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第1話【異世界少年と偽七魔法王】

 今日も元気に校内巡回である。



「るったった!!」


「ハルさん、先に進むと迷ってしまうぞ」


「それは危ないね!! オレはショウちゃんから離れちゃうとどこにも行けなくなっちゃう!!」


「もう用務員室に帰るしかなくなっちゃうなぁ」



 弾んだ足取りで先に進む先輩を引き戻す女装メイド少年――アズマ・ショウは苦笑を漏らした。


 不審者の侵入を許さない『不審者取締係』のお仕事は今日も平和である。最近、妙な侵入者はやってこないのだ。

 もしやってきたとしても、二度と日の目を見ることの出来ないような身体にしてやるだけである。具体的に言えば副学院長の玩具か、学院長の実験台か、あるいは未成年組の玩具に成り果てる。犯罪者はぜひ冥府の刑場で反省してほしい。


 先輩である少年、ハルア・アナスタシスは「あーあ」と口を開き、



「お暇だね!! 最近、不審者もいないし!!」


「もう侵入する気も失せてしまったのだろうか。悲しい」


「だね。しょんぼりだね!!」


「ああ、しょんぼりだ」



 口先では「しょんぼり」と言いながらも、平和なことはいいことなのだ。問題児も問題を起こさなければ怒られないし、給料も理不尽に下げられないで済む。


 そんな会話を交わしながら正面玄関に差しかかったショウとハルアは、ふと足を止めた。

 吹き抜け状となっている正面玄関にお客さんが佇んでいたのだ。人数は7人、男性が4人の女性が3人という構成だ。見上げるほど背が高くて屈強な男性から聖職者らしい修道服を身につけた女性まで幅広いお客様が、何故か何も言わずに堂々と正面玄関に仁王立ちしている訳である。


 これはまさか、堂々とした不審者だろうか。7人も正面玄関にやってくるとは度胸のある犯罪者だ。



「あれはどちら様だろうな」


「あんな堂々とした不審者は初めて見るかもしれないね!!」


「恥がないのかな」


「ユーリが言うには『面の皮が壁よりも分厚い』だろうね!!」


「言えているな」



 ショウとハルアは互いの顔を見合わせると、一度だけ頷いてから7人の暫定不審者に話しかけに行った。



「あの、すみません。当校に来訪のご予定があるお客様でしょうか?」


「ん? 君たちは一体? この学院の関係者かい?」


「ええまあ、用務員ですけれども」



 ショウの会話にやたら気障っぽい口調で応じたのは、眼鏡をかけた真面目そうな見た目の青年である。悪く言ってしまうと『勉強しか取り柄のなさそうな地味な青年』だ。

 口調と外見が似合っていないというか、どうしてもこういう真面目な顔をした男が気障な口調を使うと嫌な予感しかしない。早くも話しかけたことを後悔する。


 それでも不審者である可能性は拭えないので、ショウは不快感をグッと喉の奥に押し込んで会話を続けた。



「来訪のご予定があるならお伺いします」


「実は、この学校の学院長――七魔法王セブンズ・マギアスの第一席に用事があってね」


「はあ、学院長にですか」



 ショウはちらとハルアを見やる。彼の第六感は特に働かないのか、いつものぶっ壊れ気味な笑顔で「学院長のお友達かな!?」なんて的外れなことを言っている。


 ヴァラール魔法学院の学院長と言えば多忙を極めるお方である。問題児の問題行動に巻き込まれるだけではなく、彼自身も授業を受け持っていたり魔導書の執筆に追われていたり魔法の実験でキャッキャしていたりと割と忙しい日々を送っている。

 当然ながら、予定を押さえるのも難しい。ヴァラール魔法学院の関係者であればそこまで難しくはないし、問題児はたびたびゲリラ的に襲撃するので捕まえようと思えば捕まえることが出来る。ただ、外部の人間に関して言えば事前に訪問のお知らせがない限りは難しいだろう。


 ショウは首を傾げ、



「学院長にどう言ったご用件でしょうか」


「ああ、実は一言物申したくて」



 眼鏡の青年は眼鏡のツルをクイッと指先で押し上げると、



「――我々こそが、真の七魔法王であるとお伝えしたいんだ」



 なるほど、たまにある馬鹿タレによるゲリラご訪問だったか。



「ハルさん、どうしよう。春先でもないのに頭が愉快な人がご来訪してしまった。どうやって返せばいいかな」


「殴ればいいんじゃないかな!?」


「だから初手の暴力行使はこちらが不利な状況になってしまうから……」



 いつでも全力全開で暴力行使を目論む問題児の暴走機関車野郎をやんわりと止めつつ、ショウは努めて冷静に対応しようとする。

 だってこれ以上に面白いことを思いついてしまったのだ。そっと先輩にも耳打ちすると、彼は無言で親指を立ててショウの背後に控えた。話の分かる先輩で何よりである。


 咳払いをして「大変失礼いたしました」と謝罪するショウは、



「では皆様のお名前をお伺いしてもよろしいですか?」



 そう質問をすると、見るからに阿呆そうな自称七魔法王の方々は高らかに名乗ってくれた。



「第一席【世界創生セカイソウセイ】、トーマス・マシェリ」



 第一席を名乗ったのは、最初にショウと応対した地味な眼鏡の青年である。



「第二席【世界監視セカイカンシ】、マックス・パセロ」



 第二席を名乗ったのは、盛大なアフロヘアと分厚いレンズが特徴の瓶底眼鏡をかけた猫背気味な男だった。特徴的な部分は、唇から突き出た立派な出っ歯である。まるで鼠のようだ。



「第三席【世界法律セカイホウリツ】、マリオ・ボーゲン」



 第三席を名乗ったのは、仕立てのいいスーツに身を包んだ男だった。上背があり、スーツの下からでも分かるぐらいに身体は鍛えられている。態度は冷たい雰囲気が漂っていた。



「第四席【世界抑止セカイヨクシ】のぉ、ヴィオラ・ヨハンナよぉ」



 第四席を名乗ったのは、金髪の美女である。豊満な肢体を何故か黒革のボンテージ服に包んでおり、胸元や太腿などが大胆に晒されている。何をどう『抑止』しているのやら。



「第五席!! 【世界防衛セカイボウエイ】のロドリゲス・フィックスだ!!」



 大きな声で第五席を名乗ったのは、上半身裸の筋骨隆々とした男だった。弾ける笑顔を称えており、自己紹介をしながらダンベルで筋トレをしているので身体を使ってあらゆる脅威から身を守るとでも言いたいのだろう。



「あーしは第六席【世界治癒セカイチユ】のミリンダ・サイラスでーす」



 第六席を名乗ったのは、けばけばしい化粧の修道女だった。頭巾から緩やかに波打つ栗色の髪が溢れ、気だるげに指先に髪の毛を巻き付けている。見た目は聖職者でも邪神を崇拝していそうだ。



「……第七席【世界終焉セカイシュウエン】、モニカ・トランスフォード」



 そして第七席を名乗ったのは、真っ黒なゴシックロリータに身を包んだ少女である。薄い胸の前で大きなテディベアを抱き込み、フリフリの日傘を差している。淀んだ黒い瞳からは陰気な雰囲気が漂ってきていた。


 全員の名前を聞いたショウは「分かりました」と頷く。

 彼らの名前、そして外見でもう呼び名は決まっていた。



「順番に、地味眼鏡、ドブネズミ、石頭、変態痴女、脳筋、アバズレ、クソ陰キャですね。大変申し訳ございません、馬鹿どもはお取次できないのでお引き取り願えますか? お帰りはあちらからです」


「ちょおおおい!? 何だそのふざけた呼び名は!?」



 真っ先に抗議の声を上げたのはやはり自称第一席のトーマスだった。地味なくせに元気だけはいいようだ。



「こっちは七魔法王だって言っただろ!?」


「では試しますか。貴方たちがどれほど優秀な魔法使いであるか」



 ショウは背後に控えていたハルアを示し、



「こちらのハルさん、実は七魔法王を殺害する為に作られた人造人間なんです。見事に勝てれば学院長にお取次しますよ」


「はッ、そんなの簡単」



 トーマスの声が掻き消えた。


 言葉が終わらぬうちにハルアが動き、真っ黒なツナギのポケットから取り出した神造兵器『エクスカリバー』で彼の首を刎ねたのだ。それはもう鮮やかな手つきだった。

 綺麗に胴体から切り離されたトーマスの首は、正面玄関の代理席の床を跳ねて転がる。その表情は先程までの余裕綽々といった笑みのままだった。


 固まる他の自称七魔法王を前に、ハルアはぶっ壊れ気味な笑顔で言う。



「オマエらが七魔法王なら、オレは10秒で全員殺せるね!!」



 ――そして、ハルアが自称七魔法王を片付けるのに、本当に10秒もいらなかった。





 先輩による自称七魔法王の蹂躙光景を眺めながら、ショウはのほほんと通信魔法専用端末『魔フォーン』を取り出す。



「さて、死者蘇生魔法ネクロマンシーをお願いしなくては」



 本物の七魔法王にこの事実を伝えたら面白がってくれるだろうかと願いながら、ショウはまずは最愛の旦那様に通信魔法を飛ばすのだった。

《登場人物》


【ショウ】まだまだ寒いはずなのに、頭がぱっぱらぱーなお客さんが来てしまった。語彙力豊富なので罵倒も称賛もお手のもの。

【ハルア】七魔法王を殺害する為に生み出された人造人間。本物の七魔法王は凄え奴だと理解しているが、この偽物たちは全然凄くないので本来の生まれてきた意味を果たす。

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やましゅーさん、こんにちは! 新作、今回も楽しく読ませていただきました!100章おめでとうございます! 偽の七魔法王たちは一体全体何がしたくてやってきたのか、しょっぱなからハルア君に片付けられてしま…
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