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第108章第1話【問題用務員と創立記念パーティー】

タイトル:踊れや踊れ〜問題用務員、赤い靴事件〜

 正面玄関の掲示板に、興味の唆る内容の掲示物が張られていた。



「お、創立記念パーティーが今年もやるのか」


「楽しみだねぇ」


「今年もダンシング!!」


「ドレスを用意しなくチャ♪」


「創立記念日にパーティーをやるのか。この世界はやはり面白いなぁ」



 ヴァラール魔法学院を創立当初から騒がせる問題児どもが目をつけたのは、創立記念パーティー開催のお知らせである。


 毎年2月にはヴァラール魔法学院の創立記念パーティーが開催される。豪華な食事、荘厳な音楽を奏でる楽団、全校生徒が代わる代わる下手くそなダンスを披露する愉快な光景などが問題児たちの脳裏をよぎった。毎年豪勢なのは変わらないが、今年は創立1000年記念のパーティーである。より盛大な催しになりそうだ。

 というのも、年越しパーティーがどこかの馬鹿タレのせいで中止になった経緯があるのだ。「創立記念パーティーは盛大にやる」と学院長も宣言していたし、楽しみ度合いは自然と高まる。


 銀髪碧眼の問題児筆頭、ユフィーリア・エイクトベルはホクホク顔で雪の結晶が刻まれた煙管を咥える。



「今年は八雲の爺さんがいい酒が入ったとか言ってたからな。振る舞われるかな」


「ええ、そうなのぉ? 集りに行かなきゃじゃんねぇ」



 筋骨隆々とした問題児、エドワード・ヴォルスラムもまた口の中に溜まった涎が隠せずにいた。彼の場合は創立記念パーティーに出される食事が目当てだろう。



「今年は何の料理が振る舞われるかねぇ」


「チョコレートケーキ」


「絶対やだぁ」



 ユフィーリアが横から彼の嫌いな食べ物の名前を出すと、露骨に顔を顰めた。それほどまでに苦手とする食べ物の様子である。

 ただ、創立記念パーティーに出される料理の数々には期待できる。何せ創立1000周年だ。通常の創立記念パーティーには温かい料理からデザートまで幅広い種類が取り揃えられているが、今年に限って言えばかなり盛大なものになるのではないだろうか。


 問題児ツートップが創立記念パーティーの料理内容に想いを馳せている横で、未成年組のハルア・アナスタシスとアズマ・ショウは別のことに注目していた。



「今夜もダンシング!?」


「ハルさん、開催日は3日後だぞ。まだ先だ」


「だんしんぐ……」


「そんなしょんぼりされても」



 どうやら未成年組は創立記念パーティーの目玉であるダンス部門を楽しみにしている様子だった。普段は出来ないダンスパーティーというものに好奇心が隠しきれていないようである。



「でもハルさん、悲しいことをお知らせしてもいいか?」


「悲しいことって言ったら涙と一緒に聞くものだよね!! 泣いてもいいならいいよ!!」


「よくはないが、あえて現実を見せてあげるのも後輩の務め。ハルさん、ダンスパーティーの定番であるワルツは踊れるのか? 社交ダンスとかのご経験は?」


「ない!!!!」


「素直でよろしい!!!!」



 そしてダンスパーティーの定番でもある社交ダンスの経験が全くもって皆無であった。このままショウが言及しなければ社交ダンスではなくブレイクダンスを踊っていたことだろう。楽しい創立記念パーティーから追い出されることもやむなしだ。

 ダンスパーティーには社交ダンスの能力が必要であることを後輩から提示され、ハルアはあからさまにしょんぼりと肩を落としていた。「どうしよう……」なんて声も聞こえてきた。ダンスパーティーで踊る相手がいるゆえに、踊れないなんてことは死活問題の様子であった。


 さすがに見ていられなくなったユフィーリアとエドワードは、ポンと元気づけるようにハルアの肩を叩く。



「元気出せよ、ハル。社交ダンスなら教えてやるから」


「ついでに女の子のエスコートの方法も叩き込んであげるからねぇ。3日以内には立派な紳士になってるよぉ」


「オレは今でも立派な紳士さんですけど!?」


「立ち振る舞いも立派な紳士になれって言ってんだお子様」



 寝ぼけたことを言うハルアに、ユフィーリアは一喝する。確かに女の子の扱い方については叩き込んだが、立ち振る舞いが紳士かと問われれば「絶対にあり得ない」の評価を下すことが出来るぐらいには阿呆である。せめて最低限のエスコートの方法を叩き込まねば、社交の場では恥をかいてしまう。

 その横でショウがエドワードに「俺にもエスコートの方法を教えてください」と依頼していた。社交の場に女装はしない様子である。


 未成年組の抱える問題はこれで解決かと思いきや、



「ユーリ♪」


「アイゼ、背中に張り付いてくるな。怖いから」


「今年の創立記念パーティーはどんなドレスがいいかしラ♪」


「そんなのお前の好きにすればいいだろ。お前が着るんだから」


「あら、おねーさんじゃないわヨ♪」


「え?」



 背中に張り付いてきた南瓜のハリボテで頭部を隠す美女、アイゼルネへと振り返るユフィーリア。今の話の流れは自分のドレスの内容だろうと思っていたのだが、もしかして別人のことを示していたか。



「えーと、まさか」


「うフ♪」



 白魚の如き指先をユフィーリアの頬に這わせるアイゼルネは、



「ユーリのに決まってるじゃなイ♪」


「いやアタシは別に」


「夏頃のドレスじゃなくて別のドレスを仕立てるわヨ♪ ショウちゃんをメロメロのメロにしちゃいまショ♪」


「力が強い力が強い怖い怖い怖い怖い怖い!!!!」



 南瓜のハリボテで頭突きをしながら新たなドレスを仕立てることを催促してくるアイゼルネ。どうしてこんなドレスを仕立てるのに躍起になるのか。

 ぶっちゃけユフィーリアは着られればいい主義である。ドレスも夏頃のレティシア王国主催の舞踏会に参加した際に仕立てた青色のドレスがあるので、今回もそれにすればいいかとタカを括っていたのだ。お洒落番長には許されないことだったらしいが。


 すると、



「あ、ユフィーリア。ちょっといい?」


「何だよグローリア。まさか問題児を創立記念パーティーの場から除け者にしようと企んでるならピニャータ事件再来してやるからな」


「誰もそんなことは考えてないかな」



 たまたま通りかかったらしい学院長のグローリア・イーストエンドに呼び止められ、ユフィーリアは先手を打つことにした。だが、呼び止めた理由は創立記念パーティーが荒らされることを懸念して参加をさせない為ではなかった。



「君、社交ダンスは踊れたよね?」


「おうよ。もちろん」


「エドワード君は?」


「踊れるよぉ」



 ユフィーリアとエドワードに質問が飛んできて、グローリアは安堵したように「よかった」と言う。何のことだかさっぱり分からない。



「実はさ、今年の1学年の生徒なんだけど。どうやら社交ダンスが踊れない生徒が大半らしいんだよね」


「時代だな。もうブレイクダンスでも踊らせたらいいんじゃねえの?」


「パーティーじゃなくてバトルになっちゃうからダメ」


「そういう理由?」



 まさかの理由に驚くユフィーリア。


 まあ、今時に社交ダンスやワルツなんて踊る機会などないだろう。今の若者が覚えていなくて当然である。現在の2学年が1学年の際もそこそこの人数が踊れなかった記憶がある。

 幸いにも、ユフィーリアは長い時間を生きている魔女なので古き良き社交ダンスとかワルツの知識も経験もある。講師を務めた経験もあるのだ。


 それがどうしたと言わんばかりの視線をグローリアに向けると、



「教えておいてあげて」


「え?」


「社交ダンスを教えておいてあげて」


「は?」



 グローリアは「じゃ、そういうことだから」と言い残して立ち去っていく。嵐のような学院長だった。


 いいや、それよりも。

 何でユフィーリアが社交ダンスを教えてやらなければならないのか。確かに講師を務めた経験もあると言ったが、1学年の生徒たちに教えてやるとは言っていない。



「何でアタシが?」


「まぁた面倒ごとを任されちゃったねぇ」


「どんまい!!」


「適任だもノ♪」


「ついでに俺たちも教えてもらえば」


「ちくしょう」



 面倒ごとを押し付けられ、ユフィーリアは悪態を吐くのだった。

《登場人物》


【ユフィーリア】ダンス割と好きなので、踊れる場があれば踊る。

【エドワード】ブレイクダンスを踊ったら迫力あって怖いとか言われた。

【ハルア】創立記念パーティーの場でブレイクダンスを踊ってつまみ出された。

【アイゼルネ】これでも踊るのは得意よ。

【ショウ】ハルアにソーラン節を教えたらきっと楽しいだろうなぁ。


【グローリア】これでも社交ダンスは踊れるよ。でもバレエの方が好きかもしれない。

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