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第110章第7話【問題用務員とパーティー再開】

 荘厳な音楽が広々とした会場内を満たす。



「待って踊れない踊れない」


「音楽聴いて、ちゃんと聴いて」


「こんなもん楽しめばいいんだよ」


「足踏まれた!!」



 創立記念パーティーに相応しい荘厳な音楽に合わせて、生徒たちは辿々しくワルツを踊る。

 だが、一朝一夕で叩き込んだダンスの技術はやはり底辺を這いずっていた。まともに踊れる生徒はちらほらと見かけるものの、大半の生徒は相手の足を踏みつけたり、ドレスの裾を踏んだりなど災難にぶち当たっている様子である。音楽に合わせて悲鳴が聞こえてきた。


 そんな光景の中、ユフィーリアはシャンパンを片手に踊る2人組を眺めていた。



「ハルとリタ嬢はちゃんと踊れてるな」


「リタちゃんにはおねーさんが技術を叩き込んだもノ♪」



 アイゼルネは硝子杯グラスいっぱいに詰め込まれたナッツを口に運びながら言う。そういえば、ダンスの技術を教える時にアイゼルネはリタや他の女子生徒につきっきりで教えていたか。


 覚束ないダンスを披露する生徒に混ざって、ハルアとリタが優雅に踊っていた。リタのドレスが花弁の如くふわりと翻り、ハルアがしっかりとリタの身体を支えてダンスを補佐する。教えたことはちゃんと実践できている様子である。

 2人が目を合わせると、少し恥ずかしそうに笑い合っていた。あの場所だけ妙に甘酸っぱい空気が漂っている。青春である。


 ユフィーリアは満足げに頷き、ツイと指先を虚空に滑らせる。魔法でハルアとリタが踊る光景を切り取って、写真として保存しておいた。『風景記録魔法』と呼ばれるものである。



「アイゼ、厳重に保管。あいつにバレんなよ」


「了解♪」



 アイゼルネはユフィーリアが魔法で切り取った写真を丁重に受け取り、豊満な胸の谷間にむぎゅむぎゅと押し込んで収納した。純情なハルアならアイゼルネの胸元から写真を無理やり引き摺り出すような真似はしないだろう。



「ユフィーリア、ユフィーリア。踊ろう踊ろう」


「お、踊るか? いいぞ、ちゃんとエスコートできるか?」


「もちろんだ。任せてくれ」



 ハルアとリタの2人が踊っているのに触発されたのか、ショウがユフィーリアをダンスに誘ってくる。そっと差し出された手を握り返すと、ショウは恥ずかしそうに笑った。

 その笑顔が可愛くて、ユフィーリアは膝から崩れ落ちそうになる。だが、この場は創立記念パーティーの場である。鼻血を垂れ流して膝から崩れ落ちれば、まず間違いなく悪い意味で注目を集める羽目になる。グローリアからも怒られたくはない。


 鼻の奥に感じる熱い液体を無理やり身体に収納し、ユフィーリアはダンスに臨んだ。



 ☆



「あ、問題児も踊ってる」


「まあ、当然ッスよねぇ」



 ユフィーリアとショウが荘厳な音楽に合わせてワルツを踊っている最中、ヴァラール魔法学院のツートップであるグローリアとスカイは平和なパーティーの様子を静かに眺めていた。

 学院長と副学院長の2人は来賓客をもてなすという仕事があるので、当然ながらダンスには参加しない。そもそも踊る相手もいないので壁の花を決め込んでいた方が楽なのだ。


 そんな光景を眺めていた獣王陛下のリオンが、



「オレも踊りたかったがな」


「貴方は国賓でしょうに」



 リオンの呟きを隣で聞いていたカーシムが軽く窘める。



「そもそも、あの2人の仲を邪魔すると絶対にお嫁さんの方が燃やしてきますよ。冥砲ルナ・フェルノの威力はご存知でしょう」


「もう散々耳も尻尾も引っ張られたのだ、そろそろ懲りている」



 リオンは痛々しげに自分の尻尾と耳を撫でた。今まで未成年組の2人から散々耳と尻尾を引っ張られて、未だにちょっと痛いのだ。



「そういえば第一席――いや、この場合は学院長と呼んだ方が?」


「はい、如何されました?」


「卿は知っているか知らないが」



 毒味役からシャンパンを受け取った龍帝陛下のフェイツイは、爬虫類を想起させる冷たい瞳でグローリアを見下ろした。



「噂では冥府が忙しいと聞いた。それは真か?」


「ああ、その話ですね」



 グローリアはフェイツイの言葉に「その通りです」と頷く。


 現在、冥府では時代が変わろうとしているらしい。冥府総督府はバタバタと忙しくしているようで、冥王第一補佐官のアズマ・キクガはたびたびヴァラール魔法学院に顔を出していたにも関わらず最近では訪問すらない様子だった。連絡は取れているので問題はないだろう。

 冥府の時代が変わるということは、現世であるこの場所にも何らかの影響はあると考えてもいい。獣王陛下に龍帝陛下、そして数多の行商人を束ねる最高責任者である彼らは耳に入れておかなければならない情報だ。



「まあ問題はございません、時代が変わるとはいえまだ時間はありますから」



 グローリアは余裕の表情で、



「焦らずいきましょう。世界はいい方向に進んでいますよ」

《登場人物》


【ユフィーリア】パーティー再開を喜ぶ嫁が可愛くて膝から崩れ落ちそう。

【ショウ】格好いい旦那様をエスコートするのは緊張するぜ。


【エドワード】ダンス始まったし、アイゼと踊ろうぉ。

【ハルア】リタと踊っているのでそれどころじゃない。手汗大丈夫かな、ちゃんと出来てるかな。幻滅されない?

【アイゼルネ】ハルちゃんが可愛い〜。


【グローリア】何やらいろんな事情はちゃんと知っている。

【リオン】本当はユフィーリアと踊りたかったが、嫁の方が怖いので引っ込んでおく。

【カーシム】奴隷の販売ルートを確保するのに頭を巡らせている。

【フェイツイ】冥王の噂はちょっと聞いただけだが、本当なんだね。

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