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ヴァラール魔法学院の今日の事件!! 〜名門魔法学校の用務員は異世界から召喚したヤンデレ系女装メイド少年に愛されているけど、今日も問題行動を起こして学院長から正座で説教されてます〜  作者: 山下愁
第100章:vs偽七魔法王!!〜問題用務員、偽七魔法王暴行事件〜

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第116章第4話【問題用務員と怪鳥】

 翌朝のことである。



「ユフィーリア、君って魔女は!!!!」



 校舎内を揺るがすほどの盛大な怒号と共に、遠くの方で野生動物を想起させる何かの鳴き声まで聞こえてきた。



「ん?」


「何ぃ?」


「おはようございます!!」


「おはよウ♪」


「開眼〜……すぴー……」


「ショウ坊、寝てる寝てる。起きろ起きろ」



 寝起きの問題児は、遠くから聞こえてきた怒号をまるで他人事のように聞いていた。今度は罪の自覚はあるので進んで出ていくような真似はしない。


 寝起きが大変よろしいユフィーリアはボサボサになった銀髪を手櫛で整え、ベッドから脱出する。春先になったとはいえ、朝はまだひんやりと寒い。身震いするような冷たい空気が肌を撫でて思わず「うお」と声が漏れた。

 そんなことをしていたら、いつのまにか背後にアイゼルネが佇んでいた。その手にはブラシが握られており、ユフィーリアの身支度を整える気満々の様子である。問題児のお洒落番長に捕まってしまったが最後、彼女に従う他はない。


 大人しくユフィーリアがアイゼルネに身を任せる傍らで、エドワードとハルアはショウを叩き起こそうと躍起になっていた。



「ショウちゃん起きなぁ」


「起きて!! 朝だよ!!」


「むにぃ」



 エドワードとハルアに軽く揺さぶられながらも、ショウはまだ夢の世界に片足を突っ込んだ状態だった。下手をすればまたそのまま旅立ってしまう可能性も十分にあり得る。

 ハルアが「起きて!!」と叫んでガックガックと物凄い勢いで揺さぶるも、その揺さぶりがかえって彼にとっていい刺激になってまた眠りかけてしまう。もはやハルアの揺さぶり攻撃など揺籠を揺らすようなものらしい。


 やれやれと肩を竦めたエドワードは、



「起きなぁ、ショウちゃん」


「むあ」



 その大きな手で、ショウの小さな顔を鷲掴みにした。


 手のひらで鷲掴みにしたショウの顔を、エドワードは器用に指先だけを動かして揉み込んでいく。もちもち、むにむにと丹念に顔面マッサージを施していく。

 ショウもショウでされるがままだった。「むおむおむおむお」という眠気を孕んだ声で何かを訴えるが、言葉になっていないのでエドワードによる顔面マッサージは続行である。


 やがて、ショウの腕がエドワードの手を掴む。無理やり引き剥がしながら、



「おはよぅごじゃいましゅ……」


「はい、おはよぉ。いいお天気だよぉ」


「うう……お顔をもちもちされた……小顔になってしまう……」



 ショウは自分の頬を揉み込みながら、



「パン生地みたいにこねこねしないでくだしゃい……」


「何言ってんのぉ、顔面マッサージで叩き起こされるのを期待してるからいつまでも起きないんでしょぉ?」


「もちょっと優しく起こしてくれてもいいじゃないれすかぁ……」


「これでも十分に優しい起こし方じゃんねぇ。ベッドから引き摺り出されて叩き落とされたい?」


「顔洗ってきましゅ……」



 顔面マッサージに文句を垂れていたショウだが、ハルアがベッドから引っ張り出されて床と正面衝突を果たす起こされ方を目撃したことがあるからか、それ以上の文句は出てこなかった。顔面マッサージの方がマシだと判断したのだろう。

 何とかベッドとの決別を果たすことに成功したショウは、ハルアに手を引かれて洗面所へと姿を消した。朝だけは年相応の関係性が築かれている様子である。面倒見のいいお兄ちゃんであるハルアとまだ眠たげな弟のショウの光景は、朝だけしか見られないものだ。


 朝っぱらから叩き起こしてくれた怒号の主などさしおいて、問題児は朝の身支度を整えていく。のだが、



「ユフィーリア!!!!」


「うるせえのが来た」


「うるさくさせているのはどこの誰だよ!!!!」



 転移魔法で居住区画に乗り込んできたグローリアが、怒号を驚かせる。


 ユフィーリアはうんざりしたようにため息を吐いた。どうせ怒っているのは校舎内を廃墟化したからだろうが、その件に関して言えば問題児に濡れ衣を着せてきた連中が悪いのである。その仕返しは甘んじて受けるべきだ。

 当然だが、反省するつもりはさらさらない。どうぞ廃墟と化したヴァラール魔法学院を楽しんでほしいところだ。


 ユフィーリアはアイゼルネによって綺麗に髪の毛を梳かしてもらいながら、



「冤罪を仕掛けるお前らが悪いんだろうが。反省しろ」


「いや廃墟みたいになってるのはこの際100歩譲って罰として甘んじて受け入れるよ。君たちのことだからどうせ碌でもない方法で仕返しを目論むと思っていたしね」



 グローリアは「そうじゃない!!」と金切り声を上げると、



「君たちが廃墟みたいにしちゃったから、変な魔法動物が寄ってきてるでしょ!! 追い払って!!」


「知らんわ、お前らでやれ」


「鼻の穴にミントを詰め込むよ」


「おい寝起きにミントを押し付けるのは止めろ、うわ鼻がツーンとするツーンと!!」



 問答無用で鼻にミントを押し付けられ、ユフィーリアは堪らず悲鳴を上げた。寝起きにミントの匂いは結構きついものがある。



「いいから来て!!」


「うわまだ寝巻きだってのに痛い痛い痛い」



 腕を掴まれ、怒り気味なグローリアによってユフィーリアは無理やり用務員室から引き摺り出されることとなった。



 ☆



 問題の魔法動物とやらは中庭にいるらしい。



「わー、凄え。校内緑化成功」


「馬鹿なことを言ってるんじゃないよ」



 校舎の現在の様子を、ユフィーリアは興味津々といったような雰囲気で見回していた。先導するグローリアから非難めいた視線が寄越されるが、今の校舎内には興味が尽きないのだ。

 壁や床は全体的に緑色の草で覆われており、清涼感のある香りが漂う。おそらく廃墟キットに植えたミントが発する香りだろう。エドワードはちゃんと仕事をしたようだ。ついでにその緑は壁にも侵食しており、現在もなおちょっとずつ範囲を広げている様子だった。


 そして壁や柱を中心に、ひび割れや穴の絵が描かれている。これは未成年組による大作だろう。さすが絵の上手い未成年組である、本物の穴やひび割れかと思うぐらいに精緻なものだった。



「ほら、あれさ」


「うわ、気持ち悪い」



 案内された中庭にいたものは、真っ白で巨大な鳥のような何かだった。

 つるりとした頭部には嘴しか存在せず、眼球も羽毛も生えていない。大きさは人間と同じぐらいで、肉のようなのっぺりした見た目の翼を広げて中庭に生えたミントやドクダミなどを嘴で突いている。魔法動物ではあるだろうが、記憶にない魔法動物だった。


 ユフィーリアは今、猛烈に未成年組と仲のいい魔法動物博士の少女の存在が恋しくなった。何だあの怪鳥は。



「どうにかしてよ」


「お前の歌声でどうにかしたらどうだ」


「君が蒔いた種に食らいついてるでしょ、君が駆除までやるんだよ」


「実は鳥アレルギーで」


「そんな話は今まで聞いたことないよ!! 嘘だってすぐに分かるんだからね!!」



 グローリアが金切り声を発した瞬間、中庭でお食事の最中だった真っ白な怪鳥がユフィーリアたちの方へと振り向いた。

 眼球はないはずなのに、何故か睨まれているような薄気味悪さがある。全身から漂う空気は「飯を邪魔してくれてんだ」という剣呑なものだった。あの怪鳥も食事を邪魔されて苛立っているようである。


 ユフィーリアはグローリアを前に突き出し、



「こいつです」


「僕に罪をなすりつけるな!!」


「いやだってお前が騒がなかったらこっち向かなかったし」


「君がふざけたことを言わずにさっさと駆除していれば」



 グローリアの訴えは途中で掻き消えた。



「くけええええええええええええええええええええ!!!!」



 真っ白な怪鳥が天を降り仰いで絶叫した瞬間、同じような真っ白い怪鳥の群れが中庭に降り立った。その数、5羽である。

 あんな気味の悪い怪鳥が6羽もやってきたら、さすがの問題児でも1人で対処は出来ない。というか寝起きでそんなことはしたくない。戦闘能力を持たないグローリアも対処が出来る訳がなかった。


 取った選択肢は1つだけである。



「逃げます」


「待ってユフィーリア置いてかないで!!」


「引っ付いてくるんじゃねえよ、グローリア!!」



 腰に抱きついてきたグローリアを引っ付けさせたまま、ユフィーリアは用務員室まで逃げ帰るのだった。

《登場人物》


【ユフィーリア】あんな怪鳥、見たことねえよ。魔法動物なのかあれ?

【エドワード】最近、後輩を起こすのに顔面マッサージをしている。

【ハルア】最近、ショウちゃんはオレが揺らしただけじゃ起きないんだけども。

【アイゼルネ】ユフィーリアの寝起きがボサボサなんて許せないお洒落番長。

【ショウ】最近、エドワードに顔面マッサージされて起床する。顔が小さくなりそう。


【グローリア】起きたら自然たくさんな学院とご対面。しかも怪鳥の鳴き声で叩き起こされるという始末。

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