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第2話【問題用務員とバザー会場】

 共同バザーは毎年、レティシア王国の中心地で開催される。



「2488番さん、こちらのテントをお使いください」


「了解」



 共同バザーに出品する為の申請をすると、レティシア王国の中心地に展開された無数のテントの1つを借り受けることになるのだ。現に出品するらしい人々がテントに商品を並べており、値札の用意までしている。


 ユフィーリアたち問題児も共同バザーに出品するべく正式な手続きを踏み、テントを借り受けることが出来たのだ。正規の手順を踏まないと今度は規約違反で出禁という事態になってしまう。締め出されてしまうのは問題児としても許容できない。

 借り受けたテントは簡素なもので、商品を並べる為のテーブル以外は存在しない。おそらくそれ以外のものは自分で調達する必要がありそうだ。多くの人が出品するので、道具を貸し出すと足りなくなるのだろう。



「人身売買のバザーはどこなんだ?」


「ああ、あれは夕方からだな。夕方まではアタシらも自由行動だから、こうして出品するんだよ」


「なるほど」



 商品の準備をしながら、ショウが頷く。


 目当てでありルージュの依頼でもある奴隷が出品されるのは『人身売買オークション』という分類で、夕方から開催される予定である。それまではルージュも「自由に過ごすといいんですの」なんて言っていたので、ありがたく自由に過ごすことにしたのだ。

 とはいえ、共同バザーを見て回るのも退屈である。出品される商品を物色し終えたらもうやることがない。ならば不用品もあることだし、問題児も出品すれば暇も解消できてお金ももらえるという一石二鳥の状況を選んだのだ。


 ユフィーリアは魔導書がたくさん詰まった木箱を店頭に並べ、



「これどうするか。『魔導書解読学の有資格者のみ購入可能』って言っておくか」


「? 魔導書解読学が必要なことは周知の事実ではないのか?」


「周知の事実だけど、持って行こうとする輩がいるんだよ」



 木箱に詰められた魔導書を数えながら、ユフィーリアは「あそこ」とテントから外れた路地を示す。


 そこから顔を覗かせていたのは、人相の悪い集団である。自らを「人相が悪い」と自覚があるエドワードよりも悪く、一目見ただけで悪党であることが予想できた。おそらく窃盗で生計を立てている犯罪者だろう。

 共同バザーでは様々な価値のあるものが出品される。然るべき場所に売り払えば莫大な金が稼げるものも、中には存在する。そんな理由から窃盗が後を絶たないのだ。


 ショウは彼らの顔をじっと見つめてから、



「うん、覚えた。もし近寄ってきたら嵌めてやろう」


「何をするつもりだ、ショウ坊」


「ちょっとだけ悪戯を。死なないようにはする」



 朗らかな笑顔でそんなことを言う嫁に、ユフィーリアは密かに戦慄せざるを得なかった。何をするつもりなのだろうか。



「ユーリぃ、アクセサリーの陳列ってこんな感じでよかったぁ?」


「お、綺麗に磨いたな」


「もう頑張って仕上げたよぉ。ボロっちいとか言われたら嫌だもんねぇ」



 アクセサリーなどを出品する予定のエドワードが見せてきた箱には天鵞絨ビロードの台座が設置され、ずらりと銀色のネックレスやら指輪やらが並んでいる。どれも男性用の無骨な意匠が目を引いた。相当努力して磨いたのか、どの商品も光り輝いている。

 ついでに「ピアス関係はこっちねぇ」とエドワードが示したテーブルには、手のひらに乗る程度の小さな箱が積まれていた。どうやらピアスといった類も出品するようだ。


 ショウがテーブルに積まれた小さな箱に興味を示し、



「ピアスなんか持っていたんですね、エドさん」


「若い頃にねぇ」



 エドワードが「見るぅ?」とショウの前に屈む。


 晒された彼の耳たぶには現在、小さな石がついた簡素なピアスと輪っかの形をしたピアスの2種類しか存在しない。だがよく彼の耳たぶを観察すると、かつて開けただろう穴の残骸のようなものがいくつも確認できた。

 耳たぶだけでも3つも4つも確認できる他、耳の穴にほど近い軟骨部分や耳たぶの縁の部分などにも穴の残骸があった。かつてはかなりの数の穴が開いていたことが予想される。


 ショウは「わあ」と驚いたような声を上げ、



「これだけ開いていたら、一体どんなものをつけていたのか逆に気になるんですけど」


「こういうのだよぉ」


「とげとげ」



 エドワードが小さな箱の1つを開けると、中身は丁寧に紙に包まれた棘が印象的なピアスだった。これ単体で十分武器になり得そうな雰囲気がある。



「何だか反抗期の不良さんがつけていそうなピアスだが、エドさんも反抗期があったのか?」


「出来ると思う?」



 エドワードはユフィーリアを指差すと、



「確かに若い頃は反抗期みたいなものがあったよぉ。ユーリに向かって『クソババア』なんて言ったらねぇ、次の瞬間に顎の骨を折られたよぉ。『もういっぺん言ってみろ』って言われた時のあの目は今でも忘れられないねぇ」


「よく言えましたね、ユフィーリアに」


「本当だよぉ。反抗期なんか5分で終了だよぉ」



 幻覚の痛みでも蘇ってきたのか、エドワードは顔を顰めて顎をさする。


 確かに、若かりし頃のエドワードも一般的な子供と同様に反抗期なるものが存在した。妙にイライラしているものだから原因を問いかけた途端に「うるせえクソババア」なんて暴言が飛んできたものだから、驚いて拳が出ちゃったものである。

 あの時はユフィーリアも若かった。何せ反抗期なんて知らない魔女だったもので、子供の頃から育ててやっているエドワードが何か悪魔にでも取り憑かれたのかと勘違いしたのだ。顎の骨を折られて呆然としている彼を見てようやく『成長過程に必要なことだった』と学んだが、時すでに遅し。エドワードの反抗期は5分で終了した。


 すると、



「エドも馬鹿だよね!! ユーリに暴力で敵う訳なくない!?」


「ハルちゃんが辛辣なんだけどぉ」


「だってそうじゃん!!」



 出品する運動靴の箱を並べていたハルアは、いつもの頭の螺子が弾け飛んだ笑顔と共にこちらへ振り返った。



「エドの暴力は『殴る・蹴る・掴む』だけだけど、ユーリの場合は死ぬからね!! 暴力を振るわれて命があるだけ感謝した方がいいよ!!」


「なるほど、絶死の魔眼で終焉されかねないと」


「ショウちゃんも怖いことを納得しないのぉ。やらないってぇ」



 未成年組から正論で刺されるエドワードは、小声で「しっかり体験してるからしないよぉ」などと呟いていた。



「ユーリ♪ ハンガーかけが足りなくなっちゃったワ♪」


「どんだけ持ってきたんだよお前」


「たくさんヨ♪」



 アイゼルネから救援の要請を受け、ユフィーリアはテントの奥に引っ込む。


 アイゼルネが出品する洋服類は、テントの奥側に設置する予定だった。客にはテントの中まで入ってきてもらうことになるが、洋服の類は結構高額な商品が揃っているので汚れでもしたら大変である。

 大量のハンガーが吊るされた台座には煌びやかなワンピースやドレスなどの衣類が並んでいるのだが、アイゼルネの足元にはまだ大量の衣類が木箱に畳まれた状態で残されていた。これを全て陳列するとなったら、テント内を圧迫しそうである。そもそも売れるかどうかも分からない。


 ユフィーリアはため息を吐き、



「とりあえず魔法でハンガーと台座の方を追加で出してやる。お前はまず、絶対に売りたいものだけ厳選して陳列していけ。商品はあとから出せばいいだろ」


「分かったワ♪」


「オレも手伝うよ!!」


「大変ですね。俺もお手伝いしますよ」


「女の人は難儀だねぇ」



 ユフィーリアがハンガーと台座を魔法で転送してくる側で、問題児男子組がアイゼルネの指示を受けながら洋服を陳列していくのだった。

《登場人物》


【ユフィーリア】ピアス穴は両耳たぶに2個、左耳の軟骨トラガスの部分に1個。今でもたまにピアスはつけるが、冷たいので夏の間とお出かけぐらいでしかつけない。

【エドワード】ピアス穴は割と数えきれないほど開けた。今でもピアスはシンプルなものを好んでつける。

【ハルア】ピアス穴を開けた途端に塞がるので開けない。

【アイゼルネ】耳たぶに1個ずつ開いてる。お洒落で煌びやかなピアスの方がお客さんを誘惑させやすい。

【ショウ】ピアス穴は憧れはあるものの、痛そうだから足踏み中。

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