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ヴァラール魔法学院の今日の事件!! 〜名門魔法学校の用務員は異世界から召喚したヤンデレ系女装メイド少年に愛されているけど、今日も問題行動を起こして学院長から正座で説教されてます〜  作者: 山下愁
第100章:vs偽七魔法王!!〜問題用務員、偽七魔法王暴行事件〜

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第119章第1話【冥王第一補佐官と仕事】

タイトル:今日も冥府は平和です〜問題用務員、脱走罪人暴行事件〜

 冥王第一補佐官の仕事は多岐に渡る。



「裁判裁判裁判裁判裁判、1つ飛ばして死者蘇生魔法ネクロマンシーの適用の申請書。阿呆か、この仕事量」


「何も問題はない訳だが?」


「何もかもが問題な訳だが??」



 冥府総督府、冥王第一補佐官の執務室に「阿呆なんじゃないのか、お前!!」という呵責開発課課長の悲鳴が響いた。


 どうして彼が嘆くのか不明だが、冥王第一補佐官であるキクガは別に苦とも思っていない。日々の冥王の裁判をこなすのも、裁判記録をまとめるのも、冥府台帳の記載に間違いがないか確認と推敲することも、死者蘇生魔法の適用に関する申請許可も、全てキクガにとって大事な仕事たちだ。

 ただ、他から見れば少々働きすぎにも見える。冥府総督府に於ける仕事のほとんどに、冥王第一補佐官であるキクガが関与しているのだ。「お前、働きすぎだ」と言われたことは多々ある。


 呵責開発課課長の魔法使い、オルトレイ・エイクトベルはやれやれと言わんばかりに肩を竦めた。



「お前には何を言ってもどうせ通用せんと思うが、少しは休め。お前に倒れられると困る」


「この程度の仕事量で倒れる訳がない。私を誰だと思っている」


「昨日は何時に寝た? 飯は食ったか? 返答の次第によっては実力行使に移るが」


「…………」



 キクガはそっと視線を逸らした。



「おお、こんなところにボールが」


「イダダダダダダダダダ何をするオルト私の顔面はボールじゃない訳だが!?」


「凄いなこのボール、何と喋る機能までついているぞ。何度も『飯を抜くな』や『ちゃんと寝ろ』と言っているにも関わらず言うことを聞かぬお馬鹿ちゃんはボール扱いするのが最適だな」


「5本の指がああああああああ!!」



 優秀な冥王第一補佐官だが、優秀なのは仕事面だけでの話である。生活態度はこのように劣等生だった。ボロボロの生活リズムのせいで問題児からたびたび強制的に生活リズム矯正週間を設けられているどこぞの魔法学校の学院長のようであった。


 オルトレイに顔面を鷲掴みにされ、ギチギチと締め上げられて悲鳴を上げるキクガ。オルトレイのどこにそんな腕力が宿されているのかと思ったが、そう言えば彼は戦闘に特化した魔法使い一族の元当主である。腕力など鍛えてナンボの世界で生きてきたので、どうりで痛い訳だ。

 ただ、彼にしては手加減してくれている方である。これが獄卒課の課長になったら、岩をも素手で砕く剛腕で締め上げてくるので本気で顔が変形しそうになる。


 キクガは「すまなかった、すまなかった!!」と懸命に謝罪して、何とか解放してもらえた。



「か、顔……顔が変形するかと……」


「倒れられるよりマシだ。整形だと思え」


「酷い……いじめだ……これはいじめだ……」


「戯け、これがいじめだったら現場で働く獄卒たちがやってることは何だ。呵責は遊びじゃねえんだぞ」



 オルトレイは呆れたように言うと、



「生活態度を見直さねば後進が育たんだろうに。お前の背中を見て嫌なことばかりを学ばせるな」


「き、肝に銘じる訳だが……」


「本当か? 本当だな?」



 カクカクと首を縦に振ったキクガの姿を確認し、オルトレイは「よし」と頷く。



「本日の夕飯は肉と野菜たっぷりのカレーライスを作るからオレに全霊の感謝を捧げながら食せよ」


「決定事項かね」


「ちなみに終業後の拉致計画まで立てている。問答無用だ、冥府天縛を使えるからと言ってオレに勝てると思うなよ」


「そんな犯行計画を堂々と明かされてしまうと困惑する訳だが。ちなみに抵抗した暁には?」


「その場でお前の息子に通報するが」


「ショウにまで幻滅されてしまうではないか」


「されろ」



 オルトレイは冷たい表情で突き放してくる。


 この男、生活態度には容赦がないのだ。普段の勤務態度はキクガが説教をする立場にあるのだが、こと生活態度を引き合いに出されてしまうと何も言えなくなってしまう。冥府総督府の中でも切っての超健康優良児なのだ、このオルトレイ・エイクトベルという魔法使いは。

 生活習慣を改めなければ息子に通報すると彼は宣言したが、これは絶対に通報することだろう。やると決めたことは絶対にやるのだ。キクガが生活態度を改めなかった暁には、息子のショウから幻滅されること待ったなしである。


 キクガはそっと筆記用具にしていた万年筆を置くと、



「…………生活態度を改める訳だが」


「男に二言は?」


「ありません」


「よし。言質も取ったぞ」


「ぬ」



 言質と言われて、キクガはオルトレイの格好を上から下まで確認してしまう。

 彼が何か記録媒体になるような代物を持っている気配がなかった。言質を取れるような魔法でもあるのだろうか。


 そう思って首を傾げるキクガの眼前にオルトレイが掲げたのは、平たい板のような魔法兵器エクスマキナだった。現世で流通している通信魔法専用端末『魔フォーン』である。



「孫娘、聞いていたな」


『聞いたな』



 魔フォーンから聞こえてきたのは、超有名魔法学校で用務員として勤務する将来的に義娘となる予定の魔女の声である。



「息子には通報してくれるなよ。これから改善させる」


『改善が見られなかったら言ってくれ。ショウ坊に通報してやる』


「がっでむ」



 この問題児コンビがタッグを組むとは、キクガも抵抗できない。これは本格的に取り組まなければ息子からの信頼が死ぬ。「生活態度がボロボロの父さんに言われたくない」と言われた暁には泣くかもしれない。


 オルトレイは通信魔法を終了させると、キクガの机に積み重なっている書類を取り上げた。死者蘇生魔法の申請許可、各課の月次予算書、新しく導入予定の呵責内容をまとめた起案書などなどに彼は視線を走らせた。

 その上で「これはまだ期限があるな」と書類を取り除き、「これは優先した方がいい」とキクガに書類を押し付けてくる。彼なりに内容を確認して優先順位をつけてくれている様子だった。



「抱えた仕事は今日中に片付けるものではない。優先度の高いものから順番に消費していき、きちんと計画的にやっていけ。どうせ減ることはないのだからせめて優先順位ぐらいはつけろ」


「すまない」


「謝るな。全く、何でこうも積み上げられてしまうのか謎だ」



 ぶつくさと文句を垂れながらも書類の内容確認の手を止めないオルトレイに、キクガはポツリと言う。



「もうそろそろだから、せめて抱えた仕事ぐらいは片付けてからにしたいと思って」


「…………」



 オルトレイの青みがかった黒色の瞳が投げて寄越される。それから「はあぁ」とやたら大きなため息を吐くと、キクガの執務室に置かれた応接セットにどっかりと腰掛けた。

 彼が指先を指揮者の如く振るうと、キクガの机の上に積み重ねられていた書類の半分がオルトレイの元に移動する。老眼鏡らしい眼鏡を懐から引っ張り出すと、キクガが抱えていた書類仕事を手際よく片付け始めてしまった。


 キクガは書類仕事をこなすオルトレイに、



「オルト、君が片付けるものではない訳だが」


「戯けが」



 呵責開発課が出してきただろう起案書に大きな×マークを書き込むオルトレイは、視線を寄越すことなく告げた。



「お前は、ちゃんと決めたのだろう。ならばオレも決めたことだ。今のうちから慣れておかねばならん」


「オルト……」


「キクガよ。勘違いするなよ」



 そこで、オルトレイは書類から顔を上げてキクガを見やった。



「オレは、オレの意思で決めたことだ。誰に強要された訳でもない。オレは自分のやりたいことしかやらん男だとお前も知っているだろう」


「……ああ、そうだった」



 常日頃からオルトレイは自分の面白いと思ったことや自分のやりたいと思ったことにしか興味を持たない。昔からそういう男だったのだ。

 だから今回のことも、彼がやりたいからやっているだけにすぎない。決してキクガの仕事量を憐れんだが故の行動ではない。


 キクガは小さく笑うと



「感謝する訳だが」


「何故感謝されるのか、皆目見当もつかんな」



 しれっとそんなことを言うオルトレイは、



「ほれ、キクガよ。いいから手を動かせ。定時に間に合わんぞ」


「ああ」



 キクガは置いていた万年筆を手に取り、書類に向かう。いつもより心なしか晴れやかな気持ちで仕事に臨めるのは、オルトレイの言葉のおかげだろうか。





「この、アホンダラああああああああああああああああああ!!!!」





 静寂を引き裂くように轟いたどこかの誰かの絶叫に、キクガは胸中で「定時に帰れないな」と悟るのだった。

《登場人物》


【キクガ】冥王第一補佐官。仕事はめちゃくちゃ優秀で、かつては現場経験もしてきた叩き上げ。生活態度は劣等生通り越して死にそうだからか、オルトレイからよく怒られる。

【オルトレイ】呵責開発課の課長。魔法の腕前だけではなく、身体能力も高く頭脳明晰。欠点などないようにも見えるが、勤務態度は悪く自分のやりたいことしかやらない自由人。

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