第115章第10話【異世界少年と攻め攻め】
それからである。
「編み編み編み編み」
「編み編み編み編み!!」
色とりどりの花が咲き乱れる中庭で、ショウとハルアは花冠を作っていた。
特に手先の器用なハルアは様々な花を使用して王冠のように編み上げており、一体どうやって作ったのか聞きたくなるような出来栄えをしていた。花をただ闇雲に編んだだけであんな立派な冠は出来ないと思う。
唖然とするショウを置いて、ハルアはひと足先に「でけた!!」と完成を宣言する。中庭に咲いている花を編んだだけで戴冠式にでも使用できるのではないかと思うぐらいに立派な冠が完成してしまった。
カラフルな花を使用した冠をショウの頭に乗せたハルアは、
「はい、ショウちゃんの分ね!!」
「わあ。お姫様になってしまう」
「ショウちゃん可愛いから似合うね!!」
一般女性なら間違いなくハートを射抜いていそうな台詞を軽々と口にし、ハルアは再び「編み編み編み編み!!」と花冠を作り始めてしまった。
つい先日、リタの同窓会に護衛として同行してあんなことがあったばかりだと言うのに、もうすっかりいつも通りの雰囲気だった。それまでは話題に出しただけで頬を林檎みたいに赤くしていたと言うのに、今ではそれもない。
吹っ切れたのか、それともリタとの関係は友人程度に戻ったのだろうか。あれだけ熱烈な告白みたいなことを言っておきながら、友人程度に関係性が逆戻りしてしまうとは少しばかり寂しい。
すると、
「あ、リタ!!」
顔を上げたハルアが、中庭に面した廊下を通りかかったリタを発見する。ちょうど授業終わりで次の授業の為に移動しているのだろう、パタパタと足取りも忙しなかった。
呼ばれたことで立ち止まったリタは「こんにちは」と笑顔で挨拶をしてくる。雰囲気はいつも通りである。見覚えのあるやり取りだ。
ハルアは編みかけの花冠をパッと放り出すと、
「授業お疲れ様!!」
「はにゃッ、ハルアしゃ……!?」
労いの言葉をかけるのと同時に、リタへぎゅうと抱きついたハルア。そして彼女の頭もポンポンと優しく撫でる。
顔全体を赤くして固まるリタに、ハルアは「授業大丈夫? いじめられてない? いじめられてたら言ってね!!」なんて言う。ウォールストン王立学院で起きたいじめっ子の問題もあって心配しているのだろうが、距離が近いしスキンシップも多めである。
ハルアは「そうだ、リタ」とリタの顔を覗き込み、
「今日のお昼、一緒に食べに行こ!! マリンスノウ・ラウンジでね、日替わりパスタが美味しそうだったんだ!!」
「あ、は、はい……だ、大丈夫です……!!」
「やったね!!」
最後にもう一度ぎゅっとリタを抱きしめてから、ハルアは笑顔で彼女を解放した。
「じゃあね、授業頑張ってね!!」
「ひゃ、ひゃい……!!」
フラフラとした覚束ない足取りで、リタは次の授業の教室へと向かっていく。何だか今にもぶっ倒れてしまいそうな気配が漂っていた。
ハルアは何事もなかったかのように戻ると、編みかけだった花冠を拾い上げる。それから「編み編み編み編み!!」と花冠作成を再開させた。
次はリタに向けて作っているのだろう。先程、ショウの頭に乗せられた花冠よりもより豪勢な仕上がりの花冠が彼の手の中で着実に作られていた。使用している花の色も、ピンクや黄色といった可愛らしい暖色系のものが中心となっている。
ショウは花冠を編みながら、
「ハルさん、お昼ご飯はリタさんと2人か?」
「何で? ショウちゃんとエドもついてきてよ」
「いやでもおデートならついて行かない方が」
「お財布と交渉係でしょ?」
「あ、俺は交渉係で呼ばれたのか。なるほど。ハルさん、ちょっと今からチョップをするから甘んじて受けてほしい」
「何であいたぁ!?!!」
後輩の豊富な語彙力を店員から割引を勝ち取る為に利用するような先輩に呆れたショウは、せめてスマートな大人になれという意味を込めて手刀をハルアの頭頂部に叩き落とした。
《登場人物》
【ショウ】交渉係にさせられるとはこれ如何に。デートの付き添いはのーせんきゅーですよ! 野次馬はするけども!
【ハルア】自分よりも語彙力が豊富な後輩を交渉係に召喚、お財布に先輩を召喚。これぞ最強の布陣! このあと先輩にもぶん殴られた。
【リタ】お昼ご飯は美味しかったし、ちゃんと会話も出来た。でもハルアのスキンシップが多めでキャパオーバー寸前。




