第4話【問題用務員と決闘未遂】
そんな訳で、本物の七魔法王が集結である。
「面白い人がいるって聞いたんだけど」
「不審者を面白い人って言われてもねぇ。ボクの魔法兵器の実験にしか使えないッスよ」
「わたくしも暇ではありませんの」
「何じゃぁ、せっかく昼寝しておったのにぃ」
「母様、何かご用事ですかぁ?」
正面玄関に何の疑問も持つことなく現れた本物の七魔法王に、ユフィーリアは綺麗な笑顔と共に説明してやる。
「いや、この馬鹿どもが『我こそが真の七魔法王だ』とかほざくからご紹介してやろうかと思って」
ユフィーリアが示した先にいたのは、散々キクガによる「何で?」攻撃を受けたことですっかり疲弊した偽物の七魔法王たちだった。精神的に多大な負荷がかかったようで、最初に見かけた時よりも彼らの見た目が細くなったような気がする。
今もなお、偽物の七魔法王たちはキクガの一挙手一投足にビクビクと怯えたような表情を見せるばかりである。最愛の嫁が言うには最初こそ自信に満ち溢れていた不審者だったのに、今やすっかり大人しくなっているとのことだった。
そんな不審者どもを見やった現役の七魔法王たちは、
「へえ」
「そッスか」
「興味は全くありませんの」
「4月でもないのにご苦労なことじゃのぉ、こんな寒い場所まで」
グローリア、スカイ、ルージュ、八雲夕凪は興味なさそうに応じる一方で、七魔法王の中でも最年少のリリアンティアが純粋な疑問に満ちた表情でコテンと首を傾げる。
「ただの仮装集団かと思いましたが、七魔法王の仮装ですか?」
「あ、ユフィーリアが崩れた」
ショウが予想していたと言わんばかりの口調で言う。
ユフィーリアはリリアンティアの辛辣な言葉を受けて膝から崩れ落ちた。悪意ある言葉だったらまだしも、相手は11歳の乙女である。大人の汚さすらご理解していない純粋無垢な少女から発される言葉は、紛れもなく真実であり本心であった。
彼女は本気で、あそこにいる偽物の七魔法王が「我々本物の七魔法王の仮装をした愉快なお人間さん」と認識している様子だった。ぜひそのまま成長してほしい。いやもう成長できないけれど。
すると、今までのやり取りを聞いていたらしい偽物の【世界創生】ことトーマスが、やおら立ち上がるとグローリアを指差して叫んだ。
「第一席【世界創生】、貴様に決闘を申し込む!!」
おっと、面白いことを口走り始めた。
「我々の方が遥かに優秀なのに、いつまでも偉そうに七魔法王の座に収まっているから我々のような魔法使いが日の目を見ないのだ!!」
「うーん、決闘かぁ。苦手なんだけど」
グローリアは不思議そうに首を傾げて、
「というか、有名になりたいから七魔法王になりたいの? 名声と承認欲求目的で名乗りたいなら止めた方がいいよ。大したことも出来ていないのに名声だけほしがると、本当に痛い目を見るよ」
「そッスねぇ、名乗るなら好きにしたっていいけど本当に止めた方がいいッスよ。民意に殺されるから」
「そうですの。わたくしの場合、分かりやすい指標として『中央魔法最高裁判所の筆頭裁判官になる』と示しているんですの。ぜひ筆頭裁判官になってから言ってほしいものですの」
「人間とは愚かじゃのぉ、呆れて物も言えんわい」
「エリオット教の信者でもなさそうなお方に教祖の座を譲るのは嫌です」
本物の七魔法王は偽物たちに呆れ果てていた。
というより、驚くよりもまず先に呆れが来るということから分かる通り、たびたびこんなことを言ってくる阿呆が後を絶たないのだ。今まで何度やってきたのか分からないぐらいに多い。
それほど七魔法王の人気が高く、また世界中の人間から一挙手一投足を監視されるように期待を寄せられているのだ。七魔法王こそ魔法の技術を広く人々に開示して世界を豊かにした立役者だ。その名声だけを横から攫って、痛い目を見た馬鹿タレたちは何人もいる。
その事実はあえて話さずに、ど直球で「止めておけ」と言ったのに偽物たちは顔を真っ赤にして噛み付いてきた。
「うるさい!! いかに我々が優秀であるか――」
「まあそんなになりたければなってみたら? 1回は経験しておくべきだよね、そこまで言うなら」
グローリアは「どうぞ」と言わんばかりにひらひらと手を振って、
「はい、今日から君が七魔法王の第一席だ。頑張ってね」
「え、は?」
トーマスは拍子抜けしたような表情で言う。先程までの闘志はどこに消えたのか。
「いや、あの」
「うん?」
「い、いいのか? そんな簡単に?」
「いいも何も、君たちが望んだことでしょ」
グローリアは朗らかに笑うと、
「3日後ぐらいにはユフィーリアのところに各国から嘆願書が送られてきて、君たちどうせこの世界から消し飛ばされることになるからさ。3日間ぐらいはいい思いをしたいでしょ?」
「は……?」
その場の誰もが、本物の七魔法王が第七席【世界終焉】のユフィーリアに向けられた。偽物の七魔法王だけではなく、問題児からも視線が寄せられる。
キョトンとしたユフィーリアは、さて何人仕留めたかなと記憶を探る。確か、最後に仕留めたのは今からおよそ150年前ぐらいだっただろうか。あの時も元気よく突っかかってきたので七魔法王の座を譲ってやったら、その3日後ぐらいにレティシア王国を筆頭とする50の国から「あの偽物どもを始末してくれ」と嘆願書が送られてきた訳である。
本人たちが「七魔法王になりたい」と言うから喜んで譲ってやったし、何なら七魔法王交代の告知もしたというのに、世界はユフィーリアたち本物の七魔法王を逃がしてくれなかった。意地でもユフィーリアたち以外の七魔法王を認めないのだ。そろそろ引退を考えていても許してくれない。
まあ、そんな訳で譲ってやった回数は実に10回。70人近くの馬鹿タレをこの世から消し飛ばした。
「70……だったかな、今回で11回目か」
「77人になるッスねぇ、記録更新」
スカイが「あひゃひゃひゃ」と悪魔みてえな笑い声を上げる。
偽物たちはすっかり戦意喪失していた。顔を青褪めさせ、全身を震わせている。
さすがに「我々こそが七魔法王だ」と名乗る割には、第七席【世界終焉】の恐ろしさを理解しているらしい。この世から自分自身という存在が消えていく感覚は想像するだに恐ろしいことだろう。
トーマスは泣きそうな表情で、
「あの」
「うん」
「お願いがあって」
「何かな。命乞いなら聞かないけど」
偽物たちの命乞いなど聞く気はないと宣言するグローリアに、トーマスは涙声で言う。
「決闘でボコボコに負かしてくれませんか……」
「えー」
本物の七魔法王たちの方は乗り気ではなかった。もちろん、ユフィーリアとキクガも乗り気ではない。
だって面倒臭いではないか。七魔法王として、馬鹿タレの命を背負いたいとは思わない。
グローリアは「いいよいいよ」と追い返すようにひらひらと手を振って、
「君たちがやればいいじゃない、七魔法王。認められれば死なずに済むよ?」
「いやでも、あの、終焉ってのはさすがに。せめて七魔法王の手にかかって死にたいと言いますか……」
「やだよ、君たちの命を背負う真似なんて。僕はそこまで優しくないよ」
ツンと冷たい態度――というかいつも通りの態度で返すグローリアに、トーマスは涙をボロボロとこぼしていた。いつもこんな感じで今までの七魔法王気取りの馬鹿タレどもと接していた訳である。
半ば強制的に押し付けられる形となった七魔法王の座を、偽物たちは涙を流して拒否をした。自分の命の危機が迫っていると知った途端にこの態度である。もっと喜べばいいのに。
すると、
「じゃあこの人たちが新しい七魔法王!?」
正面玄関に響き渡る、元気がよすぎる声。
視線をやれば、そこにはハルアがいつもの頭の螺子がぶっ飛んだ笑顔を浮かべていた。彼の手に握られているのは史上最強の神造兵器『ヴァジュラ』である。
そう、彼は本来、七魔法王を殺害する為に生み出された人造人間である。今までは七魔法王がいい魔法使いと魔女の集団だったから狙わなかったものの、こんな阿呆に代替わりしてしまったら狙う他はない。
顔を青褪めさせるあまりとうとう顔面が白くなってしまった偽物どもに、ハルアは宣言する。
「じゃあ殺すね!! 2回目は生き返らないからね!!」
――こうして、偽物たちは見事に塵芥となってこの世を去った。
最強の神造兵器の煌めきを目の当たりにする本物の七魔法王たちは、少しばかり残念そうに言う。
「龍帝国に行かずに済むと思ったのにな」
「何に関しても見せ物パンダになるから嫌なんスよねぇ」
「わたくしたち、いつまで七魔法王をやればいいんですの」
「公の場に立つ際は面倒極まりない訳だが」
「早う次世代が育ってくれればいいのにのぅ」
「身共は教祖であって、決して世間様の見せ物になる為に七魔法王になった訳ではないのですが」
「いつか譲れる相手が出てきてくれるかね」
本気で偽物たちへ七魔法王の座を譲って引退を考えていたのだが、どうやらまだ引退して悠々自適な魔法研究ライフを送るのは先の話になりそうである。
《登場人物》
【ユフィーリア】七魔法王を譲ったところで終焉は自分しか出来ねえだろうしなぁ、と思っている。
【問題児の面々】七魔法王って簡単に譲れるものだろうか?
【グローリア】引退したら南の島でバカンスしたい。
【スカイ】出来れば魔法兵器の開発に没頭していたいので七魔法王の地位いらんすか?
【ルージュ】あの偽物の七魔法王、体格が好みなのであとで声をかけておこうと思ったが冥府に逝ったか。
【キクガ】さて、冥府の裁判の仕事をしなければ。
【八雲夕凪】何かいきなり呼ばれて偽物の前に引き摺り出された。儂、あんなムキムキか?
【リリアンティア】巨乳死すべし、偽物の聖女の乳に憤り。