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No Name's Nexus  作者: 大道福丸
Natural
123/324

エピローグ:フェノン

「これは………オノゴロ……?」

 シドウに案内されるまま、フェノン高原の深い森を抜けたネームレス。

 そこで彼が目にしたのはネクロ事変の最終決戦の場になったオノゴロとよく似た古代の遺物だった。

 サイズこそオノゴロに比べかなり小さくなっているが外見的特徴から同一の技術体系で造られたものだとすぐにわかった。

「どうだ!凄いだろう!!」

 シドウが自慢気に胸を張る。正直、ネームレスと会ってからずっとこれを見せびらかしたくて仕方なかったのである。

「何でオノゴ……古代文明の巨大兵器なんて、シドウさんが持っているんですか……?」

「あぁ……それはな……話せば長くなるんだが……」

「じゃあ、いいです」

「そうか……なら……って、ええ!?」

 ネームレスはシドウの横を通り過ぎ、すたすたと一人、古代の遺物に向かって歩いていく。

 アーティファクトの入手方法など限られているから、わざわざ聞かなくても察しがつく。それよりも目の前にあるそれをもっと近くで見たり、直接触ったりしたい願望の方が勝っている。

 この手の知的好奇心においてはネームレスはナナシに負けず劣らず子供なのだ。

「ちょっ!?ちょっと待って!」

「なんですか、もう……」

「手短に!できるだけ手短に話すから!」

 シドウはネームレスの肩に手をかけ、無理やり彼の足を止めた。何がなんでも話したいのである。

 彼もまたガタイが大きくて、阿保みたいに強いだけのめんどくさい子供なのだ。

「はぁ……わかりました、聞きますよ」

 渋々、振り返り話を聞くことにしたネームレス……以前よりも若干ふてぶてしい態度……。完全適合に至ったことで、良くも悪くも性格も変わったようだ。

「いやな……少し前に依頼があったんだ。新しく発見した古代遺跡の調査のボディーガードだったんだけど、その依頼主がひどい奴でさ。数多のトラップや防衛用のアーティファクトをくぐり抜けて、やっと最深部にたどり着いたら、“お前はもう用済みだ”って、ひどくない?ひどいよな?だから、おれ……」

「そいつをけちょんけちょんにして、報酬代わりに遺跡の奥に眠っていたこれを貰ってきたと……」

「そうそうその通り……って!先に言うなよ……!」

 途中まで聞いて、結末に予想がついたネームレスは話を奪い、勝手に終わらせた。

 ショータイムを邪魔されたシドウはガックリと肩を落とす。恩を仇で返すとはこのことだろう。

「まぁいいや……早く乗りたくてそわそわしているんだもんな?それはそれで気分がいい!」

「はぁ……」

「んじゃ、改めて招待するぜ!おれの『グレイトフル・シドウ号』に!」

「うわぁ……」

 あまりにもあれなネーミングセンスにあからさまに引いてしまうネームレス。しかし、彼も彼でネーミングセンスが結構あれなので、引く権利などないはずである。

 そんなさっきから恩知らずなことばかりしている彼に罰が当たったのか、彼の心中を察したシドウが詰め寄った。

「うわぁ……ってなんだよ……?」

「い、いや、似たような名前の船を知っているんで、つい……」

「そうか……その船に名前を付けた奴はセンスあるな。いつか会ってみたい」

「そうですね……会えるといいですね……」

 なんとか誤魔化すことに成功したネームレス。嫌な思い出ばかりのビューティフル・レイラ号に初めて感謝した。

(あの船に乗ったことがこんな形で役に立つとは……それにしても、ビューティフル・レイラ号とグレイトフル・シドウ号はネーミングセンス的には同じレベルだけど、自分の名前の分、痛さのレベルはシドウさんが上だよな……)

 またまた恩知らずなことを考えて、ぼーっとするネームレス。

 一方、先ほどから凄まじい切り替えの早さを披露しているシドウはすでにご自慢のグレイトフル・シドウ号の入り口に着いていた。

「何してるんだよ?早く来い!」

「は、はい」

 マイペースな恩人に急かされ、ネームレスは彼の下に小走りで駆け寄った。

(強い自意識や切り替えの早さ……あの人の半分でいいから、俺にあったら、きっとあっさりガリュウと完全適合して、こんな大変な思いをしないで済んだのになぁ……)



 グレイトフル・シドウ号の内部はやはりオノゴロと酷似していた。もちろんナナシと協力しネクロと戦ったあの巨大空中要塞と比べるとせせこましい感じは否めないが。

「中も凄いだろ?」

「ええ、外で見るより思いのほか……なんていうか……あれで……凄い!!」

「思いのほか、語彙力ねぇ!」

「本当に凄いものを目の前にすると、人は言葉を失うんですよ」

「まぁ、そういうことにしといてやるか。この先が操縦席だ……ずっと森に籠っていたから久しぶりだぜ。えっと……扉を開けるのは……これか」


ブシュー……


 シドウが最奥にある扉の横のパネルを押すと扉は勢いよく開いた。

 扉の先には大人が三、四人ほどが寝転がれる位の空間に機械らしきものがぎっしりと詰め込まれていた。

「もう一度言わせてもらう!凄いだろう!ここでおれはこいつを華麗に操ってこのフェノン高原に来たんだ!」

「へえ……」

「な、なんだよ!?その目は!?」

 ネームレスがじとーと疑惑の目を向ける。彼は素直にシドウの言葉を信じられなかった。もう彼は目の前の男のことを恩人だとも憧れてもいないのかもしれない。

「いや、さっき扉を開けるのに戸惑っていましたよね……?初見の俺でも横のパネルを触れば開くってわかったのに……」

「そ、それは……」

「前に一緒に依頼を受けた時もあなたは戦闘に関しては一級品でしたけど、機械に関してはからっきしでしたよね……?」

「うっ!?」

 完全に図星を突かれてたじろぐシドウ。彼にとって機械音痴というのはかなりのコンプレックスなのだ。

「そうだよ……おれはこの手の機械は苦手で仕方ねぇ……ピースプレイヤーの構造だってよく分からないのに使ってるし……」

「いや、それは俺も同じ……というか構造まで理解してピースプレイヤー使っている奴なんて人間の方が少ないと思いますよ……」

 落ち込むシドウに声をかけ続けてはいるが、ネームレスの興味は別のところに移っている。

 周りをキョロキョロと見渡し、何か……誰かを探す。

「ん?どうしたんだ……?」

「いや……シドウさんがこんなマシンを操れないなら……他に……」


「お主が探しているのは拙者のことですな!」


「ん?」

 ネームレスが振り返るとそこには、見ず知らずの男が大きく胸を張り、腰に手を当てて立っていた。

 彼自身が認めたようにその男こそがネームレスが探していた目当ての男だ。

「シドウさん……」

「あぁ、紹介する……こいつは最近おれの仕事を手伝ってくれている……」

「シドウ師匠の一番弟子!『ウェスリー』と申します!以後、お見知りおきを!」

「ど、どうも……」

 ウェスリーと名乗った男はそう言って力強くお辞儀をすると、ネームレスは気圧された……というより引いている。苦手なタイプなのだろう。

 その横でシドウは深いため息をついていた。

「はぁ……弟子は取らないって言ってるだろうに……」

「何故ですか!?拙者は師匠の強さに惚れ込んだんです!いつか師匠のように最強無敵になりたいんです!!」

「おれは最強無敵じゃないし……むしろおれ自身、それを目指して修行している身だっていうのに、弟子なんて……」

 どうやらこの師弟関係は一方的なものらしく、ウェスリー的には師匠ということになっているシドウはあからさまに嫌がっている。

 それでもシドウにはこの押し掛け弟子を無下にはできない理由があった。さっきネームレスに指摘されたあれである。

 だからこそウェスリーもこうして強気でいられるのだ。

「そんなこと言っていいんですか……?」

「あぁ?なんだよ……その言い草は……」

「拙者がいないとこのグレイトフル・シドウ号は動かせませんよね……?」

「うぐっ!?」

 ネームレスの推察通り、ウェスリーがこの船の全てを取り仕切っていたのだ。そのせいでシドウは彼に頭が上がらない……師匠なのに。

「師匠が凄いのは剣の腕だけですからね」

「お前……本当はおれのことバカにしてるだろう……?」

「いやいや、全然!この世界の誰よりも師匠のことを尊敬していますよ!」

「本当か?」

「本当、本当!マジ本当!」

「尊敬する師匠への言葉使いじゃねぇ……」

 何だかんだ言ってはいるが、二人の関係は見るからに良好であり、見ているネームレスの口角も自然上がっていた。

「ん?貴様………」

「えっ……なんだ……」

 そんなネームレスに気づいたウェスリーが鼻息荒く近づいて来た。ネームレスは無意識に彼の機嫌を損ねる行為をしてしまったのかと戸惑い、立ち尽くす。

 しかし、ウェスリーの口から出た言葉は彼の予想を越えていた。

「新入り!」

「えっ?新入り……?」

「一番弟子は拙者だからな!貴様は拙者を兄弟子と敬えよ!!」

「はい?」

 ウェスリーはネームレスもシドウに弟子入りしに来た者だと勝手に思い込み、勝手にマウンティングしてきた。呆気に取られるネームレス。しかし……。

(弟子では……ないけど……そもそも俺がここに来たのはシドウさんに教えを乞いに来たわけだし、実際、かなりのスパルタなレッスンを受けたわけだし……完全に否定するのも違う気が……)

 弟子入りはしていないが、薫陶を受けたという微妙な関係……。悩むネームレスにウェスリーは急かすようにずっとキラキラと輝く目で睨み付けている。

 そんな状況で彼が出した答えは……。

「……よろしくお願いします、兄弟子……」

「お、おう!それでいいんだ!弟弟子!」

 ネームレスはウェスリーに従うことにした。弟弟子ということになってしまった彼が頭を軽く下げると気を良くした兄弟子が肩をバンバンと叩く。きっと考えるのがめんどくさくなったんだろう。

 厄介なことになった彼を見かねたシドウが話を切り上げ、本題……この船に彼を呼んだ理由を告げる。

「まぁ、弟子でもなんでもいいけどよ……ネームレス、お前はこれからどうするんだ?」

「えっ?俺はとりあえず神凪に戻ろうかと………今回のことで世話になった人がいるんで、その人にはちゃんと報告しておかないと」

 シドウと同じように船に自分の名前がついているパトロンのことを思い出す。考えてみれば彼女には世話になりっぱなし…… そろそろ恩返しの一つでもしたいのだがと彼は思っているのだが……。

「やっぱりな。だったらこの船で送ってやるよ」

「えっ!?」

 故郷に残した女を想い、呆けている……というわけではないが、レイラのことを考えていたネームレスにまさに渡りに船な提案をする。

 突然の朗報にネームレスの顔も緩む。

「本当ですか?」

「本当、本当。マジ本当。お前が嫌じゃなけりゃな」

「嫌じゃないですよ。実はここに来ること、完全適合を会得することだけに集中し過ぎて、うっかり帰りはどうするかは何も考えていなかったんです」

「ええ……」

 まさか片道切符、帰宅はノープランだとは思っていなかったシドウはドン引きする。あの完全適合して、圧倒的な力を発揮したネームレスガリュウにも怯まなかった男が恐れおののいたのだ。

「ネームレス……お前って、賢そうな見た目と違って、その場の勢い任せで生きてるよな……」

「面目ない……」

 思い込んだら一直線……それが自分の悪癖だということはネームレス自身重々理解していた。それでも、どうしても直せないから悪癖なのだ。

「まっ、いいや。とにかく送って行ってやるよ」

「何から何まで……本当にありがとうございます」

「そう畏まるなって。なんだかんだおれも楽しかったしな。それに神凪に送るとは言ったが、正確には神凪の近海までだ。実際に入国するとなると手続きとか大変だからな」

「それで十分ですよ。俺も正規の方法で入国となると色々面倒ですから」

「そうなのか?まぁ、ゴムボートはくれてやるからよ。あとはそれでなんとかしてくれ。確か、緊急用のが何個かあったよな、ウェスリー……?」

「……はい……ボートはありますけど……」

 尊敬する師匠に話しかけられたというのにウェスリーの顔は曇り、口ごもった。というより、最初の無駄に元気な姿が嘘のように、先ほどから、神凪の名前が出てから、ずっとおとなしくしていた。

 これが彼の本来の姿かというとそうでもないようで、シドウが怪訝そうな顔で問いかける。

「どうした……?まさか弟弟子が困っているのにゴムボート一つをケチってるんじゃないよな……?」

「ち、違いますよ!ただ……神凪に行くんですよね……?」

「おう、そうだ。なぁ?」

「はい……何か不都合でも……?」

「いや……」

「なんだ!?さっきからまどろっこしい!言いたいことがあるならはっきり言え!」

 理由はわからないが、しどろもどろしている弟子を師匠が一喝する。そう言われると弟子も覚悟を決めて、話さなければいけない。

 とても口にするのも躊躇することだとしても……。

「……多分、今、神凪には入国どころか近づくこともできないと思いますよ……」

「それはどういうことですか……?」

「ネームレス……実はお主の故郷、宣戦布告された」

「…………なん……だと……?」

 仲間として始まり、今やネームレス最大の仇敵になった仮面の奴との因縁が再び動き出した。


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