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第105章第1話【問題用務員とチョコレート】

タイトル:乙女の決戦、バレンタイン〜問題用務員、生徒誘拐事件〜

 本日、乙女の決戦である。



「好きです、これもらってください!!」


「ごめんなさい」



 そんな光景が校舎内の至る所で見られる本日は、バレンタインであった。


 浮き足だった野郎どもが気合を入れて花束を買い込み、意中の少女たちに渡して愛を得ようとする戦争の日である。そしてその勝率は割と低い。

 代々続く魔法使いの一族だったら婚約者はいるだろうし、そもそも魔女や魔法使いに結婚願望は極めて低いのだ。魔法を使い続けることで子供は作れなくなるし、寿命はとんでもないことになるし、結婚したところでどうということはない。


 そしてここでも、馬鹿な連中がカチコミに来ていた。



「うおおお、問題児でもいいこれをもらって」


「ふしゃー!!」



 用務員室の扉を開けるなり何らかの花束を突き出してきた男子生徒めがけて、紅蓮の炎が襲いかかる。花束は呆気なく燃えたし、男子生徒の制服は黒焦げになった。


 もちろんやったのは、用務員の中でも最年少を誇る世界で誰よりもお嫁様のアズマ・ショウである。全身の毛を逆立てて怒る様は猫のようであり大変愛おしいのだが、暴力手段が凶悪であった。

 高火力と高威力を誇る神造兵器レジェンダリィ『冥砲ルナ・フェルノ』を迷わず呼び出すと、キュボッと焼き飛ばした訳である。相手を殺しても構わんと言わんばかりの行動だった。


 唖然とする男子生徒に、ショウは怒鳴る。



「見た目だけに惑わされて中身を見ようともしない脳味噌下半身直結クソ馬鹿野郎に我が旦那様の良さが分かる訳がありません!! というか何ですか問題児『でも』いいからって我が旦那様と我が先輩をそのようにお安く見積もる阿呆など花束を渡す資格すらございませんとも冥府に堕ちろ!!!!」


「エクスカリバーッッッッ!!!!」


「ぎゃーッ!!」



 制服を黒焦げにされた挙句、神造兵器『エクスカリバー』から放たれる光の奔流に巻き込まれて吹き飛ばされる哀れな男子生徒を、ユフィーリアは可哀想な目で見送るしか出来なかった。

 何か、朝からこんな感じである。無謀な男子生徒が用務員室を押しかけてきては未成年組によって吹き飛ばされるという事案が幾度となく発生していた。それでもなお用務員室に駆け込む哀れな男どもが後を絶たないのだから、もはや可哀想に思えてきた。


 黄金に光り輝く剣を担いだ少年、ハルアは吹き飛んだ男子生徒を見やり、



「次来たらヴァジュラね!!」


「それ確実に死ぬ奴じゃねえか!!」


「死ねって言ってるんだよ!!」


「婉曲表現!!」



 ちくしょー、と男子生徒は黒焦げにされてエクスカリバーで吹き飛ばされながらも、涙を流しながら用務員室から撤退していった。命があるだけマシだろうか。



「お前らも大変だな」


「そうでもないぞ」



 ユフィーリアの労いの言葉に、ショウは胸を張る。



「旦那様を有象無象の魔の手から守るのもお嫁さんの役目だ」


「うーん、強い。召喚された時の初々しい姿はどこへやら」



 ユフィーリアはショウの成長に感心した。近頃、すっかり精神的にも強くなってしまったので、最初の頃の生真面目で素直なショウが懐かしく思えてくる。今ではすっかりユフィーリアに仇なす人物は「ふしゃー!!」するので、人間の成長は早いものだ。

 成長といえば、ハルアの脳味噌も随分な進化を遂げているような気がする。昔だったら婉曲な表現を使わずに真っ直ぐ「死ね!!」とお伝えするところを、何重にもオブラートに包む表現を覚えたようだ。それにしても暴力性がまだ隠せていないが、頭のいい言い回しは後輩として可愛がるショウから何かしらの影響を受けているのだろう。


 すると、





 ――コンコンコン。





 用務員室の扉が叩かれた。



「また阿呆がやってきたか。黒焦げにしてやろう」


「ヴァジュラにしとこうかな!!」


「ハルさん、初手で最大限の暴力はよくない。ダインスレイヴにしよう」


「ショウちゃん、それもどうかと思うよ!!」



 張り切って神造兵器を片手に用務員室の扉を開けるも、扉の前に立っていたのは別の人物だった。いや、人物であるかどうかも怪しかった。



「毎度ありがとうございますニャ。お届け物ですニャ」



 二足歩行する黒猫――購買部の黒猫店長が台車を押しながらご訪問である。お届け物と称された木箱が2つほど積まれている。

 ユフィーリアはその中身について知っていた。むしろその到着を待っていたと言ってもいい。今日という日に必要なものである。


 首を傾げる未成年組を置いておき、ユフィーリアは「ご苦労さん」と黒猫店長を労う。



「請求書はあとで送っておいてくれ」


「承知いたしましたニャ。これからもご贔屓にニャ」



 黒猫店長から木箱を受け取り、ユフィーリアは騒がしい学院の廊下に消えていく二足歩行の黒猫の背中を見送った。


 木箱の中身はチョコレートとドライフルーツや食用花といったお菓子作り用の食材である。購買部にある食材を使ってもよかったのだが、どうせなら見た目も豪華にした方がいいと考えて食材を奮発した訳である。

 木箱の中身を覗き込む未成年組は、ますます首を捻っていた。聡明なショウでも予想できないようで「チョコレートは分かるがドライフルーツ……? オランジェットでも作るのか?」などと呟いている。


 ユフィーリアは木箱の蓋を閉め、



「コラ、乙女の武器を勝手に見るんじゃねえ」


「乙女ってどこの誰!?」


「引っ叩くぞハル」



 失礼なことを言いやがったハルアの脳天に拳を叩き落としたユフィーリアは、



「ショウ坊、校内巡回を頼む。浮かれた連中を薙ぎ払ってこい」


「ユフィーリア、とりあえずその乙女の武器とやらの使い道について尋ねてもいいか?」


「何だ、ショウ坊。アタシが送るチョコのネタバレがほしいのか?」


「行ってきます」



 ショウは拳を叩き落とされて痛がるハルアの首根っこを引っ掴み、用務員室から飛び出した。聞き分けのいい嫁である。


 ちょうど未成年組が用務員室を飛び出すと同時に、問題児の大人組であるアイゼルネとエドワードが戻ってきた。彼らの手には大きめの紙袋が握られており、どこか表情も疲弊している様子である。

 おそらく校舎内を歩き回っているうちに、無謀な男子生徒から「この花束を受け取ってください」攻撃の憂き目に遭ったのだろう。念の為にエドワードを護衛としてつけていたことが功を奏した。


 ユフィーリアは「お帰り」と2人を出迎え、



「売ってたか?」


「えエ♪」


「売ってたけどぉ」



 エドワードはユフィーリアに紙袋を渡しながら、



「今年はちょっと頭のおかしな男の子が多くない? もう俺ちゃん10人ぐらいはぶっ飛ばしたんだけどぉ」


「何でだろうな。アタシも皆目見当はつかねえよ」



 紙袋の中身を取り出しながら、ユフィーリアは肩を竦めた。


 彼らの行き先は『カフェ・ド・アンジュ』である。天使が経営する天空の喫茶店まで行き、紅茶やコーヒーなどの飲み物を購入してきたのだ。特に紅茶に関してはクッキーなどにも使用するので種類が多い。

 これだけあれば上出来である。質のいいチョコレートを作ることが出来そうだ。


 ユフィーリアは満足げに頷いてから、エドワードに振り返る。



「よし、エド。お前は未成年組についていってこい」


「え、何でぇ?」


「ここにいたらチョコレートの試作品を食わすことになるぞ」


「行ってきまぁす」



 苦手とするチョコレートを脅しに使われ、エドワードは慌てた様子で用務員室から飛び出した。よかった、ちゃんと脅しが効いた様子で。


 さて、この場にはユフィーリアとアイゼルネの問題児女性陣しか残っていない。つまり乙女の戦場である。

 やることといえばただ1つだ。その為に上手いこと男性陣を追い出したのだから。


 ユフィーリアはあえて第七席【世界終焉セカイシュウエン】の格好をすると、



「よし、じゃあアイゼは準備しておいてくれ」


「分かったワ♪」



 アイゼルネに準備を言い渡したユフィーリアは、グッと親指を立てて宣言する。



「ちょっくらリタ嬢を誘拐してくる」

《登場人物》


【ユフィーリア】チョコレートのお菓子で白鳥を作ったが、ハルアに頭から喰われてぶっ叩いた。

【エドワード】子供の頃に吐くほど食べたのでチョコレートは苦手。

【ハルア】白いチョコが甘くて美味しいから好き。でも他も美味しいから好き。

【アイゼルネ】紅茶にも合うし、お酒にも合うから粒のチョコレートが好き。

【ショウ】甘党バンザイ、甘いチョコ大歓迎。

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― 新着の感想 ―
やましゅーさん、おはようございます! 新作、楽しく読ませていただきました!!忙しすぎてなかなか新作が読めず、久しぶりに読めてテンションが一気に上がりました!! バレンタインってこんな怒号と暴走が入り…
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