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第110章第1話【問題用務員とエルフ族】

タイトル:vsエルフ族!!〜問題用務員、エルフ族虐殺事件〜

 盛大な爆発音と共に大講堂が激しく揺れた。



「きゃああああああああああああ!!」


「うわああああああああああああ!!」



 生徒たちの悲鳴が創立記念パーティーの楽しい雰囲気を絶望に塗り替えていく。

 天井から吊り下がった絢爛豪華な照明器具は、爆発の影響で大きく揺れてガシャガシャと耳障りな音を響かせる。建物全体がミシミシと軋んだ音を立て、砂埃のようなものまで落ちてきた。生徒や教職員は大理石の床に伏せて頭を抱え、悲鳴を上げるしかない。


 ユフィーリアは建物の外を睨みつけ、



「何だってんだ、こんな時に!!」


「エルフの連中だ!!」



 そう叫んだのは、獣王陛下のリオンである。スカイのように世界をどこでも見放題の『現在視の魔眼』を持っている訳でもないのに、訳知り顔で絶叫する。



「山の麓にいるぞ!!」


「馬鹿みてえなこと言ってんじゃねえ、何を根拠にそんなことを語る!!」


「いや、そこの王様の言ってることは嘘じゃないッス」



 リオンに怒鳴りつけるユフィーリアだったが、スカイの言葉に「嘘だろ!?」と叫び返していた。どうやら本当にエルフ族の襲撃を受けているらしい。

 俄かには信じ難い話だが、リオンの言葉は全て事実という訳である。一体どんな原理で言い当てたのか不明だ。もしかして獣の勘というものだろうか。


 大理石の床に伏せたショウがユフィーリアを見上げ、



「エルフって、あのお耳の長くて美人や美形が多いって噂の?」


「え、あれ美人だったか?」


「美人っていたっけぇ? 芋っぽいのばかりだったと思うよぉ」


「古臭いど田舎在住の石頭連中ヨ♪」


「酷い言われようだ」



 ショウはちょっぴりガッカリしたような口振りで言う。


 エルフ族とは森林などを生息地にする長命種で、側頭部から垂直に突き出た長い耳が特徴的だ。長い時を自然と共に生きる彼らは独自の文化を築いており、主に南側の大森林を根城にしていると聞く。真逆の方向から一体こんな辺鄙な場所に建つ魔法学校に何の用事か。

 ――と思うが、ユフィーリアにはエルフ族の襲撃の理由に見当がついていた。エルフ族が襲撃を仕掛けてくるのは、この1000年間で500回以上には及ぶ。2年に1回の間隔で襲ってくるのだ、あの蛮族。


 襲撃者の正体について理解したユフィーリアは、



「おい、爺さんはどこにいる? 八雲の爺さんに結界を反射してもらおう」


「今やっとるわい」



 ユフィーリアの言葉に反応をしたのは、大理石の床に胡座を掻く純白の九尾の狐――八雲夕凪である。「むむむ」と眉根を寄せて手をバタバタと振り回すと、それまで聞こえていた爆発音が途絶えた。

 ヴァラール魔法学院の敷地内は、七魔法王セブンズ・マギアスが第五席【世界防衛セカイボウエイ】である八雲夕凪が結界を張って襲撃に備えている。今回、建物が揺れるだけの被害に留まったのは八雲夕凪が展開する強固な結界のおかげである。結界の性質をいじれば、受けた攻撃を跳ね返す性質を持たせることも可能だ。


 ふと、ショウが何かに気づいたように言う。



「八雲のお爺ちゃんが結界で守っているのか?」


「そうだな。植物園の管理人の作業もやってねえし、それぐらいは働いてもらわねえと」


「結界が展開されながらここまで建物が揺れて爆発音が聞こえてくるということは、かなり大規模な魔法になるのでは?」


「…………」


「具体的には、ヴァラール魔法学院の結界が展開されていない敷地外が大変なことに」



 ショウの指摘を受け、ユフィーリアはスカイに視線をやる。現状で建物の外に出て行かずに外の景色を確認できるのは彼だけだ。



「あー、うん」



 スカイは魔眼で周辺の景色を確認したらしく、



「爆心地☆」


「そんな馬鹿みてえな言い方をしてんじゃねえ」



 ユフィーリアはスカイの後頭部を引っ叩いた。


 あの蛮族、自然と共に生きる割には他人の領域の自然を害するのを躊躇しないのは何故なのか。学院の周辺地域が爆心地のようになれば、ヴァラール魔法学院が誇る豊富な魔素が消えてなくなりかねない。

 もしかしたら、エルフ族の狙いはそれかもしれない。ヴァラール魔法学院が魔法学院としての機能を失うことを目的として、強大な魔法を打ち込んできたという可能性もある。


 グローリアが「とにかく」と言い、



「まずは現状の把握とエルフ族がどこにいるか確認しないと。ユフィーリアとエドワード君、あとスカイは僕と一緒に来て。他は怪我をした生徒がいないか確認して待機。僕から指示を出すから勝手に動かないこと」



 敵の把握の役目に抜擢され、ユフィーリアとエドワードは口を揃えて「了解」と返した。ヴァラール魔法学院きっての武闘派であるユフィーリアとエドワードが選ばれるのは妥当だろう。



「オレも行く」


「ハル……」


「連れてって」



 敵情視察の人員が選出されたところで、ハルアが割り込んできた。険しい表情は彼らしくなく、明らかに怒っている雰囲気が漂う。

 数多くの神造兵器を操るハルアが同行すれば、襲撃してきたエルフ族にも牽制できる。あの蛮族どもも彼の戦力には敵わないだろう。


 だが、彼の申し出に待ったをかけたのはユフィーリアではなく、



「ハルさん、ダメだ」


「ショウちゃん、何で止めるの」


「問題児らしくないからだ」



 敵情視察について行こうとするハルアの腕を掴み、ショウが止める。



「ハルさん、問題児は売られた喧嘩をそのまま買うはずがないだろう。世の中には『やられたらやり返す、倍返しでな!!』という格言もある」


「じゃあどうするの」


「俺に考えがある。ハルさんの覚悟があるならお話する」


「ん」



 ショウの説得が功を奏したのか、ハルアは敵情視察への動向を取りやめた。代わりに「何すればいいの」とショウに話の続きを促している。

 問題児が誇る天才軍師様が何を考えているのか不明だが、とりあえず嫌な予感とだけは理解した。エルフ族はおそらく敵に回してはいけない人物を回したと思う。


 そっと未成年組から視線を逸らしたユフィーリアは、



「行くか、エド」


「怖いけどいいよぉ」



 エドワードもまた未成年組に恐怖心を抱いた様子である。ただでさえ舌戦最強を誇り、頭脳明晰で凶悪な作戦立案も得意とする軍師と暴走機関車野郎のコンビだ。世界を滅ぼすことも容易いだろう。

 せめて穏便に――済ませることは難しいだろうが、彼らの行動を誰かが止めてくれることを切に願いながらユフィーリアとエドワードは学院長と副学院長の背中を追いかけるしかなかった。


 ユフィーリアは先を急ぐグローリアの背中に、質問を投げかける。



「エルフの野郎どもが襲撃してきたってことは、やっぱりあの理由か?」


「それ以外に考えられないよ。いつも同じような理由だったでしょ」



 グローリアが苛立ち混じりの口調で返す。



「いつもの理由って言うとぉ、魔法が云々ってあれぇ?」


「それ以外にないッスねぇ、あんな蛮族が攻めてくる理由なんて」



 エドワードの疑問に、スカイが肩を竦めて肯定する。


 エルフ族の襲撃理由は『魔法の返還』という極めて意味不明なものだった。彼らが言うには「魔法の存在はエルフ族が先に見つけたもので、我が物顔で使用する人間たちが許せない」という身勝手なものである。

 魔法は誰かが使用の制限をかけるようなものではなく、魔法を中心に据えた文化を発展させるのも人間側の研鑽と努力の結果である。それをどの口が言っているのだろうか。


 つまり、分かりやすく言えば「人間のような猿は魔法なんて高度なものを使うんじゃない」という訳である。



「この話、未成年組が知ったらどう思うだろうな」


「さあねぇ、エルフ族の集落に突撃訪問して根絶やしにするとかあり得そうだけどぉ」


「まさか、そこまでやらないでしょ」


「だってさすがに大虐殺じゃないッスか。犯罪になるッスよ、そんなの」



 あははははは、と笑い合う4人は、外の状況を確認するべく急ぐのだった。

《登場人物》


【ユフィーリア】過去にエルフに求婚されて、ぶっ飛ばしたことがある。

【エドワード】エルフってそんな綺麗だったっけ。ユフィーリアに求婚したのは地味な見た目をしていたような気がする。

【ハルア】せっかく楽しく踊ってたのに邪魔した連中を許さない。とりあえず後輩の言うこと聞いとこ。

【アイゼルネ】何だか物騒なことになっちゃった。

【ショウ】問題児きっての軍師。何を考えるのか分かったものではない。


【グローリア】2年に1回はエルフに襲撃されるのでうんざり。

【スカイ】エルフが魔法の祖とか言うなら魅了魔法を使っていた悪魔族はどうなるんだ。

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