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第108章第2話【問題用務員と社交ダンス教室】

 そんな訳で、1学年を強制的に招集してダンス教室である。



「――あ、あー。諸君。ヴァラール魔法学院に通う1学年諸君。今すぐ授業を中断して大講堂に集合するように。30分経過しても全員揃わなかったら10分ごとに下着から順番に衣服が消えていきます。以上、頑張ってください」



 ちなみに、あらかじめ上記のような内容で放送魔法をかけたので、衣服を消し飛ばされたくない1学年の哀れな生徒たちは慌てて大講堂に駆け込んだのだった。

 誰もが肩で息をして、膝から崩れ落ちそうなほど疲れ切っていた。一体どこから全力疾走してきたのかと問いただしたくなるが、まあ魔法使いや魔女は運動音痴が多いので疲れることもやむなしだろう。運動させてやったということで、問題児にも感謝してほしいところだ。


 ところが、である。



「この、問題児……!!」


「殺せるなら殺してやりてえ……!!」


「でも飛びかかったらやり返されるだけだ……」


「闇討ち暗殺……」


「よーし、今文句を言った奴は下着を消してやるから泣いて叫べ」



 ユフィーリアは雪の結晶が刻まれた煙管を一振りして、転送魔法を発動した。


 ぱさぱさッ、と軽い音が聞こえてくる。

 ふと視線を足元にやると、色とりどりの布の塊が落ちていた。ズボンの形をしているものや明らかに下着と分かるもの、そして派手な模様が描かれているものまで多岐に渡る。


 それらを手に取ったハルアとショウが、1学年の生徒たちに見せつけるように広げた。



「わあ、可愛いハート柄ですねぇ」


「こっちは真っ白だよ!!」


「おや、どぎつい紫色。これは目に優しくないお色ですね」


「ショウちゃん、これ紐なんだけど穿けるの?」


「ハルさん、お目目が汚れちゃうからポイしよう」


「お目目が汚れちゃうの!?」



 どこの誰が穿いていたのか知らないが、とりあえず紐で構成された阿呆みたいな下着がハルアの手の中にあり、ショウがやんわりとそれを回収して大講堂の床に叩きつける。

 文句を言ってきた馬鹿タレどもの下着を転送魔法で強奪したことにより、生徒たちは軒並み甲高い悲鳴を上げ始めた。下着を無理やり剥ぎ取られた連中だけではなく、薄汚え下着を目の前に突きつけられた少年少女たちも「きゃー!?」「うわあーッ!?」と叫んでいた。虫を見た時のような反応である。


 今しがたショウが大講堂の床に叩きつけた紐だけで構成される下着を一瞥したユフィーリアは、



「あれ、エドが昔穿いてたのに似てるなぁ」


「えッ!?」


「エドさんこんなの穿いてたんですか!?」



 ユフィーリアの小さな一言を即座に拾った未成年組が、自分たちの兄貴分に勢いよく振り返る。生徒たちの注目も自然とエドワードに集まってしまった。

 肝心のエドワードは、ユフィーリアの脇腹を千切り取る勢いでつねってきやがった。めっちゃくちゃ痛かったが悲鳴が出ず、ジタバタとその場でもがき苦しむだけだった。


 エドワードは「昔ねぇ」と前置きをし、



「昔は今より割と細めのねぇ、服装が好きだったからねぇ」


「棘とかついてたぞ。あと目の周りを真っ黒に塗ったりとか」


「余計なことを言わないでいいのよぉ、肝臓を千切り取るよぉ」


「いだだだだだだだだだだ今度こそ本当に痛い痛い痛い!!」



 昔のエドワードのファッション事情を知っているユフィーリアが正直に話したところ、今度こそ肝臓の辺りを千切り取る勢いで脇腹をつねられた。痛くて今度こそ悲鳴が出た。

 だって事実である。昔のエドワードのファッションは何だか様子がおかしかったのだ。上着に棘がついていたり、首輪に棘がついていたり、ズボンがやたらズタズタになっていたり、目元の周りだけ真っ黒く塗り潰したりしていた訳である。お洒落するたびに二度見したほどだ。


 まあ、そんなことはさておいて。



「はい、お前らにこれから社交ダンスを教えます。創立記念パーティーで必要になるみたいなんで、学院長から直々に教えるように依頼されました」


「男子は俺ちゃん教えるねぇ。女子はユーリに教えてもらいなぁ」



 社交ダンス教室を始めるにあたり、講師はユフィーリアとエドワードが務めることになる。2人は長い時を共に過ごしている影響で、ユフィーリアが出来る魔法を除いたあらゆる技術は同様にエドワードにも叩き込まれているのだ。

 若気の至りで社交ダンスの大会に出場した経験もあり、講師も務めた経験も持ち合わせる。今回の社交ダンス教室にはうってつけの人材である。


 しかし、問題児に教えてもらうというのが一般の生徒からは屈辱のようで、



「何で教えてもらわなきゃいけないんだ」


「別に踊らなくてもいいだろ」


「関係ないわよ」


「授業を潰してまで受ける義理はないわ」



 口々に生徒が文句を言ってくるので、ユフィーリアは問答無用で黙らせることにした。



「今回の創立記念パーティーは創立1000周年もあるから、懇意にしてる王族どもを招待したんだとよ。お前ら、王子様や王女様の前で無様に踊れない姿を晒してヴァラール魔法学院の品位を落とすつもりか?」



 そう、社交ダンス教室の大役を押し付けられたのは、これが理由だった。


 創立記念パーティーに際して、グローリアは学院に寄付をしてくれている豪商や王族を招待していたのだ。レティシア王国を筆頭に獣王国ビーストウッズ、龍帝国、アーリフ連合国などを来賓として招待しているので、生徒が無様な姿を晒さないようにという意味合いで任せてきたのだろう。

 ちなみにこの情報は、社交ダンス教室を任された直後に追いかけて胸倉を掴んで吐かせた情報である。「講師だったらまともな奴を呼べ!!」と訴える問題児に対して出してきた情報がこれだ。


 つまり端的に言えば、創立記念パーティーが3日後に迫っているので、ぶっちゃけ間に合わないのだ。講師を呼んであーだこーだやっている時間がなかったのだ。



「まあ、教わりたくないって連中は仕方がない。本番で恥をかけ」


「ごめんなさい」


「教えてください」


「お願いします」


「素直でよろしい」



 ユフィーリアの情報を受けたことで、1学年の生徒たちの間にも緊張感が走る。文句を言ってきた生徒たちも続々と謝罪をして、社交ダンス教室に取り組む意思を見せてきた。

 それなら彼らが恥をかかないように、ユフィーリアたち問題児も応えてやるだけである。最低限は踊れるようにしてやらねばならない。


 手を叩いたユフィーリアは、



「はい、じゃあまずは適当に男女で2人1組を作ってくれ。人数が足りなかったらアイゼの幻惑魔法でどうにかする」


「それ1人で踊ってるってことになりませんか?」


「なりますね」


「本当にふざけんなよ、問題児」



 文句は飛んでくるが、創立記念パーティーの場に訪れた王族や豪商の前で恥を晒すのは勘弁したいのだろう。生徒たちはそれぞれ男女のペアを組み始める。


 ユフィーリアは雪の結晶が刻まれた煙管を一振りし、大講堂にあらかじめ持ち込んでおいた楽器を魔法で操作する。ふわりとひとりでに浮かび始めた楽器が荘厳な音楽を奏で始めた。

 選んだ楽曲は社交ダンスでもよく踊られているワルツである。もちろん創立記念パーティーにも使われる予定の楽曲だ。


 音楽が聞こえてくるとほぼ同時に、エドワードが手を差し出してくる。流れるようなエスコートであった。彼の後ろでショウが血涙を流していたが、彼は踊れないので仕方がない。



「じゃあアタシとエドでお手本見せるから、真似できるところは真似しろ。形だけの最低限だけでも頭に叩き込め。足を踏んだ時は自己責任だ」


「ユフィーリア、何でエドさんと踊るんだ」


「ショウ坊は踊れないからダメ。足を踏んだ時に責任を取れない」


「貴女の為なら足の骨の1本や2本、犠牲にしても構わないが……!?」


「アタシが構います。お前もエドの奴を見てろ、あとで教えるから」



 血涙を流す嫁のことは申し訳ないが、これも生徒に教える為なのでユフィーリアはお手本を踊り始めるのだった。

《登場人物》


【ユフィーリア】昔からシンプルイズベストな衣服を好む。ただ露出は限りなく少なかった。

【エドワード】過去、ビジュアル系の服装を好んでいた時がある。その時をユフィーリアに馬鹿にされる。

【ハルア】極東文字Tシャツを好んで着ていたらエドワードに矯正された。好きなTシャツは『一張羅』

【アイゼルネ】昔はお姫様みたいなフリフリが好きだった。

【ショウ】昔はあまりシンプルなシャツとかの服装しかさせてもらえなかった。

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