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第110章第4話【問題用務員と秘宝毒酒使用】

「は――――?」



 校門にしがみつくエルフたちが、そんな間抜けな声を漏らした。


 朗らかな笑顔と共に最愛の嫁であるショウが宣言したのは、非常に残酷なものだった。数分前までユフィーリアとエドワードがやるはずだった出来事を、つい今しがた終えてきたと言わんばかりの口調だった。

 しかも、これから『どうやって蛮族エルフどもを殺害してきたのか』という方法まで明かしてくれるらしい。普段は遊びだ何だと可愛いことをしている未成年組とはえらい違いである。


 ハルアが小さなエルフの子供を地面に下ろすと、



「あい、ショウちゃん!!」


「はーい、ご注文ありがとうございまーす」



 逃げようとするエルフの子供の背後を取り、ショウはその華奢な身体のどこから来るのか不明な力強さで相手に組み付く。そして暴れる小さなエルフの口に陶器製の酒瓶のようなものを口の中に突っ込んだ。

 くぐもった悲鳴がエルフの子供から漏れる。口の端から垂れる透明な液体が、子供の着ているボロボロの衣服を濡らした。ジタバタと暴れて液体が口の中に入ることを拒んでいるものの、ショウの容赦ない手つきに液体が体内に入り込んでいく。


 そして陶器製の酒瓶の中身を摂取したことを確認してから、ショウは小さなエルフを解放した。次の瞬間、



「が、がぁ、がががががああああああああああああああ!!!!」



 小さな子供の口から断末魔にも似た悲鳴が迸った。

 ジタバタと舗装路の上をのたうち回り、指先で地面をガリガリと引っ掻く。喉を掻き毟り、涎を垂らして苦しみ、その場にいる全ての生物から血の気が引くほどの恐ろしい苦しみ方を見せた。


 そして、やがて小さなエルフは荒々しい呼吸と共に落ち着く。生きているのでどうやら普通の毒ではなさそうである。



「さあ、貴方を苦しめた我々に何かやることはあるんじゃないですか?」


「そうだね!! 反撃だね!!」



 ショウとハルアはわざわざ小さなエルフたちと目線を合わせる為に膝を折った。ニコニコと恐ろしい笑みを絶やすことなく、子供エルフと向かい合う。


 その言葉を受けて、子供のエルフはすぐさま反撃しようと行動した。両手を前に出して魔法を使う為に詠唱を口にする。ショウとハルアの立ち位置から判断してかなりの至近距離から魔法を浴びる羽目になるので、ユフィーリアはすぐさま防衛魔法を展開しようとした。

 しかし、雪の結晶が刻まれた煙管を振り上げるも、エルフの手から魔法は放たれなかった。不発に終わった訳ではない。詠唱が完成しても何も起きなかったのだ。


 子供のエルフは自分の手のひらを呆然と眺めて、



「な、何で……何で……?」


「ははは、魔法が使えなくなったでしょう」



 ショウは子供のエルフに飲ませた陶器製の酒瓶を掲げると、



「こちら、秘宝毒酒ミィ・ドゥと言いましてですね。便利なことに魔力回路だけを破壊する毒なんですよ。おかげで貴方は見事に魔法を使うことが出来なくなりました」


「よかったね!! これで野蛮人の仲間入りだ!!」



 ショウとハルアは笑顔で残酷なことを言い放つ。


 魔法の祖としての高いプライドがあるから、魔法が使えなくなればエルフとしての『死』である。どうやってエルフの故郷を滅ぼしてきたのかという方法は、血みどろの方向ではなくプライドをバキバキにへし折る方向でやってきたのだ。

 絶望の表情を見せる子供のエルフ。自分の手のひらを見て、それから満面の笑みで見つめてくるショウとハルアを見つめる。そんな視線を交互に動かしたところで事実は変わらない。この子供は今後永遠に魔法が使えなくなってしまったのだ。


 すると、



「〈爆ぜろ〉おおおおおおおおおおお!!!!」



 校門にしがみついていたエルフの軍団から一斉に爆発魔法が叩き込まれた。


 その魔法もヴァラール魔法学院の敷地内に展開される結界に阻まれて、あらぬ方向に飛んでいく。すでに土が捲れ上がって爆心地のようになっているヴァラール魔法学院外の自然がさらに悲惨なことになっていく。

 大人のエルフたちは涙を流し、怒りの表情を見せていた。子供から魔力回路と呼ばれる魔法の源を奪った悪魔の所業が許せないのだ。


 連続して爆発魔法を叩き込んでくるエルフを眺めていたショウは、



「あれ、いつ魔力欠乏症マギア・ロストを引き起こすだろうか」


「爆発魔法はそこそこ魔力を消費するからなぁ」



 ユフィーリアは雪の結晶が刻まれた煙管を咥えると、



「面倒だ、凍らせよ」


「あ、ユフィーリア。凍らせるなら口と足だけで頼む」


「何でそんなピンポイントを狙うんだ?」


「単純に動きを止めるのと黙らせる為だが」



 口と足を狙うようにと指示を出してきたショウに、ユフィーリアは首を傾げた。そして、その理由に納得した。

 蛮族エルフどもは無詠唱魔法なんていう技術を習得していない。呪文を唱えて魔法を発動させるという一般的な方法で魔法を発動させるのだ。その動作を塞ぐには口を塞ぐなどといった方法で発声方法を奪えばいいし、足を奪って動きを止めればただの的である。


 問題児の軍師を信じて、ユフィーリアは雪の結晶が刻まれた煙管を一振りした。



「〈大凍結イ・フリーズ〉」



 真冬に似た空気が流れる。

 身体の芯まで凍るような風が頬を撫でたと思えば、パキンと音を立てて蛮族エルフどもの口と足が凍りつく。彼らの口元はマスクのような氷の膜によって覆われ、両足は地面に縫い付けられたかのように凍って一体化されている。


 動きと魔法を強制的に封じられたエルフどもは、口元を覆う氷の膜を指先で引き剥がそうと躍起になっていた。「むー、むー!!」と唸り声を上げているが、残念ながらその声は意味不明な言葉しかならない。



「どうですか、魔法を封じられる気分は。いやぁ、無様ですねぇ」



 喋れなくなった蛮族エルフどもを嘲笑うショウ。その舌鋒が冴え渡る。いつもの如く冴え渡るのでユフィーリアやエドワードでも何も言えなくなった。

 エルフどもは血走った目でショウを睨みつける。下手をすれば根性で無詠唱魔法を習得してくるかもしれないのだが、そんなことなどお構いなしとばかりに閉ざされた校門を開けてエルフどもの目の前に立つ。


 ニコニコと笑顔を見せたショウは、



「えい☆」



 きゅぼ、と。

 冥砲ルナ・フェルノから放たれた高火力の炎の矢が、ショウの目の前に立つエルフの両腕を焼いた。炎に包まれたエルフの腕が一瞬にして消し炭である。


 氷の膜で口を塞がれている為、エルフの口からはくぐもった悲鳴しか出ない。しかし切長の瞳から滂沱の涙を流しているので、痛いには痛いのだろう。



「おや、こちらに神造兵器レジェンダリィがあるのを知らなかったですか? 魔法だけじゃないんですよ、むしろ俺やハルさんは魔法を使えないですし。でも余裕で貴方がたの目の前に立っているのは、神造兵器の恩恵と自慢ではないですが貴方がたよりも頭がいいからですね。いやぁ、情報社会から隔絶されるとこんなにもお馬鹿ちゃんになるんですねぇ」



 痛ぶるのが上手いショウである。彼の背後に冥府で働く彼の父親の姿が薄らと見える。常日頃から彼の父親は『インテリヤクザ』だと言っていたが、その血筋は間違いなくショウにも引き継がれている。


 すると、ショウの腰に魔法という手段を奪われたエルフの子供が抱きついた。

 何をするかと思えば、ポコポコと小さな拳でショウの腰を叩いている。子供の目には涙が浮かび、同族を虐めているショウから仲間のエルフたちを助けようと決死の暴力を振るっていた。



「父ちゃんたちを――みんなを虐めるなぁ!!」


「ほう、なるほど。貴方がたがそう言いますか」



 ショウの声が明らかに下がった。その絶対零度の声に、エルフの子供が「ひゅッ」と息を呑む。



「よろしい、ご自分たちが今まで何をしてきたのか分かっていない田舎者にも分かりやすく教えてあげましょう」



 ショウは「ハルさん」と呼びかけた。


 後輩に名前を呼ばれたハルアは、無言で懐から禍々しい黒色の剣を引っ張り出す。いつのまに礼服の下に仕込んでいたのか、神造兵器のダインスレイヴが出てきた。

 両手で真っ黒な剣を握りしめたハルアは、ショウの目の前に立つエルフの胸に黒色の剣を突き刺した。エルフの氷で覆われた口が真っ赤に染まり、しかし剣が突き刺さった胸元からは黒い粘ついた液体しか漏れ出てこない。ダインスレイヴの持つ呪いが体内に侵食しているのだ。


 やがて、エルフの身体は指先からひび割れて粉々に砕け散る。あれでは死者蘇生魔法ネクロマンシーの適用すら出来ない。



「父ちゃん!!!!」



 子供エルフの口から悲痛な叫び声が上がった。

《登場人物》


【ユフィーリア】秘宝毒酒って使用されるとあんなになるのかぁ。それにしても嫁の容赦のなさに怖い。

【エドワード】後輩の容赦のなさが怖いなぁ。それでも可愛い後輩であることには変わらないんですけれども。

【ハルア】容赦のない問題児。敵はすべからくぶち殺してきたからね。

【ショウ】最愛の旦那様に触れるエルフ族、マジ許さん。なので本気で潰してやるのである。むん。


【グローリア】問題児を敵に回すと碌なことにならないなぁ。

【スカイ】下手すりゃ未成年組に何度か冥府送りにされている可能性もあるかもしれないが、とりあえず楽しいおもちゃを作ってくれる人と認識されているので今のところお咎めなし。

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