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第4話【問題用務員と最強爆誕】

 では最強のオカマというのは誰が適任か。



「断然エドさんですわ」


「あらまあ、理由を聞いてもええやろか」


「エドさんがカマさんになったらとても素敵だからですわ」



 ショウからの熱烈な支持を得たことで、次なる獲物はユフィーリアに次いで問題児の歴史が長いエドワード・ヴォルスラムに決定した。



「筋トレしてるか?」


「してるね!!」


「していますわ」


「してはるなぁ」



 用務員室を覗き込むと、エドワードがちょうど筋トレの真っ最中だった。今日も今日とて暑苦しく筋肉を虐めている様子である。

 部屋から1歩でも外に出ればまあまあ寒いのに、この気温で上半身裸の状態で黙々と腕立て伏せ――いや親指だけで身体を支えているので親指伏せだろうか。とにかく無言で筋トレに励む姿は、ある意味でストイックな雰囲気はある。


 ショウとハルアはユフィーリアの袖なし外套を引っ張ると、



「お薬をくださいな」


「ちょーだい」


「何するんだよ、飲ませてくるのか?」


「ユフィーリア様だと警戒されるからですわ」


「それもそう」



 自分自身のことをよく理解しているユフィーリアは、素直にショウとハルアへ魔法薬の入った試験管を手渡した。



「それとお父様。出来れば冥府天縛でご待機あそばせ」


「ええよ」


「感謝いたしますわ」



 さらに父親のキクガにも的確な指示を飛ばし、ショウとハルアは堂々とした足取りで用務員室に踏み込んだ。

 特級指揮官の資格を獲得しただけあって、度胸はさらに強化されているようだった。下手をすれば頭を握り潰されかねん状況によくもまあ飛び込んでいける、と密かにユフィーリアは最愛の嫁の成長っぷりに感動を覚えた。まあ未成年組の存在はエドワードも可愛がっているだろうから、ある程度は信頼関係が築けているのだろうが。


 未成年組が帰ってきたことに気づいたエドワードが筋トレの手を止め、こちらへ振り返る。



「お帰りぃ。ぷいちゃんのお散歩終わったのぉ?」


「ただいまですわ、エド様」


「ただいま!!」



 未成年組の口から放たれた異常とも呼べる口調に、問題児男子組の長男坊であるエドワードの表情が固まる。



「え、何その口調。ハルちゃんと遊んでるのぉ?」


「アタイも同じような口調よ!! あんまり変わってないけど!!」


「あ、本当だぁ。草原が似合う野生児っぽいお嬢様になってるぅ」


「何よ!! どういうことよ!?」



 やはりエドワードの印象もユフィーリアと同じものだった。ハルアは野生味あふれるお嬢様で決定である。



「エド様エド様、一緒にお嬢様になりましょう。エド様なら最強のお嬢様になれますわ」


「何言ってんのぉ、ショウちゃん」



 困惑するエドワードに、ショウは真っ赤な魔法薬が詰め込まれた試験管を掲げて言う。



「聞いたことありませんか。『男は度胸、女は愛嬌、オカマは最強』と」


「聞いたことないよぉ」



 さも当然とばかりの口調で先程の意味分からん格言を口にするショウに、エドワードは緩やかに首を横に振って否定した。それもそうである、ユフィーリアだって聞いたことはないのだから。



「やりましょう、エド様」


「やろうよ、エド!!」


「お嬢様ですわ」


「一緒にお嬢様!!」



 未成年組からの熱烈なおねだりを受けたエドワードだが、



「やだよぉ」



 彼からの回答は無慈悲な拒絶だった。



「絶対に似合わないもんねぇ。ていうかその魔法薬、絶対にユーリが面白がって調合した奴じゃんねぇ。どうせ部屋の外で面白がってるんじゃないのぉ?」


「どうしても嫌ですか?」


「あの魔女のことだから絶対に碌なことは起きないって思ってるからやだぁ」



 ショウの上目遣いも「嫌です」と返したエドワードの強靭な精神力に、ユフィーリアは陰で呆れた。あのウルウル攻撃を無効化するとは、銀狼族の先祖返りは随分と精神力まで鍛えられている様子である。

 ただ、残念ながら彼に拒否権はないのだ。未成年組のおねだりを素直に聞いていれば、まだ地獄を見ずに済んだのに。


 非常に残念そうな表情を見せるショウは、



「そう、残念です」



 そして、用務員室の扉を見やった。



「では残念ですが、もう強制的に魔法薬を飲んでもらうしかありませんわ」


「え?」



 エドワードが怪訝な表情を浮かべる。


 ショウが用務員室の扉へ振り返ったと同時に、キクガが「どうもぉ」とはんなり感のある言葉と共に入室した。その後ろからユフィーリアもひょっこりと顔を覗かせると、エドワードの顔が途端に歪む。

 何かを叫ぼうとした瞬間、彼の逞しい身体に純白の鎖『冥府天縛』が巻き付いた。簀巻きのようにされたエドワードは哀れ床に転がる羽目となり、身体の自由を奪われてしまう。



「ユーリぃ、何してんのぉ!?」


「アタシは何もしてねえよ。魔法薬を調合しただけで、お前を熱烈に支持したのはそこの異世界出身の親子だ」


「アズマ家怖いなぁ!?!!」



 ジタバタと何とか動ける範囲で暴れるエドワードだが、キクガに拘束されてからは「ひい」と上擦った声しか出なかった。可哀想である。



「エドワードはん、堪忍しておくれやす」


「キクガさんもおかしくない!?」


「お薬飲んどりますから」


「どこの言葉よぉ!!」


「異世界の、あての故郷の言葉やさかい。聞にくくて堪忍ね」



 言葉の上品さとは裏腹に、キクガは乱暴な手つきでエドワードの口に試験管を突っ込んだ。真っ赤な液体を容赦なく彼の口腔内に注ぎ込む。

 抵抗する間もなく、エドワードは魔法薬の餌食となってしまった。魔法薬を完全に飲んだことを確認すると、キクガはあっさりとエドワードを解放する。急に魔法薬を飲まされた問題児切っての筋骨隆々とした巨漢は激しく咳き込んでいた。


 そして紡がれた彼の言葉は、



「ちょっとぉ、何よこれぇ」



 間延びした口調はそのままだが、何だか変わらない気がする。



「エド様、何か変化はありまして?」


「分かんないわよぉ、そんなのぉ。――あらぁ?」



 少し多めに喋ると女口調が見えてくるものの、やはり普段と口調そのものは変わらない雰囲気がある。エドワードもそのことに気づいたのか、少しばかり違和感のある自分の口調に首を傾げていた。

 いつもと同じだけど、どこか違うというような空気感である。悪い風に言えば「普段からこいつ女みてえな口調で話してんのかよ」とは思うが、思っただけで口にはしない。


 兄貴分の口調が変わったことに、ショウとハルアの未成年組はきゃっきゃとはしゃいだ声を上げる。



「エド様も変わりましたわ」


「これでエドも仲間って訳ね!!」


「あんまり変わってないのがちょっとアタシもガッカリだわぁ。分かりやすく変わってほしかったわよぉ」



 エドワードは「でぇ?」と言い、



「こんなことを企むってことは女装したらいいってことかしらぁ? いいわよぉ、ここまで来たら腹ァ括るわよぉ」


「あら素敵な漢気ですわ、エド様。私もお洒落しますわ」


「アタイも新しいドレス着たいわ!! この前購買部で買ったの!!」


「何を買ってんのよアンタはぁ」



 何と言うことだろうか、事態はとんでもない方向に転がっていった。女の子の口調になって最強の精神を降臨させてしまった問題児男子組が、まさかの女装に本気を出すという方針を打ち出してしまった。どこまで進むのか、彼らは。

 ノリがいいことに定評がある問題児男子組は、姦しく騒ぎながら居住区画に消えていった。これはもう楽しい予感しかしない。


 入れ替わりに居住区画で何かの作業をしていたらしい南瓜頭の美女、アイゼルネが不思議そうな面持ちで用務員室に顔を出してくる。



「エドたちが女の子みたいにはしゃぎながらお洋服を選びにいったけれど、何かあったのかしラ♪」


「最強の精神を宿したからかな」


「オカマバー開幕やろなぁ」


「キクガさんもどうしちゃったのヨ♪」



 キクガの口調に驚くアイゼルネへユフィーリアが事情を説明すると、彼女はキクガの手を取ると「お化粧するわヨ♪」なんて言って冥王第一補佐官を居住区画に引っ張り込むのだった。



「ぷいぷい、大変なことになったな」


「ぷ」



 用務員室の隅に置かれたクッションの上でお昼寝の体勢に入ったぷいぷいは、自分は関係ないと言わんばかりの態度を決め込むのでユフィーリアは苦笑するのだった。

《登場人物》


【ユフィーリア】魔法薬が効かないので今回は全力で他人事な問題行動を楽しむ。

【エドワード】ノリの良さと勢いは問題児筆頭譲り。

【ハルア】野生児って何度も言われてるんだけど、そんなに野生児かな。

【アイゼルネ】野郎どもを綺麗に着飾ることに余念がない。

【ショウ】オカマ楽しいなぁ。


【キクガ】アイゼルネに引き摺り込まれ、抵抗できずに化粧される羽目になる。

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― 新着の感想 ―
やましゅーさん、お疲れ様です。 今回の新作もすごく面白かったです!! キクガさんが京都出身だったという設定には驚きました。着物の着こなしも絵になる美人だし、呉服屋めぐりが趣味というところにも伏線のよ…
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