第108章第5話【問題用務員と回る未成年組】
そんな訳で、毎度恒例のお説教である。
「馬鹿なのかな、君は」
「1周回って天才だよ」
「うるさいよ、馬鹿」
「馬鹿って言う方が馬鹿なんです、バーカ」
正座をするユフィーリアは、馬鹿と宣うグローリアを相手に「馬鹿」と言い返す。決して馬鹿ではない、ただ少しのお茶目である。
呪いのバレエシューズの餌食になった生徒たちは現在、グローリアが魔法で動きを止めていた。その隙にエドワードとアイゼルネの2人がかりでバレエシューズを強制的に脱がせている。怒られるよりマシということで、彼らは粛々と生徒たちの足からバレエシューズを引っこ抜いていた。
ユフィーリアだって、こんなことになるとは思わなかったのだ。被服室の素材を勝手に使ってバレエシューズを作ったのは、まあ怒られて然るべきだとは頭でも理解している。だが魔法が失敗したのは何もそこまで怒る必要はないだろう。
グローリアは呆れたようにため息を吐くと、
「まともに社交ダンスも教えられないの?」
「見様見真似で最低限の動きでいいって言ったのに、体力切れを起こす生徒たちの貧弱さが悪いんじゃねえのかな」
「責任転嫁しないんだよ」
グローリアの厳しい言葉が叩きつけられるも、ユフィーリアはしれっと明後日の方向を見上げて誤魔化した。知ったことではないのだ。
「ところでさ」
「何だよグローリア」
「あれ、未成年組だよね?」
グローリアが示した方角にいたのは、くるくると未だに回り続ける未成年組である。永遠に回り続けるメリーゴーランドかと思うぐらいにくるくるとまだ回っていた。
少し目を離しても永遠に回っているので、もはやそういう踊りなのかと錯覚してしまう。目が回りそうだ。未成年組式社交ダンスは三半規管が鍛えられそうである。
ユフィーリアは苦笑し、
「もうああやって踊るのが癖になってるみたいでな。本番であんな感じでくるくる回り始めたら、叱るのはあいつらだけにしてくれ」
「いや別に、どうやって踊ろうが勝手だけどさ」
グローリアは納得してないような微妙な表情を浮かべると、
「せっかく、ハルア君とリタちゃんが社交ダンスを踊れるようにって思ったんだけどなぁ」
「え?」
「何でもない」
「何て言った? ハルとリタ嬢が何だって?」
「何でもない」
大人たちの思惑と好奇心など露知らず、未成年組は奇声を上げながら今もなお回るだけの社交ダンスを踊り続けるのだった。
《登場人物》
【ユフィーリア】ちょっとでもまともに未成年組が踊れるようにと社交ダンス教室を任されたけど、あれで覚えちゃったらどうしようもない。
【エドワード】社交ダンスで三半規管でも鍛えるつもりか?
【ハルア】ショウに引きずられながら回ってる。これでも楽しんでる。
【アイゼルネ】未成年組はもうそっちのけで、社交ダンスを頑張る女の子たちに指導をしていた。
【ショウ】回るの楽しいなぁ。
【グローリア】生徒と問題児の関係については知ってたりするんだな、これが。