第119章第5話【冥王第一補佐官と解決】
「あ、帰ってきた」
「ご苦労、キクガよ。こちらは片付いたぞ」
冥府転移門を通じて冥府総督府に帰還したキクガを、オルトレイとアッシュが出迎えた。
彼らの背後には気絶した獄卒が山のように積み重ねられている。一体どれほどの獄卒が籠絡されたのか想像したくないが、とりあえず気絶から回復したら反省文を書かせようとキクガは密かに決めた。
キクガは「ただいま」と応じ、
「オルト、アッシュ。お土産だが」
「あん? 何しに行ったんだ、一体」
「捕まえに行ったんだよな、その引きずってる罪人」
オルトレイとアッシュが、キクガが荷物の如く引きずる罪人を示して言う。
現世に逃げたリリムは、哀れ問題児に捕まって散々玩具にされた挙句、キクガに投げて返された訳である。おかげで見るも無惨な状態だった。キクガもあまりにも哀れなので視線をやることが出来ずにいた。可能ならばモザイク処理をしてあげた方がいいぐらいにボロボロである。
だが、脱走は罪である。残念ながら彼女は同情する余地もなく深い刑場に落ちてもらうしかない。
キクガは少し視線を逸らし、
「ショウとハルア君が玩具にしていた訳だが。捕まえるのは簡単だった」
「なあ、キクガ。テメェの息子とその友人、獄卒として雇えないか聞いてくれねえか? 本当に話を聞くとますます獄卒としてほしいんだけど」
「ふざけるな、アッシュ。呵責開発課にも人手を寄越せ!!」
アッシュとオルトレイが「うちだって人手不足なんだよ」「喧しいわ、お前のせいでうちの仕事が増えてるのだ察せ!!」などと言い合っているのを華麗に聞き流しながら、キクガは抱えていた紙袋をオルトレイに手渡した。
「? 何だこれは」
「だから、先程言ったお土産だが。ドラゴンの尻尾肉だとユフィーリア君が言っていた」
「高級食材ではないか!?!!」
オルトレイは目を剥いて驚くと、
「しかもやたら量が多いのだが、これはアッシュと分けろと言うのか!? 忖度を働かせるぞ!?」
「おい」
「それはオルト、君の分だ。アッシュは家族がいらっしゃるから多めにもらってある」
オルトレイに渡した紙袋よりも2回りほど大きな紙袋をアッシュに手渡し、キクガは一仕事終えたと言わんばかりに息を吐く。実はこの紙袋、意外に重たかったのだ。
「それでは私は冥王様に今回の事件の報告をしてくる訳だが。この罪人は第5刑場に連行し、逃がした際の始末書を提出するように。気絶している獄卒たちにも反省文を書かせなさい」
「えっと、始末書の枚数については」
「羊皮紙20枚。行数稼ぎは許さない訳だが」
「ぐえーッ!!」
「ははは、ざまあないなアッシュ。オレは手伝わんからな」
始末書の提出について頭を抱えるアッシュとそんな彼を指差して笑い飛ばすオルトレイを一瞥し、キクガは冥王ザァトの元へと向かう。
今日も冥府総督府は平和である。
それはもう、なくしてしまうのが惜しいぐらいに。
《登場人物》
【キクガ】アッシュが持ってきた始末書は頑張りを認めて素直に受け取った。だが操られた獄卒たちが持ってきた反省文は書き直しさせた。簡単に許すと思うなよ。
【オルトレイ】このドラゴンの尻尾肉、何にして食おうかな〜〜♪
【アッシュ】知恵熱が出るぐらいに頑張って始末書を書いた。素直に受け取ってもらえて安心する一方、部下は容赦なく反省文を突き返されて憐れむ。




