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第5話【異世界少年と不審者取締係】

 ――その日から、ヴァラール魔法学院には2匹の鬼が出るようになった。





「結界を抜けちまえばあとはこっちのもんだ」


「物資搬入日の隙を狙えてよかったっすね、兄貴!!」



 静かなヴァラール魔法学院の廊下に、2人の男の声が響き渡る。


 彼らは金目のものを求めて建物に無断で侵入することを繰り返している泥棒である。特に現在では魔法の研究資料や研究に使われている材料が高値で取引されると知り、魔法の研究施設を中心に不法侵入を繰り返していた。

 ヴァラール魔法学院に目をつけたのは、この学校が世界最高峰の魔女・魔法使い教育機関だからだ。2万人弱を誇る生徒数に数多くの著名な教職員、質の高い魔法の授業を受けられることでも世界的に有名で、魔法の研究も出来ると呼び声が高い。そこら辺の研究施設よりも高値のつく研究資料が期待できた。


 というのも、このヴァラール魔法学院に侵入するには月に一度の『物資搬入日』と呼ばれる日しか挑めないのだ。その日だけは学院全体を覆う結界の一部が解除されるので、限られた瞬間を狙う他はない。



「狙い目は学院長か、副学院長のところだな」


「そっすねぇ。学院長の方は有用な魔法をいくつも見つけてますし、副学院長は魔法兵器エクスマキナで随分と便利にしてくれましたし。でもおそらく高値がつくのは魔法工学の方だと思いますよ」


「情報源は?」


「最近、副学院長に強力な助言役がついたようで、異世界の技術を魔法で再現しているみたいっす」



 最近、市場に出回り始めた通信魔法専用端末『魔フォーン』もまた異世界技術が使われているという噂がある。次に登場する魔法兵器もまたきっと世の中を便利にしてくれるに違いない。


 そんな共通見解を掲げ、ならば副学院長の研究室を漁るかと方針を決めたところで、背後からコツンという足音が聞こえてきた。

 振り返ると、そこにはメイドがいた。頭には王冠の如く輝くホワイトブリム、床に届くほど長い古風なメイド服、そして泥棒たちを真っ直ぐに射抜く夕焼け空を想起させる真っ赤な双眸――どこからどう見ても可憐なメイドがキョトンとした表情で佇んでいた。


 学院側で雇われているメイドだろうと踏んだ泥棒たちは、



「お嬢ちゃん、ちょっとお話しようや」


「抵抗したらどんな目に遭うか分かってんのか?」



 泥棒たちはニヤニヤとした笑みでメイドを脅すが、



「お顔を拝見したことがないのですが、新しい先生ですか? どこの教科を教える先生でしょうか?」



 メイドはそう問いかける。声が妙に低かった。


 泥棒たちは互いの顔を見合わせる。

 どうやらこのメイドは、泥棒たちを魔法を教える先生として認識しているようだ。それなら好都合だと言わんばかりにニヤリと唇を歪める。



「そうそう、魔法を教えることになっているんだ」


「ところで副学院長の研究室って」



 泥棒たちの言葉を遮り、メイドは朗らかな笑みで言う。



「どちらの教科を担当されておりますか?」


「あー、どこだったっけ。忘れちゃったわ」



 そもそも泥棒なので魔法の授業など担当しておらず、好都合だと思って乗っかった設定である。碌に考えられていないのは明らかだ。

 ここで変なことを答えれば怪しまれる。もういっそのこと、あのメイドを人質に取ってしまった方がいいかもしれない。


 泥棒たちは懐に忍ばせた刃物に手をかけるが、メイドは臆する雰囲気を見せずにつらつらと言葉を重ねた。



「あら、もしかして担当教科を覚えていらっしゃいませんか。魔法を教える先生ってもう痴呆が始まっているんですね、最近の先生は記憶力が低下していらっしゃるご様子で困ります。そんな状態で生徒たちに質の良い授業が出来るとお思いですかプライドだけで生きているんですかあらやだそういう先生ってば授業も大半が自分語りで終わってしまうので生徒からの評判が悪いんですよご自分の小さな脳味噌でよく考えられましたか自分が嫌がることを他人にするなって」


「テメェ、このクソガキャァ!!」


「舐めた態度をしてるんじゃねえぞ!!」



 嵐のような罵倒を前にあっという間に沸点を超えた泥棒の2人組は懐からナイフを抜き放つも、次の瞬間、泥棒たちの胸元から別の刃が生えていた。

 片方は金色に光り輝く美しい刀身、もう片方は闇を固めたかのような禍々しい黒い刀身である。胸元から伸びる刃を認識した途端に痛みが襲いかかり、泥棒たちの口から大量の血液が吐き出される。背後から刺されたと嫌でも理解した。


 朗らかな笑顔を浮かべるメイドは、



「大丈夫ですよ。死体は当校で有効活用させていただきます」



 そして、泥棒の意識は途切れた。



 ☆



 記憶力に物を言わせて全校生徒と全教職員を頭に叩き込んだショウは、早速不審者を発見して内心で小躍りをした。これでお小遣いゲットである。

 さて、どう調理してやろうかと思って近づいてみたら、顔から滲み出るお馬鹿さんな感じを察知したので、いつものように罵倒してやった次第である。案の定、沸点を超えたことで凶器を取り出してきたので、遠慮なくこちらも暴力で対応させてもらうことにした。愉快な泥棒さんたちである。


 ショウは膝から崩れ落ちた泥棒さんたちの背後にいる先輩に視線をやり、



「お小遣いゲットだな」


「だね!!」



 泥棒の身体から乱雑に剣を引き抜いたのは、先輩のハルアである。いつもの狂気的な笑みを浮かべて「お小遣い!!」と嬉しそうにはしゃいでいた。


 ショウがあそこまで罵倒に罵倒を重ねたのは、ハルアの存在に気づかせない為である。ショウが注目を集めているうちにハルアが背後から忍び寄り、神造兵器レジェンダリィでぶすりと刺して終わりだ。

 不審者の取り締まりなんて簡単なお仕事である。よく校舎内は散歩しているし、あとは生徒と教職員の顔と名前を頭の中に叩き込めば不審者なんてあっという間に見つかる。


 胸元を刺された泥棒を縄で縛ったハルアは、



「じゃあ学院長のところに行こっか!!」


「その人たちは授業の材料になるだろうか。それとも素材の方になっちゃうだろうか」


「最近、死者蘇生魔法のお勉強に使う死体が朽ちてきたからって言ってたから、新しいのに変えるんじゃない!?」


「じゃあ綺麗に殺しておいてよかったな」


「だね!!」



 満面の笑みで子供らしからぬ会話を交わすショウとハルアは、死んだ泥棒を引き摺りながら学院長室を目指すのだった。





 このように、敵と断じた相手には笑顔で命を奪うことから、ヴァラール魔法学院の生徒や教職員の一部では、密かに彼らのことを鬼と呼んでいることはまだ知らない。

 ちなみに校舎内の侵入者も「入れば二度と戻ってこれない」という噂が出てきてしまった為に、ちょっとだけ減ったそうである。

《登場人物》


【ショウ】公式でお散歩をしながら不審者がいないか見回れるのが楽しい。

【ハルア】お小遣いが稼げるの嬉しい。

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