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第107章第5話【異世界少年とお出迎え】

 鏡を見て最終チェック中である。



「大丈夫ですか、乱れはありませんか?」


「大丈夫ヨ♪」


「髪の毛とか、お化粧の残りとかないですか?」


「ないわヨ♪」



 ショウは正面玄関に飾られた大鏡を覗き込み、自身の身だしなみを確認していた。

 あれから急いでシャワーを浴びて、アイゼルネにも協力してもらって特殊メイクを落としたのだ。特殊メイクの残りが顔に付着した状態で最愛の旦那様の前に出れば笑われてしまう。


 髪の毛が濡れていないこともちゃんと確認してから、ショウは「よし」と頷いた。納得の出来る格好だと結論づけた。



「それで、何で学院長までいるんですか?」


「海底探索の成果を研究する為だけど?」



 ショウが振り返った先には、しれっと学院長のグローリアまでいた。彼の目的は最愛の旦那様と愛すべき先輩たちの出迎えではなく、あくまで彼らに頼んだ海底探索の成果物を引き取る為にいるらしい。

 まあ、大体予想は出来ていた展開である。ショウも「だろうな」という感想以外に抱かなかった。


 すると、



「ただいま」


「ただいまぁ」


「まぁ!!」


「ハルちゃん、ちゃんと挨拶ぐらいしなぁ」


「ただいま!!」



 正面玄関の床に敷設された魔法陣が煌めいたかと思えば、ユフィーリア、エドワード、ハルアの3人が何やら大荷物を抱えて帰還を果たした。

 その大荷物とやらが、半透明の巨大な球体である。エドワードが軽々と担いでいるので軽そうに見えるが、大きさに比例して重さもあるに違いない。ショウが持つことを手伝おうとしたら間違いなく腰か指先のどちらかが逝くと推測できる。


 最愛の旦那様が帰ってきたので、ショウは笑顔でお出迎えをした。



「お帰り」


「お帰りなさい、ユフィーリア。エドさんとハルさんも」


「お帰りなさイ♪」



 さて、海底探索はどうだっただろうか。通信魔法を使った際は海底神殿『ルルイエ』と聞いて嫌な予感はしたが、こうして無事に生還を果たしてくれただけでも嬉しい限りではある。何事もなさそうで安心した。


 ところが、ユフィーリアたちは「ただいま」と宣言しただけで何も話そうとはしない。海底神殿から持ち出してきたのだろう大量の書籍と半透明の球体をグローリアに押し付けるだけに留める。

 海底神殿に送り込んだ文句もなければ、雄大な海の世界を堪能してきた感想もない。それどころか、どこかお疲れ気味な気配さえ漂う。体力無尽蔵の問題児筆頭と古参組が珍しい。


 ユフィーリアは「悪い」と弱々しく謝ると、



「話を聞いてる精神的な余裕がないから、このまま帰る」


「疲れた」


「ごめんね」


「え、あ、うん。お疲れ様」



 覇気のない声でそう告げると、ユフィーリアたち3人はふらふらとした足取りで用務員室方面に歩き去ってしまう。相当お疲れの様子であった。


 その場に取り残された3人は、互いの顔を見合わせる。

 さすがに驚きが隠せなかった。ユフィーリアやエドワードはともかくとして、あの元気だけが取り柄のハルアまでも疲労で元気がなかったのだ。これは海底神殿でえらい目に遭ってきたのだろう。


 グローリアは半透明の球体と大量の魔導書を見下ろし、



「ショウ君、おやつ奢ってあげるから運ぶの手伝ってくれる?」


「おやつでつられると思わないでください、もとよりそのつもりです。今の状態で用務員室に帰ればユフィーリアたちをお邪魔してしまいますし」


「空気の読める優秀なお嫁さんだね」



 ショウが下僕である炎腕たちも呼び出して魔導書と半透明の球体を運ぼうとしたが、その直後に「あラ♪」とアイゼルネが声を上げる。



「アイゼさん、どうかしましたか?」


「そういえば、ルージュ先生とリリアちゃんのお化粧を落とすのを忘れ」



 アイゼルネの言葉は、途中で掻き消えた。





「ああああああああああゾンビいいいいいいいいいいいい!?!!」


「うわぁびっくりしたあ!?!!」


「わあ、凄えね!!!!」





 遠くの方で、ユフィーリアの悲鳴とエドワードが驚く声とハルアの好奇心に満ちた声が同時に聞こえてきた。

 おそらく用務員室で化粧を落とすのを待っていたルージュとリリアンティアと鉢合わせをしたのだろう。彼女たちに施したのはゾンビメイクだ。お化けなどを怖がるユフィーリアにとっては地獄のようなものでしかない。


 アイゼルネはそっと頭を抱えると、



「ショウちゃン♪」


「はい」


「炎腕ちゃんを何本か貸してくれるかしラ♪ おねーさん、急いでルージュ先生とリリアちゃんのお化粧を落としてこなきゃいけないワ♪」


「分かりました、お気をつけて」



 ショウが二度ほど足元の床を踏みつけると、アイゼルネの周囲に炎腕が出現する。護衛のように周囲を固めてもらってから、アイゼルネは用務員室方面に消えていった。

 彼女の背中を見送り、ショウは密かに敬礼をする。これはあくまで予想だが、アイゼルネがユフィーリアたちから怒られそうな気がしたのだ。


 さて、と自分の仕事に向き直ったショウは、



「運びますね」


「多分だけど、ショウ君も怒られるよ」


「怒られない為の策を弄します」



 魔導書と半透明の球体を運びながら、ショウはユフィーリアたちに怒られない言い訳に思考回路を巡らせるのだった。



 しかしこのあと、ばっちり怒られた。

 言い訳は通用しなかった。

《登場人物》


【ショウ】アイゼルネと一緒に怒られた。「せめてそれはアタシがいる時にやれ」と言われた。

【アイゼルネ】1番の戦犯。ゾンビメイクをしたルージュとリリアンティアをそのまま放置したので、ユフィーリアから怒られる羽目に。


【グローリア】このあとホクホク顔で研究を始めたらとんでもねーものを発見することに。

【ユフィーリア】用務員室に帰ってきたらゾンビ2匹に襲い掛かられた。

【エドワード】びっくりしたユフィーリアに張り付かれる。

【ハルア】ゾンビメイクいいな!

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