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第2話【問題用務員と遅効性罠魔法】

 そんな訳で、書斎で間違い探しの絵本を探す羽目になってしまった。



「えーと、どこにやったかな……」


「相変わらず凄い量の魔導書だね!!」


「ここだけで図書館が作れてしまいそうだ」



 居住区画にあるユフィーリアの書斎は、かなりの量の魔導書が収納されていた。


 部屋の形状は縦に長く、高い位置にある天井には立派な照明器具が吊り下がっている。壁に沿うようにして設置された背の高い本棚には隙間なく魔導書やら一般書籍やら図鑑やら絵本やらが詰め込まれており、それぞれ種類別には分かれているものの、雑多な雰囲気が漂う。

 本棚の高さは天井付近まであり、どう背伸びしても1番上の本棚まで届く訳がない高さである。魔法を使うことを前提にした本棚であることは容易に想像できた。


 絵本が詰め込まれた本棚の前でゴソゴソと絵本を物色するユフィーリアは、



「こういうのとかだな」


「綺麗な絵本だ」


「凄え、海の奴だ!!」



 未成年組の前に提示した絵本は、青色の表紙が特徴的なものだった。色鮮やかな青色の海の中に魚や人魚などのキャラクターが自由に泳いでおり、子供向けとして非常に可愛い見た目となっていた。

 試しに絵本を揺らしてみると、絵本の中の海も大きな波が立つ。絵本の中の海を泳ぎ回る魚や人魚たちもびっくりした表情を見せていた。


 ユフィーリアはさらに絵本の中を物色して、間違い探しの絵本を引っ張り出す。次に手に取ったものは森の様子が描かれていた。



「これは森の間違い探し」


「鹿!!」


「鹿さんがいるな」


「四季折々の森で間違い探しが出来るぞ」



 メルヘンチックな森の中には可愛らしい見た目の動物が、木々の間から顔を覗かせていた。ハルアが大きな声で「鹿!!」と叫んだからか、動物たちが慌てた様子で森の中に引っ込んでいく。

 表紙の森は緑色の葉が生い茂った綺麗な森の様子が描かれているが、頁を広げると春夏秋冬の森の絵が読み手の目を楽しませてくれる。間違い探しの絵本ではないような雰囲気がある。


 キャッキャとはしゃぐ未成年組に、ユフィーリアは最後の1冊としてドレス姿の少女たちの絵が特徴の絵本を差し出した。



「これは遅効性罠魔法の間違い探しの絵本。これは他の間違い探しの絵本と違うから楽しいと思うぞ」


「遅効性罠魔法?」



 ショウは首を傾げ、



「普通の罠魔法なら分かるが、遅効性とつくと何か変わるのか?」


「普通の罠魔法は動物を捕まえたりする時に使う痺れ罠とかが代表的だけど、遅効性罠魔法はいわゆる搦め手だな」



 一般的な罠魔法は即時効果を発揮するものが多く、麻痺毒や眠り毒、的確に傷つけたい時は棘などの武器系を対象物に使用する。罠なのでその名前の通り、見えないように仕掛けて獲物を捕獲するのが本来の用途だ。

 一方で遅効性罠魔法は、すぐに効果を発揮しない。じわじわと効力を表す魔法であり、猛毒の部屋に閉じ込めたり、石化したりなど徐々に効果を発揮してくる訳である。主に処刑などに用いられるので、死に至らしめる場合が多い。


 間違い探しの絵本は、そういうものを見つける時の為の練習として用いるのだ。



「遅効性罠魔法の間違い探しは、どこかしらがじわじわと変わっていくんだよ。それを見つけることが出来れば成功。結構難しいぞ」


「ショウちゃん、やってみよ!!」


「ああ」



 早速とばかりにショウとハルアが遅効性罠魔法の絵本を広げる。


 絵本の内容は、少女たちが舞踏会に出かけるまでの物語である。煌びやかなドレスに優美な化粧、上等な香水などを用意して絢爛豪華な舞踏会に出かけるのだ。王子様と踊ったり、美味しい食事を楽しんだりする様は、間違い探しを抜きにしても楽しめる内容である。

 ただし、登場人物がかなり多く、ドレスの色や化粧品の数、さらには皿の枚数まで変わったりするので色々な場所に目を凝らさなければならないのだ。遅効性罠魔法は発見するのが難しいので、鍛える為の間違い探しの絵本も難易度が必然的に上がるものだが、明らかに子供向けではないような気がする。


 早々に根を上げるかと思いきや、ここにいる最愛のお嫁様はかなり聡明な人だった。



「右から2番目、奥の方の金髪の女の子。ドレスの色が青色から緑色に変わったぞ」


「え、本当!?」


「間違いない。絶対に変わった」



 ショウの記憶力は果たして正しかったようで、絵本の中の少女が悔しそうな表情を見せて地団駄を踏んでいた。見事に当てられてしまった様子である。



「ショウちゃん凄えね!!」


「えへん。記憶力なら自信あるぞ」



 ハルアに褒められたことで気をよくしたショウは、誇らしげに胸を張っていた。

 確かに七魔法王セブンズ・マギアスが第三席【世界法律セカイホウリツ】のルージュと比べると劣るかもしれないが、それでもショウの記憶力は群を抜いていた。教えたことは基本的に覚えているし、ヴァラール魔法学院の生徒と教職員の名前と顔が一致しているぐらいだ。そのおかげで学院内に侵入した不審者を捕まえるのに一役買っている。


 ユフィーリアは「凄えな」とショウの記憶力を素直に称賛する。



「遅効性罠魔法の間違い探しって結構難しいって聞くぞ」


「こういうアハ体験は得意なんだ」



 ショウが自慢げに言うが、彼の言葉の中にある『アハ体験』なるものをユフィーリアは聞いたことがなかった。また異世界の文化だろうか。



「アハ体験って?」


「あ、えっとひらめきや気づきとか、理解できなかったことがパッと理解できたりするような体験のことを『アハ体験』と言うんだ」



 ショウは「えっと」と思い出すような素振りを見せ、



「アハ体験のクイズみたいなものがあって、元の絵から徐々にどこかが変化していくというような内容なんだ。記憶力が重要で」


「遅効性罠魔法と大体同じだな」



 ひらめきや気づきなどの体験を『アハ体験』と言うのであれば、遅効性罠魔法を看破するのもアハ体験になり得るのではないだろうか。間違い探しも似たような内容だし、何だかとても面白そうな予感がする。


 ふと押し黙っていたユフィーリアは、とても画期的な遅効性罠魔法の使い方を閃いてしまった。

 これは絶対に面白い。間違いなく面白い。そして説教もおまけでついてくるだろうが、そこはそれ、問題児として普段と変わらない行動なのだから別に精神的にも影響はない。


 ニヤリと不敵に笑ったユフィーリアに、ショウとハルアは不思議そうに首を傾げて問いかける。



「ユフィーリア、どうしたんだ?」


「何か思いついたの!?」


「おうよ。これ絶対に面白いから。あのな――」



 ユフィーリアが思いついた遅効性罠魔法の画期的な使い方を明かすと、ハルアは瞳を輝かせた一方で、ショウは「ううむ」と難しげな表情を見せた。



「徐々に性転換は気づかれるのではないか?」


「ダメか」


「多分ダメだと思う」



 ユフィーリアが提案したのは『魔法をかけた相手を徐々に性転換させる』という使い方だった。徐々に自分の身体が変わっていく様は戸惑いを感じざるを得ないだろう。

 だが、確かにショウの言う通り、遅効性罠魔法で身体を作り変えられたら戸惑うよりも先に魔法を看破してくるに違いない。『魔力看破』などを使われたら努力が水泡に帰す羽目になる。


 ショウは真剣な表情で、



「ここは確実に面白い方向でいきたいのであれば、洋服の模様を変えるとか髪の毛の色を変えるとかの方がいいかもしれない」


「地味じゃねえか?」


「何を言う、ユフィーリア。これは貴女の求める面白いことだぞ」



 微笑んだショウが遅効性罠魔法の使い道を提示する。その使い方は、ユフィーリアも考え付かなかったものだ。



「授業中の先生に遅効性罠魔法で髪の毛の色や服の模様なんかを変えれば、生徒たちは絶対に気づく。そして『笑ってはいけない授業』が開催されるんだ。授業中に吹き出せば先生からお説教を喰らうだろうから、生徒たちは我慢せざるを得ない」


「採用」



 即座に採用したユフィーリアは、早速教えてもらった方法で遅効性罠魔法を使いにいくのだった。

《登場人物》


【ユフィーリア】遅効性罠魔法で媚薬が出てくる部屋を作り上げて副学院長を閉じ込めたことがある。そういや淫魔の血を引いてるから通用しなかったかと気づいたらやり返された。

【ハルア】遅効性罠魔法は知らないけれど、罠魔法にかかって宙吊りにされたことはある。害獣避けとしてユフィーリアが設置したものである。

【ショウ】記憶力には多少の自信があり、特に自分に有益な情報やユフィーリアに関する情報などは数ヶ月単位で覚えていることも。

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