第1話【異世界少年と爆裂豆】
第101章:爆裂☆豆パーティー!?〜問題用務員、豆まき襲撃事件〜
※何か設定できなかったので前書きにて失礼します。
購買部でおやつを買おうと思ったら『大特価』と掲げられた札を見つけた。
「爆裂豆?」
「まめ?」
問題児の未成年組、アズマ・ショウとハルア・アナスタシスは揃って首を傾げる。
目の前の籠へ大量に積まれたそれは、真空パックされた豆である。持ってみると袋が非常に硬いので完全に空気を抜かれており、ある意味で武器にもなり得そうな雰囲気があった。
見た目は完全に、ショウの記憶にある通りの大豆である。気になる部分として豆からにょろりと紐が飛び出しているのだ。商品名から予想して、それはまるで導火線のようである。
その爆裂豆と銘打たれた商品を手に取った未成年組は、
「これ食べるのか?」
「食べるんだろうね!! おつまみとかじゃない!?」
「お腹の中が弾けてしまいそうだ……」
「次の不審者さんに食べさせたら面白いことになるかな!?」
軽率に他人の腹を弾けさせようと目論む未成年組の頭上から、間延びした声が降ってきた。
「今日のおやつは何にするか決めたのぉ?」
「あ、エド!!」
「エドさん」
商品が陳列されている棚からひょこりと顔を覗かせた愛すべき先輩用務員、エドワード・ヴォルスラムにショウとハルアは揃って爆裂豆の袋を掲げた。
「エド、爆裂豆だって!!」
「食べたことありますか?」
「あるよぉ。え、珍しいねぇ。爆裂豆がめちゃくちゃお安くなってるぅ」
籠に積まれた爆裂豆の真空パックを目の当たりにして、エドワードは銀灰色の瞳を瞬かせた。その反応から察するに、この爆裂豆が大特価で売られているのが珍しいことらしい。
「珍しい食べ物なんですか?」
「時期的には夏に出回るんだけどねぇ、今の時期に大特価で販売されているのが珍しいんだよぉ。おつまみで食べると美味しいよぉ」
エドワードはガサガサと爆裂豆の袋を大量に籠から掴み取る。籠に積まれた爆裂豆の在庫をほぼ全て持って行こうと言わんばかりの勢いだった。
「このおつまみねぇ、ユーリも結構好きだからさぁ。いっぱい買っておこうと思ってねぇ」
「そうなんですか?」
ショウは不安げな表情で、
「あの、それってお腹が破裂したりとか……」
「しないよぉ。そんなの食べたら俺ちゃんたちは今頃、冥府で元気に獄卒として再就職してるからねぇ」
エドワードがきっぱりと否定してくれたおかげで、ショウは安堵の息を吐いた。
では何故、この大豆もどきが爆裂豆と呼ばれているのか。爆裂というのだから弾けるのだろうが、弾けても危険性がないとは想像が出来ない。
得てしてこの世界の食べ物は、下手をすると危険極まるものが結構あるのだ。食べると身体が風船のように膨らむガムとか、身体がゴムみたいに伸びるグミとか、現実の眼球を模したあまり美味しくない飴とか、その他諸々である。気をつけなければならない類のものではないのか。
そんな後輩たちの不安を察知したエドワードは、
「じゃあ早速食べてみるぅ?」
「食べれるの!?」
「普通におやつとしても美味しいよぉ」
エドワードは爆裂豆の真空パックを掲げて、
「じゃあ紙袋とお塩も追加で買って行こうねぇ」
「お塩は多分、豆にかけるんだろうとは思うんですけれど。紙袋は何で必要なんですか?」
首を傾げるショウに、エドワードは「決まってるじゃんねぇ」とニヤリと笑いながら言う。
「こういうのは振って食べるのが1番美味しいんだよぉ」
☆
そんな訳で、調理開始である。
「最近、雪も降らないから中庭も落ち着いてていいねぇ」
「ぷいぷいのお散歩の時はだいぶしょんぼりしてるけどね!!」
「ぷいぷい、雪が好きだから仕方ないな……」
購買部で爆裂豆と、その危険な名前の豆を調理する為の調理器具をついでに購入してから問題児男子3人組は中庭にやってきた。
最近、雪も降っていないのだが、やはり中庭の片隅には溶け残った雪の塊がちらほらと確認できる。雪遊びが出来るほどの量は残っていないので、必然的にそのまま放置する他はない。
まあ現在は2月になったばかりである。雪が降らないとは言い切れない。今日はたまたま天気がいいだけで、明日になれば大雪がドカンと降る可能性があるのだ。
中庭に設置された東屋を占拠する問題児男子3人組は、
「まずは炎腕にお願いしてもいい?」
「はい」
ショウがポンと手を叩くと、足元から腕の形をした炎――炎腕がニョキニョキと姿を現す。3本の炎腕が「何かご用?」と言わんばかりに手首部分を振る。
エドワードが掲げたのは、フライパンのようなものだ。ただし、何やら壺のような器具によってフライパンの口全体が覆われており、蒸し焼きか何かを作るのだろうかと思ってしまう。
壺のような器具を取り外してフライパンを露出させると、エドワードは浅いフライパンに購入したばかりの爆裂豆を投入した。ザラザラと音を立ててフライパンの上を転がる爆裂豆の、金属を擦るような音が耳に心地よい。
追加でフライパンにバターの塊まで投入しますエドワードは、壺のような器具をフライパンに取り付けてから炎腕にそれらを乗せる。
「じゃあ、炎腕ちゃんたちぃ。よろしくねぇ」
自分たちが呼び出された理由をようやく理解した炎腕は、3つの手のひらでフライパンを支えて熱し始める。
熱し始めてから10秒ほどが経過すると、じわじわとバターの匂いが鼻孔を掠めた。何だか美味しそうな匂いである。これでお塩と一緒にいただくならば病みつきになりそうだ。
爆裂豆が炒められるの待っていた未成年組だが、次の瞬間、爆撃に襲い掛かられた。
――――ぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼーんッッッッッ!!
エドワードの押さえる壺の部分を吹き飛ばさん勢いで、激しい爆発音がフライパンの中から響き渡った。
「わぎゃッ」
「むぎゃッ」
「うはははははは」
ショウとハルアは揃って東屋の長椅子から転がり落ちて尻を強かに打ちつけ、エドワードは何が楽しいのか大声で笑っている。
鼓膜をじんじんと刺激してくる爆発音に、ショウとハルアは目を白黒させた。おそらく爆裂豆が文字通りの意味で爆発しているのだろうが、爆弾を何個もフライパンの中に放り込んだとばかりの勢いで跳ね回っているのだ。
これはもしや、作り終えた直後はフライパンが使い物にならなくなっていないだろうか。焦げ目がついているのはまだマシな方だろうが、穴が開いたり凹んだりしないか。頑丈なフライパンが一瞬でボロボロになる光景が脳裏をよぎった。
「え、えど、えどしゃ」
「何、何……?」
「何よぉ、その反応。出来たよぉ」
いつのまにやら爆発音が大人しくなり、完全に音が聞こえなくなった頃を見計らってエドワードはフライパンに取り付けた壺の部分を開く。
フライパンの中に出来上がっていたのは、大量の白い何かだった。モコモコとした見た目のそれは非常に可愛らしく、それでいてショウの見覚えのあるものだった。
赤い瞳をパチパチと瞬かせたショウは、
「ポップコーンだぁ……?」
「ぽぷこん?」
「異世界にも似たような食べ物があるんだねぇ」
エドワードは出来上がったばかりの爆裂豆を1粒だけ摘むと、
「はい、あーん」
「あむぐッ」
ショウの口の中に爆裂豆が放り込まれた。
バターが絡まって塩気があり、程よい歯応えが癖になる。豆のような感覚はなく、やはりポップコーンみたいな軽いお菓子だと思えた。
これは魔の食べ物である。何故なら1粒ずつポンポンと口の中に運んでしまうし、バターの塩気が止まらない。これに塩を塗したらますます止まらなくなる。
出来上がった爆裂豆を次々とフライパンから摘むショウとハルアは、目をキラキラと輝かせながら口に運んだ。
「美味え!!」
「手が止まらないです!!」
「だよねぇ。これ出来立てが美味しくてさぁ」
エドワードもまた爆裂豆をフライパンから摘んでいた。このお手軽なお菓子には先輩も魅了されることだろう。
「これは一応、豆菓子になるからヘルシーだよぉ」
「バター大量に突っ込んでおきながらヘルシーはないと思うよ!!」
「これが豆菓子かぁ」
ぽりぽりと爆裂豆を口に運びながら、ショウはポツリと呟く。
「そういえば、異世界には豆撒きって文化があって」
「「詳しく」」
何かを察知したらしいエドワードとハルアに詰め寄られ、ショウは思わず仰け反ってしまった。
《登場人物》
【ショウ】ポップコーンは中学校時代の同級生がおやつとして持ってきたものを分けてもらった経験があるのみ。映画? そんなもの見れる訳なくないか?
【エドワード】よくおつまみで爆裂豆はいただく。やはりバターと塩は相性最高。
【ハルア】爆裂豆は食べたことない。そもそもおつまみだからあんまり食べない。