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第109章第1話【問題用務員もパーティー】

タイトル:創立記念はっちゃけレッツパーリー!!〜問題用務員、創立記念パーティー荒らし事件〜

 創立記念パーティー開催日である。



「るったった!!」


「ハルさん、先に行くとはぐれてしまうぞ」


「それは困るね!! そうなったらオレは寂しく用務員室に帰らなきゃならなくなるよ!!」


「用務員室には帰れるのか」



 名門魔法学校を創立当初から騒がせる用務員の未成年組――アズマ・ショウとハルア・アナスタシスは絶賛浮かれ気味だった。

 何せ大賑わいの創立記念パーティーである。今年は創立1000周年を記念して豪華絢爛なものになっているらしい。先日の社交ダンスは大人たちの手によって徹底的に頭へ叩き込まれたので、来賓の前でヘマをするようなことはないだろう。


 実に楽しそうな雰囲気の未成年組の背中を眺める銀髪の魔女――ユフィーリア・エイクトベルは「危ねえぞ」と忠告を飛ばす。



「ちゃんと前見て歩け。そろそろ人が増えてきた」


「るったった!!!!」


「ショウ坊、そろそろハルに首輪でもつけなきゃいけないかな」


「子供用のハーネスぐらいが妥当だと思う」



 先に駆け出そうとする暴走気味な先輩の手を取るショウは、ハルアの背中を見るなり「ここから天使の羽でも生やしてやろうか……」などと呟いていた。おそらく先輩を殺す為の算段を考えている訳ではなく、子供用ハーネスとやらの意匠を考えているのだろう。

 ショウと手を繋いだことで、ハルアも先に行こうとする暴走状態は抑えられていた。大人しく手を繋がれている。ただ創立記念パーティーを楽しみにしている気分は抑えられないのか、ぶんぶんとショウと繋いだ手を振り回していた。


 ユフィーリアはやれやれと肩を竦めると、



「創立記念パーティーには来賓が来るんだから、粗相をすれば首が飛ぶぞ。物理的に」


「大丈夫、治るよ!! 魔法的にね!!」


「お前だけだよ助かるのは」



 細胞の1つ1つに再生魔法が刻印されているので、もし首が飛ばされる事態になっても放っておけばハルアは蘇るだろう。ただ、それで助かるのは彼だけだと学んでほしい。



「うううー……」


「何だよ、エド。腹でも下したか?」


「胸がきついぃ……」



 ユフィーリアの後ろを、足を引き摺るようにして歩く筋骨隆々の巨漢――エドワード・ヴォルスラムが弱々しい声で訴えてきた。

 創立記念パーティーに参加するにあたり、彼はきちんと正装であるタキシードを着ていた。ただしその布地は妙にパツパツである。正確に言うならば中に着込んでいるシャツが大変なことになっていた。かろうじて胸元を留めているボタンが可哀想なことになっている。


 そんな先輩の様子を目の当たりにしたショウとハルアは、呆れたように振り返って言う。



「ユフィーリアが言っていたじゃないですか、シャツを仕立て直した方がいいって。断っちゃったのが悪いんですよ」


「エド、筋肉つけすぎておっぱい成長してるってことを自覚持った方がいいよ!!」


「なぁに、この後輩たちぃ。やけに辛辣じゃんねぇ」



 意外にも未成年組から正論でトドメを刺され、エドワードは何やらしょんぼりと肩を落とす。可愛がっていた後輩たちから攻撃を受けることになろうとは思わなかったのだろう。



「そりゃそうですよ、エドさん格好いいんですもん。嫉妬しちゃう」


「そろそろ足がほしいんだよ、オレは!!」


「あらやだぁ、随分と可愛い理由じゃんねぇ」


「むいむいむいむい」


「ほよほよほよほよ」



 辛辣な理由が単なる嫉妬によるものだと知り、気分を良くしたエドワードが未成年組の頬をもちもちと揉み込む。未成年組も問題児の兄貴分に構ってもらえてご満悦の様子だった。

 ちなみに未成年組の2人も、正装の場ということでタキシードでおめかしをしていた。ショウも今日ばかりは女装も封印して、先輩たちとお揃いのタキシード姿である。髪の毛も整髪剤を利用してオールバックのおでこ出しだ。


 じゃれ合う問題児の野郎ども――特に最愛の嫁であるショウに注目するユフィーリアは、



「正装姿も可愛いってウチの嫁はこの世の天使か……?」


「ユーリ、正気に戻ってちょうだイ♪ その格好で鼻血を出そうものなら引っ叩くわヨ♪」


「何だよ、アイゼ。今夜は気が立ってるな」



 用務員室の美人お茶汲み係ことアイゼルネに厳しく注意され、ユフィーリアは「はいはい」と適当に応じた。幸いにも、まだ鼻血は出ていなかった。


 創立記念パーティーという場なので、ユフィーリアもまた普段の黒装束ではない。かと言って第七席【世界終焉セカイシュウエン】の特徴である喪服を想起させる真っ黒なドレスでもなく、夜空の如く色鮮やかな紺色のドレスだった。すらりとしたスカートには大胆にもスリットが刻み込まれており、程よく肉のついた真っ白い太腿まで露わになっていた。

 生地には砕かれた水晶が縫い留められており、明かりを反射して星屑のように煌めく。自慢としている銀糸の髪も綺麗にまとめられ、三日月と雪の結晶のモチーフが特徴的な髪飾りが目を引いた。いつもの簡素を通り越して無骨で洒落っ気がない黒装束の格好とは大違いである。


 そして肝心のアイゼルネは、



「アイゼ、今日はフルメイクなんだな」


「当然ヨ♪」



 普段こそ収穫祭で見かける橙色の南瓜のハリボテで頭部を覆い隠しているアイゼルネだが、創立記念パーティーという特別な行事を前に素顔を晒していた。もちろん、化粧も抜かりはなく、頬に刻まれた痛ましい傷跡を綺麗さっぱり消し去っている。

 かつては移動式サーカスで舞台にも立っていたからか、化粧はかなり華やかなものとなっていた。猫のような吊り目を彩る赤を基調としたアイメイク、ふっくらとした唇も艶やかな口紅を合わせている。豊満な肢体を覆い隠すのは胸元が大きく開いた真っ赤なドレスだ。パーティーに相応しい豪華さである。


 見る角度によってその色を変える魅惑の瞳を緩めて笑うアイゼルネは、



「せっかくのパーティーだもノ♪ おねーさんも1000周年記念仕様ヨ♪」


「アイゼさん、綺麗ですよ」


「美人さんに磨きがかかってるね!!」


「あらやだワ♪ この未成年組ったらお口がお上手♪」


「むきゅむきゅむきゅむきゅ」


「めうめうめうめう」



 ショウとハルアからの称賛の言葉を受け、アイゼルネは照れ隠しで彼らの頬をもちもちと揉み込んだ。エドワードに次いで二度目であるが、未成年組は先輩に構ってもらえて楽しそうに笑っていた。



「え、すご……」


「ど、どうしちゃったのこれ」


「来賓が来るから?」


「1000周年だし……」



 いつのまにやら創立記念パーティーの会場付近に到着したようだ。


 会場付近には、綺麗にドレスやタキシードで着飾った生徒たちが何やら怪しむような目線で会場を覗き込んでいる。会場に足を踏み入れる様子はなく、警戒心を抱いているようだった。

 創立記念パーティーの会場に選ばれたのは、ヴァラール魔法学院でも特に広いと謳われる大講堂である。特におかしなことはないはずだ。ユフィーリアどころか誰もが見慣れた大講堂のはずだが、警戒心を抱かれるとは何の仕掛けをしたのか。


 ユフィーリアたち問題児は生徒たちの間を掻き分けて、創立記念パーティーの会場内に足を踏み入れる。



「そんな驚くことでもないだろ。ただの大講堂――」



 ユフィーリアは息を呑んだ。その他の問題児は言葉を失った。


 大講堂の床は大理石に変わり、明かりを反射して艶やかに輝く。高い位置にある天井からは豪華な照明器具が吊り下げられており、部屋自体にもパーティー会場に相応しい奥行きが存在していた。

 部屋の隅にずらりと並んだ料理の数々、そして上等な楽器を携えた楽団まで勢揃いである。去年の創立記念パーティーはこんな絢爛豪華な見た目をしていなかった。



「何じゃこりゃあ!?!!」


「どうなってんのこれぇ!?!!」


「凄え!!!!」


「あら素敵♪」


「そ、創立記念パーティーとはこんな豪華だったのか……?」


「ショウ坊、落ち着け。去年はこんなのじゃなかった。これが通常じゃないからな!?」



 あまりにも絢爛豪華な創立記念パーティーの会場に、問題児たちも堪らず叫んでいた。そりゃ生徒も警戒心を抱く。

《登場人物》


【ユフィーリア】外に出かける以外なら舞踏会でも服装でふざける。残念ながら今回は来賓客がいるのでちゃんとドレス。

【エドワード】スーツを仕立て直さなかったから胸がきつい。

【ハルア】このあと、ショウから天使の羽付きのハーネスをつけられることを知らない。

【アイゼルネ】せっかくのパーティーなので傷を隠してフルメイク。

【ショウ】今回はちゃんと男装。

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