第6話【問題用務員と特訓】
朝食が終わって、放課後に見るリタの飛行術の特訓内容を考えていた頃だった。
「おはようございます!!」
「あれ、リタ嬢。どうした?」
用務員室にリタが飛び込んできて、ユフィーリアは首を傾げる。彼女の手にはしっかりと箒が握られていた。
飛行術の授業でも取ってあるのかと思いきや、だとしたら用務員室にわざわざ飛び込む必要もないだろう。全大陸統一スカイハイレースの練習は放課後のみだし、もうすぐ授業も始まる頃合いである。
リタは箒を掲げ、
「今日からスカイハイレースまでの本番まで、授業は全部取り止めてきました!! 必修科目だけは受けなきゃいけませんが、それまではスカイハイレースの練習に充てたいと思います!!」
「え、どうしたんだ本当に?」
ユフィーリアは驚きが隠せなかった。
ヴァラール魔法学院の授業構成はほとんどが選択科目で、自分で時間割を作ることが出来るのだ。必修科目だけは取り外すことは出来ないが、それ以外の授業は全部自分で組み立てて時間割を作成する訳である。
その時間割も、変更はいつでも可能という非常に自由度が高い制度を採用していた。魔法の授業は危険と隣り合わせなので、危険な魔法の授業をわざわざ頑張って受ける必要はないという意味からそんな取り決めとなったのだ。
その制度を使用し、リタはわざわざ自分で組み立てた時間割を全部破棄してまでスカイハイレースの練習に充てようとしているのだ。
「皆さんに期待されていますから、格好悪い姿を見せたくないんです」
リタは箒を強く握りしめると、
「私は鈍臭いので、人一倍は努力をしないと」
「鈍臭いを自称する奴があそこまで速く飛べるかよ」
「とにかくたくさん努力したいんです!! どんな厳しい練習でも耐えて見せます!!」
リタの目は本気だった。眼鏡の向こう側にある緑色の瞳はどこまでも真剣だった。
彼女は本気で全大陸統一スカイハイレースの表彰台を狙っている。その気合いが十分に伝わってきた。
ユフィーリアは口の端を吊り上げて笑い、
「リタ嬢の本気度は分かった。じゃあ遠慮なく厳しくするぞ」
「はい、コーチ!!」
応じるリタの声は、やる気に満ちていた。
そんな熱い師弟関係を結ぶ問題児筆頭とクソ真面目一辺倒の女子生徒の姿を眺め、他の問題児は「どうしちゃったの」と口を揃えた。
「え、あんなやる気を出す子だったっけぇ?」
「それだけ本気ということなのかしラ♪」
「おお、リタさんのやる気が凄い……」
「本番も期待できそうだね!!」
漂うスポ根の雰囲気に、その他の問題児はついて行けずに目を白黒させるしかなかった。
《登場人物》
【ユフィーリア】コーチと言われて満更でもない。リタに物を教えるのは結構好き。
【リタ】スカイハイレースに燃える代表選手の少女。本番の為に選択授業は迷わずキャンセル、必修科目だけに専念することを選ぶ。やると決めたら徹底。
【エドワード】やる気に満ち溢れてる。何これ?
【ハルア】リタ、本気だね!!
【アイゼルネ】リタのユフィーリアのやる気がすごい。
【ショウ】魔法の世界でもスポ根物語が始まりそう。