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第111章第1話【問題用務員とオーロラオウム】

タイトル:お手、おかわり、回ってぴーよ!〜問題用務員、希少魔法動物調教事件〜

 羽が7色に輝いている大きなオウムが、何故か正面玄関に飾られていた。



「何これ」


「こんなのあったっけぇ?」


「いなかったはずだよ!!」


「魔法動物の授業で使うのかしラ♪」


「だからってこんな場所に放置します?」



 朝食を終えて用務員室に戻る道すがら、正面玄関を通りかかった時に巨大な鳥籠を見つけて立ち止まったのは問題児5名であった。ヴァラール魔法学院を創立当初からお騒がせしまくる問題児どもに目をつけられたオウムも可哀想なものである。

 真っ白な鳥籠の中に大人しく羽を休める虹色の翼を持つオウムは、トサカを揺らしながら物珍しげに視線を寄越してくる問題児を睨み返していた。時折、翼をはためかせて「けぇーッ」と威嚇するように鳴き声を上げる。


 銀髪碧眼の魔女、ユフィーリア・エイクトベルは「何だこいつ」と笑い、



「虹色の羽なんて珍しい奴だな」


「あ、ユフィーリア。鳥さんの籠に指は」



 今日も可憐なメイド服の女装少年、アズマ・ショウが止める間もなくユフィーリアは鳥籠の隙間に指を差し入れてしまう。


 すると、鳥籠の隙間からにゅっと突き出てきたユフィーリアの指先に反応して、虹色の翼を持つオウムは立派なくちばしでユフィーリアの指に食らいついた。当然の反応であった。

 オウムに指を食われたユフィーリアは「ぎゃあ!!」と悲鳴を上げて指を引っ込めた。手袋で覆われていたからかろうじて大怪我は回避できたが、それでも痛いことには間違いない。


 ユフィーリアは鳥籠にしがみつくと、



「テメェ、この野郎!!」


「ユーリが悪いんだから八つ当たりは止めなよぉ」



 鳥籠にしがみついてあらん限りの罵詈雑言を吐き捨てるユフィーリアを、屈強な巨漢――エドワード・ヴォルスラムが無理やり引き剥がしていた。魔法の天才と呼ばれしユフィーリアでも筋肉の力には敵うはずもなく、あっさりと鳥籠から引き剥がされていた。

 ジタバタと暴れながら「焼き鳥にしてやろうか、この汚え色の鳥がよ!!」と叫ぶ銀髪碧眼の魔女に対し、虹色のオウムはバサバサと翼をはためかせながら威嚇をし返していた。程度の低い争いである。


 暴れる銀髪碧眼の魔女を押さえつけるエドワードは、



「鳥籠に指なんか入れれば食いついてくれって言ってるようなものじゃんねぇ」


「この鳥さんめ、ユフィーリアの指先をよくも。唐揚げか焼き鳥かタンドリーチキンか選ばせてやろう」


「そこのお嫁さんも止めなさいってぇ、全面的に悪いのはユーリの方でしょぉ」



 愛する旦那様の指先に食いつかれたことが原因か、ショウも巨大な鳥籠に取り付いて虹色のオウムに威嚇していた。目が血走るを通り越して洞窟の如く真っ暗な瞳でオウムを見据えるものだから、虹色のオウムもさすがに怯えて鳥籠の隅に避難していた。

 さすがにユフィーリアで手一杯なエドワードは、ショウにまで手が回らずにいた。このままでは本当に唐揚げか焼き鳥かタンドリーチキンか、とにかく鶏肉料理にされかねない。


 エドワードは遠目から虹色のオウムを眺めていた南瓜頭のお茶汲み係――アイゼルネに振り返り、



「アイゼぇ、ショウちゃん止めてぇ」


「おねーさん、ハルちゃんだけで手一杯ヨ♪」



 アイゼルネの手には問題児の暴走機関車野郎ことハルア・アナスタシスの襟首が掴まれていた。ハルアの琥珀色の瞳は真っ白な鳥籠の中に収まっている虹色のオウムに固定されており、玩具を見つけた子供よろしくお目目がキラキラと輝いていた。

 あれは間違いなく、アイゼルネが止めていなかったら鳥籠に取り付いて騒ぎ立てることだろう。表情から判断できる。もうそういう運命であることは容易に想像できた。


 エドワードはため息を吐くと、とりあえず先に正気を取り戻すのに相応しい人物をぶん殴ってどうにかした。



「ユーリぃ、収拾がつかなくなるから正気に戻ってぇ」


「だッ」



 羽交締めにしていたユフィーリアの脳天に拳を叩き込んで正気を取り戻させるエドワード。頭の痛みのおかげで虹色のオウムに対する恨みつらみがどこかに消えたユフィーリアは、周囲を見回して「え、何……?」と殴られた理由を探す。

 虹色のオウムのせいで我を失っていた影響だろう。エドワードに殴られた理由が皆目見当もつかなかったようで、殴ってきたエドワードを逆に殴り返していた。理不尽である。しかしこれが問題児筆頭のやり方である。


 雪の結晶が刻まれた煙管を咥えたユフィーリアは、



「おらお前ら、とりあえず落ち着け。大丈夫だって」


「唐揚げ……タンドリーチキン……鳥飯……」


「ショウ坊は何? お腹空いてるの? さっき朝飯食ったばかりだよな?」



 呪詛の如く鶏肉を使った料理名を呟きまくるショウを鳥籠から引き剥がし、ユフィーリアは「どうどう」と落ち着かせる為に彼の顎を撫でてやった。旦那様の指先の感覚を思い出して正気を取り戻したショウは、あっさりとユフィーリアの指に陥落してしまう。

 少女の如き美貌を蕩けさせ、猫のように旦那様の指先に甘えるメイド少年。先程まで洞穴のような目でオウムを怖がらせた挙句に鶏肉の料理名の呪文でストレスを与え続けていた人物とはまるで違う。


 ユフィーリアは改めて虹色のオウムを観察すると、



「ああ、こいつ『オーロラオウム』か。珍しいオウムだぞ」


「そうなのか」


「リタは知ってるかな!!」


「知ってるというか、多分興奮すると思うな」



 未成年組の友人である1学年の少女に見せれば、間違いなく目をキラキラさせて「珍しい魔法動物ですよ!!」なんて言いながら生態について語るかもしれない。それぐらいに珍しい魔法動物であった。

 オーロラオウムとは南側に生息する鳥の魔法動物で、大空を飛び立つと虹が出て、夜に飛ぶとオーロラを呼ぶことがあるという逸話があるのだ。虹やオーロラを呼ぶ魔法動物は希少性が高いので、コレクターの間では高値で取引される話もちらほらと聞く。


 ユフィーリアは煙管の先端で真っ白な鳥籠を示すと、



「そんな珍しいのが何でこんな場所に放置されてるのかって話だけどな。『盗んでください』って言ってるようなものじゃねえか」


「この1羽でレティシア王国の一等地にお家が買えるよぉ」


「それが果たしてどれぐらいの値段になるのか分かりませんけども、エドさんがその例え話を出してくる時点で大体の金額に想像できますね」



 ショウが真剣な表情で頷いた。


 すると、どこからか「あ、問題児」なんて声が飛んできた。

 声の方向を振り返ると、学院長のグローリア・イーストエンドが何やら怪訝な表情で歩いてきた。珍しい魔法動物を前に変なことをしていないかと怪しんでいる様子である。何かをする前に疑いをかけられるのは不名誉である。


 グローリアは「何してるの」と低い声で言うと、



「そのオーロラオウムは授業に使うんだから、余計なことをしないんだよ」


「授業に使うのかよ、これ」


「使うんだよ。たまたま魔法動物方面の先生が南側に出張した時に懐かれたみたいで連れてきたんだってさ」


「懐かれたって何? 求愛された?」


「知らないけど、とりあえず黙秘しておくね」


「あながち間違いじゃねえってことは分かった」



 ユフィーリアが真剣な表情で返すも、グローリアは何も聞いていないとばかりにしれっと視線を逸らす。おそらくその教職員は、このオーロラオウムに求婚されたのだろう。

 注意するだけ注意してから、グローリアはスタスタとどこかに歩き去ってしまった。注意するだけして放置するとはいい度胸である。


 グローリアの姿が見えなくなってから、ユフィーリアは最愛の嫁に振り返る。



「ショウ坊、何かいい案はあるか?」


「あるぞ」



 ショウは爽やかな笑顔で親指を立てる。



「オウムは頭がいいから人の言葉を覚える。面白い言葉を覚えさせてあげよう」


「採用」



 ユフィーリアは嫁の提案を即座に採用を下すのだった。

《登場人物》


【ユフィーリア】外で昼寝をしていたら鳥に頭を突かれて叩き起こされたことがある。

【エドワード】トンビに食べているサンドイッチを奪われたことがあるが、即座に石で撃ち落とした。

【ハルア】両手を広げて片足立ちすると鳩が寄ってくる。

【アイゼルネ】鳩は仕事のパートナー。もちろん手品師の方面である。

【ショウ】オウムが人間の言葉を話すところを何度か目撃したことがある。何なら会話できたことがある。


【グローリア】昔、梟を飼っていた。結構可愛がっていたし天寿をまっとうさせた。

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