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第107章第1話【異世界少年と特殊メイク】

タイトル:にゃにゃんとめいくあっぷっぷ〜問題用務員、特殊メイクテロ事件〜

 ユフィーリア、エドワード、ハルアが海底探索に出かけている間、ショウとアイゼルネはお留守番である。



「お暇だな、ぷいぷい」


「ぷ」



 用務員室の隅に置かれた長椅子にゴロンと横たわり、ショウはお腹に乗せたツキノウサギのぷいぷいを撫でていた。温かな手のひらでなでなでされたぷいぷいは、目を閉じてご満悦の様子である。

 問題児の賑やかさを司る3人が消えた用務員室は異様なまでに静まり返っており、ガサガサと紙で作られた怪獣のステディが新聞を食い散らしている音しか聞こえてこない。今日もステディは元気そうである。


 誰も見ていないのをいいことに、ショウは「ふあぁ」と大きな欠伸をした。最愛の旦那様も頼れる先輩もそばにいなければ、メイド服を身につけただけのコスプレ男子である。



「お昼寝しよう。ぷいぷい、お腹に乗ってるか?」


「ぷー……」


「すでに寝ていたな」



 お腹に乗せたぷいぷいはすでに夢の世界へ旅立っていた。ならばショウも追いかける他はあるまい。

 ぷいぷいのずっしりとした重たさを享受しながら、ショウの意識は深淵へと引き摺り込まれていった。何もしないでお昼寝に興じるのもいいだろう。


 そんなお昼寝をする小悪魔系メイド少年を付け狙う影が1つ。



 ☆



 頬を筆で撫でられているような感覚がして、ショウは目覚めた。



「んぬ……」


「あら、起きちゃっタ♪」



 寝ぼけ眼を擦って身体を起こしたショウの頭上から、楽しげな響きを持つ女性の声が降ってきた。


 顔を上げると、収穫祭の時によく見かける橙色の南瓜のハリボテを被った用務員の先輩であるアイゼルネがいた。何かを後ろ手で隠しているがよく見えなかった。

 アイゼルネは何事もなかったかのように「おはよウ♪」なんて言ってくる。少し小腹も空いてきた頃合いだ。そろそろお昼の時間だから呼びに来てくれたのだろうか。


 ショウはお腹の上に乗ったままのぷいぷいを膝の上に下ろすと、



「おはようございます。すみません、お昼ご飯ですか?」


「まだどこのお店も営業していないわヨ♪」



 アイゼルネに指摘され、ショウは用務員室に飾られた時計を確認する。

 壁に飾られている鳩の仕掛けが仕込まれた時計は、10時30分を過ぎた頃を示していた。ヴァラール魔法学院に併設されたレストランはどこも11時から開店し始めるので、確かにこの時間帯からお昼ご飯を求めるのは早い気がする。


 ただ、惰眠を貪っているのにも体力を使った様子で、ショウの胃袋からくるるると小さな音を奏でた。これではお昼ご飯まで持たない。



「うーん、仕方がない。おやつでも食べるか……その前に顔を洗いたい……」


「あラ♪」



 膝上で眠るぷいぷいを用務員室の片隅に設けた巣穴に突っ込み、ショウは寝起きで凝り固まった身体を解しながら顔を洗いに向かう。せめて顔をスッキリさせてから買い溜めしているお菓子でお腹を満たしたかった。

 居住区画に足を踏み入れると、何やら色々な瓶や箱などが雑多に並べられていた。ショウが寝ている間に、アイゼルネが荷物の整理でもしていたのだろうか。朝食後から居住区画に閉じこもっていたのはそのせいだったのかもしれない。


 お菓子でお腹を満たしたらお手伝いでもしよう、と頭の片隅で考えながら、ショウは洗面所に足を踏み入れた。



「…………?」



 洗面台の鏡に映った自分の顔が、何かおかしい。


 寝起きでまだ夢の世界にでも片足を突っ込んでいるのかと思い、ショウは目を擦ってみる。だが鏡に映る自分の顔は変わらない。何が起きているのか。

 現在、ショウの顔全体には特殊な化粧が施されているようだった。頬には髭、鼻頭は桃色に塗られ、さらに茶色い斑点まで見受けられる。まさに生命力溢れるサバンナで強く逞しく生きる豹のようであった。


 どこからどう見ても阿呆な化粧をされていた。何ぞこれ。



「ッ!?!!」



 声にならない悲鳴を上げるショウの後ろで、アイゼルネがどこか申し訳なさそうな表情でひょこりと洗面所に顔を覗かせる。



「ごめんなさいね、ショウちゃン♪」


「ま、まさか、アイゼさんが……!?」


「そのまさかヨ♪」



 後ろ手に隠していた化粧筆を見せながら、アイゼルネが種明かしをしてきた。まさか進んで問題行動を起こすような大人ではない用務員のおねーさんが、寝ている後輩の顔面に特殊な化粧を施すとはこれ如何に。


 改めて、ショウは自分の顔を確認する。

 肌にべったりと付着しているものは絵の具のように見えるが、おそらく化粧品で間違いないはずだ。この美容にうるさい先輩が、後輩の顔面に絵の具で落書きするような真似はしない。アイゼルネの持っている筆が化粧に使われるものであることも要因している。


 例えるならば、歌舞伎や舞台などで使用される化粧と同等の類と言っていいだろう。落とすのは少々面倒だ。



「アイゼさん、一体どうして……」


「おねーさんがお顔の傷を隠す際に使う特殊化粧の使用期限が近かったのヨ♪」



 アイゼルネは「居住区画に箱や瓶が散乱してたでショ♪」なんて言う。なるほど、あれはやはりアイゼルネの私物だったようだ。

 化粧品に使用期限があるのかとは聞いたことがないが、彼女の場合は肌が弱いので魔法薬と同じ手順で調合する必要があるらしい。それならば使用期限が設けられていてもおかしくない。


 とはいえ、いきなり起きたら豹にされているのはちょっと驚いた。



「ごめんなさいネ♪ あんまり気持ちよく寝ていたものだから、つい出来心デ♪」


「いえ、楽しんでいただけたようなら結構です」



 ショウは「それにしても」と映る自分の顔を覗き込み、



「やっぱりアイゼさんのお化粧の技術は高いですね。こんなハッキリとした豹のメイクなんて舞台でしか見ないですよ」


「あら、ショウちゃんの世界にも似たようなお化粧があるのかしラ♪」


「ミュージカルなんかでよく見かけますね。ここまでハッキリとしていたら舞台映えもしそうですし……」



 ふと、ショウはあることを思いついた。ここまで本物の豹によく似ているならば、何かしらに使えるかもしれない。



「よし、これで学院長を脅かしてこよう」


「ショウちゃん、躊躇いもなく学院長を犠牲にするのはどうなのかしラ♪」


「俺も問題児の端くれですからね。学院長は犠牲にしてナンボと教わりました」


「余計な学びを得ちゃっているワ♪」



 問題児として日々行動している中で、ショウは余計なことを学んでしまっていた。この場に学院長がいたら素早く抗議していたことだろう。

 まあ実際、問題児筆頭のユフィーリアよりも、最近では未成年組を怒らせたり事件に巻き込んだり余計なお願いをしたらいけないとはヴァラール魔法学院内でもまことしやかに囁かれている。やることがまだ『面白さ』にふれているユフィーリアよりも、やることなすことに手加減がない未成年組の方が敵に回したら大変だと気づいたようだ。


 いそいそと学院長を脅かす為に準備をしていると、用務員室の方で扉が開く音を聞いた。飛んで火に入る夏の虫とはまさにこのことである。



「お、来ましたね。まずは脅かしてやりましょう」


「ちょっとショウちゃン♪」



 アイゼルネの制止を振り切り、ショウは意気揚々と用務員室に飛び出した。



「がおーッ、食べちゃうぞーッ」


「ぎゃああああ!? あ? あ、ショウ君かびっくりしたぁ」



 いい悲鳴は聞こえたが、次の瞬間には正気に戻ってしまったのでちょっと納得しないショウ。「むむ」と口をへの字に曲げる。


 用務員室を訪れたのは学院長ではなく、副学院長のスカイ・エルクラシスだった。驚きはしたようだが、精神異常に耐性を持つゆえか驚きから復活するのも早かった。

 そうなると、意地でも驚かせたくなるのが問題児根性である。このままでは引き下がれない。


 ショウはサッと四つん這いになると、



「がおー」


「あれ、ちょっとショウ君何して」


「がおー!!」


「何で追いかけてくるんスか何で追いかけてくるんスかちょっと待って怖い怖い怖い怖い!!」



 ハルア仕込みの四つん這い走行で、ショウはスカイを追いかけ回すのだった。特に理由のない奇行が副学院長を襲った訳だが、誰も止めてくれなかったそうだ。

《登場人物》


【ショウ】起きたら舞台メイクもびっくりの特殊メイクが施されていた。何でよ。

【アイゼルネ】後輩が寝ている隙に特殊メイクをやらかした犯人。


【スカイ】暇つぶし目的で用務員室を訪れたら変な化粧をしたショウに追いかけられる羽目に。

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