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第10話【問題用務員と少女への勧誘】

 それからリタはと言うと、



「あああああ〜〜!! 頭をガジガジされてます〜〜!! 嬉しい〜〜!!」


「なるほど、特殊性癖」



 目の前の光景を眺めるユフィーリアは、納得したように頷いた。


 魔法動物飼育領域に降り立った真っ白なドラゴン――オパールに頭を齧られてリタは歓声を上げていた。「歯の硬さが〜〜!!」と嬉しそうである。

 ドラゴンに齧られて喜びの声を上げる人間はそれほどいない。よほどの特殊性癖持ちでなければ、恐怖から身を竦ませることだろう。


 なので、リタは特殊性癖持ちであることが決定されてしまった。悲しきかな。



「リタ嬢、嬉しそうだな」


「ドラゴンに齧られるなんてうちの両親も体験したことないですよ!! 手紙で自慢しまくります!!」


「そうか、両親の性癖を引き継いだんだな。血筋かな、これ」



 そういえば最初の時もセツコに髪の毛をしゃぶられて大層喜んでいたので、もう好きにさせておくしかない。頭を齧られる程度ならばすぐに死者蘇生魔法が適用されるだろうし。



「ところでリタ嬢」


「何ですか?」


「今日、アタシのところに大量の『スカイハイレースのコーチ就任に関するお願い』みたいな内容の手紙が届いたんだけどな」



 雪の結晶が刻まれた煙管を咥え、ユフィーリアは言う。


 今朝、ユフィーリア宛に大量の手紙が届いたかと思えば企業や各国から『スカイハイレースに於けるコーチとして招聘したい』という内容だらけだったのだ。何かの見間違いかと思った。

 内容を改めて確認すると、どうやら全大陸統一スカイハイレースで最速の女王を生み出したとしてコーチ役を務めたユフィーリアに選手の教育をしてほしいとのことだった。もちろん報酬も目玉が飛び出るぐらいに高額である。


 純白のドラゴンに頭をガジガジされるリタは、無言で懐から1枚の手紙の封筒を取り出した。



「あれ、1枚だけ?」


「…………」



 そしてリタは無言でスッと指をずらす。


 まるで手品師のように、封筒が分裂した。どうやらトランプカードのように束ねてあったものを広げた様子である。封筒はそれはもう、物凄い枚数が彼女の手の中にあった。

 ユフィーリアは黙った。自分よりも遥かに多い枚数の封書が届いていたとは、想定していたことだがやはり事実を目にすると気が遠くなる。



「……どうしましょう、これ」


「こういう予感はしてたんだよなぁ」



 ユフィーリアもリタも、揃ってため息を吐いた。


 実はこういう予感はしていたのだ。スカイハイレースは誰もが注目する行事であり、政治面で経済面でも多大な影響がある。儲かるのであれば強い選手を自分の元に呼び寄せて飛ばせれば、さらに金を稼いでくれる訳なので呼び込みが半端ではない。

 スカイハイレースのコーチも然りである。選手を強くできる指導者がいれば様々なスカイハイレースでも勝てるだろう。優勝すればかなり儲かるので、選手強化の面で考えれば指導者も引き込むことは急務であろう。



「私は魔法動物の研究の為にヴァラール魔法学院に入ったので、どれだけお金を積まれても他には行きたくないです」


「グローリアに聞かせてやりたいね、泣いて喜ぶだろうよあいつ」



 ユフィーリアはリタから封筒の束を横取りすると、



「アタシからお断りの手紙を出す。リタ嬢はそのままうちの生徒でいてくれ」


「ユフィーリアさんはどうするんですか? 他のところに移っちゃうんですか?」


「まさか」



 不安げな眼差しを寄越してくるリタに、ユフィーリアは笑い飛ばした。



「何で給料をもらって働かなきゃいけねえんだよ」


「普通は真面目に働くべきなんですよね……」



 呆れたような口振りで言うリタから逃げるように、ユフィーリアは大量の勧誘の手紙を片手に魔法動物飼育領域から立ち去るのだった。

《登場人物》


【ユフィーリア】給料をもらいながら仕事はしたくはない。今の環境は天国である。え? 常識は説かないでほしいんですけども?

【リタ】魔法動物に関する勉強がしたくてヴァラール魔法学院に入学したので、スカイハイレースに本腰を入れるのは違うと思う。学生の本分は勉強!

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