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第114章第4話【問題用務員と被害】

 未成年組の行き先は予想できていた。



「爺さんのところって言いたいが、まあ植物園だろうな」


「雪桜のところぉ?」


「ショウちゃんとハルちゃんなら考えそうだワ♪」



 ユフィーリアはエドワードとアイゼルネの2人を連れて、植物園に向かっていた。


 彼らの単純な思考回路はお見通しである。八雲夕凪が関わっているというのならば絶対に仕返しを目論むだろうと考えたのだ。特に八雲夕凪が大切にしている雪桜の存在を知っているので、仕返しをする対象に選ぶなら雪桜だろうと判断したのだ。

 そしてその仕返し方法と言ったら、八雲夕凪の呪いの効果が付与された栄養剤を雪桜に投与することだろう。鉢植えの苗が不気味な人面瘡を張り付けた変な植物になる栄養剤を投与すれば、雪桜がどうなるか分かったものではない。


 まあその辺りは分かり切った内容なので、別に何とも思わない。問題は彼らが八雲夕凪本人に何かをしないか、である。



「特にハルは七魔法王セブンズ・マギアスを殺す為に生まれた人造人間ホムンクルスだからな……」


「生まれた理由を遂行しちゃったら大問題だよねぇ」



 ユフィーリアが遠い目をする横で、エドワードは「まあでも死んでも自業自得な気がするけどぉ」なんて呟く。


 八雲夕凪は普段こそ狡猾なエロ狐爺だが、存在するだけで結界を張れる便利な豊穣神様なのだ。腐っても神様なのである。こんなところで捨て置くのは可哀想すぎる。

 それに、あの八雲夕凪はヴァラール魔法学院の敷地内に結界を張って外部からの攻撃を防いでくれているのだ。そんな強固な壁役を失ったら誰が一体その役目を負うことになるのだろうか。


 アイゼルネは「そうネ♪」と口を開き、



「せめて埋められるぐらいで済めばいいけれド♪」


「それはいいのか?」


「いいのヨ♪」


「埋められてるぐらいだったら助ければいいか。殺しても死ななさそうだからな、あの爺さん」



 死んだらまずいが殺しても死ななさそうという謎の信頼がある八雲夕凪のことである、どっこい生きているに違いない。未成年組も理性が働いて生き埋めにしているなんてことをやっていなければいいが。



「そもそもショウちゃんとハルちゃんにそんな体力はないと思うよぉ。俺ちゃんがやるならともかくぅ、八雲のお爺ちゃんを埋められるほどの深い穴を掘るにはなかなか大変だと思うけどぉ」


「ああ、まあ爺さん結構タッパがあるしな」


「そうネ♪ 意外と身長が高くて驚いたワ♪」



 エドワードの言葉に、ユフィーリアとアイゼルネは納得したように頷いた。


 八雲夕凪の身長はなかなか高いのだ。爺さん爺さんと言っている割には身長はあるので、彼を生き埋めにするのだとすれば相応の重労働になるはずである。植物園の地面も硬いし、簡単に人間を埋められるような穴は掘れない。

 ショウとハルアの2人はスピードと連携と頭脳明晰さに特化しており、体力にものを言わせて永遠に活動し続けるエドワードとは対極に位置する。体力は人並みにあるだろうが、身長の高いクソ狐を埋められるほどの深い穴は掘れないだろう。掘る時間もなさそうだ。


 そんなこんなで、問題児の結論は決まっていた。多分、八雲夕凪は埋められているだけだろうし、死んでいないし、雪桜という尊い犠牲を出しただけだろう。



「様子だけ見て帰るか」


「だねぇ」


「そうネ♪」



 八雲夕凪が無事なら別に助けなくてもいいか、と判断した問題児の大人組は、植物園まで向かう速度を緩めるのだった。



 ☆



 さて、植物園である。



「遠くから笑い声が」


「何だろうねぇ」


「何かしラ♪」



 静かな植物園に足を踏み込むと、何やら遠くの方からゲラゲラと笑い声が聞こえてきた。


 互いに顔を見合わせた問題児の大人組は、笑い声を辿って植物園の奥の区画まで向かう。徐々に笑い声は大きくなっていき、それと同時に誰かが嘆く悲鳴のようなものまで聞こえてきた。

 何かが面白くて笑っているという雰囲気ではなく、まるでそれは壊れた玩具のようにゲラゲラとひたすら意味もなく笑っているようだった。めちゃくちゃ怖い。


 そして問題の区画に足を踏み込むと、



「うわ」


「何これぇ」


「あらマ♪」



 目の前に広がる光景に、ユフィーリア、エドワード、アイゼルネの3人は思わず声が漏れていた。


 奥にある領域は、八雲夕凪が持ってきた雪桜を安置している場所である。いつもだったら雪の如くはらはらと花弁が舞い散る綺麗な場所で、最近では散ってしまった雪桜がようやく花をつけ始めた頃合いだと聞いていた。

 呪いの効果が付与された栄養剤を投与されたからか、雪桜の木の幹はいつも以上に膨れ上がって立派になり、花が咲き始めた頃だと聞いていた真っ白い花弁たちは満開の状態だった。とても綺麗である。状況が状況ならば見惚れていたぐらいだ。


 ――木のてっぺんから、大量に花をつけた枝が何故かぼんぼりのように膨らみ、そこに見覚えのある下卑た笑みを見せた人面瘡が浮かんでいなければ。



「何をするんじゃ、儂の大事な雪桜にぃ!!」


「爺さん、何してんだお前」


「ゆり殿、助けてくれぇ!! あの童たちの凶行を叱っておくれぇ!!」



 足元から声が聞こえると思ったら、何と地面に埋められた八雲夕凪がぎゃんぎゃんと騒ぎ立てていたのだ。どうやら首から下を地面に埋められたようで、身動きが取れなくなっているらしい。

 転移魔法でも転送魔法で使用すればいいのに、と思ったが、よく見ると八雲夕凪が埋められた穴のすぐそばから純白の鎖が伸びていた。冥府天縛である。なるほど、彼を埋めた人物たちに協力者がいるようだ。


 半泣きで訴えてくる八雲夕凪に、ユフィーリアは冷たく一言。



「お前が悪い」


「何でじゃあ!!」


「グローリアと共同開発したとか言ってたあの栄養剤、何か変なの仕込んだだろ」



 ユフィーリアが指摘すると、八雲夕凪はあからさまにギクリと身体を震わせた。真っ白な体毛がびちゃびちゃに濡れるほど汗を掻き、何なら目もばちゃばちゃと泳ぎまくっていた。

 この態度はやっていた。明らかにやっていた。呪いを仕掛けたのは明らかに意図的なものであり、それで仕返しをされたとようやく気付いたようである。


 ユフィーリアは八雲夕凪を見下ろし、



「何であんなことしたんだ?」


「誰かに花を渡すとか……そんなの烏滸おこがましいと思ったんじゃもん……」


「仕返しされても助けられねえし、未成年組を怒ることもしねえよ。自業自得だ」


「そんなぁ!!」



 なおもぎゃんぎゃんと吠える八雲夕凪を捨て置き、ユフィーリアは雪桜の下で巨大な人面瘡を張り付けたぼんぼりみたいな枝を見上げる未成年組の2人を呼んだ。



「おいショウ坊、ハル。満足したか?」


「あ、ユフィーリア」


「エドとアイゼも来てたんだ!!」



 ショウとハルアはようやくユフィーリアたちの存在に気づいたと言わんばかりの態度で振り返り、



「今、父さんが剪定作業を」


「剪定してるのかよ。しかも親父さんが」


「もしかしなくてもそうだが」



 ガサリ、と音を立てて真っ黒いものが逆さまになって雪桜から伸びてきた。


 冥王第一補佐官にしてショウの父親であるアズマ・キクガである。その手には高枝鋏が握られており、チョキチョキと動かして作業中であることを示していた。

 この見事な雪桜の剪定作業をするとは、一体どこを整えたと言うのだろうか。枝を冥府にでも持って帰るつもりか。



「いや何、あのてっぺんの顔の形に整えるのはなかなか苦労した訳だが」


「あのぼんぼりみたいになってるの、親父さんが整えたのかよ」


「そうだが」



 キクガは華麗に地面へ着地を果たすと、髪の毛についた雪桜の花弁を取り払う。



「いい気分転換になった訳だが」


「そうかい」



 ユフィーリアは次いで未成年組に視線をやり、



「あの栄養剤、どのぐらい投与したらこんなのになったんだ?」



 素直な質問をぶつけてみたところ、ショウとハルアは小瓶をユフィーリアに差し出してきた。


 小瓶は空っぽだった。

 つまり全部ぶち撒けたらしい。


 栄養剤を全部ぶち撒ければ、まあ植物の方は無事では済まないだろう。リリアンティアに治療をお願いする他はなさそうである。



「とりあえずリリアに見てもらうか……」


「呪いも取れるかねぇ」


「無理じゃないかしラ♪」



 遠くを見つめる問題児大人組をよそに、雪桜に張り付いた人面瘡は「あははははははははは」と高らかな笑い声を響かせ続けるのだった。

《登場人物》


【ユフィーリア】雪桜にでっかい人面瘡が……え、もしかしてあの用務員室の鉢植えも笑ったりする?

【エドワード】よく見たら花びらにも人面瘡が浮かんでいるので、怖がりな上司にはあえて言わないでおいた。

【アイゼルネ】このあとさりげなく上司を雪桜から引き剥がすことになる。


【ショウ】栄養剤は迷わず全部ぶち撒けた。わあ、元気になったなぁ(棒読み)

【ハルア】とても元気に笑ってる。いいね!(ヤケクソ)

【キクガ】八雲夕凪を埋めた張本人。人手として呵責開発課の課長を連れて行った。

【八雲夕凪】寝て起きたら大事な雪桜が大変なことになってるし動けないし散々だが、自分が蒔いた種である。自業自得。

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