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第9話【異世界少年と複製体】

 そんな訳で、研究者どもを片っ端から冷たい地面に全裸で正座させることになった。



「さて、どうして複製体の研究を我が校の敷地内でやっていたかということですが」


「…………」


「おっと、話を聞いていないようですね」



 縦に長い研究施設で魔法動物の複製に勤しんでいた研究者たちが揃って口を噤む様に、ショウは朗らかに笑いながら応じる。


 この状況で『喋らない』という選択肢を取ることは、実に愚かなことであると言えた。彼らは全裸という非常に無防備な格好を取らされた挙句、この場は雪が積もる極寒の雪山の頂上付近である。研究施設から少しでも外に出れば一面の銀世界なのだ。

 そんな銀世界に放置されるという考えはないのだろうか。きっと子供だからまだ良心の呵責に訴えるか、言いくるめることが出来ないかと考えているはずだ。それで言いくるめられるのは善悪の分別がつかないお子様だけで、ショウには通用しないことを教えてやらなければならない。


 そんな訳で、ショウはハルアに振り返り、



「ハルさん、どこか外に出る為の扉とかないだろうか」


「あったよ!!」



 ハルアが「あれ!!」と指差す。


 ゴツゴツとした岩肌に埋め込まれるようにして、鋼鉄製の巨大な扉が鎮座していた。扉の表面には魔法陣が描かれており、簡単に開けられないように施錠しているのだろう。何と素晴らしい魔法陣か。

 この場に魔法の天才であり最愛の旦那様でもあるユフィーリアがいてくれたら、あの魔法陣についての解説が入ったことだろう。残念ながらこの場にいる魔法に詳しい人員はすべからく敵なので、解説も何も期待できないが。


 ショウは納得したように頷くと、



「よし、ぶち破ろう」


「あれ破ったら冷気が流れ込んでこない?」


「知りませんね」



 エドワードの疑問に、ショウは綺麗な笑顔で応じた。相手の事情など知ったことではないのだ。


 ショウが右手を掲げると、純白に輝く三日月型の神造兵器レジェンダリィ――冥砲ルナ・フェルノが出現した。すでにめらめらと燃え盛る炎の矢がつがえられており、先端は鋼鉄の扉に向けられている。

 研究者たちが揃って悲鳴を上げた。「言います、話します!!」と叫んだ研究員もいたので、冥砲ルナ・フェルノを収納して正座させた研究者たちに向き直る。



「はい、それではどうして魔法動物の複製をしていたのか。その理由についてお聞かせ願えますか?」



 笑顔を保ったままショウが説明を促すと、頭の寂しくなったぽっちゃり研究員が渋々と口を開く。



「……雪山に生息する魔法動物は、乱獲の影響で年々個体数を減らしている。その保護活動の為に」


「嘘ですね」



 ショウはピシャリと断定する。


 自分たちの崇高な研究内容にケチをつけてきた若造に対して、研究員たちの表情に憎悪が滲み出る。「何も分かってないくせに嘘と断じるなんてけしからん」なんて言葉にはなっていないが、彼らの態度から読み取れた。

 しかし、彼らの崇高な研究内容を否定できる材料があるのだ。雪山でコソコソと隠れるように研究をしているのが、ショウの判断材料である。



「それで貴方がたが本当に魔法動物の個体数を減らさない為に、複製体を作って繁殖を促すというのであれば、何故ここで隠れながらやる必要があるのですか。レティシア王国や、それこそヴァラール魔法学院に研究を持ち込めば人員とお金は確保できます。貴方がたの独力でこの研究施設を維持する理由は他にありますよね?」


「何を言う、我々は本当に」


「金儲けですよね」



 ショウの指摘に、研究者は一同揃って口を閉ざした。図星だったようだ。



「複製体を作って毛皮でも剥げば、高級資源の安定供給が出来ますしね。天然ものだろうが複製だろうが、分かるのはごく一部の人間だけでその他大勢には違いなんて分かりませんから」


「ぐ、うう」



 研究者の一部が喉奥から呻き声を漏らす。


 個体数が減ってきているから複製体を利用して繁殖活動を促すというのであれば、その研究は魔法の研究に力を入れているレティシア王国や最先端の魔法を学ぶことが出来るヴァラール魔法学院に協力を仰げばいいだけだ。有用性があれば研究費だって出してくれるだろう。

 コソコソと研究する必要があるのは、作った複製体を解体して市場に流して金儲けをする為だ。個体数が減っているのであれば、資材はかなり高額になるだろう。続けていれば市場価値がめちゃくちゃになりそうだ。


 ショウはビシリと名探偵気取りで研究者たちに指を突きつけると、



「『雪の王』も同じように複製体の作成を目論んでいたんでしょう。というかむしろ、そっちが本命ですね。『雪の王』の複製に成功すれば、希少価値の分からないお馬鹿さんな金持ちに高値で売りつけられるでしょうからね」


「黙れ小僧!!」



 とうとう我慢の限界が訪れたらしい研究者たちが、怒りの表情で次々と立ち上がる。

 お忘れだと思うが、彼らは全裸である。防寒対策の一切合切を問題児に剥ぎ取られ、この極寒の大地に放り出されれば絶体絶命の危機に立たされるのは彼らだ。


 ショウは余裕の態度で全裸の変態研究者集団を見やり、



「何か?」


「さっきから黙って聞いていりゃいけしゃあしゃあと!!」



 研究者どもは怒りで顔を真っ赤にしながら、



「金儲けを企んで何が悪い!?」


「誰だって金はほしいだろ!!」


「『雪の王』の取引価格を知っているか、あれは下手をすれば100万ルイゼは下らないんだぞ。剥製にすれば桁が2つも増えるんだ!!」


「こっちだって生活がかかってるんだよ!!」



 やっていることは悪いことなのに、よくもまあ文句がここまで言えたものである。素直に尊敬できる。


 ショウの行動は実に単純だった。もう迷いのない行動だった。

 右手を掲げて再び冥砲ルナ・フェルノを出現させると、全裸の研究者たちが顔を引き攣らせて謝罪をする暇さえ与えることなく、炎の矢を鋼鉄の扉めがけてぶっ放す。いとも容易く鋼鉄の扉は破られ、巨大な穴が開いた。


 そして吹き込んでくる、凍てつくほど冷たい空気。これを素肌で受けたら凍え死にそうである。



「エドさん、ハルさん。研究者の皆さんをお外に放り出しましょうか。何分で凍死するかな」


「はいよぉ」


「あいあい!!」


「ま、待ってくれ、謝るから謝るから勘弁してぎゃああああああ寒い!!」



 エドワードとハルアに首根っこを掴まれ、極寒の外の世界に放り出される研究者たち。悲鳴の大合唱が鼓膜を震わせる。


 先輩たちは、まるで荷物を放り捨てるかのような手つきで研究者たちを次々と施設から追い出していた。彼らにかかれば人間など、ちょっと重たい荷物と同義である。

 雪の世界に全裸で放り出された研究者たちは、身体をぶるぶると震わせて叫んでいた。戻ってこようとする研究者たちを、ショウが容赦なく蹴り出す。もう謝ったところで遅いのだ。


 研究者たちを処刑している最中、問題児の背後でカシャンという何かの音を聞いた。例えるならそれは、施錠中の扉を解除するようなものだった。



「え?」



 ショウは背後を振り返る。


 研究施設にあるのは、見上げるほど巨大な水槽だ。水槽の中には緑色の液体で満たされており、真っ白な熊や毛むくじゃらで雪男のような見た目をした猿が管に繋がれている。

 その水槽を満たしていた緑色の液体が流れ出していくではないか。足元に緑色の液体が海のように広がったかと思えば、水槽の硝子部分が自動的に収納されていく。この時点ですでに嫌な予感しかしなかった。



「ぐるるるるる……」


「きぃ、きぃ」



 管に繋がれていた真っ白い巨大な熊と、毛むくじゃらな猿が目を覚ます。緩慢な動きで水槽の外に出てきてしまった。

 今まで眠っていた魔法動物の複製体がどうして目覚めてしまったのか。それほど騒がしくしてしまったのであれば、あの魔法動物たちもさぞ機嫌が悪かろう。


 後退りをするショウは、



「……何で起きたと思います?」


「寒さで目覚めたのかな!!」


「扉を壊したのがうるさかったとかぁ?」



 先輩2人から適当すぎる返事があった。


 ショウは冥砲ルナ・フェルノにエドワードとハルアを乗せると、風穴が開いた研究施設の鋼鉄の扉から飛び出す。

 直後、真っ白な巨大熊と毛むくじゃらな猿が、雄叫びを上げながら鋼鉄の扉を突き破って追いかけてきた。

《登場人物》


【ショウ】研究者たちを虐めたら複製体が解き放たれちまったぜ。追い詰める時は割と淡々としているし、言い返せないように言葉の弾丸を浴びせる。

【ハルア】追い詰める時? 無言で手が出るけども?

【エドワード】ハルアが無言で手を出すようになった原因とも呼べる人物。追い詰める時はやっぱり無言で暴力。

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