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第106章第3話【問題用務員と海底神殿】

 協力者の助言通り、港の隅に移動して釣りである。



さめ釣れたよ!!」


「ポイント変えた途端にこれだよ」


「他人の助言は聞くべきだねぇ」



 ハルア式神造兵器(レジェンダリィ)フィッシングを実行した結果、見事に1匹の大きな鮫を捕獲することに成功した問題児。トライデントを構えるハルアの前に鮫も大人しくビチビチするだけである。

 これであとは海底神殿まで案内してもらえれば万々歳だ。おそらくこの鮫は深海の水圧に耐えられることはないので、途中で別の魚に乗り換える必要があるが、そこまでは何とか連れて行ってもらおう。


 ユフィーリアは魔法で鮫の巨体に縄を結びつけると、



「お前ら、早く着替えろよー」


「分かってるよぉ」


「ちょっと待って!!」



 岩場の影に隠れて、エドワードとハルアはゴソゴソモゾモゾと何やら慌ただしい。2人揃って深海用礼装にお着替え中である。

 ユフィーリアは魔法を使用して着替えてしまえば一瞬で終わるのだが、残念ながらエドワードとハルアは魔法を使えないので手動でやるしかない。ユフィーリアが魔法で強制お着替えさせてもいいのだが、海底探索で何かしらの影響があっても困る。


 雪の結晶が刻まれた煙管をぷかぷかと吹かしながら、ユフィーリアは未だに岩場の影でお着替え中のエドワードとハルアに呼びかける。



「まだかよ、時間かかりすぎじゃねえ?」


「ユーリのように一瞬で着替えられる方法を持ってないのよぉ。ちょっと待ってくれてもいいじゃんねぇ」



 エドワードはそう言って「よいしょ」とようやく岩場の影から出てきた。


 背の高い彼の全身を覆い隠すのは、真っ黒な撥水性の高い生地で作られた水着である。露出している部分は手や足、顔だけに留められており、残りは全体が肌を浮き彫りにするほどピタリと吸い付く布地で覆われていた。おかげで鍛えられた筋肉がガッツリと強調されていた。

 ハルアも遅れて「着替えた!!」と出てくる。こちらもエドワードやユフィーリアと同じ形の水着である。彼の場合は背中に透明な三叉の槍を縄で括り付け、背負うような形で装備していた。


 ハルアは背中を気にするような素振りを見せ、



「動きづらい!!」


「水中では浮力がかかるから、あまり気にしなくてもいいんじゃねえか。それ落とすなよ」


「気をつける!!」


「ハルちゃんしか触れないから気をつけなよぉ」



 神造兵器は強制的に服従させているハルアぐらいしか触ることが出来ないので、落としてもユフィーリアやエドワードが回収できることはないのだ。そのまま海の底で永遠に誰にも拾われないまま放置されることになってしまう。

 海中に於ける絶対的な権限の象徴であるトライデントを海に返すような真似は避けるべきだ。だって海中最強なら割と便利な方である。海は惑星の大部分を占めている領域だからだ。


 ユフィーリアは鮫に括り付けた縄を引き、



「研究者どもは?」


「まだ潜水艦の準備をしてるようだねぇ」



 海底探索を予定している研究者たちは、相変わらず慌ただしく港を駆け回っていた。学生派遣としてやってきたヴァラール魔法学院の生徒たちに自分たちの研究を教えるのが楽しかったのだろう、準備にまだ時間がかかっているようだった。

 学生たちの時間稼ぎは順調に進んでいる様子である。その調子でユフィーリアたち問題児が新たに発見された海底神殿から財宝を回収するまで時間を稼いでほしい。


 港の様子を一瞥してから、ユフィーリアは鮫に括り付けた縄を手綱として握る。一度だけ鞭を入れるように手綱を引くと、



「行くぞ」


「はいよぉ」


「あいあい!!」



 泳ぎ出した鮫に引き摺られて、ユフィーリアたち問題児は海にとぷんと潜った。



 ☆



 鮫の操縦はエドワードに任せ、ユフィーリアとハルアは事前にもらった資料を読み込む。



「新しく発見された海底神殿は『ルルイエ』? 魔力汚染も確認されてるな。だからシンカー試験突破者じゃねえとダメだったのか」


「オレ、2回しか踏破してないけどいいのかな!!」


「踏破するのが重要だからな。まずは踏破できなきゃ話にならねえ」



 海底神殿で魔力汚染が確認できる場所とは珍しい。魔力汚染が確認できる場所と言えば洞窟など閉鎖的な場所が多く、自然な水によって満たされた海で魔力汚染が確認されることは少ない。海は豊富な魔素で満たされているので、汚染される理由としてはゴミが不法投棄されるといったことが考えられる。

 まあ、世界にはそういうこともあるだろう。自然のことに関しては問題児でも長く生きている魔女や魔法使いでも分からないことが多いのだ。


 すると、





 ――――『ハルさん、お電話だぞ。ハルさん、お電話だぞ』





 何か、ショウの声がどこからともなく聞こえてきた。



「あ、オレの魔フォーンが」


「なあ、何でショウ坊の声が聞こえてくんの?」


「副学院長に登録してもらったよ!!」


「アタシも学院に帰ったらやってもらおう」



 ハルアは深海用礼装に忍ばせた通信魔法専用端末『魔フォーン』を引っ張り出す。最近、防水性も高めたものを支給されたので海底探索の際でも使えるのは便利だ。

 そして通信魔法を投げかけてきたのは、まさかのショウである。彼はアイゼルネと一緒に学院でお留守番をしているはずだが、まさか港まで来ていないだろうか。


 ハルアは魔フォーンの表面に触れて、通信魔法に応じる。



「どったの、ショウちゃん!!」


『もう海底神殿に着いた頃合いかと思って』



 ショウは『海底神殿はどうだ?』と楽しそうに問うてくる。残念ながらまだ海底神殿には着いていない。



「残念だけどまだだよ!! 今ね、向かってるの!!」


『新しく見つけた海底神殿と言っていたが、どんな海底神殿なんだ?』


「んっとね!!」



 ハルアはユフィーリアの手元にある海底神殿の情報を一瞥すると、



「ルルイエだって!! お土産持って帰るから期待しててね!!」


『何だって?』



 ショウは険しい声を上げると、



『本当にルルイエなのか?』


「そうだよ!!」


『本当の本当に?』


「どしたの、ショウちゃん!! ルルイエに聞き覚えがあるの!?」


『聞き覚えがあるというか、俺とアイゼさんが行けない理由が理解できた。なるほど、常にSAN値チェックがあるような場所に行かなければならないのか……』



 さんちちぇっく、なるよく分からん単語が嫁の口から出てきたので、ユフィーリアは密かに首を傾げるしかなかった。何だろうか、異世界の文化か。



『ハルさん、気をつけて。ルルイエには怖い怪物がいるぞ』


「え、どんな!?」


『俺の記憶が正しければ、その、蛸と人間が一緒になったような見た目の怪物で』


「何その気持ち悪いの!!」



 ハルアは顔を顰めた。ユフィーリアも想像してちょっと気持ち悪さを覚えた。

 蛸と人間が一緒になったような怪物とは、もうそれは危険なものではなかろうか。出来れば会いたくない代物である。


 ショウは『あと』と言葉を続け、



『そのルルイエという名称が正しければ、神殿の類ではないと俺は推測する』


「え、どうして?」


『ルルイエとは――』



 ショウが説明をしようとしたその時、エドワードが「何か見えてきたよぉ」と言う。


 視線を前方に移したユフィーリアとハルアは、目の前に広がる光景に唖然とした。

 海の中に都市があるのだ。海の中に住む人魚などの姿は確認できないのに、まるで人間が今まで住んでいましたと言わんばかりの広大な街並みが海底に広がっている。浅い部分に広がる街並みを超えると、深い場所へ誘うように大きな海溝が口を開いて待ち構えていた。


 そして問題の海溝を覗き込むと、



「うわ」


「何これぇ」


「凄えね!!」



 陽の光が僅かに届く部分から垣間見えた海溝には、いくつもの石塔が突き出ていた。まるで橋の如く海溝の間を結ぶように突き出ており、その異様さがまた違う世界にやってきたのではないかと錯覚させる。

 その石塔を超えた先に、うっすらと石造りの巨大な建造物が鎮座していた。いくつもの石柱によって三角屋根が支えられており、神殿らしい見た目をしていた。あれが海底神殿か。


 その反応をよそに、ショウは言葉を続けた。



『ルルイエとは海底にある架空の都市だ。危険なものもいっぱいあると思うから気をつけて』



 そう言うことは早く言ってほしかった。

《登場人物》


【ユフィーリア】海の中の建造物は見たことあれど、街は見たことねえな。

【エドワード】後輩は頭がいいねぇ、この海底神殿の名前の由来も知ってるなんてぇ。

【ハルア】トライデントを背負ってるので行動しにくくてイライラ。


【ショウ】そろそろ海底神殿に到着したかなって思って通信魔法を投げてみた。ルルイエについては原典を読んだことがある。

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