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第104章第1話【異世界少年とバレンタイン】

タイトル:レッツクッキング☆ラヴハート〜問題用務員、調理室占拠事件〜

 今日という日を待っていた。



「じゃあ、アタシとアイゼは創設者会議に行ってくるけど。大人しく留守番してろよ」


「あいあい!!」


「分かった」



 用務員の未成年組、ショウとハルアに留守番を言い渡した銀髪碧眼の魔女――ユフィーリア・エイクトベルはお供の南瓜頭のお茶汲み係を連れて創設者会議に出かけてしまった。

 先輩用務員のエドワード・ヴォルスラムは日課のランニングに出かけてしまい、今は用務員室にはショウとハルアしか存在しない訳である。つまりやりたい放題できるのだ。


 ユフィーリアとアイゼルネを創設者会議に送り出したショウとハルアは、互いに顔を見合わせてニヤリと笑う。



「よし、ハルさん。行動開始だ」


「おー!!」



 ユフィーリアとアイゼルネが戻ってこないことを再度確認してから、ショウとハルアは用務員室の隣にある居住区画へ静かに飛び込んだ。


 理由はもちろん、お菓子作りである。

 普段は食事当番であるユフィーリアとエドワードのみしか近付くことを許されていない台所は、今や自由に出入りが出来る状態となっている。未成年組でもやりたい放題できるのだ。今の状況を利用してお菓子作りに臨むしかない。


 そして何故お菓子作りに挑むのかというと、



「明日はバレンタイン……美味しいチョコレートのお菓子を作ってユフィーリアをメロメロのメロにさせるのだ……!!」


「いつになく気合が入ってるね!!」



 ハルアは『猿でも分かるお菓子作り』という料理本を広げて、



「でも何でバレンタインにチョコレートのお菓子を渡すの!?」


「異世界ではチョコレートのお菓子を好きな男子にあげるのが通例なんだ」


「ばれんた!!」



 ショウが異世界流のバレンタインを教えると、ハルアが琥珀色の瞳を輝かせて「知ってるよ!!」と言う。



「それって男の人から女の人にお花を渡すんじゃないんだ!!」


「異世界文化だな。チョコレートを渡すのは日本――じゃなくて異世界の文化だと言うし」



 ショウの知っているバレンタインは『女子が男子にチョコレート菓子を渡して好意を伝える日』という文化で有名だった。海外では男子から女子に花を渡すことが主流のようだが、今回は異世界ならではの文化に準じようと思う。

 ちなみに明日がバレンタインなので、最愛の旦那様に美味しいチョコレート菓子を渡して惚れ直してもらおうというのがショウの作戦である。この日の為に材料も買い揃えておいたのだ。


 ハルアが広げる料理本の頁を捲るショウは、



「さて、何を作ろうか。やはりマカロンとか」


「それは止めておいた方がいいよ」


「な、何故だハルさん。こうして料理本もあるのに」


「よく見よう、ショウちゃん」



 ハルアがパラパラと料理本の頁を捲る。見せてくれた頁には『綺麗なマカロンの作り方』とあるが、その工程が実に大変だった。料理初心者のショウとハルアではまず難しい。

 綺麗なお菓子を作って見直してもらおうかと思ったのだが、残念ながらマカロン作りは叶わないらしい。ショウも「さすがにこれはアカン」とそっと本を閉じた。


 ショウはそっと自分の顔を覆うと、



「マカロン作りたい……けれど無理だ……」


「ショウちゃん、現実見よう。無理だよ、マカロンは」



 ハルアはポンポンとショウの肩を慰めるように叩くと、



「そもそも、何でマカロンを作りたいの?」


「『貴女は特別な人』という意味があるんだ」



 バレンタインで渡すお菓子には意味があるという話を、ショウは元の世界の同級生から面白半分に教えられたことがある。自分でも興味本位で調べてからマカロンが特別な意味を持つお菓子であるということを学んだ。

 他にもクッキーは『友達でいましょう』だったり、マシュマロやグミは『嫌い』という意味があるらしい。クッキーは簡単でいいかもしれないと思ったが最愛の旦那様に渡すには適さない代物だ。


 ハルアは「そっか」と頷き、



「でもショウちゃん、よく考えよう」


「ああ」


「オレらは普段、お料理しないね」


「しないな」


「ユーリみたいなキラキラ綺麗なお菓子も作ったことないし、エドみたいな大きくて美味しいお菓子も作ったことないね」


「ないな」


「そんなオレらがマカロンを作ったら、多分メタメタになるよ。台所はひっくり返り、クリームでベタベタになり、大変なことになってユーリとエドから正座でお説教されるのがオチだよ」


「いつになく正論で刺してくるではないか、ハルさん。誰かが取り憑いたか?」



 珍しく、本当に珍しくハルアが容赦なく正論でグサグサ刺してくる。ショウと一緒にいることで舌戦の極意を学んでしまったのだろうか。

 先輩にここまで言われてしまうと、さすがにショウもマカロンを本格的に諦めざるを得なくなる。こうなったら別のお菓子を作るしかない。


 ショウは「よし」と言い、



「カップケーキか、マフィンにしよう。どっちもエドさんのお手伝いで作ったことがある」


「それなら作れそうだね!!」



 ハルアも納得してくれたところで、早速準備に取りかかるショウ。


 食料保管庫に隠していた卵と牛乳、そして戸棚に隠しておいた『ケークパウダー』なる魔法の粉を取り出した。これは異世界で言うところのホットケーキミックスと同じようなもので、ケーキ類のお菓子を焼く際には重宝するものらしい。これらの知識の情報源はエドワードだ。

 本人は「たまに馬鹿みたいにデカいケーキが食べたくなる」とか言って、このケークパウダーを使ってカップケーキやホットケーキを作るのだ。その時におこぼれに預かるのが後輩としたの楽しみになっていた。


 ガチャガチャと調理器具を用意するショウは、まずボウルを取り出す。料理本の頁はカップケーキに固定した。



「まずはケークパウダーと卵、牛乳、お砂糖、油を入れて混ぜ混ぜ」


「混ぜ混ぜ!!」



 泡立て器を使用して丁寧に材料を混ぜていくショウ。ハルアは大人たちが帰ってこないか見張りである。


 ボウルの中身は黄色の生地のようになり、ドロリとした見た目の液体になった。これを戸棚を漁って見つけたカップに流し入れ、大人たちの晩酌用に保管されていた胡桃を拝借して生地の上に散らす。

 あとは焼くだけの段階だが、オーブンは薪を入れなければ始まらない。ショウは残念ながら薪を使用した方法でオーブンを使えないので、別の方法を選ぶことにする。


 それはすなわち、



炎腕えんわん、手伝ってくれ」



 タンタン、と床を踏みつけるとにゅるりと腕の形をした炎――炎腕が伸びてきた。ショウの持っている紙のカップが並んだ鉄板を指差すと「それを燃やせばいいの?」とばかりに手首を揺らす。

 炎腕に鉄板を預けると、鉄板の底を炎腕の指先が撫でる。ぷつぷつと生地も膨らみを見せてきて、甘い香りが鼻孔をくすぐった。上手く焼けているようだ。


 あとはカップケーキのトッピングをしようかと考えた、その時である。







 ――ちゅどーん!!!!






 何故か、カップケーキが爆発した。



「…………」


「ショウちゃん平気!?」



 カップケーキの生地を全身に浴びて呆然と立ち尽くすショウに、ハルアが慌てた様子で駆け寄る。


 何が起きたのか分からなかった。とりあえずカップケーキが爆発したことだけは覚えている。おかしい、ちゃんと料理手順通りにやったはずなのに。

 これだけ材料を揃えて、カップケーキに挑戦してもダメだったのか。料理の神様に愛されていないのか。父親の『料理に挑戦すると必ず爆発する呪い』とやらを引き継いでしまっている。


 すると、



「ちょっとぉ、今凄い音が聞こえてきたんだけどぉ!?」



 ドタバタと足音を立てて、ランニングを終えたばかりのエドワードが駆け込んできた。どうやら先程の爆発音は外まで聞こえていたようだ。

 居住区画に駆け込んできたエドワードが見た光景は、悲惨の一言に尽きた。カップケーキの生地がそこかしこに飛び散り、全身にカップケーキの生地を浴びた後輩が呆然と立ち尽くし、それをもう1人の後輩が慰めようと右往左往しているのだ。もう「あちゃー」しか感想が出ない。


 ショウはエドワードへと振り返ると、



「エドしゃん……!!」


「はいはい泣かないの泣かないのぉ。ショウちゃんどしたのぉ、ハルちゃんに虐められたぁ?」


「風評被害!!」



 エドワードの大きな手のひらに慰められ、ショウは全身に飛び散ったカップケーキの生地を綺麗にする為にお風呂へ連行された。

《登場人物》


【ショウ】バレンタインだから特別なお菓子を自力で作ってユフィーリアに褒められたかった。まさか爆発するなんて思わないじゃないか。

【ハルア】ショウからバレンタインの話を聞いてお手伝い。言う時は言う。正気に戻ったとか言わない。

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