エピローグ:グイテール
「ヤクブが言っていたのは……ここだね……」
ヤクブ達との決闘の次の日、テオ、ナナシ、ヨハン、マリア、フィルの王位奪還チームの五人は王都から少し離れた郊外にある古びた大きな建物を訪れていた。
「あいつの話じゃここに魔竜皇がいるんだな……」
ヨハンは獣の本能で何かを感じ取っているのか、いつもの軽い感じがない。どうやら柄にもなく緊張しているようだ。
「見た感じは何の変哲もない……正直、つまらない建物ね……」
その建物はマリアの琴線に触れなかったらしく、彼女はあからさまにがっかりした。魔竜皇なんて呼ばれ、畏怖される怪物を閉じ込める建物と聞いて色々と期待していたのにあっさりと裏切られてしまった。
「確かにつまらない……というより敬意を感じない。魔竜皇を迎え入れるには相応しくないな……!」
マリアとは違い、フィルは感情的に……憤りを感じていた。この島の住人からしたら島の守護神の雑な扱いに思うところがあるのだろう。
「ナナシさんはどう思いますか?」
「…………」
「ナナシさん?」
「ん?テオ、何か言ったか……?」
この場所に一番来たかったはずのナナシは心ここに在らずといった様子で、テオに話しかけられたことにも一瞬、気づかなかった。
「どうしたんですか?昨日はあんなに張り切っていたのに……」
そんな意図はないだろうが、テオの言葉は若干嫌味ったらしかった……そのせいか、ナナシの言葉にも僅かに刺が出る。
「まっ、一夜明ければ気分も変わるさ……本当は昨日の内に来たかったんだけどな……」
「済まなかったな、わたしのせいで……」
「フィル!別に君のせいじゃ……」
本当は昨日、この話が出た直後にここに向かう予定だったが、フィルが思っている以上に体調が芳しくなかったため、一晩休むことになったのだ。
フィルはそれについて皆に申し訳なく思い、弱気に……いや、正確にはそのことや、昨日語られたことが彼のプライドや責任感を傷つけたからだろう。
「薬師であり、セルジ様の専属医師でもあったわたしがこの体たらく……そもそもわたしがセルジ様の不調がククルカンのせいだと気づいていれば、ヤクブが簒奪をなどという愚かな考えを持たなかったかもしれないし、魔竜皇もこんなことに……!」
「別に、それはフィルのせいじゃ……」
「いえ、わたしのせいです。それに、この身体の治療もテオ様がククルカンの力で……わたしの役目は終わったのです!」
「フィル……そんなことないよ……!」
このめんどくさい薬師は完全にいじけていた。本来は自分が主人であるテオの身体を治療するのが筋のはずなのに、その主人はククルカンを手に入れて自力で回復、あまつさえ自分の傷の治療もしてしまって立つ瀬がないのだ。
そんな肩を落とす薬師の姿がナナシにはあのお転婆なエヴォリストに重なって見えた。
「テオ、そっとしておいてやれ」
「でも……」
「俺もフルリペアを会得して自分で自分の治療が出来るようになった時、それまで俺の治療をしてくれる女性がこんな感じになったことがあった……」
「その彼女は今は大丈夫なんですか?」
「あぁ、俺の場合は、俺自身しか回復できないし、彼女はその元となる心の力を回復できたからな」
「わたしはそんなことできない」
「フィル………あぁ!もうナナシさん!?」
ナナシの言葉を聞いて、さらに自分が不必要だと感じて薬師は落ち込んだ……。事態を好転させるどころか悪化させるナナシをテオが睨み付ける。元はといえば、こんな話になったのは彼が発端だ。
さすがにバツが悪くなったのか、ナナシが言い訳じみたことを言い始めた。
「いや、だからその内、自分が必要だと思えることに出会えるから放っておけって。今は何を言っても無駄……逆に惨めにさせるだけだ」
「そういうものなんですか?」
「そういうもんだろ。なぁ、フィル?」
「はい、テオ様、今はそっとしておいてください……」
「はい!だから、この話はおしまい!早く行こうぜ!」
「はぁ………じゃあ、行きましょうか……」
ナナシが無理やり話を切り上げ、建物の中に入ろうとテオ達に促す。
テオはその態度に納得いっていないが、このままグダグダと薬師を励ましても確かにしょうがないと思ったのか、先頭を切って歩き出した。
「この扉から入れそうですね……皆さん、宜しいですか?」
「もちろん」
「おう」
「ええ」
「はい…………」
テオは扉の前でみんなに最終確認を取る……一人元気がない奴が気になるが、とりあえず皆も覚悟ができているようだ。
「では……よっと!」
ガゴ………
重厚な扉をテオは小さな身体全身を使って押し開ける。開けた瞬間、中から埃が舞い出てきて、潔癖気味のヨハンが嫌そうな顔をした。とはいえ、入らないという選択肢はないので、テオに続いてさらに埃っぽい建物の中に足を踏み入れる。
「あれか、テオ……?」
「でしょうね……ぼくも実際に見たことないので、絶対とは言い切れないんですが……」
「……ったく、こんなところでよく寝れるぜ……」
建物の中心部に“それ”は寝ていた。
巨大な竜……そうとしか形容できない姿の怪物が身体を丸めてすやすやと気持ち良さそうに、天井のないこの建物で日向ぼっこをしながら寝息を立てている。一応、逃亡阻止用に鎖で繋がれていたが、とてもじゃないがそんなもので止められるようには見えなかった。
「こんな巨大なオリジンズ……どうやって建物に……?」
テオが魔竜皇の姿を見て、まず初めに頭に浮かんだのが、そんな素朴な疑問だった。だが、それはあっさり解決する。
「この建物、天井がないから上から入れたんでしょうね」
「上から……ですか?」
「ええ、複数の……かなりの大人数のストーンソーサラーが念動力で浮かせて、上からね」
「なるほど……森にも足跡がたくさん残ってましたから、きっとここまでもそうやって運んだんですね」
一同が合図したわけでもないのに一斉に上を向く。そこには青い空が広がっていた……。きっと、この天井がないところが良くてここが選ばれたのだろう。
そして、搬入の疑問が解けたことにより新たな疑問が……これはテオだけでなく他のみんなも思っていた、ナナシ以外。
「ナナシさん……魔竜皇のあの姿……なんとなく似ていませんか……ガリュウに?」
翼が生えていたり、色も赤と黒だったりしたが、魔竜皇の姿は非常にガリュウに似ていた。
もっと言えばテオ達は知らないが、そのフォルムは、シムゴス相手に大立ち回りをした暴走状態に陥ったネームレスガリュウに酷似していた。
「あぁ……ガリュウがさっきから震えっぱなしだ……」
テオがナナシの方に目を向けると彼の目の前にナナシは赤い勾玉をつき出した。それは僅かだが、間違いなく小刻みに震えていた……。
これが先ほどナナシが上の空だった理由、そして魔竜皇に会いたかった理由……。
「じゃあ、やっぱり……」
「だろうな……多分……いや、間違いなくガリュウの素材になったのは、こいつの同族だ」
その手に伝わる振動がナナシの推測の正しさを証明していた。きっと、クラウチ戦で起きたような共鳴現象が起きているのだろう。
それはつまり、魔竜皇の方もガリュウに反応しているということでもあった……。
「その通りだ……人間よ……」
「な……!?」
魔竜皇は身体に絡みつく鎖を引きちぎりながら起き上がり、目を開いた!その二つの目はガリュウと同じ黄色に輝き、二本の角も相まって、まさしくガリュウそのもの。メカニックなガリュウを生物的にしたような印象を与える。
「まったく……騒々しいな……」
そう言いながら、ギロリと目を見開きテオ達を一人一人観察していく。睨み付けられた方は息を飲み、たらたらと冷や汗をかいた……。
全員が一瞬で理解したのだ……。目の前にいるのは完全に人間の上位にいる存在、いや、生命体の頂点にいるものだと……。
そして、そんなとんでもない怪物の視線が一人の男に止まった。
「お主か……我が同胞の骸を纏う者は……?」
「あぁ……」
言葉短めに答えたナナシ……実際は緊張で長々と喋れなかっただけだが……。それほど魔竜皇のプレッシャーは凄まじかったのだ。
必死に目を逸らさないようにしているが、ガリュウと同じ黄色の眼を見つめていると、もしかしたら同胞の骸をこんな形に形で利用していることに怒りを覚えているのかも……などと言い知れぬ不安が押し寄せてくる。
しかし、そんなナナシの気持ちなど露知らず魔竜皇は自分のペースを崩すことなく下等な人間に語りかける。
「同胞をよくもそんな惨めな姿に……!」
「っ!?」
嫌な予感が当たってしまったとナナシに激震が走る。ついに勾玉だけじゃなくナナシ自身も震え始めた。
そんな情けない彼に残された道は悲しいかな、言い訳をすることだけだった。
「そう言われると申し訳ないとは思うよ……だが、俺にはこいつが必要なんだ……!」
「ふん!そんなこと我には関係ない!!」
「くっ!?確かにそうなんだが……それでも……」
「それでも……じゃない!わかっているのか!お主の持っているそれは………」
「ガリュウは………?」
「我の従兄弟のひろし君だ」
「へっ……?」
一気に場の空気が静まる……というよりしらける……もっと簡単に言うと……。
「あれ?もしかして我、すべった?」
「すべってるよ!全然、面白くねぇ!」
「マジか……結構、自信あったのに……」
「だとしたら、センスねぇよ!」
さっきまでビビっていたのが、嘘のように強い語気で突っ込むナナシ。そしてそれに怒るわけでもなく、普通に応対する魔竜皇……端から見ているとどこか似た者同士の友達のように見えた。
「似てる………」
「道理で………」
「ええ………」
「ガリュウと適合できるわけだ……」
「どういう意味だ!?」
どういう意味もそういう意味だろう。客観的に見てナナシと魔竜皇の“あれ”な性格は酷似していた。
別個体だが、仮にガリュウの素材となったゼオドラスも同じような性格だとしたら、ナナシと相性がいいのも頷ける……とテオ達は思ったのだ。
けれども、本人達的には納得がいかないようで……。
「こんな奴と一緒にするな!」
「こんな奴とはなんだ!我の方が年上だろう!バカが!あと、さっき寝た振りして聞き耳立てていたが、ガリュウとやらに我が似ているというのも逆だろ!ガリュウが我に似ているんだ!」
「――!?……そう言えば……そうですね……」
汚く罵り合うナナシと魔竜皇……その中で発せられた魔竜皇の言葉にテオはハッとさせられる。魔竜皇の死骸で作られたからと言ってガリュウがゼオドラスに似ている必要性はないのだ。
けれど、それを疑問に思うのはテオがピースプレイヤー後進国の人間だからであろう。神凪出身者からしたらそれは特におかしいことではないのだ。
そのことをヨハンが丁寧に説明してくれる。
「テオ、特級ピースプレイヤーってのは素材となった特級オリジンズに似た形になることが多々あるんだよ」
「そう……なんですか、ヨハンさん?でもなんで……?」
「性能を最大限に追及すると不思議とそうなっていくんだよ。だから、最近じゃ最初から似せて作るようにしている」
「へえ………」
「まっ、あくまでそういう場合が多いってだけで、元のオリジンズと似ても似つかないのに強い特級ピースプレイヤーもあるけどな」
「……ぼく、そんなこと知らなかったです」
「そりゃ、当然だろ。ピースプレイヤー流通してねぇからな、この島」
「でも、きっと知っておくべきでした……この国の王なら……」
「かもな」
王になったからとは言え、自分はまだまだ未熟な存在なのだと、もっと勉強しなくてはと、テオは気を引き締めた。
またほんの少し成長した少年王を尻目に、一人と一匹はいまだに言い合いを続けていた。
「まったく!こんな失礼な奴が……タイラン家も落ちたもんだな!」
「うるせぇよ!それを言うならお前だって魔竜皇って肩書きに似つかわしくない!」
「言わせておけば………」
「なんだ!この野郎!やるの………ん?なんで俺がタイラン家の人間だってわかったんだ?」
さらっと流すところだったが、魔竜皇はナナシがタイランの人間だということを何故か認識していた。それはナナシからしたら不気味なことだが、魔竜皇からしたら当然のことだった。
「ふん!当たり前だろ!我の先祖とお主の先祖は共に人類を滅ぼそうとした者達と戦った同士!匂いでわかるわ!!」
「ちょっと!その話、本当!?」
「うおっ!?」
テンションの上がったマリアがナナシを押し退け、魔竜皇に詰め寄った!
歴史や伝承を調べている彼女からしたら魔竜皇の言葉は聞き捨てならなかったのだ。
「その話!詳しく聞かせてちょうだい!」
「え、ええと………」
マリアに完全に気圧される魔竜皇……もはや威厳の欠片も感じない……。困り果てた竜は無理やり話題を変えることにした。
「お嬢さん、悪いがその話はおいおい……」
「ええ!?」
「すまんな……我にはやらなければいけないことがあるんだよ。そのためにわざわざこんな場所に残っていたんだからな」
「それって………」
「……正直……やりたくないが……やらなければ、それこそ我が一族の誇りに傷が付く……タイランの男!ナナシと言ったか……」
「あ?なんだよ……」
魔竜皇の視線が再びナナシに向いた。ナナシはその視線に応じるように一歩前へ出る。そして……。
「お主に礼を言う……ありがとう」
「はぁ!?」
魔竜皇はペコリとその二本の角が生えた大きな頭を軽く下げた。まったく予想していなかった展開にナナシは戸惑う。
「どういうことだ……?俺はお前に礼を言われるようなことは何もしていないぞ?」
「いや、しているのさ。この島に来る時、翼を持った巨大な……お主達の言うオリジンズに襲われただろ?」
「あぁ……あいつか……」
ナナシの頭にシャーロットちゃんという尊い犠牲を払って撃退した怪鳥の姿が思い出される……。けれど、それと魔竜皇が自分に礼を言うことがまったく結びつかなかった。
「それが……どうしたんだよ?」
「そいつ、我を狙ってこの島にやって来たんだよ」
「えっ……そうなのか……?」
「あぁ、あいつは所謂、特級オリジンズを補食してパワーアップするっていう特徴がある……で、我を食おうとこの島に向かっていたんだが、我と同じ波長を持つそのガリュウとやらを我と勘違いしてお主を襲ったんだ」
「じゃあ……あいつは普段はこの島にはいないのか?」
「あぁ、その通りだ」
今に至るまでナナシは影法師の適当っぷりに憤りを感じていたが、それはどうやらお門違い……あの怪鳥に襲われたことはまさしくイレギュラーなことだったのだ。
「我がわざと捕まったのも、この島の竜の一族、グイテールの人間に奴を退治してもらおうと思ってのことだ」
「ぼく達にですか……?」
「あぁ、お主なら……そのククルカンなら問題なく倒せるはずだからな」
「魔竜皇様自身が戦う気は……?」
「やだよ、めんどい」
「ええ………」
幼き頃より聞かされた偉大なる魔竜皇のあんまりな真実の姿にテオは失望する。彼の後ろでは彼以上に魔竜皇に幻想を抱いていたフィルが天を仰いでいた。
そんなことは知ったことかと魔竜皇は彼らを無視してマイペースに話を進める。
「それで、ナナシよ」
「なんだよ、魔竜皇」
「礼を言うだけでは魔竜皇の名が廃る」
「もう廃ってると思うけど……」
「そんなことはない!断じてない!……そんなことないよな!」
魔竜皇がテオ達に同意を求めたが、みんな一斉に目を逸らし、俯いた。
「ぐぅ……お主ら……」
「いや、もういいから。何か言いたいことがあるなら早く言えよ」
「うーん……じゃあ、なんかスッキリしないが……ナナシ・タイランよ!」
「おう」
「我を狙う敵を代わりに倒してくれた褒美として、お主に三つのものを与えてやろう」
「褒美……だと?」
「へえ……」
「それは………」
「しかも、三つ……」
「気になりますね……」
俗物らしく褒美という言葉に前のめりになるナナシ。いや、今の今まで呆れていたテオ達も同様……魔竜皇が与える褒美に興味津々だ。
その反応に満足したのか、魔竜皇の顔がどこか弛んだように見えた。胸を張って誇らしげに、色めき立つ下等な人間どもに語りかける。
「まず一つ目は情報だ!」
「情報……?」
何度も言うが俗物のナナシは安直に金銀財宝の類いを貰えると思っていたので、その発言にはガッカリした。
しかし、そんな下らない考えは後に続く魔竜皇の言葉で吹き飛ばされる。
「お主の持っているガリュウ……我が同胞を二つに分けた内の片割れ……そう思っているだろう?」
「ん?何を言っているんだ?そりゃそうだろ……ガリュウは俺とネームレスの持っている二体だけだぞ……って、まさか、他にも……?」
「うむ」
魔竜皇がナナシの発言を肯定するために巨大な頭を縦に振る。その姿は先ほどまでが嘘のように威厳に溢れており、魔竜皇と呼ばれ畏怖されるのも納得できる仕草だった。
「我が同胞の死骸は五つに分けられた」
「五つ……」
「あぁ、コアストーン一つに、ピースプレイヤーが四体……そして、ナナシ、お主はその四体のピースプレイヤー全てに既に遭遇している」
「はぁ!?もう会っているだと!?」
ナナシの頭の中で走馬灯のように今まで相対したピースプレイヤーの姿が駆け巡る……。
(俺とネームレス、二体のガリュウを除いて、あと二体……同じゼオドラスの骸で作られたピースプレイヤー……つまり特級……ってことは多分……五択までは絞れたけど……)
そもそも特級ピースプレイヤーとは数えられるほどしか遭遇していないので、目星は簡単についた。だが、最後の確信の部分となると……。
「なぁ……それって……」
「おっと!我が言えるのはここまでだ!」
「なんでだよ!勿体ぶりやがって!」
「その方が面白いだろう?」
「だから!お前のやること為すこと、全部面白くないんだよ!すべってるの!」
「ひ、ひどい言われ様だな………だが、ナナシ……」
「なんだよ、急に改まって……」
「お主は既にわかっているはずだ。ガリュウと一体になれるお主なら……己の心にもう一度聞いて見ろ」
「己の心に……」
ナナシは右手首にぶら下げられた赤い勾玉をギュッと握りしめ、目をそっと瞑った……。
(まず、あれは違う……一度見ただけだが、嫌悪感の方が強かった。そして、あれも……あれならそこそこ長い付き合いの内に気付いているはずだろ。じゃあ、残り三つ……いや、あいつだったら自分のピースプレイヤーが、ガリュウと関係あることにすぐに気付く。つまり……)
ナナシの心に二体のピースプレイヤーの姿がくっきりと浮かぶ……。
ナナシが目を開け、魔竜皇を見上げると赤黒の竜は頷いた。
「今、お主の心に浮かんでいるのが、我が同胞の骸で作られし、魔竜の鎧だ」
「魔竜の………」
「そして、残り一つのコアストーンは……ん!?思ったよりも……」
「どうした……?」
急に魔竜皇が空を見上げた。何かを感じ取ったのだ。緊急を要する何かを……。
「これは三つ目の予定だったが、繰り上げだ!ナナシ!二つ目の褒美も情報だ!」
「おい!急に焦って何があった!?」
「黙って聞け!お主にとっては最重要と言ってもいいことだぞ!」
「何……?」
突然、慌て始める魔竜皇……。ナナシはそれに訝しむ。だがしかし、本当に慌てなくてはならないのはナナシの方だったのだ。
「ナナシ・タイラン……お主の故郷、神凪は今、戦争状態に入った……」
「……はい?」
ナナシと因縁の仮面のあいつとの最後の決戦が、彼の預り知らぬところで始まろうとしていた。




