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ヴァラール魔法学院の今日の事件!! 〜名門魔法学校の用務員は異世界から召喚したヤンデレ系女装メイド少年に愛されているけど、今日も問題行動を起こして学院長から正座で説教されてます〜  作者: 山下愁
第100章:vs偽七魔法王!!〜問題用務員、偽七魔法王暴行事件〜

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第117章第1話【問題用務員と蕪】

タイトル:大きすぎた蕪〜問題用務員、校舎破壊事件〜

「るったった〜♪ るったった〜♪」



 ご機嫌に鼻歌混じりにスキップで廊下を進むのは、ヴァラール魔法学院の保健医であるリリアンティア・ブリッツオールである。


 僅か11歳という若さで神託を受けたことにより、年を取ることが一切なくなってしまった哀れな少女である。そこからエリオット教と呼ばれる世界最大派閥の宗教団体の教祖として祭り上げられ、永遠聖女とまで称されるようになるまでさほど時間はかからなかった。

 幼いながらも魔法学院の保健医と最大派閥の宗教の教祖という二足の草鞋を履いて生活をしているリリアンティアの楽しみは、学院の敷地内に作った大規模な農園のお世話であった。元より植物を育てることが好きで、農夫の娘でもあった彼女はお野菜とか果物を育てる才能がめちゃくちゃあったのである。


 そして今日も日課にしている農園のお世話に向かっていた。足取りも軽やかだ。



「最近植えたかぶさんの調子はいかがでしょうか〜♪ ふんふん♪」



 今の時期が旬を迎える蕪は、リリアンティアが最近になって植えたものである。順調に成長していたので、来月辺りになれば収穫できるのではなかろうか。

 少しばかり生育が早いような気がしないでもないが、収穫が早いと美味しくいただくことも出来る時間も早まるというものだ。特に蕪を植えたことを母と呼び慕う銀髪碧眼の魔女に報告をしたら「じゃあ蕪ステーキでも作ってやるよ。大きいの持ってきな」と言ってくれたのだ。想像しただけで涎が止まらない。


 ウキウキとリリアンティアは農園に足を踏み入れ、



「はわ……?」



 農園の様子を目の当たりにして、リリアンティアの動きが止まった。



「はわわ……」



 そして農園の中心に居座るブツを確認して、顔を青褪めさせた。



「はわわわわわ!!」



 慌てるあまり言葉は意味をなさず、手足をブンブンと振り回す。



「か、か、か、か」



 そして彼女の口から滑り出たのは、この世で最も信頼する魔女の名前だった。



「かあしゃま〜〜!! 助けてッ、助けてくだしゃい〜〜!!」



 農園から踵を返し、それまでのウキウキ具合を一転させて涙目になったリリアンティアは用務員室に向かって駆け出すのだった。



 ☆



 一方その頃、用務員室では本日の夕飯談義が行われていた。



「今日さぁ、春野菜がめちゃくちゃ安く購買部で手に入ったんだよ」


「そうネ♪」


「今さ、野菜も美味しい季節になってるじゃん?」


「ユーリ♪」



 南瓜頭の美人お茶汲み係、アイゼルネから冷たい声が降りかかる。


 ヴァラール魔法学院を創立当初から騒がせる問題児、ユフィーリア・エイクトベルは正座をさせられていた。その顔には大量の脂汗が滲んでおり、顔色もどこか悪い。

 仁王立ちするアイゼルネに対して明らかに恐怖心を抱いていた。声からも刺々しさが十分に伝わってくるのである。


 その怒りというものが、



「この前、樟葉くずのはさんから大量にお野菜をもらっておきながら追加で買ってくるんじゃないわヨ♪」


「だってえ!! 安かったって言ったじゃん!!」


「消費してから言いなさいヨ♪」



 食糧保管庫に収納できないぐらいに居住区画の一角を占領する大量のお野菜たちを指差して、アイゼルネは自分の上司であるユフィーリアを叱りつけた。


 実は先日、春のお供えの時期になったということで八雲夕凪の妻である樟葉から大量の野菜や小麦類や米などを受け取ったばかりなのだ。海の幸に山の幸、畑からのお恵みなどもう色々と用務員室の前に積み重ねられて大変なことになった訳である。

 これらの大量の食材をどうやって消費するかと頭を悩ませていた矢先のこと、春に旬を迎えるお野菜が何と購買部でお安く買えるタイムセールが執り行われていたのだ。脳内が死んでいたユフィーリアは思わず大量の野菜を追加購入し、アイゼルネから説教されているという結末である。


 ユフィーリアは「うう」と呻くと、



「問題児の野郎どもに食わせるから……」


「エドなら食べられるでしょうけど、大量のお野菜を前にあの肉食系が何を言い出すか分かったものじゃないわヨ♪」


「だよなぁ……」



 アイゼルネに指摘され、ユフィーリアは頭を抱えた。


 この前、野菜を大量に食卓へ並べたら問題児で随一の大食漢であるエドワードが渋い顔で「草食動物になった気分……」と言ったのを覚えている。これで同じことをしたら、確実にまたあの渋い顔と文句を聞く羽目になるのか。

 ユフィーリアだって、食事の時間に渋い顔をさせて喜ぶような趣味はない。ご飯は楽しんで食べるものである。他人に苦手な料理を増やすような真似はしたくない。



「仕方ない、肉を大量に買ってきて」


「これ以上は食材を増やすのを止めなさイ♪」


「おぎゃん」



 アイゼルネが頭頂部に手刀を落としてきて、ユフィーリアは思わず悲鳴を上げた。食料を消費する為に食料を買い足すのは本末転倒である。



「じゃあ野菜を大量消費する為に毎日サラダ生活か!?」


「もっと工夫を凝らしなさいヨ♪ ショウちゃんとハルちゃんまで悲しい顔をさせるつもりなノ♪」


「ヴッ」



 あの未成年組の2人を悲しませるのは、ユフィーリアの良心が痛む。さすがに毎日サラダ生活は辛かろう。

 ユフィーリアとて毎日サラダ生活は嫌である。サラダは添え物である、メインで食いたくない。そんな修行僧みたいな生活をしているのは美容の鬼であるアイゼルネだけで十分だ。


 ユフィーリアは「仕方ない」と言い、



「とりあえず頑張って野菜多めの料理にするか。胡瓜と茄子はピクルスにする」


「あら素敵ネ♪」


「あと魚もあったな、ホイル焼きにするか。グラタンも作るか」


「シチューという手もあるわヨ♪」


「作れる料理はたくさんあるな。よし、品数多めで攻めよう。リリアの食育もあるし」



 あの永遠聖女様は周りの嘘情報に踊らされてまた無意味なダイエットをやりかねないので、品数を増やして豪勢にするぐらいがちょうどよさそうだ。そして食べきれなかった分はお弁当として明日持たせればいいだけの話である。

 近頃はちゃんと連行されずに用務員室へ食べにきているし、体重も平均を維持しているので食育をする必要はもうないのではないかと思うのだが、どうにも頬いっぱいにご飯を詰めてもぐもぐするリリアンティアの姿が見れないとなると問題児的にもちょっと寂しくなっちゃうのだ。だって可愛いんだもん、本当の娘みたいで。


 そんな訳で方針が決まった問題児だが、外から聞こえてきた悲鳴に顔を上げる。



「かあしゃま〜〜〜〜!!!!」


「うおッ、リリア!?」



 用務員室の扉を勢いよく開け、泣きながら飛び込んできたのは今しがた話題に上がったリリアンティアである。涙と鼻水でべちょべちょに顔を汚しながら、ユフィーリアに抱きついてくる。

 ここまで彼女が泣くのは、何かあったに違いない。いじめとか、いじめとか、もしくはいじめとかがあったのだろう。


 ユフィーリアはリリアンティアの小さな頭を撫でてやると、



「よしリリア、誰にいじめられた? この世から永遠にさようならしような」


「いじッ、いじめられてません!!」



 ポロポロと涙を流すリリアンティアだったが、グイと涙を手の甲で拭うと叫んだ。



「リリアのッ、リリアの畑がッ、身共の畑がああ〜〜!!」


「あー……」


「あらマ♪」



 畑関連の言葉を出されると、ユフィーリアとアイゼルネが想像したのは害獣被害である。

 鴉などの害獣と日々死闘を繰り広げているのはユフィーリアも知っているが、今の時期は熊や猪などがやってきてもおかしくない。畑に居座って困っているのだろう。


 ユフィーリアは「分かった分かった」とリリアンティアを慰めてやり、



「一緒に畑を見に行ってやるから、な? だから泣きやめ泣きやめ」


「本当ですか!? 本当でございますか!?」


「はいはい、行ってやるから」



 腕にしがみついてくるリリアンティアを宥めつつ、ユフィーリアは彼女が管理する農園に向かうのだった。



「おねーさんは待ってるわネ♪」


「お前も来るんだよ」



 農園に出る虫を嫌うアイゼルネも、当然ながら首根っこを引っ掴んで連行するのだった。

《登場人物》


【ユフィーリア】蕪と言えばシチューに入れるのが好き。トロトロになってると嬉しいよね。

【アイゼルネ】赤蕪がサラダに乗っていると嬉しいよね。


【リリアンティア】大きく育てれば蕪が美味しいステーキになるということで、気合を入れて育てていた。ステーキ楽しみです〜♪

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