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ヴァラール魔法学院の今日の事件!! 〜名門魔法学校の用務員は異世界から召喚したヤンデレ系女装メイド少年に愛されているけど、今日も問題行動を起こして学院長から正座で説教されてます〜  作者: 山下愁
第100章:vs偽七魔法王!!〜問題用務員、偽七魔法王暴行事件〜

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第118章第2話【問題用務員と新学院長】

 いきなり学院長室へ呼ばれたと思ったら、見知らぬおっさんがいた。



「? グローリア、老けたな」


「魔法薬でも被ったぁ?」


「コスプレって奴!?」


「幻惑魔法かしラ♪」


「誰ですか」



 問題児の5人は、学院長室に我が物顔で居座るおっさんに警戒心を抱く。


 何と言うか、厳しそうな見た目のおっさんである。整髪剤を使用してオールバックに固めた金髪、顔中に刻み込まれた皺の深さが年齢の高さを想起させる。こちらをジロリと睨みつける瞳の色は綺麗な翡翠色をしていた。

 格好は仕立てのよさそうなスーツであり、如何にも経営者と言わんばかりの姿をしている。人前に立つに相応しい威厳と服装だ。自由奔放な魔法使いや魔女が多いヴァラール魔法学院を御し切れるとは思えないが。


 執務椅子にゆったりと腰掛けるグローリアは、不機嫌そうな表情で「何でさ」と苦言を呈してきた。



「僕はこっちにいるけれど」


「うわあ、グローリアが2人!?」


「ふざけているのかな? 見間違えようもないでしょ」



 問題児のわざとらしい態度にグローリアは特に指摘することなく、学院長室に居座るおっさんの紹介をし始める。



「こちら、ガゼル・トリバーさん。新しい学院長候補ね」


「へえ」


「そうなんだぁ」


「新人さんね!!」


「あらそうなノ♪」


「なるほど」



 問題児5名は納得したように頷くと、グローリアに揃って頭を下げた。



「お疲れさん、グローリア」


「元気でねぇ」


「あざっした!!」


「今までありがとウ♪」


「お疲れ様でした。貴方のことは30秒だけ忘れないであげます」


「僕はこの学校から出ていくつもりはないからね。学院の経営は外部に任せて、僕は授業に集中するって話だから」



 グローリアは「何で僕のことを追い出そうとしてるんだよ」と唇を尖らせた。まあ、確かにグローリアが学院を去るより問題児が学院をクビになって校舎を爆発する方が早い気がする。


 それにしても、もうこの時期になってしまったのか。

 この時期になると、毎度と言ってもいいぐらいにレティシア王国が「新しい学院長を置きませんか?」と提案してグローリアを引かせようとするのだ。押しに弱いグローリアはこの提案を飲んでしまうのだが、そのたびに問題児の問題行動に耐えられなくなった新しい学院長候補が逃げ出して学院長据え置きコースになる訳である。


 ユフィーリアは呆れたような口調で、



「飽きねえな、レティシア王国も。そこまでしてヴァラール魔法学院を乗っ取りたいかね」


「乗っ取るというのは語弊があるね。支配下に置きたいだけだよ、多分」


「どっちもどっちだろ」



 雪の結晶が刻まれた煙管を吹かすユフィーリアは「けッ」とそっぽを向いた。


 魔法を学ぶ場所として最高の環境が整ったヴァラール魔法学院は、どこの国にも属さない中立の位置にいる。傘下に取り込んで国民を増やしたいという算段なのだろう。

 国にとって民は宝物である。血税を納めてくれなければ国運営が危うくなるからだ。国益になると目論んでヴァラール魔法学院をどこかの国に所属させたいのだろうが、残念ながらそうそう物事が上手く運ぶとは思わないことである。


 ガゼル・トリバーと紹介された男は、居住まいを正すと「失礼」と挨拶をする。



「お初にお目にかかる。私は」


「口の利き方に気をつけろ、三下」



 ユフィーリアは指を弾いて氷柱を召喚し、ガゼルの喉元にギラリと鈍く輝く先端を突きつけた。



「こちとらお前よりも年上だ。礼儀の『れ』の文字も知らねえ阿呆の話を聞いてやるほど、アタシらも暇じゃねえんだよ」


「なるほど、一理ある」



 ガゼルは「大変失礼しました」と謝罪し、



「私はガゼル・トリバーと申します。レティシア王立アンブレイシア学院の学長を務めておりました。こちらの学院では若輩ゆえに分からないことだらけですが、ぜひご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます」


「……へえ、一応は礼儀ってのは知ってるみたいだな」



 ガゼルの態度に感心したユフィーリアは、とりあえず氷柱を引っ込めることにした。


 年上だからと指摘しても立場を理由に逆上されることが多かったが、どうやらこのガゼル・トリバーという男はしっかりと礼儀を理解している様子である。ユフィーリアが煽るようなことを言った途端に「クビだ!!」と宣言して実際に首と胴体が離れた学院長候補を、果たして何人見たことか。

 過去にレティシア王国が送り込んできた学院長候補たちを知っているエドワード、ハルア、アイゼルネの4人は驚愕していた。問題児を相手に下手に出て、しかも敬語を使ってきたのである。確かに威張らない学院長候補は初めてかもしれない。


 今までのクソみたいな学院長候補を見てきたがゆえにコロッと陥落してしまいそうになったユフィーリアたち4人に対して、最年少の問題児であるショウは冷静だった。



「敬語が使えるぐらいで何ですか。こちとら先輩ですよ、敬語を使うのは当たり前です」


「む」


「世の中は年功序列でしょうが、ここでは勤続年数が物を言います。来たばかりの貴方は最も若輩です、しおらしい態度で学院生活の教えを乞うのが後輩としての務めでしょう。当たり前のことを当たり前のようにやって陥落しようって魂胆は問題児に通用しても俺には通用しませんよ」


「これは手厳しい」



 今日も今日とて舌の調子が好調なショウに、ガゼルは怒ることもせずに受け止める。あのズケズケとした物言いに怒りを露わにしないとは、どれほど懐が深いのか。

 ガゼルが「すみませんでした」と素直に謝罪するのに対し、ショウは居心地悪そうにしていた。どうやら本気で相手の怒りを煽るような言葉を選んだようだったが、ことごとく不発に終わったらしい。舌戦で負けるとは見たことがない。


 ガゼルはユフィーリアを見やると、



「それで、問題児――いえ、用務員の皆様にご提案がありまして」


「言うだけ言ってみろ。聞くだけ聞いてやる」


「ありがとうございます」



 慇懃な態度を見せるガゼルに、ユフィーリアは話を促した。ここまで丁寧に接されれば、まあ話ぐらいは聞いてやってもいいかとなる。



「貴方がたは、主に学院の警備を担当していると聞き及びました」


「まあ、そうだな」


「不審者が入ってくるんだよねぇ」


「オレとショウちゃんで捕まえてるよ!!」


「お客さんを管理するのも大変だワ♪」


「最近ではめっきり減りましたけれども」



 ガゼルの言葉に、問題児5名は揃って首を縦に振った。


 ヴァラール魔法学院の雑務は全然しない用務員だが、唯一、学院の警備はしている。自分の縄張りを荒らされたくないというのが本音だ。

 ただ、最近では不審者の目撃情報も少なくなってきている。未成年組が本格的に警備員の役目を果たしているからだろう。


 それがどうしたとばかりの視線をガゼルにくれてやると、彼は爽やかな笑顔でこう言った。



「実は皆様には用務員をご辞退いただいて、警備員として」



 次の瞬間、ガゼルの首が飛んだ。


 彼の口から「用務員をご辞退」という言葉が聞こえた瞬間、ユフィーリアは雪の結晶が刻まれた煙管を銀製の鋏に切り替えて横薙ぎに振るったのだ。切れ味の鋭い銀製の鋏は見事にガゼルの首と胴体を永遠に切り離すことに成功した。

 頭部をなくしたガゼルの胴体は、ゆっくりと膝をついてその場に頽れる。転がった頭部は爽やかな笑顔を浮かべた状態のままだった。未成年組がボールの代わりにしようと企んだところで、エドワードに首根っこを引っ掴まれて止められる。


 この未来を知っていたらしいグローリアは、静かに天井を振り仰いだ。



「だから言ったじゃないか」





 ――ちなみにガゼルはこのあと、ちゃんと死者蘇生魔法で冥府から蘇ってくる。とりあえず礼儀はよかったので問題児は彼が学院長候補として残ることを認め、試用期間の1週間が始まるのだった。

《登場人物》


【ユフィーリア】去年の学院長はわざと落とし穴に嵌めて追放した。最後は泣いてたなぁ。

【エドワード】毎年この時期にやってくる新しい学院長候補にうんざり。今年はどうやって追い出すんだろうな。

【ハルア】本当にグローリアがおっさんになったのかと思った。

【アイゼルネ】支配しようだなんてレティシア王国も侵略国家ねぇ。

【ショウ】いっそレティシア王国を火の海にしたらやってこないんじゃないかなって魔王思考。ハルアと協力したら出来そう。


【グローリア】新しい学院長は毎年折れて迎える形になる。もれなく今年もそうでした。

【ガゼル】新しい学院長候補。聖人学長と呼ばれるぐらいに寛大な心を持ち合わせている。らしい。

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