合がいいのだ。

(クラウチと同じなら今まで得た情報を元に対策を立てられるはず……そもそもすでに勝っていますから、きっと大丈夫……だけど、エヴォリストだとしたら……ネクサスは一度もエヴォリストとは戦ったことがないから、どうなるかわからない……)

 彼女は無意識に、必死にラエンがエヴォリストだという推理を拒絶する。

 そんな彼女の心中を察したのか、助けてもらったお礼かケニーが優しくマインの肩に手を置いて、励ます。

「まぁ、全部オレ達の思い過ごしで、めちゃくちゃ若作りがうまいだけかもしれないぞ」

「ケニーさん………だとしたら、是非ともその方法ご教授願いたいですね……」

「あたしも、あたしも」

 時間的には大して経っていないはずだが、三人の体感的には久方ぶりの和やかな空気が、喫茶店内に充満した。

 その雰囲気を画面の中の他国の皇帝陛下が容赦なくブレイクする。


『そろそろ……いいだろうか……』


「――!?」

 再び三人の視線が、いや神凪国民の視線がラエン皇帝に集中する。まるで議論が終わるのを待っていたかのような言動にリンダは背筋を凍らせた。

「こ、こいつ……あたし達の話を聞いていたのか?」

「いえ……さすがにそれはないと思いますよ……」

「でも、そろそろ……って……」

「そろそろ今、テレビを見れる状況にある神凪国民はみんな見てるだろうってことだろう。こんなド派手なことをするんだ……一人でも多くの人間に見て欲しいんだろうぜ……!」

 ケニーの推察通り、ラエンはわざわざ皆がテレビの前に集まる時間を作っていただけだ。彼女にとってはもちろん、グノス帝国にとっても待ち望んだ瞬間……と、勝手に思い込んでいるだけだが、それをちゃんと成功させたいと思うぐらいの人間性はかろうじて残っているようだ。

 そして彼女の狙い通り、神凪国民のほとんどは街のざわめきや、知り合いからの連絡によって彼女の神々しく、傲慢な姿に釘付けになっていた。


『それでは……』


 目を瞑り、呼吸を整える皇帝陛下……。その姿は見ている者全てが息を飲むほど美しい……が、同時に生存本能がざわつく……。

 そして、目を開き、ラエン、一世一代のショータイムが始まった。



『神凪国民の諸君、知っての通り我がグノス帝国と、そなたらが愛する神凪はかつて血で血を洗う戦争をしたことがあった。だが、それは遥か昔のこと!わらわ達が生まれる前のこと!だからグノスは神凪を受け入れ、神凪はグノスを受け入れた!両国の間には確かな絆があった!……あったのだ……』


 凛とした表情、力強い言葉で始まった演説は徐々に弱々しくなっていった……。その儚げな姿に視聴者はさらにのめり込む……。彼女の狙い通りに……。


『しかし、それも今日、これまでだ!残念ながら絆は断ち切られた!貴様ら神凪の裏切りによってな!』


「な!?」「えっ!?」「いぃ!?」

 テレビの前でケニー達三人が一斉に奇声を上げる!いや、彼らだけじゃない、喫茶店の外でも同じような声が四方八方で上がっていた。

「な、なに言ってやがんだ!?この皇帝様は!?」

「わかりません!神凪がグノスを裏切る……やっぱり意味がわかりません!」

「二人がわかんねぇなら、あたしがわかる訳ないか……じゃないよ!どうしてそうなったかはわかんねぇけど、それをこいつが、皇帝が言ったら、ヤベェことになることぐらいあたしでもわかるぞ!!」

 リンダの言った通り、一国の元首が他国を裏切り者扱いするなど、ただごとじゃないし、とんでもないことになる可能性がある……そうなって欲しいからラエンはこんな茶番劇を嬉々としてやっているのだが。

 未だ混乱が収まらないケニー達、神凪国民を尻目にショーは次のフェイズに入る。


『わらわの言っていることが信じられない、理解できない者も多いだろう……ならば、この映像を見て欲しい』


 ラエンの言葉を合図に画面が切り替わる。今までの鮮明な画質とは打って変わり、荒いモノクロの映像が写し出される。

「なんだ……?これ……倉庫かなんかか……?」


『今、映っているのは、グノスの軍事施設の監視カメラの映像だ』


「あっ、なるほど……確かにそれっぽいな」

 ケニーの疑問にラエンがすぐさま答える……もちろんたまたまタイミングが合っただけだが……。

 そして、疑問が解決すると同時に画面の中、軍事施設に人影が現れる。


『この男はもちろん我がグノス帝国の誇り高き軍人である!この日も職務を真面目にこなしていた!それだけなのに……』


 ラエンの声が再び弱々しく、まるで必死に悔しさに耐えているような……もちろんただの演技なんだが、彼女の計算通りに視聴者は聞き入って、感情移入してしまう。


『……これから流れる映像はかなりショッキングなものだが、諸君らには見て欲しい……いや!諸君らはその目と心に刻みつけなければいけない!その義務がある!』


 煽りに煽る皇帝陛下、視聴者は完全に前のめりだ!

 きっとイベントの司会者とかが彼女の天職なのだろう。そしてそうだったら、皇帝になんてならなかったら神凪とグノス帝国、どちらにとっても喜ばしかったのに……。

「ショッキングって……一体何が……」

 マイン達も他の視聴者達と同様に画面に顔を近づけ凝視している。今、この場にいない仲間達に伝えるためにもできるだけ詳細に見ておかなければという使命感みたいなものもあるのだろう。

「こういう映像……映画やドラマだと殺人シーンだよな……」

「リンダさん!不謹慎ですよ!……って言いたいところですが、私も同じ事を思っていました……」

「そうだよな……こうやって普通に歩いているところで後ろから……グサッ!っと……」


グサッ!


「そうそう、こんな感じ、こんな感じ………ん……?」

「はい?」

「あぁ?」

 リンダの予言がものの見事に当たってしまった。画面の中の軍人の腹から刃らしきものが生えてきた!もちろん本当に生えたのではなく後ろから刺されて刃が貫通したのだ。

 ラエンの注意と予想が的中したことによってリンダ達は悲鳴を上げるようなことはなかったが、呆気にとられてしまった。けれど、彼女達が真にショックを受けるのはこの後だ。


『おぉ……なんてひどい……我がグノスの軍人が、グノスの民が凶刃の犠牲に……こんな惨いこと一体誰が!神凪国民よ!その目で確かめてみろ!!』


 今までは大女優並みの自然な名演をしていたが、今回のショーのクライマックスに力が入り過ぎたのか、かなり芝居がかっていた。しかし、視聴者は画面に集中しているか、ショックでテレビの電源を切ってしまったかのどっちかなので問題はなかった。そして、彼女のくさい生ナレーションに合わせて、軍人は倒れ込み、犯人が姿を現す……。

 その姿はマイン達には馴染み深いものだった……。

「何ぃ!?」

「そんな!?嘘!?」

「ガリュウかよ!?」

 画面に映し出されたのは、彼女達の仲間であり、神凪のために戦い続けた守護竜の姿!これには三人も大きな声が出てしまう!むしろ声が出たのはこの三人だけかもしれない。事実、今回は喫茶店の外からは何も聞こえなかった。


『知っている者も多いだろうが、この殺人者は“ガリュウ”!お主ら神凪のピースプレイヤーだ!!』


(やっぱりガリュウ……いえ……)

(ふざけやがって……他の奴はともかくネクサスのメカニックであるオレの目を騙せると思うなよ……!)

 ダメ押しとばかりにラエンがガリュウの名を口にする。だが、そのことが逆にマインやケニーを冷静にさせた。

 二人の知っているガリュウがそんなことをするわけがないのだ。


『そして、このガリュウは一人殺害しただけでは飽きたらず……この軍事施設を破壊して回った!ここにいた我が誇り高きグノスの軍人を殺して回ったのだ!!』


 画面が切り替わり、ラエンの言葉通り暴れて、周囲を壊し、異変を察知したグノスのピースプレイヤーを返り討ちにするガリュウの姿が映った。

 その動きはナナシよりも繊細で、ネームレスよりは荒々しかった。

「おいおい!?ナナシの野郎!いつの間にこんなひどいことを……」

「違いますよ、リンダさん……」

「えっ、でも………あっ!これ、ネームレスか!この野郎!なんだかんだ悪い奴じゃないと思ってたのに!……直接、会ったのは一度だけだけど……」

「いや、それも違うぞ」

「そうだよな!違うよな!……って、ええ!?」

 一人取り残されているリンダに否定の嵐を浴びせる父と友……彼らがそれに気づいたようにリンダも落ち着いて考えればわかるはずだ。トリックとも呼べない簡単なことに……。

 彼女は画面の中の竜を再び凝視する。

「んん……違うって……これどう見ても……ガリュウ……で、ガリュウは二体……装着できるのはナナシとネームレスの二人……その二人じゃないとすると……ん?これもしかしてガリュウじゃないのか?」

「正解。多分……だけど、こいつはガリュウじゃないよ」

 答えにたどり着いた娘を褒める父。冷静に考えれば、画面に映っているのが本物のガリュウだとは言い切れないのだ。

「えっ、じゃあ、こいつは何なんだよ?」

「だから、偽物だろ」

「偽物って……」

「形だけなら、いくらでも真似できる……きっとこいつは特級ピースプレイヤーですらないよ。画質が荒くて細かいところがわからないが、実際に目にすると何か違いがあるはずだ……」

「そっか……形だけなら最悪、ピースプレイヤーですらないただのコスプレでもいいもんな……この画質ならごまかしもきくし……」

「そういうことだ」

 リンダもようやくテレビで大立ち回りしているガリュウが偽物、ナナシやネームレスでない可能性に気づいた。けれども、そうなると別の疑問が湧いてくる。

「じゃあよ、こいつが仮に偽物だとすると何者なんだ?何のためにこんなことをするんだ?」

「それは……可能性としては二つ……一つは第三者がこの偽ガリュウを使って神凪とグノスを揉めさせようとしている……そして、二つ目は……」

 ケニーの口がどっと重くなる……彼としては今、述べた第三者の介入説の方が都合がいいのだ。誤解さえ解ければ、最悪の事態を回避できるかもしれないのだから……。

 しかし、二つ目の予想が当たっていた場合、問答無用で神凪にとって最悪のルートに突入することになる……。

 そして、どこかでそうなってしまうのだと確信している。それでも先に進むために、覚悟を決めるためにその重たい口を開く。

「……二つ目は、グノスの……この皇帝陛下の自作自演だ……」

「なっ!?何のために!?」

「……多分、戦争を始めるために……」

「だから!何のためにだよ!?」

 あんまりな発言に娘が父親に詰め寄る。けれど、ケニーは娘の疑問に答えられなかった……。彼自身、こんなことになる理由など見当がつかないのだ。いや、彼だけじゃない、神凪国民はもちろん、グノスの国民も、なんだったら、ラエン皇帝自身も実際のところ理由などわかっていないのだ。

 だとしても、それでも彼女は止まらない、止まるつもりなど毛頭ない!


『この映像を見て、もう十分だと思う者もいるだろう……しかし、神凪の蛮行はこれだけにとどまらない!』


 ラエンがそう仰々しく言うと、画面がまた切り替わり、一人の老人の写真がモニターに目一杯映し出された。

「今度はなんだ!?ジジイの顔なんか映して……!?」

「リンダさん、ジジイじゃないですよ。この方はジェニング大臣……グノスの政治のトップです……」

「お偉いさんか……でも何で……」

「確か先日、亡くなったと……」

 亡くなったのではない、殺されたのだ今、画面に映っている暴虐の皇帝に……。


『彼はジェニング……我が忠臣であり、長きに渡り、大臣として身を粉にしてグノスのために尽くしてくれた立派な男だ……そんな彼は残念ながら先日彼は帰らぬ人となった……だが!その彼の死も神凪の仕業だと判明した!!』


「はあッ!?」

「そんなこと………あるわけない!!」

「証拠出せよ!証拠を!」

 証拠など出せるはずがない。ジェニングの殺害はラエンが衝動的に行ったことであり、偽ガリュウのように以前から練り上げられていた計画にはないものだからだ。ぶっちゃけ、ちょうどいいから罪を神凪に擦り付けてやろう程度のことしか考えていない。

 普通の感覚ならこんな杜撰な真似は避けるだろうが、このラエンという女は全く気にしない。なんだっていいのだ、この後の言葉を神凪の奴らに言ってやれれば……。


『罪を犯した者は罰を受けるのが、世の道理!こんな横暴、愚行に我らは屈しない!愛するグノスの臣民の命と誇りを守るために、わらわは……我らグノス帝国はこのラエン皇帝の名の下に!神凪に宣戦布告をする!!』


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