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第106章第5話【問題用務員と石扉】

 神殿の最奥にある石の扉を押し開けると、生活空間らしい部屋が存在した。



「誰か住んでたかな」


「へえ、こんな部屋があるんだねぇ」



 ユフィーリアとエドワードが生活空間らしい部屋を見渡す。


 光源魔法で室内を照らすと、普通にベッドに机や本棚などの調度品が存在していた。海底にあるので海藻に塗れている箇所も見受けられるが、かつてこの場で誰かが生活していたと推測できる内装である。

 試しに本棚を光源魔法で照らすと、中身に詰まっている魔導書らしき書籍の群れは、全体的に読めない文字で構成されていた。古代言語とはまた違う代物である。過去にも未来にも存在しない文字だった。


 とりあえず、この書籍の群れは財宝に該当するだろう。この魔導書でグローリアの頭がおかしくなったら指差して笑ってやろう。



「ハル」


「あい」



 入り口付近でウロウロと右往左往していたハルアを呼び寄せ、ユフィーリアは次々と本棚から書籍を抜き取っていく。海藻塗れの魔導書は、ハルアの背嚢に次々と詰め込んでいった。



「持ってっていいの!?」


「財宝かもしれねえからな。1冊残らず抜き取って――」



 ユフィーリアはピタリと本棚の書籍群を抜き取る作業を中断する。



「これ、1冊だけ残して一般の研究者どもを釣るか。危なかったらいけないし」


「普通に一般の研究者を生贄にするのが悪い思考だねぇ」


「鬼畜だね!!」


「あいつらだって好きで海に潜って財宝を求めるなら、このぐらいやったら嬉しいだろ」



 そもそも好き好んで海底にある神殿までやってくる訳である。未知の財宝にうっかり触って常識を吹き飛ばすことなど織り込み済みだろう。彼らにしてみれば名誉ある死ではないか。

 別に1冊残らず抜き取って何の成果もあげられないことが可哀想に思えてきた訳ではなく、あくまで連中は生贄的なアレである。この魔導書が本当に危険なものだったら、持ち運ぶユフィーリアたちも危険なのだ。


 そんな訳で残す1冊を厳選しようとするのだが、



「どうせだったらエロ本がいいよな」


「ベッドの下に隠したりねぇ」


「こんな場所でエロ本なんか見つかる!?」



 本棚を漁り、どうせならば見つけたらちょっと恥ずかしい本を置いていくことに決めた問題児。嬉々として一般の研究者たちの邪魔をしようとしている。

 だってこちらも仕事で来ているのだ。競合相手など蹴落としてナンボである。その為ならば問題行動だって惜しまない。


 色々とゴソゴソ漁って、ユフィーリアはようやく海藻が巻き付いた薄い本を引っ張り出した。



「これどうよ」


「内容はどんなのぉ?」


「見せて見せて!!」



 ユフィーリアが見せたものは蛸と蛸が複雑に絡み合った写真集だった。いや、写真集というより画集だろうか。とにかく意味の分からない画集であった。

 構成されている文字の群れは一貫して意味の分からないものばかりだが、とりあえず蛸と蛸が絡み合っているのでエロ本カウントでいいだろう。これをベッドの下に配置させておく。


 そっと画集をベッドの下に放り込んだユフィーリアは、



「ほい、これで完了」


「ベッドに他の本とかないよねぇ」


「見てみよっか!!」



 即座に腹這いとなったハルアは、ズザザザザザッと海藻だらけの床の上を滑るように進んで上半身をベッドの下に潜り込ませた。

 モゾモゾと蠢くこと数十秒、ハルアの「あった!!」というくぐもった声が聞こえてきた。すでにベッドの下には何かしら配置されていた様子である。


 エドワードに足を掴んでベッドの下から引っ張り出してもらったハルアは、その手に一抱えほどもある錆びた缶が握られていた。



「何だろ!!」


「開けてみるか?」


「でも鍵がかかってるよぉ」



 錆びた缶には小さな錠前がぶら下がっており、この錠前に合う鍵を見つけなければならない作りとなっていた。この殺風景で海藻だらけの部屋の中を、小さな鍵を探してわちゃわちゃしなければならないと考えるとちょっと面倒である。

 幸いにも、錠前は小さい。見たところ一般的な作りである。触ってみても防衛用の魔法が仕込まれている痕跡はないので、簡単に開けられそうだ。


 ユフィーリアは錆びた缶をエドワードに渡し、



「壊せ」


「はいよぉ」



 一瞬だった。

 エドワードが軽く錠前を握った途端、バキンと音を立てて錠前が壊れた。


 錆びた缶を開けると、中身に入っていたのは真鍮製の立派な鍵だった。同封されている手紙らしきものはすでに水に濡れて読めないので放置するが、果たしてこの鍵はどこに使われるものだろうか。



「何だろうな、この鍵」


「どこかで使うんじゃないのぉ?」


「持っておくか」



 ユフィーリアが真鍮製の鍵を懐にしまおうとした瞬間、ハルアがそれを指差して言う。



「それ」


「あん?」


「嫌な予感する」



 ハルアの琥珀色の双眸が、ユフィーリアの握る真鍮製の鍵に固定される。


 ここに来る前、働いた第六感が『嫌な予感』を告げていた。その原因はどこにあるのか不明だったが、ここに来てとうとう原因が判明したのだ。

 おそらくハルアの第六感は、この真鍮製の鍵で開けることが出来る部屋のことを『嫌なもの』と認識しているのだろう。ハルアの第六感はほぼ未来予知とも呼べるぐらいに精度がいいので、ここで鼻で笑うようなことをすれば痛い目を見るのは必定だ。


 ユフィーリアとエドワードは互いの顔を見合わせてから、一度だけ頷く。



「最大限の警戒、余計なことはしないで危険を感じたらとっとと逃げる方針で」


「はいよぉ。真ん中ハルちゃんねぇ、先陣は悪いけどユーリお願い」


「分かってる。いざとなったらハルを抱えて一目散に逃げろ。あと嫌な臭いがしたら知らせてくれ」


「分かったよぉ」



 さすが付き合いが長いだけあるのか、連携がしっかり取れていた。互いに自分の役目を確認すると「よし、それで行こう」と声を揃える。


 問題は、この鍵がどこの扉のものかである。

 室内をぐるりと見渡しても扉のようなものは存在せず、地上にあれば質素な生活を送れそうなほど片付けられた部屋には出入り口以外の扉は見当たらない。この部屋を出て別の部屋に行くのかと思いきや、神殿の通路はこの生活空間で途切れているので行き先が不明だ。


 ユフィーリアは「よし」と頷き、



「家具を全部退かすか。どこかに扉があるだろ」


「外の家屋とかじゃなくてぇ?」


「そんな鍵がなくても開けられるよ、外にあった家屋の扉なんてよ」



 ユフィーリアの指示通り、エドワードとハルアは家具を次々と部屋の外に運び出す。本棚の裏、机の下には何もなかったが、ベッドの下にそれはあった。

 ハルアが潜り込んだ時には暗かった影響で分からなかっただろうが、ベッドの下の床に石の扉が鎮座していた。地下空間に繋がる扉だろう。扉の表面には鍵穴が刻み込まれており、ユフィーリアの持っている真鍮製の鍵で開けることが出来そうだ。


 ユフィーリアはハルアへと振り返り、



「この下か?」


「うん」



 ハルアは真剣な表情で頷き、



「嫌な予感がするよ」


「そうか、分かった」



 ユフィーリアは扉の脇にしゃがみ込み、真鍮製の鍵を床に設置された石の扉に差し込んだ。


 真鍮製の鍵は扉の鍵穴にピタリと一致し、吸い込まれるように先端が鍵穴の奥に消える。捻るとガチャンと錠が外れるような音とは違い、扉の表面に複雑な見た目の魔法陣が浮かび上がった。

 扉の表面に浮かんだ魔法陣は、鍵が捻られると同時にバラバラに砕け散る。見たところ封印用の魔法陣だった。この扉の向こうに何かしらが封印されていたのかもしれない。


 封印用の魔法陣が弾け飛んだことで、石の扉は呆気なく開く。その向こうには小さな石段が下に向かって伸びていた。



「先行くぞ」


「頼んだよぉ」


「気をつけてね!!」


「ハル、うるせえ。静かにしろ」



 ハルアの第六感が危険を感じ取っていながらも、ユフィーリアは石段を下り始める。この先に何が待ち受けているのか、年甲斐もなくワクワクしていた。

《登場人物》


【ユフィーリア】エロ本の隠し場所は悉くショウにバレているので諦めている。

【エドワード】エロ本の隠し場所は後輩に全部把握されている。

【ハルア】一生懸命考えて水着グラビアの写真集を隠したが、やっぱり後輩に全部把握されている。

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