第12話【問題用務員と冥府連行刑】
ところで、冥府連行刑ってなーに?
「冥府拷問刑は知ってるな? 生きたまま冥府に連れて行かれて、刑場の罪人と同じ罰を受けるっていう内容な。裁判を金と権力で逃れるような連中に適用される」
「じゃあ冥府連行刑というのは?」
「これは寿命で死ぬことがない魔法使いや魔女に適用される冥府独特の刑罰で、冥府の法廷で裁判を受ける過程をすっ飛ばして刑場に叩き込まれる。つまり冥府基準の有罪がすでに確定しちゃった死刑だな。冥府転移門を潜ると死ねるから痛くも苦しくもねえぞ、帰ってこれねえけど」
「なるほど」
以上、魔法の天才ユフィーリア先生による『冥府拷問刑と冥府連行刑の違いってなーに?』のお時間でした。
つまるところ、今回は冥府から精神状態をボキボキに叩き折られた状態で現世に帰されることはなく、奴隷商人は片っ端から冥府の法廷で裁判を受ける過程をすっ飛ばして刑場に放り込まれることとなる。彼らが二度と現世の大地を踏むことはない。
自分の配下の商人を勝手に冥府へ連れて行かれたことに対し、アーリフ連合国の最高責任者であるカーシム・ベレタ・シツァムはきっと黙ってはいないだろう。何らかの抗議をするはずだが、相手はインテリヤクザの冥王第一補佐官様である。商人の口八丁手八丁すら通用する相手ではない。
ユフィーリアは「それより」と首を傾げて、
「あそこでタイミングよく親父さんが出てくるとはな。まさか親父さんも人身売買オークションに用事があったりとか」
「いや、魔フォーンで通信魔法を繋げていただけだぞ?」
「何てこったい。頭のいいことをしやがる」
ショウはメイド服のエプロンドレスのポケットから、通信魔法専用端末『魔フォーン』を取り出した。表面には『通信魔法終了』の文字が並んでおり、今まで通信魔法を繋げていたことを示している。
父親たるキクガは息子とのやり取りを聞いて、この人身売買オークションにやってきたのだ。そこで遭遇した奴隷商人を片っ端から捕まえて冥府の刑場送りにした訳である。この異世界出身の親子、侮れない。
どこか誇らしげに胸を張るショウは、
「最近では冥府の法律もお勉強しているんだ。現世と冥府での法律は似通っていて冥府の方が厳しいから、勉強のし甲斐がある」
「凄えなぁ、父親の仕事を理解しようと頑張る息子の姿に泣けてきちゃう。親父さんが知ったら死ぬほど泣きそう」
勉強熱心な嫁の姿に、ユフィーリアは涙を禁じ得なかった。おそらく、事実を知ったキクガも涙ぐむことだろう。
「それで、何でルージュは地団駄を踏みながら奴隷を押収してるんだ?」
「父さんに言われたことを気にしていたようだな」
「あー……」
人身売買オークションで奴隷落ちした犯罪者を捕まえようと頑張っていたルージュだったが、肝心の奴隷商人が冥府に連れて行かれてしまったことで腹を立てている様子だった。目当ての奴隷の他に、同じく奴隷落ちした犯罪者を次々と魔法の鎖で締め上げている。
まあ、仕方がないと言えば仕方がないことだ。何せ現世と冥府では法律の難易度が違う。現世には国ごとに違う法律が定められているが、死後の世界である冥府は1つしかないので、あらゆる犯罪は見逃されない。
ルージュは奴隷を鎖で拘束しながら、ギリギリと歯を鳴らす。
「屈辱ですの!! あんな朴念仁に指摘されるなんて!!」
「お前の場合は各国の法律を考慮しなきゃいけねえんだから、戦う場所が違うだろ。落ち着けよ」
「むきゃーッ!!」
「なーに言っても聞かねえや、ほっとこ」
もはや怒り狂って他人の話を聞かないルージュは捨て置き、ユフィーリアはとっとと人身売買オークションなんて危険な場所から退散するのだった。
《登場人物》
【ユフィーリア】冥府連行刑について知ったのはショウが来る前、冥府からの発表をちゃんと見ていた。
【エドワード】ルージュ先生が奴隷を捕まえるのをお手伝い。運搬。
【ハルア】ルージュ先生が奴隷を捕まえるのをお手伝い。奴隷をお荷物みたいに引き摺る。
【アイゼルネ】ルージュ先生からもらったリストで逮捕する奴隷と照合作業中。
【ショウ】ユフィーリアの授業を受けるのが楽しくて奴隷を捕まえるのそっちのけ。
【ルージュ】第四席とはライバル的な、互いを嫌っている関係なので今回ばかりは一枚上手となったのが気に食わない。怒り狂っている。